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【隈研吾×ドミニク・ペロー】パンデミック時代を経験したデザインと都市を語る

東京からパリへ、オリンピックに見る日仏クリエイティブの循環論

author: 高橋 正明date: 2021/10/13

“東京の街全体がミュージアムになる10日間”。 表参道・外苑前、原宿・明治神宮前、渋谷・恵比寿、代官山、六本木、銀座の全6エリアを舞台に、デザインとアートのフェスティバル「DESIGNART TOKYO 2021」(2021年10月22日〜31日)が開催される。そのメディアパートナーである「Beyond Magazine」では、メインカンファレンスの第1弾として企画された隈研吾氏とドミニク・ペロー氏の対談の様子を、本編公開に先立ってお届けしよう。

「DESIGNART TOKYO 2021」のメインカンファレンス「CREATIVE CONFERENCE BRIDGE」の第1弾として企画された、東京―パリでのリモート・カンファレンスのテーマは『Co-循環』。語るのは、フランス国立図書館などの作品で知られ、2024パリ五輪の建築と都市を統括するドミニク・ペロー氏と、TOKYO 2020五輪のメイン会場となった国立競技場の設計に携わった建築家である隈研吾氏。ファシリテーターは建築家で東京理科大教授の山名善之氏。

会場はアンスティチュ・フランセ東京。ル・コルビュジエの弟子・坂倉準三が建てた同校の建物は現在改修中だ。カンファレンスの収録を終えたばかりの隈氏から今回のトークの見どころをうかがった。

シンクロする二つの五輪と二人の建築家

パンデミックによって分断され閉塞化した世界を、デザインやクリエイティブの世界にとっての一つのチャンスであるとポジティブにとらえるDESIGNARTが注目したのは二つのオリンピックの存在だ。

2019年11月に竣工した国立競技場の建設で大成建設、梓設計とともに設計に携わった隈氏、いまだ収束の予測もつかない環境下で2024年のパリ五輪で都市計画の旗振り役を務めるドミニク・ペロー氏。二人の対話から見えてきたものは何か、また二人は都市をどうあるべきものと考えているのだろうか。

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「東京オリンピックでは、1964年大会の遺産を継承するヘリテージ・ゾーンと都市の未来像を示すはずの東京ベイゾーンの安全を確保しつつどう繋ぐかが課題でしたが、残念なことに、コロナという存在を前にしてそこがかき消えてしまいました。

2024年のパリ五輪でペローさんは、選手村やシネシティのコアなどを含むループ(円環)計画などによってそれらをうまく繋ごうとしています。いかにもフランス的な都市計画的な理念を持って。今回その理念を彼から聞けたことがよかった」と隈氏。都市の計画が上手くライン(線)で考えられているのがフランス的だと言う。

「それはル・コルビュジエ以前のボザール派時代からの伝統であり、その直線がル・コルビュジエでは有機的なラインになった」。ボザール派とは19世紀の古典主義的な建築様式だ。軸線と景観を組みわせた合理的な思考はいかにもフランス的であるだろうし、フランスの歴史を知る者なら、パリの都市改造を行った政治家のジョルジュ・オスマンの名を連想するだろう。パリはオスマン以来強い意志的な都市計画を持って何度もつくられてきたことはよく知られている。

隈氏によれば、「日本人は、そうした都市計画での線を描いていくことは不得意なんです」。そのような日仏両国の違いが見えてくるのは興味深い。

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1964年の東京五輪では当時小学生だった隈氏は父親に連れられ「丹下健三の競技場やその天に届きそうな尖塔など」の現代建築に深く感銘を受けて建築家を志したという。「今回はそれらの逆を目指してみたわけです。垂直よりは水平、コンクリートよりは木造です」。さらに神宮の杜という自然のコンテクストを重視した。

また、オリンピックと同時期の開業を目指した高輪ゲートウェイ駅は海に近いロケーションから潮風を感じるような風の抜ける建築を設計した。期せずしてコロナ時代に適した構造となっている。自然を感じるという点ではペロー氏の計画も同じく自然環境を重視し、外気を取り込むものを提案し、計画では「セーヌ川の再発見」を唱えている。

二人の思想はここでも一致している。オリンピックをにらんでパリでも交通網拡張のため駅を建設する計画だが、隈氏は北のサン・ドニ駅、ペロー氏は南のヴィルジュイフ駅を担当する。二人のコンセプトの立て方のデザインも今回のトークセッションでは聞くことができる。

日本とフランス。建築に対するスタンスの違い

さらに対談では、パンデミックに対して建築家やクリエイティブがとる態度についても収録されている。

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「ペローさんがコロナに対して『自由』という概念をぶつけるところがポジティブでフランス的だと思いました。日本では『密』とか『人流』という言葉を使ってまるで医者から患者に向けて注意するような言い方をしますが、その違いにも感心しました。

日本では『自由』という言葉が使いこなせてないんですね。フランスは歴史的に自由を獲得した国ですが、日本はそういう経験がない。すべてはなるようになるという考えで、それは自然に対する姿勢もそうでしょう。自然はどこにでもあると思いがちなのが日本。フランスでは自然も闘って獲得し、コントロールするものと考えているのではないでしょうか」と隈氏。その姿勢は創作から都市にわたるデザインにも具現化されている。

たしかにヨーロッパ的な建築や都市には、隈氏のいうような「負ける」姿勢(と言っても実際に負けるのではなく外的な条件や外力に柔軟に対応することで環境に溶けこむという意味)は感じられない。ヨーロッパの建築は、自然に対しては拮抗し、この負ける建築が批判する「勝つ建築」の枠組みからは離脱していないように見える。「そもそものスタンスの違いが分かる」と隈氏。

超高層ビルからの逃亡

パンデミック以後の時代の建築、デザインはどうなっていくだろうか。隈氏は「みんな“箱”からどうやって逃げ出すかという話になってきますね。箱の代表が超高層ビルですが、我々はこれまで高層ビルの中に幽閉されてきたようなものです。そこに閉じ込められて仕事をさせられてきたし、それが効率的だと思いこまされていた。

しかし、実は外にいても十分効率的に仕事はできることがわかったし、それを可能にするためのITを我々はすでに手に入れていたにもかかわらず、以前と同じく箱に閉じ込められている。この箱からどうやって出ていくかがこれからの課題になってきます。

“箱”をどう壊していくかというのが、都市計画にもなっていくでしょう。箱から出てくる人は増えてくると思うし、そういう新しい時代が来ることを楽しみにしている」と言う。

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コロナ以降のライフスタイルというものを考えるとき、デザインの問題を抜きに考えられないと隈氏は言う。「今までは生活は生活、デザインはデザインみたいに切り離して考えられていた部分もあるが、これからは生活とデザインがある意味で一緒に繋がらないとコロナ以降の生活は見えてこない部分があるでしょう」。

今の日本では、まだその点で層ごとの断絶があると隈氏は言う。「海外のビジネスエリートはデザインのことにすごく詳しいですね。それは仕事をしていくうえで、日本との違いを実感するところです。ビジネスマンが自分の問題としてデザインを捉えて考え、僕らクリエイティブな側にプッシュしてくるんです。日本のビジネスマンにもそこを期待したいですね」。

自分の問題を考える教材として、街を歩くことでデザインのセンスは学べると隈氏。「例えば、通りに素敵なベンチがあったとしたら、これを自分の家で使ってみたらどうなるかとか、自分の問題として実際に街を歩くなら、街は無限の楽しい教材になります」。

こうした意味からも隈氏とペロー氏の二つのオリンピックを通して見た都市計画カンファレンスから、ライフスタイル、デザイン、ビジネスのヒントが読み取れるはずである。

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SESSION.01

「パリ・オリンピックにつなぐ、アフターコロナの建築と都市」

日時:日本時間帯|10月25日(月)18:30〜20:00/ヨーロッパ時間帯|10月28日(木)21:00〜22:30
登壇者:隈 研吾(建築家)、ドミニク・ペロー(建築家、都市設計家)
ファシリテーター:山名善之(建築家、美術史家、東京理科大学理工学部建築学科教授)

SESSION.02

「日本×台湾!デザインを語る新しいことばをアジアから発信しよう。」

日時:10月26日(火)18:30〜20:00(日本時間帯 / 台湾時間帯:17:30〜19:00)
登壇者:張基義(台湾デザイン研究院院長)、ジョニー・チウ(建築家、「J. C. Architecture」創業者)、鈴木啓太(プロダクトデザイナー、「PRODUCT DESIGN CENTER」代表)
ファシリテーター:木田隆子 (『エル・デコ』 ブランド・ディレクター)

SESSION.03

Art is Lifeline. 日本でアートの民主化は起こるのか?」

日時:10月27日(水)18:30〜20:00
登壇者:服部今日子 (「フィリップス・オークショニアズ」日本代表・ディレクター)、石井孝之(「タカ・イシイギャラリー」代表)
ファシリテーター:岩渕貞哉(『美術手帖』総編集長)

SESSION.04

「手技とテクノロジーで回す、サステイナブルなものづくり」

日時:10月28日(木)18:30〜20:00
登壇者:豊田啓介(東京大学生産技術研究所特任教授、noiz、gluon)、倉本仁(プロダクトデザイナー、「JIN KURAMOTO STUDIO 」代表)
ファシリテーター:塚田有那(編集者、キュレーター、「一般社団法人Whole Universe」代表理事、「Bound Baw」編集長)

・開催場所:オンラインにて開催
※配信URLは、チケットご購入者様のみにご案内いたします。
・使用言語:日本語
※SESSION1は、フランス語にも対応しています。
※SESSION2は、中国語にも対応しています。

チケット料金:
1DAY(1Session): ¥1,500
4DAYS(4Sessions)通しチケット: ¥3,000(ともに税込・購入手数料別途)

※チケットのお申込みはこちら

共催:DESIGNART TOKYO実行委員会、アンスティチュ・フランセ日本(SESSION1)
協力:ZAIKO株式会社
※SESSION1とSESSION2は、アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュにて収録

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DESIGNART TOKYO 2021

開催期間:2021年10月22日(金)〜31日(日)

開催エリア:表参道・外苑前 / 原宿・明治神宮前 / 渋谷・恵比寿 / 代官山 / 六本木 / 銀座

撮影/下城英悟
取材提供/DESIGNART

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高橋 正明

建築、デザイン、アートを取材するライター、翻訳者、キュレーター。オランダのFRAME誌や英、米、独、香港、マレーシア等国内外の雑誌媒体に寄稿。『建築プレゼンの掟』『建築プロフェッションの解法』『DESGIN CITY TOKYO』など著書多数。翻訳書に『ジェフリー・バワ全仕事』『カラトラヴァ』などがある。近著は『MOMNET Redifininfing Brand Experience』。建築家を起用したDIESEL ART GALLERYでのキュレーターや韓国K-DESIGN AWARD審査委員なども務めた。2018年からJCD(商環境デザイン協会)主催のトークラウンジ「タカハシツキイチ」のモデレーターを続けている。東京生まれ、独英米に留学。趣味は映画。
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