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【キーマンと気ままに、クルマ放談】#01

熱いファンに支えられる「スバル」のブランド力

author: 若林敬一date: 2021/12/26

自動車業界に精通したオート・アドバイザーの若林敬一が、気になる車メーカーのキーマンと対談する連載企画。第一回目は、「スバリスト」と呼ばれる熱烈なファンを抱えるスバルで国内のマーケティング戦略を一手に担う小島敦氏に直撃。ユーザーとの関係性、ブランド構築と経営戦略、そして今後のスバルの目指す道について問いかける。

お客さまの「信頼」に応えるために結果を出す

株式会社SUBARU 国内営業本部マーケティング推進部部長の小島敦氏(左)と、聞き手の若林敬一氏(右)。スバル東京本社ショールームにて撮影。

若林 小島さんは、文系なのに新卒で情報システム部に配属されて、その後、営業、さらに販売会社を経験。現在はスバルのマーケティングを束ねていらっしゃいます。

小島 そうですね。文系で情報システムに配属されたのはほとんどいない。クルマが好きで自動車会社に入社したので、情報システムだけは絶対イヤだと思っていました(笑)。でも、その当時の経験が、今のIT時代に非常に役立っています。

若林 その後、グループ販売会社に出向されたときは、どのようなお仕事をしていたんですか。

小島 地区ごとでグループ経営を統轄する会社に出向して、そのエリアの販売会社の経営をみるポジションでした。販売会社なので現場に近く、その分さまざまなことが起きるので、その対処が大変でしたね。その後、ようやく今のマーケティングに配属となりました。

若林 私もマーケティングを専門としていますが、マーケティングはどうですか。

小島 もちろん、大変な部分もありますが、デジタル時代に合わせた仕事のプロセスを考えるのは楽しいですね。それはマーケティングに限らず、すべての業務において必要だと思います。

若林 私は以前から、スバルが持つ独自のブランド力に興味がありました。スバルは「安心」「安全」「クルマに乗る愉しさ」という3つを非常に大切にしていて、それが「品質」に現れているように感じます。

小島 それは非常にうれしいですね。数年前に検査不正や大規模リコールなどでお客さまに大変なご迷惑をおかけしたので、信頼をどう取り戻すかというのは、我々の最大のテーマです。ありがたいことに、そういうことがあっても、お客さまは我々を変わらずに支持してくださいました。お客さまや販売会社の信頼に応えるためにも、SUBARUは生まれ変わったということを結果として示し、お客さまに実感いただかなくてはいけないと思っています。

若林 その言葉からも、真摯に品質や信頼を捉えていると感じます。

小島 世間に厳しい言葉があふれているときも、応援のメッセージをいただいたりして、お客さまのスバルへの信頼と愛情の深さを痛感しました。その信頼は絶対に裏切ることはできない。だからこそ、品質を保つひとつの施策として、「風土改革」にも積極的に取り組んでいます。問題が起きるような企業風土改革を進めていて、その成果は社内でもずいぶん実感できるようになりました。

若林 企業経営では、なにかしらのトラブルが必ず起きるもの。大事なのは、それが起きてからどうするかという、企業姿勢です。そこをきちんと経営計画や人材、風土へと落とし込んでいるんですね。

小島 どんなときもSUBARUのファンでいてくれたお客さまのことを思うと、何かしなくてはいけないというあいまいな気持ちよりも、信頼を守るために「自分はこうしたい」というもっと具体的な気持ちになれるんです。

ブランドというお客さまとの「約束」

若林 熱烈なファンが支えているスバルには、確固たる「ブランド力」があるということですね。ブランドとは、お客さまや販売会社との「約束」だと思います。日本では、熱烈なスバルファンを「スバリスト」と呼びますが、米国ではどのようなブランドイメージを展開しているんですか。

小島 米国でのシェアは、この10年で2%から4%へと伸びています。日本ではお客さまのペルソナを「ライフ・アクティブ」と定義していますが、米国では「エクスペリエンス・シーカー」と設定。両者は完全な同義ではありませんが、ベクトルとしてはほぼ同じと考えています。

日本では、生活者の3割が「ライフ・アクティブ」といって、人生をアクティブに楽しもうと考えています。そういう方々が、スバルのメインターゲットです。

ちなみに、日本の「スバリスト」というのは、独自の商品に触れることで自然発生的に生まれたものなんです。アメリカではもう少し戦略的に、お客さまとの関係をつくっていると言えると思います。

若林 米国でも「スバリスト」と呼ぶんですか。

小島 世界中に熱いファンの方々はいらっしゃいますが「スバリスト」という表現が使われるのは日本だけです。米国ではスバルブランドやスバル車に対して「Subie」(スービー)という愛称が使われたりします。オーナーの方々が自分のSUBARUに対して特別な愛着を持つという点では、日本も米国も同じです。

若林 米国でシェアが2倍以上に伸びたのは、どんな理由からですか。

小島 私は国内担当なので詳しいことは説明できないのですが、日本でも米国でも、お客さまやお客さまとの関係を大事にしてきています。そこから生まれた様々な取り組みが、お客さまとの関係を強固にし、新たな支持にもつながっているんです。そのお客さまの支持が広がったおかげで事業も拡大してきたと言うことだと思います。

若林 「工場をつくったから、これだけ売る」というメーカーが、現実的には圧倒的だと思いますが、そこがまたスバルはほかとは違うんですね。

「選択と集中・差別化・付加価値」で事業を整理

若林 スバルは、2017年に富士重工業からSUBARUへと社名変更しています。これも「ブランド戦略」の一貫でしょうか。

小島 当時、私は販売会社に在籍していたので、プロセスの詳細はタッチしていないのですが、生き残り戦略の議論を重ねた上での社名変更でした。30年前、私が入社した当時の富士重工業は、自ら「総合輸送機器メーカー」と名乗っていました。クルマ、航空機、鉄道車両、カーキャリア、農業用機械やスノーモービル、水上バイク、風車まで、事業領域は相当幅広かったんです。

しかし、我々はトヨタの1/10規模で、世界シェアはたった1%です。小さい会社なのでリソースも限られます。そこで「選択と集中」「差別化」「付加価値」を重視した事業の整理に着手。同時に会社名をブランド名と同じスバルとしました。現在は、クルマと航空機事業が中心です。

民間機事業では、ボーイング767、777、787、そして777Xなどの国際共同開発に参画してきた。

若林 航空機事業は前進の中島飛行機のDNAもありますね。最先端技術という点でも重要な事業領域といえそうですね。

小島 スバルにとって、航空事業はほかとの差別化をして付加価値を生み出す重要な領域です。航空機の主翼と胴体をつなぐ中央翼の開発は、非常に高い技術力が求められ、対応できるメーカーは世界中でも限られます。しかも、開発だけではなく製造技術も特殊です。

若林 航空事業の最先端技術が自動車事業にも応用されたりすることはあるんですか。

小島 飛行機を工場で量産するときに、自動車を生産するときの効率化の手法を取り入れたりしています。逆に飛行機の厳しい品質管理の技術をクルマにも応用しています。そういう技術や仕組みを相互に交流させられることも、スバルの価値を高めています。

若林 それはすごい価値ですね。ほかでは真似ができない財産です。

少人数だからこそ効率的でスピーディに

若林 私は、スバルは少人数で非常に効率的だと感じているのですが、それはどうして実現できているのでしょう。例えば、ひとつの部門の従業員数が他社に比べるとずいぶん少ないですよね。

小島 規模が小さくてリソースが少ないので、仕方なくという部分もあります。大企業であれば、分担するような仕事も自分でなんとかやる。結果的にひとりの人材が幅広く、いろいろなことを担っています。

若林 仕事は幅広いほうが、個人は早く成長できます。

小島 専門性を高めるという意味ではデメリットですが、俯瞰してものを見る力は養うことはできます。人にもよりますが、狭い仕事を深く掘り下げるよりも、全体を任されるほうがやりがいは感じやすい気がします。

若林 人が少ないからか、現場への権限移譲も進んでいる印象です。その分、意思決定が早い。

小島 そういう仕組みはもっと簡略化して、スピード感のある意思決定をしていきたいですね。

クルマのあり方が変わっても、ブレない「哲学」

若林 今、クルマは電動化、自動運転、シェアリング、コネクティビティといったキーワードが並び、一大変革期を迎えています。そういう中で、今後のスバルの目指す世界はどのようなものでしょう。

小島 電動化やシェアリングは当然向き合うべき課題です。しかし、我々が常に向き合うべきなのは、「SUBARUのお客さま」。クルマに名前をつけて家族の一員のように乗る人たちが、電動化やシェアリングが当たり前になったとき、クルマとどう付き合っていくのか。そこをしっかり考えていかなくてはいけない。単に、世の中の流れにのってモビリティサービスをやる、ということにはならないですね。

若林 人々の心にグッと来るものを持つブランドだけに、そのブランド力を担保できるなら……、ということですか。

小島 常に重要なのは、お客さまが何を本当に望んでいるのか、です。

若林 「保有」から「使用」の時代になっても、そこは「スバルの哲学」としてブレることはない、ということですね。

小島 お客さまとの厚い信頼関係がスバルの財産です。世界シェア1%しかない我々が存在できているのは、「スバルに乗りたい」と思ってくれる人々がいてくれるから。テクノロジーが進化して世の中が急激に変化しても、そこで暮らす私たちの大事なお客さまはどうしているのか、どうしたいのかからズレることはありません。

若林 スバルはコモディティ(一般化した商品)ではなく、ブランドとして価値がある会社。ユーザーとの間にエモーショナルなつながりが、ブランド価値をつくっているのがよくわかります。

できないことができるから、人生は楽しい

若林 最後にスバルにとって「理想的なお客さま」とは、どういう人なのか教えてください。

小島 いつでもベースは「SUBARUのお客さま」です。お客さまを思い、自分たちが愛される存在となるには、どうしたらいいのかを常に考えています。

少し前に販売会社が販売目標を達成したときに支払う奨励金を全廃しました。奨励金に頼らずに経営していく仕組みにしたんです。奨励金があると、現場のセールスやサービスは目標達成に目がいってしまう。それは、もっとお客さまに愛される環境をつくるにはそぐわないという判断です。

もちろん、一時的に売上は落ちるかもしれませんが、最終的に目先の数字を追うのではなくお客さまにしっかり向き合うほうが、事業は伸びると確信しています。

若林 それはお客さま目線のあるべき姿ですね。

小島 販売台数という数字だけを追いかけて、無理な販売を続けていると中古車市場にも悪影響をもたらし、結果としてお乗りいただいているお客さまのデメリットになります。そうならないように、数字よりも目の前のお客さまに徹底的に向き合うことに決めました。

もちろん、制度だけでは変わりません。販売会社とのコミュニケーションも密にし、社内で事例も共有。必ず成し遂げるために挑戦をしているところです。

若林 小島さんは営業、IT、販売会社の経営と、総合力を持っていらっしゃいます。そのうえで、今、マーケティングを楽しんでいる。マーケティングは、世の中の動きをウォッチして、それに合わせて自分も変わらないといけないのが大変ですが、それすらも楽しんでいるようにみえます。

小島 年齢を重ねると「できること」しか、やらなくなりがちですが、それでは面白くない。できないことができるから、楽しい。いつまでも新しいことに挑戦するマインドを忘れずにいたいです。

取材を終えて~編集担当・川端由美~

自動車業界のマーケティング部門では、国産車メーカーと輸入車メーカーを渡り歩く人材は珍しくはないものの、若林さんは、国産車メーカーで経営陣に近しく接する立場でマーケティングや広報の重責を経験された後、輸入車ブランドのマーケティングと広報部門の責任者として、日本と本国の窓口を経験した稀有な人材。

『Beyond magazine』におけるブランド構築やマーケティング戦略についてアドバイスをいただくと同時に、マーケティング部門の責任者に鋭く切り込む対談を連載していただくことになりました。そんな若林さんが最初にお話をうかがってみたいとおっしゃったのが、日本国内で真面目なモノつくりが評価された質実剛健なブランド力を保ちつつ、アメリカではエシカルなブランドとして高い評価を得て、異例の成功をおさめているスバルのマーケティング戦略です。

対談をお引き受けいただいた小島さんもまた、大学の専門が文系だったにもかかわらず、新卒ではIT 部門に配属されたという稀有な経歴の持ち主。広報やマーケティングを経験した後、現在はスバルのマーケティング部門を率いる立場。マーケティングの専門家同士だからこその対話には、実際の現場の厳しさと最先端の仕事ならではの面白さが感じられて、いただいたお時間があっという間に過ぎてしまいました。

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オート・アドバイザー/R-BRAND株式会社 代表取締役
若林敬一

ケロッグ経営大学院MBA、Marketing&Finance をメジャー。フォード本社広報やマツダのグローバル広報部長、本部長などを歴任。その後ボルボ・カー・ジャパン、ジャガー・ランドローバー・ジャパンのマーケティング・広報ダイレクターに転じた。2021年に独立し、R-BRAND株式会社を設立。マーケティングおよび広報の視点からコンサルティングを行う。
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