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社会にデザインで貢献したい人必読!

実践!デザインマネジメント論

author: 榎本信之date: 2022/08/03

自分の能力を活かす企業を探している学生の方々も多いのではと思う。デザインの教育を受けてきた方に限らず、デザインに興味を持っていて、将来の道を探している方の参考になればありがたい。GK京都の榎本信之が語る「デザインマネジメントのすすめ」とは?

ブランド⼒向上+イノベーション⼒向上

最近「デザイン思考」「デザイン経営」という言葉を聞く機会が増えている。急激な社会変化に「変われない」企業が苦戦を強いられる中、進むべき方向を指し示してくれるのではと「デザイン」に期待が集まっているように思う。デザイン業界に身を置くものとしてはありがたい話だし、社会においてデザインが正しく知られ、高く評価してもらうことは悲願でもある。

ただ、イメージ先行の過度な期待は、ブームとしての情報消費と反動を伴う危険があるのも事実だ。社会におけるデザインの担う役割と、この先の目標とする役割を正確に伝え、実践していく必要が早急にあると考えている。「デザイン思考」「デザイン経営」のアカデミックな概念や定義に関しては多くの方々が語られ、文章にされているので、ここでは普段の業務で実践している現場の話を中心にお話ししたい。

経産省·特許庁が2018年に発表した「デザイン経営」宣言の中で、実践の必要条件として「経営チームにデザイン責任者がいて、事業戦略構築の最上流から関与すること」と書かれている。大事なことだし、海外の有名企業では事例のあることだが、宣言に書かれるということは日本ではまだ出来ていないということの表れだろう。

あわせて私は、デザイン責任者のもとにデザインマネジメントチームがあることがより重要と考えている。デザインの役割が「ブランド⼒向上+イノベーション⼒向上(デザイン経営宣言より)」を中心にその役割領域を増やしていく中で、業務も多岐にわたり量も拡大しているからだ。

そこでの役割はデザインや企画などのクリエイション部門と営業·開発·生産·管理等の他部門とのインターフェースであり、何より経営陣とのインターフェースである。その目指すものは、単発のヒット商品開発や短期的な売上げ拡大ではなく、より良いモノやコトやサービスを継続的に生み出すシステム創りであり、結果としての「ブランド⼒向上+イノベーション⼒向上」だ。

ちなみによく「デザイン思考」によって一般の人でもクリエイションが出来るようになるとか、デザイナーになれると勘違いされることが多いが、「デザイン思考」はデザインに必要な能力の、観察·問題発見·発想·視覚化(※“デザインの本質”より)という前半部分であり、造形という後半の非論理的な機能はまさに「餅は餅屋」で、専門能力が必要となることは付け加えたい。

デザインマネジメントの目的は共通言語化

企業においてデザイン思考による成功例が少ないといわれている原因は、この前後半の連携がうまくいっていなかったり、後半もある程度は誰でも出来るのではという誤解によることが多いと考えている。「デザイン経営」には「デザイン思考」の視点で強化された経営陣やその他の部門と、レベルの高いデザインや企画などクリエイション部門、そしてその両方を最適に繋ぐデザインマネジメント部門の3つが必要だからだ。

我々が2003年頃からデザインマネジメントという呼び方で、業務を組み立てながら事業をスタートした時には、既存のデザインの仕事を最適にマネジメントして質と効率を上げることと、デザインの視点で事業や経営の役に立つ新たなマネジメントを行うという二つの意味を、あまり整理しないまま同時並行して進めていた。既存デザイン領域の「内に向けてのマネジメント」と「外に向けてのマネジメント」のことである。

ここにきて、デザインの対象やテーマが拡大し、領域そのものが外に展開している現在、「内」が拡大して「外」に近づいているため、そのベクトルの違いがあまり意味を持たなくなってきている。その分、マネジメントの対象は拡大し、役割もますます重要になっている。「内」向きのマネジメントも「外」向きのマネジメントも、その一番重要な役割は「共通言語化」である。

業種などカテゴリーの違いで、使われる業界用語が違うというのはよくある話しであるが、アートやデザイン等、無から有を生みカタチにしていくクリエイションを生業とする人種は言語脳ではなく、認知脳(専門ではないので正確ではないかもしれない)を駆使して創造していくため、言語化が苦手な場合が多い。そもそも論理的な組立てに囚われず、直感的判断によるのがクリエイションであるのだから、100%の論理的な説明は出来ない。

しかし、事業や経営は多くの人がかかわり、協力しないと成立しないことであるから、一般の人でも理解でき、目標を共有できるものにする必要がある。そこを担うのがデザインマネジメントなのだ。

「素晴らしい未来」の妄想=デザイン

その一番大事な仕事は、右脳の産物を左脳に伝わるように翻訳し、また左脳の意味を右脳のジャンプ台に変換するという「共通言語化」である。言語化といっても全てを文字にするという意味ではない。人の右脳型、左脳型というのはゼロサムの話ではなく、どちらが優位かということなので、文字はもちろん共通に理解できる図表や画像、動画、実演等も駆使して「共通理解部分」の割合を増やしていくことである。

そうした「共通言語化」によって、組織の力を結集することができ、経営者のビジョンに沿った「目から鱗のデザイン」の商品を開発し、「腑に落ちるデザイン」の広報宣伝を打ち、「共感できるデザイン」の店舗や情報を発信することで、結果として企業のブランド力や革新的な商品開発につなげていくことができる。結果、生活者や社会にとって貢献できるものにしていくことにつながるのだ。

今、社会や企業がデザインに期待していることを具現化するには、この「デザインマネジメント」による「共通言語化」が欠かせない。そうした能力を持っている人材はデザインの専門教育を受けたものとは限らない。もちろん、直感的に美しい色や形を感じ取る「審美眼」の高さは必須となるが、並外れた歌声や演奏力が無くても全体を素晴らしい楽曲にまとめ上げる指揮者(これも専門ではないので間違っているかもしれませんが)のごとく、よいデザインのモノやコトやサービスを生み出したい、そうした仕事に係りたいと思っている方は、是非デザインマネジメントの仕事を検討して欲しい。

そしてここで最も重要な素養は「素晴らしい楽曲」のイメージを培ってきていることである。高い審美眼や、「共通言語化」能力を活かしていく方向性が「正しい」ことでないと意味がない。これは常日頃の暮らしの中で無意識に獲得していくものだと思う。学校の勉強ももちろん大事であるが、日々の暮らしの中で五感をフル活用し「素晴らしい未来」のイメージを常に妄想していることが役に立つ。それがデザインの本来の役割でもある。

まだまだ狭い業界ではあるが、そうした志を共有できる若者と出会い、一緒に仕事ができることを楽しみにしている。

※本記事は2021年6月に寄稿されたものです


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株式会社GK京都 代表取締役社長
榎本信之

1958年生まれ。京都市立芸術大学美術学部デザイン科卒業、(株)GK京都入社。プロダクトデザインを担当して、テーブルウェア/医療機器/オートバイ/家電 製品/オーディオ/水上バイクなどの開発に携わる。その後、自動車や家電製 品、店舗の企画デザインプロジェクトを通して、「プランニングデザイン」の研 究/事業化を進める。また、携帯電話キャリアのデザインコンサルタント等を中 心に、デザインによる経営支援に着目した「デザインマネジメント」を事業化。現在、デザインマネジメントをさらに展開した「クリエイティブ・ハブ」事業を 推進中。
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