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特集

合言葉はbe the you(自分であれ)!

5つのキーワードで紐解くアーティストデュオ・MisiiNの魔法

author: 山梨幸輝date: 2024/09/07

2022年に結成されたMisiiとnagohoによるアーティストデュオ・MisiiN(ミシエヌ)。“be the you(自分であれ)”をキーワードに手がける楽曲は、時に聴く人の孤独に寄り添い、時に背中を叩いて鼓舞してくれる。日常生活の至るところで力をくれる魔法のような存在なのだ。

そんなMisiiNはどのようにして生まれ、何を考えながら音楽を作るのか。二人にいち早く魅了され、共同製作者として携わるクリエイターのイリエナナコさんと一緒に、5つのキーワードを通して掘り下げていく。

MisiiN

作詞作曲&ヴォーカルのMisii(写真右)とトラックメイキング&ポエトリーラップ担当のnagoho(写真左)からなるアーティストデュオ。エレクトロ・ポップス・アンビエントなどを横断する独自の音楽性が特徴。東京表参道のアートギャラリー「NOSE ART GARAGE」に創作拠点を置き、アートディレクションや映画の劇伴、CMソングの制作など幅広く活動する。9月から全国10ヶ所を周遊する 「MisiiN JAPAN TOUR 2024」を開催予定。

X:@MisiiNmusic
Instagram: @misiinmusic

イリエナナコ

2016年まで広告会社に勤務し、その後フリーランスに。コピーライティングやクリエイティブディレクション、CM制作などを行うかたわらで、映画監督やアーティスト、ワンピースブランド「瞬殺の国のワンピース」のデザイナーなどとして国内外問わず幅広く活躍する。

X:@dapponanacoss
Instagram: @nanacoss

キーワード①「アートギャラリー所属」のアーティストデュオ

──まずは3人の自己紹介をお願いします。

Misiiさん:お決まりのセリフがありまして……Hi! It's MisiiN, I'm Misii from MisiiN.

nagohoさん:I’m nagoho from MisiiN.

イリエ:その自己紹介好き! 私は普段映画やMV、広告などを作っています。二人とは「NOSE ART GARAGE」という表参道のアートギャラリーで出会いました。MisiiNが誕生する前なので、4年以上前ですね。

──MisiiNはレコード会社ではなく「NOSE ART GARAGE」に所属しているそうですね。どのような経緯で結成されたのですか?

nagohoさん:きっかけは“一目惚れ”です(笑)。自分はもともとカメラをやりながら役者を目指していて。ある時に写真展を開いたのですが、そこで「NOSE ART GARAGE」のプロデューサーが「うちでキュレーターとして働かないか?」と声をかけてくれたんです。

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イリエさん:歌はまだやっていなかったんだ。

nagohoさん:そうなんです。その後、2020年に「NOSE ART GARAGE」で防音室の中にいるミュージシャンの演奏をヘッドフォンで聴くというコンセプトの展示が行われて。その時にソロシンガーとして活動していたMisiiと出会いました。

イリエさん:そこで一目惚れを?

nagohoさん:はい。歌に圧倒的なパワーを感じて、この人と何か一緒にやりたい! と。特に感動したのは「君にふれて、」と「Golden Orange」の2曲ですね。帰宅中に聴いていたら、夕日がとても綺麗に見えて号泣してしまって。自分は結構ネガティブな方なので「この人は太陽だから、月になりたい」と思いました。それからMisiiのステージ作りをお手伝いしたり、楽曲をプロデュースさせてもらうようになって。その中で歌や音楽作りを勉強しながら2年間アプローチし続けました。

──アプローチを受けたMisiiさんはいいかがでしたか?

Misiiさん:断り続けていました(笑)。nagohoの目指す“囁く”ような音楽性と、私が作るロック調の曲は交わらないと思っていたので。でも、2022年ごろに何か新しいことを始めてみたいと考えたのと、周囲からも2人でいることに対してすごくいいねと背中を押されて。それを信じてもいいのかなと思って、MisiiNができました。

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イリエさん:ものづくりって自分の脳を丸ごと取り出すようなデリケートな行為だから、自分と他者の世界を混ぜることに躊躇してしまう気持ちはわかるな。だからこそ、Misiiはすごく勇気のいる決断をしたんだね。何を言いたいのかというと、MisiiNを組んでくれてありがとうございます!(笑)。

──アートギャラリーに所属するMisiiNならではの要素はありますか?

nagoho:音楽以外の角度でも世界観を作り込めることですね。ライブで流す映像も自分たちで作りますし、空間や照明にもこだわっています。MisiiNは音楽以前に伝えたいコンセプトがあるから、さまざまな言語を使って聴覚以外にも訴えたいんです。

キーワード②最大のコンセプトは「be the you(自分であれ)」

──MisiiNの最大のコンセプトは“be the you(自分であれ)”です。その言葉が生まれたきっかけはなんですか?

Misiiさん:音楽を作り始めた頃に「自分の使命や生きる責任ってなんだろう」と考えた時期があったんです。そんな中でたまたま見ていた映画に “The Me”という台詞が出てきて。そこからbe the youという言葉を思い着きました。それは自分自身の好きな部分だけでなく、嫌いなところも知った上で対峙することだと考えていて。よく聞くBe yourself(自分らしく) と違って、もっと厳しいことなんです。私の人生のテーマともいえる言葉で、実は「ビー・ザ・ユー」というタイトルの雑誌も作ったことがありました。

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 Misiiさんが手がけていた『ビー・ザ・ユー』

nagohoさん:MisiiNの最初のテーマは“Selflove”だったんですよ。当時からポジティブなだけではない意味で言っていたんですけど、世間的な使われ方がだんだん自分本意になってきていることを感じて。原点に戻って二人で考えたときにやっぱり“be the you”がいいよねと。

イリエさん:この前、MisiiNのMV撮影に協力してくれたおじさまも「be the youってストレートで最高だね」と言ってくれて。私がいつも二人の音楽に感じているのは、パーソナルなことを歌っているんだけど、ユニバーサルでもあるんですよね。

──音楽性についても、いい意味で日本の音楽シーンとは一線を画しています。どのようなアーティストに影響を受けてきたのでしょうか?

Misiiさん:一人はMiley Cyrusです。英語を知りたいと思ったきっかけは、この人が歌って話している言語だから。彼女はそれこそ自分を大切にして生きているから、考え方もインスパイアされているかもしれません。もう一人はONE OK ROCKのTAKAですね。中学生の時に音楽やMCを聞いてからコアがすごくある人だと知って、そんな人間性を含めて好きです。

──曲はどのように作られているのですか?

Misiiさん:私たちは毎日一緒にいるので、日々ものすごい量の対話をするんです。その中で伝えたいことが言語化されない状態でどんどん増えていって。それがふとした瞬間に歌詞とメロディーになるんです。私がサビを考えてnagohoに渡すパターンが多いかな。

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nagohoさん:自分は今のMisiiNにないムードの曲を積極的に作りますね。人はいろいろなことに悩んでいるから、パズルのピースを埋めるように「今度はこんなことについて考えてみよう」とMisiiに持ちかけるイメージです。

──イリエさん、MisiiNのおすすめ曲を教えてください。

イリエさん:まず聴いてほしいのは「fall」ですね。カッコよさや歌詞の深い部分がストレートに届く曲なので、友達に勧めることも多いです。

ライブでぜひ見てほしいのは「BABABADCYCLE」。クールでテンションが上がる曲だし、歌詞の内容も他のミュージシャンにはあまりないと思います。恋愛のような出来事とかではなく、日常の中での自分のメンタリティについて歌っているんですよ。

キーワード③リスナーと共に「模索」する曲作り

──MisiiN の楽曲を聴いていると、自分を模索し続ける辛さに寄り添いつつ、他者といる心強さも教えてくれるように感じます。作る上で意識していることはありますか?

nagohoさん:楽曲自体は私たちから出発するものですけど、受け取る側が自分の人生に必要な存在として受け止めるにはどうすればいいかを考えていますね。聴いてくれる人も含めてMisiiNの一部だと思っているんです。

イリエさん:MisiiNの魅力はリスナーを「こっちに行こう!」と導く役だけでないところなんですよね。ライブレポートで同じように書いている方もいたけど、ライブ中の二人はドラクロワの「民衆を導く自由の女神」みたい。でも私はMisiiNって旗振り役であるのと同時に、踏み潰されている民衆側でもあると思うんです。

MisiiN:(笑)。

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イリエさん:二人は“be the youをやれてる人”としてゴールにいるわけじゃなくて、リアルに悩んで模索していながら、発信も続けているんですよ。だからリスナーも「上から言われてる」ではなく「寄り添ってくれている」と感じやすいのだと思う。

nagohoさん:ミュージカル「レ・ミゼラブル」に登場するジャン・ヴァルジャンのイメージはありますね。みんなと歌うような、一緒に綱を引くようなスタンスでいたいです。

キーワード④「DIY」で作り上げる独自の世界

──音楽以外の世界観づくりでこだわっていることはありますか?

Misiiさん:ライブで流す映像にこだわっていますね。MisiiNの音楽には内向的な要素もあったりするので、多くの人に受け入れてもらえそうなポップな世界観に仕上げています。

イリエさん:MisiiNは常に手を動かし続ける人たちなんですよね。MisiiNのセンスって、確実に二人が積み上げてきたものがある。だから一緒に物作りをしていても確固たる世界観を感じるし、まずそれを活かしたいと思うんですね。そこから何を一緒に作れるかを考えるのが楽しい。

Misiiさん:手を動かすってめっちゃ大変ですけど、やりがいがあるんです。

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nagohoさん:自分たちは山登りが好きなんですよ。辛い道のりを超えた後の山頂から見える景色にしかない美しさがあるじゃないですか。それをライブでみんなと一緒に見たい一心で作り続けていますね。

──以前、ライブを拝見したときにも物凄いパワーを感じました。

nagohoさん:レコーディング中、聴いてくれる人のことを想像してよく泣いちゃうんです。それくらいパワーを込めて音楽をつくっているから、ぜひ生で聴いてほしい。

イリエさん:ライブに緩急があるのもいいんですよね。カッコいい曲を披露した後に「……それでさ」みたいな気さくなMCが始まる。もし二人のキャラクターや音源を知ってある程度想像したとしても、音楽以外の要素も含めて全部見られるのが本当に面白いです。

キーワード⑤新曲のテーマは「健康的にヒステリック」

──最後は7月にリリースされた新曲「YATTAAMAN」についての話です。楽曲のキーワードとして“健康的にヒステリック”と書かれていたのが印象的でした。

nagohoさん:Misiiは感情の波が激しいタイプなんですよ。日常的にヒステリックというかもはや“発狂”な瞬間があって(笑)。いや、自分も全然するんですけどね。そんな時はどこにいても「ヤッター、ヤッタ-、ヤッターマン!」と叫んでMisiiを元気付けるのがお決まりの流れなんです。そこから発展して、リスナーが誰しも心の中に持っている“応援隊長”を引き出せるような楽曲を作りたいなと。それに、そもそも「大泣き」「激怒」みたいな“いい大人になってやるものではない”とされていることをさらけ出すのって、健康的な行為じゃないかとも思っているんですよ。

──ネガティブな感情が吹き飛ぶほどパワフルで疾走感のある楽曲に感じました。今回はプロデューサーにシンガーソングライターのMaika Loubtéさんを迎えて制作されましたが、意識したことはありますか?

Misiiさん:中盤のポエトリーの部分以外は私が作詞したのですが、何度も悩んで話し合いましたね。“ヤッターマン”というキーワードや、アップテンポな4つ打ちの曲調というところまでは決まっていたのですが「どうやったらリスナーが元気になってくれるか」「“be the you”も伝えるにはどうすればいいか」を考えていたら、いろいろ迷ってしまって。

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nagohoさん:中盤のサビで「YATTAAMAN 叫んでる、大丈夫!!」と歌っているんですよ。このフレーズはもともと全部のサビに入れていたのですが、マイカさんに「最初から大丈夫な人にずっと大丈夫と言われるのってしんどいよね」と言われてハッとして。それから一番のサビを「YATTAAMAN 叫んでる、I’m with you!!」に変えたんです。自分たちがリスナーのそばにいるところから“大丈夫”な状態を作っていきたいなと思って。そういう細かい調整をたくさん積み重ねていきました。

──イリエさんはMVの監督として携わっています。「YATTAAMAN」の魅力はなんですか?

イリエ:撮影の時、現場にくるスタッフのうち3人が「車で聴きながら来ました」と言うくらい、キャッチーで中毒性がある曲ですね。脈拍を上げてくれるお守りのような曲になっているんだろうな。でも、その一方でたくさんの聴き方があるとも思っていて。まず曲名だけ聞いた時は「どんな曲?」ってなりますよね(笑)。実際に聴いてみると、ノリが良くてテンション上がるし、歌詞を深掘りしていくとその裏にあるストーリーや想いに気づける。聴くほどに新しい発見ができるという意味では、それこそ消費されない音楽だなと思いました。

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──最後に、「YATTAAMAN」はどんな人に届いて欲しいですか?

Misiiさん:全員!

nagohoさん:欲張り(笑)。でも、生きてる限り誰もが必要になることを歌っていると思います。ぜひ聴いてみてください!

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Edit&Text:山梨幸輝
Photo:垂水佳菜

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編集者/ライター
山梨幸輝

編集者/ライター。大学時代にファッションブランド・writtenafterwardsでのインターンを経験し、卒業後にフリーランスとして活動を開始。雑誌やWEBメディアでの執筆や編集、ブランドのカタログ制作などを行う。