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Interview

DESIGNART TOKYO 2022 UNDER30:デザインとアートの境界線

混ざり合う物事と境界を行き来しながら、今と未来を見据えて進む

author: Naomidate: 2022/10/30

デザインとアートの”境界線”とはなんだろうか。一見、普遍的でありながら、似て非なるデザインとアート。その解釈は時代背景や世代によってさまざまだが、ことZ世代の担い手たちにとっては、これまでの解釈とは異なる線引きがされているように感じられる。広告会社出身の満永氏、武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科出身の古舘氏、出自の異なる両名から語られる、デザインとアートの“Z世代”的解釈とは。

作品で示す、世界の今までとこれから、自分の在り方

── DESIGNART TOKYO 2022 の「UNDER30」への選出、おめでとうございます。DESIGNART TOKYOの発起人たちが、独自の視点で将来が期待される30歳以下のクリエイター5組を選出・支援するプログラムですが、今の率直な気持ちをお聞かせください。

古舘さん:光栄だし嬉しいです。自分のアートワークが評価されたこと以上に、ときに難解だと言われがちなコンセプトが伝わったこと、汲み取っていただけたことが良かったですね。

満永さん:自分の作っているものも、見る人によって「エンタメ」と言われたり「メディアアート」と言われたり、どちらにも通ずるような文脈の作品づくりをする一方で、見方がわからない、と言われることも。デザインとアートの両軸をもつイベントに評価していただいて、素直に嬉しかったです。

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── 意外にもお二人は今日が初対面だと伺いました。

満永さん:今まで接点があるようでなかったんですよね。作品も”動”と”静”、というか、真逆かもしれない。早く展示を観たいですね。

古舘さん:そうですね。普段あまり交わらないジャンルというか、今回の対談がなかったら出会えてなかったかもしれません。僕が今回展示している「MASS」は、学生時代から研究し続けているコンセプトのシリーズです。

人がものを何であるか認識できるのは、過去に見てきたものや経験則からくるものですが、今はいろんな価値観・暮らし方・風習・慣習・概念がどんどん変化し、枠組みを超えて塗り替えられているような時代。いろんな視点でものを見ることの大切さを伝えたくて、作り続けています。イスなどの家具をモチーフにしたのは、人々の暮らしに近いシチュエーションで存在できたらいいな、と考えたからです。

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── 一方、満永さんの「ベルリンの壁のオンライン化プロジェクト」は、リアルタイムでご存知ない出来事から着想した作品ですね。最初に発表された2021年11月と現在とでは、世界情勢が大きく変わってしまいました。

満永さん:NYを拠点にパフォーマーの活動をしていたとき、合法的に絵を描ける壁、リーガルウォールの存在を知りました。30年も保全されているリーガルウォールをベルリンで観たとき、歴史を伝える、という社会的役割があって、かつ、アーティストからも市民からも大切にされるものは保全するべきだな、と思ったと同時に、一部分が切り取られて観光名所になってはいるものの、そのスケールを通じて当時の悲しい歴史をも伝えられるような作品にしたい、と考えたのがスタートです。

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特にこの1〜2年で、「第三者や外側の人間でないとやれないこと」や、「外側の人間だからこそやるべきことがある」と気づき、自信をもって活動できるようになったことは大きいですね。先日ベルリンで、この2年、オンラインでやりとりしていた方や、昨年展示した際の収益を寄附した財団の方を訪ねましたが、とても喜んでいただけていて、”いち日本人、外側の人間がやっていいことなんだ”って改めて思いました。今後、現地で展示する話も出ています。

── それは素晴らしいし、嬉しいですね!

満永さん:他の国と比べると、日本は安全地帯で、まだ比較的裕福で、表現できるバイタリティもあるし、言論が国から厳しく規制されたり罰せられることもない。世界の当事者が言えないことを、日本人が代わりに発信していくって、この国に生まれた意味があるな、と。

それに、これってあらゆる問題においても言えることですよね。当事者では言えないことってたくさんある。外側の人間だから気づける視点や意味付けがあるし、それを代弁できるのって実は外側しかいない、と思います。

それぞれに委ねる、言葉と肩書きの境界線

── お二人はほぼ同世代ですが、普段、お仕事や創作活動を通して、同世代と接するときと、少し上の世代とで、感覚的な”違い”を感じることはありますか。

古舘さん:いわゆる一般的に共通認識としてあるデザインとは別の感覚もあるような気がします。

「デザイン」という言葉を辞書で引くと「問題解決」の意味合いで書かれているかと思いますが、僕は「問題提起」の方に興味があります。問いを投げかけて、未来に対して別の可能性を示していく、という、「スペキュラティブ・デザイン(Speculative Design)」の考え方が大事だと考えています。RCAのアンソニー・ダンさんが提唱したデザインの立場的なものです。

── 問いを投げかけるって、どちらかというとアートの表現やアーティストの考え方に近いですね。

満永さん:そうですね。(プレスリリース等を見ながら)DESIGNART TOKYOでは、書かれているぼくたちの肩書きにゆらぎがあるところが面白いですね、「デザイナー」だったり、「アーティスト」だったり、「クリエイター」だったり——受け取り手に委ねているというか。自分の作品も観る人の受け取り方に委ねているところがあります。

イベントの「軸」さえしっかりと通っていれば、そんなゆらぎから生まれる「問い」に対しても、一人ひとりが答えを持って参加できるような場になるのは、とても素敵なことですね。古舘さんは、昔からそのスタンスだったんですか?

古舘さん:学生の頃、自分のものづくりってどうしていったらいいかな、と悩んでいた時期があったんですが、スペキュラティブという考え方を知ってからは、デザインとアートに境界線を引かなかくなりました。ここ5〜6年くらい、少しずつ更新しながらずっと考えています。アートがデザインのように社会問題の解決につながってもいいし、デザインが感覚的に表現されてもいいし。どっちにしてもロマンがあった方が僕は楽しいですし、そこを重要視しています。

── 上の世代は、わかりやすくするための境界線や肩書きだったかもしれないですが、これからの世代や時代はきっと、あえて境界線を引かなくてもいいのかもしれませんね。

満永さん:だからこそ「自分はアーティストだ」「デザイナーだ」と言い切るスタンスはめちゃくちゃカッコいいですし、伝統的な文化芸術・芸能・工芸などを引き継いで極めていく方々が評価されることも大事だな、と、最近よく考えます。

古舘さん:肩書きって、世の中の状況やそのなかでの自分の立場を客観的に見たときのスタンスみたいなものだと思うので、今、自分は「デザイナー」と名刺に書いていますが、以前のように「アーティスト」と名乗るかも。変わっていく可能性はありますよね。

満永さん:すごく共感します。自分は「アーティスト」と名乗るようになって、作品や作家性・作風を信頼していただいてお仕事が始まることや、受発注の関係からクライアントに並走するような感覚に変化していきましたが、「デザイナー/アーティスト」のように複数の肩書きを名乗ったり、いっそ何も書かなかったり、肩書きに固執しない、”スラッシュ的”なスタンスでも良いと思います。

ポジティブな未来と自分を想像しながら、今を歩み続ける

── 最後に、今、興味があることや考えていること、これからやってみたいことをお聞かせください。

古舘さん:展示した「MASS」でも伝えているように、さまざまな物事の捉え方って状況や立場によって変わるなら、多角的な視点をもつことが重要だと思う。それを伝えるための作品作りを、これからも一本の芯としてやっていきたいです。

コロナ禍で世の中がぴたっと止まったような気がしたこの数年でしたが、人々の暮らし方とか、考え方という点ではむしろ急速に今までのものから変化している状況があります。それまで何となくみんなで共有していた”スタンダード”とされる概念や価値観も、共通認識を超えてそれぞれの個人に委ねられていったと思っていて、この先の社会はどうなっていくのか、そこにあるべきデザイナーの姿・スタンスとは何か、考えています。僕が所属しているグループ「MULTISTANDARD」の語源も、こういった考え方からきています。

僕にとってものづくりは、仮説を立てて自分なりの未来のシナリオを書いていくような作業なので、今やっていることがより具体的にアプローチできていたらいいし、未来につながっていると信じたい。できればタイムマシンで未来へ確かめに行きたいですね(笑)。

満永さん:それ、いいですね(笑)。数十年後、日本はまったく違う姿になっているだろうから、そのときに残っている良さ、世界が参考にしたくなるものづくりの良さが何か、を逆算しながら、今つくるものを考えたいです。今の状況や前提の中で、どう表現するのか。新しく生まれた手法と、この先10年、15年と世の中に残るような”太い”メッセージで、ポジティブにものづくりがしたいですね。

そして、もっとロングスパンで考えるなら、世界平和です。本当に。そこに少しでも寄与できるのがエンターテイメントだと思っているので、これからも続けたいです。


満永隆哉┃みつなが・たかや

千葉県出身。12歳の時に訪れた海浜幕張駅前のストリートバスケットボールコートにて、パフォーマンスカルチャーと出会い影響を受ける。慶應大学進学後休学し渡米、国内外でのパフォーマー生活を経て2015年に広告会社に入社。平日はクリエイティブ職として制作業務に従事し、休日はパフォーミングアーティスト兼演出家として活動する5年の二重生活の後、テックエンタメレーベルHYTEK Inc.を創業。NBA公式戦、America’s Got Talent Season17、TEDxなど国内外のステージに出演歴がある。

URL:https://www.takayamitsunaga.com/
Instagram:@mic.tokyo
Twitter:@TakayaMitsunaga


DESIGNART TOKYO 2022
Berlin Wall Tokyo 2022
展示期間:2022.10.21(fri)〜2022.10.30(sun)
営業時間:14:42〜21:30(ベルリン現地日照時間に合わせ変化)
会場:東京都千代田区内幸町 1-7-1 日比谷OKUROJI H16


古舘壮真┃ふるたて・そうま

1995 年生まれ。東京を拠点に活動。空間に内在するあらゆる関係性に着目し、独自のアプローチでデザインやアートワークを行う。素材そのものの鮮度を大切にしながらも、人・モノ・空間への効果的な造形表現を重視し、新しい視点や価値観、ストーリーを生み出す可能性を探る。デザイングループ MULTISTANDARD メンバー。

URL:https://www.sohmafurutatedesign.com/


DESIGNART TOKYO 2022
MASS -2022-
展示期間:2022.10.21(fri)〜2022.10.30(sun)
営業時間:11:00〜20:00(作家在廊日:土日のみ[終日])
会場:東京都千代田区内幸町 1-7-1 日比谷OKUROJI

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アートライター・文筆家
Naomi

服作りを学び、スターバックス、採用PR、広報、Webメディアのディレクターを経てフリーランスに。「アート・デザイン・クラフト」「ミュージアム・ギャラリー」「本」「職業」「生活文化」を主なテーマに企画・取材・執筆・編集し、noteやPodcastで発信するほか、ZINEの制作・発行、企業やアートギャラリーなどのオウンドメディアの運用サポートも行う。好きなものや興味関心の守備範囲は、古代文明からエモテクのロボットまでボーダレス。
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