ひとりひとりの好みに合わせたカスタムチョップドサラダの専門店「CRISP SALAD WORKS(クリスプ・サラダワークス)」は、都内を中心に現在19店舗展開させ、さまざまな世代・性別に支持されている。“ダイエットや健康のためのサラダ”という既成概念を取り払い、「美味しいから食べる」という主食のようなサラダを提供。そこで新しいサラダ像を作り上げた株式会社クリスプの代表取締役社長・宮野浩史さんに、その自由な発想の根元にあるものや、これからの外食産業について大事にしていることなどをインタビューした。
ふと思う。なぜサラダがメインの飲食店が存在しないのか。
――「CRISP SALADA WORKS(以下、クリスプ・サラダワークス)」はカスタムチョップドサラダ専門店ですが、どんな経緯でオープンしたのでしょうか。
まず、僕はお酒をあまり飲まないんですね。「クリスプ・サラダ」の一号店は麻布十番にあるんですが、仕事帰りに短時間で気軽にご飯を食べられる飲食店が、麻布十番には少ない気がしたんです。
特に、山盛りのサラダだけを食べたいとなると、あまり適したお店がなくて。もちろん、レストランに行くこともできるんですが、もっと気軽に入るとなるとチェーン店や居酒屋しかなかったんです。そういう実体験から、『クリススプ・サラダワークス』をオープンしました。
――なるほど。「クリスプ・サラダワークス」にはレジ会計が不要な「CRISP STATION」システムや、曜日と時間を指定できるデリバリーも対応していますが、それもご自身の実体験がきっかけで作られたのでしょうか。
そうですね。特にビジネスパーソンは、打ち合わせが立て続けにあって、気がつくとランチの時間になっていて、妥協してその場しのぎのものを食べてしまう……という経験が一度はあると思うんです。だからといって、ランチの時間にデリバリーを頼むと、届く頃には仕事が始まっている。僕自身そういった経験があったので、その悩みを解決したいと思いました。
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アメリカでの生活から得た“自分軸”という生き方
――宮野さんは「つまらなくなった」という理由で高校1年生のときに学校を中退し、渡米されたそうですね。いわゆる“一般的な道”を外れたことや、アメリカで過ごした経験が今に活きていることはありますか?
アメリカにいた経験は、今に大きく影響していると思います。15歳から22歳くらいまでアメリカにいたんですが、学校に行った初日に感じたのは「同調圧力の少なさ」でした。例えば日本だと、聴いている音楽や服装にもメインストリームが存在して、それ以外は “はみ出し者”みたいな。日本は「みんな同じものがいい」という雰囲気なのに対して、アメリカはさまざまな人種の方がいて「みんな違っていい」という空気でしたね。そのせいか、帰国後は、「宮野は感覚が違う」みたいに言われることも多かったです。
――その経験や感覚が今でも根本にあるのでしょうか。
そうですね。「自分が正しいと思うことをやる」という、自分軸でここまでやってきたと思います。みんなが正しいと思っていることでなくても良いという感覚ですかね。だから逆に「他の人のためにやる」となると、相手がどう思うかが気になってしまって、踏み込めないんです。
――実体験から物事をスタートされているのも、自分軸だからこそなのかもしれませんね。
そうですね。「クリスプ・サラダワークス」も、マス受けを狙っているというよりも、僕の考え方に共感してくださる方が増えていって、リピーターになってくださるというイメージかもしれません。
テクノロジー×サラダ。これからの外食業界の在り方
――自分軸で事業を行っている宮野さんが思う、自由な発想に行き着くためのヒントはありますか?
僕個人としては、長い期間でなくても良いので、“自分が思う当たり前”とは違う当たり前が存在する環境に身を置くのが良いと思います。例えそれが海外でなくても良いと思うんです。例えば自分とは全く違う趣味を持った方々のコミュニティに参加してみるとか。自分とは違う価値観を持った方と話すだけでも面白くて勉強になりますよね。
特に行き詰まってまってしまっている方は、視野を広げるために自分が身を置いている環境とは別の環境に行ってみると、自分が開けると思います。自分の身近にいる人の意見が必ずしもスタンダードではないと思いますしね。
――「クリスプ・サラダワークス」は、キャッシュレス決済やモバイルオーダーをはじめとしたテクノロジーを取り入れられていますよね。日本の外食産業ではまだ主流でないことを先に取り入れている点にも自由な発想を感じました。テクノロジーを取り入れた理由はありますか?
実は日本では30年ほど、外食産業でスタートアップが生まれていないんです。アメリカなどでは、今でも竹の子のように外食産業でスタートアップが生まれているんですけれど。でも、日本でももっとスタートアップが増えた方がいいと僕は思っていて、それを進めるためにはテクノロジーを取り入れるのが良いと思ったんです。
――なるほど。その他にも、外食産業でテクノロジーを取り入れることで改善できる点などはあるでしょうか。
はい。日本って、外食産業に限らずコンビニのアルバイトの方なども、他国に比べてとても優秀な方が多いと思うんです。例えば、常連のお客さんへ声をかけるなど、付加価値を与えられる方も多い。それにも関わらず、仕事が割に合わなかったり、付加価値を与えられるような優秀な方の給料が他の方とほとんど変わらなかったり。そういう問題があると思います。
それに対して僕は「見える化」が必要だと思うんですね。ひとりひとりの生産性を「見える化」することで昇給の基準にしたり、機械ができる仕事は機械に任せたりすることで、人だからこそ提供できる価値に注力できるなど。テクノロジーを取り入れることで、改善できる点が多くあると思います。
――テクノロジーの力で無駄を省き、人だからこそ提供できる価値に重きを置ければ、外食産業の新しい形が見えてきそうです。
そうですね。日本の料理って、そもそも美味しいことが当たり前になっているので、外食産業に求められる価値って、もうそれ以上のものになってきていると思うんです。
時計に例えると、「時間が狂わない時計」って今どき当たり前じゃないですか? そのため、時計を購入する基準って希少価値だったり、作り手の思いだったりすると思うんですね。外食産業もその域に達していると思うので、これからはお店のコンセプトや、食べる以外の体験の価値が重要になってくると思います。
その他にもテクノロジーを駆使することで、情報を蓄積し、パーソナライズもできるので、お客様の満足度をより高めることができると思います。
自分に正直であるという生き方
――最後に、自分軸で生きる宮野さんが大事にしている考えを教えていただきたいです。
僕は、とにかく「自分が思うままに生きる」のが良いと思っています。それを他人がどう思おうが知らない、と言えるくらい自分軸でいることが大事だと思います。ただ「人に迷惑をかけない範囲で」というのは、僕のなかで大きなテーマですね。
「どこからが迷惑なのか」という基準ですが、僕は時代と共にその基準はアップデートされていくと思っていて。例えばSDGsという考えが浸透してきた今、30年前は迷惑じゃなかったことが、迷惑なことに変わっていたりするじゃないですか。そういう「時代ごとの当たり前」にあわせて自分もアップデートしていけるのが、かっこいい在り方なのかなと思います。
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マス受けよりも、自分に正直であることを大事にし、その考えに共感した方々がリピーターになる。売り上げだけを重視した事業でなく、思いをも重視した企業や事業が、これからの時代のニューノーマルになりそうだ。
TEXT:那須凪瑳
取材協力:クリスプ・サラダワークス