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デザインが生み出すモノ・コト

「デザインをする」ということ

author: 田中 一雄date: 2021/05/05

創設から69年と、世界的にも長年に渡って、デザイン業界を牽引する「GKデザイン機構」を率いる田中一雄氏が、プロダクト・デザインに留まらず、生活や社会を創ることまで、「デザインをする」ことの本質を語る。形や機能をデザインするだけではなく、より良い暮らしをデザインすることとは?

目で見えないものもデザインする

デザインの話をしよう。あなたは「デザイン」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか?「オシャレな雑貨」、「素敵なインテリア」、もちろん「ファッション」? そう、それもみんなデザインだ。でも、実はデザインはとても深くて広い。ちょっと極端な言い方をすれば、人間が生み出したモノもコトも、実は全てデザインの結果なのだ。これから始まる連載では、そんなデザインの世界を探ってみたい。

デザインといえば、やはり「色」や「カタチ」を考えることを思いつく。いやいや、「シクミ」や「機能」を考えることもデザインでは? そう、正解です。それでも、デザインを学ぼうとする人の多くは、美術系の世界を目指してきた。かく言う私も「芸術家を育てる学校」の出身者だ。自動車好きで、レーシングドライバーに憧れ、転じてカーデザイナーを志望してこの道に入った。そんな話は、またの機会として、デザイナーには美大や芸大の出身者が多い。これは、デザイナーの職能が造形性に基づいているからに他ならない。しかし現代のデザインはそれだけではない、一般に「デザイン」と思われていることだけではなく、その領域は大きく拡大している。

モノからコトへ、コトからビジネスへ

 社会では「モノからコトへ」と言われて久しい。デザインもまた、モノの背景にあるブランドやサービスなども含めて創り出す行為となってきた。そして今日では「デザイン思考」や「デザイン経営」ということも言われている。簡単に言ってしまえば、「デザイン思考」はデザイナーの柔軟な思考方法を活用した発想法だ。また、「デザイン経営」は創造性を持ってブランド創りやイノベーションを生み出す経営のあり方だろう。こうなってくると、デザインはもう単にモノを造形するだけの仕事とは言えない。

もちろん、モノを感動的に造形することは大切だ。デザインの対象が何であろうと、それがクリエイティブな行為であることに変わりはない。でもその先にもっと色々な世界があり、ビジネスと大きく結びついているのだ。

1954年 日本楽器製造株式会社(現ヤマハ株式会社)|ヤマハHiFiシリーズのチューナー。アメリカ調デザインが盛んな1950年代前半にあって、単純かつ明快な美しさを持つモダンデザインは気品ある製品を生んだ。インダストリアルデザインを通じた「GKのかたち」が生まれた。
2001年 共同企画 (コラボレーション:竹村真一)|地球の直径は12,742kmあり、人間の五感では大きすぎて実感するのが難しい。それを1,000万分の1に縮小して、両手で抱えられるスケールにしたものが〈触れる地球〉である。世界中に張り巡らされたネットワークを通じて、生きた地球の姿や状況をリアルタイムに感じることができる、世界初のインタラクティブ・デジタル地球儀である。

生活を創る、社会を創る

私が代表を務めているGKデザイングループは、モノ創りを原点とする総合デザイン会社だ。その対象はプロダクト、グラフィック、環境、インタラクションなどを含めて、リサーチから製品化、そしてサービスに至るまでの多様な業務領域にわたる。これは、単なる多角化というのではなく、「生活を創る」ことを考えると、必然的に総合化が求められたからだ。その思想は、近代デザインの原点である「バウハウス運動」にもつながる。バウハウスは「より良い暮らしの全体像」を総合的に追及したものだった。そのため、建築を中心に置きながら、日用品のデザインから先端的なアートまで幅広い世界を対象としていた。私たちもまた、現代に生きながら「デザインによる、より良い明日の創造」を目指している。まさしく現代のバウハウス的な組織とも言えるかもしれない。その眼差しは、自ずと社会へと向かう。デザインがより良い世界を追い求めるものだとしたら、社会の問題を考えないわけにいかないからだ。

GKデザイングループの基幹業務は、モータサイクルなどの数多くの製品デザインをはじめとし、ありとあらゆるデザインに携わってきた。一方で、「そんなものもデザインの対象なのか」と思われるものも沢山デザインしてきた。例えば、JR東日本の通勤電車や特急電車、自動改札機や券売機、日本中にある郵便ポスト、バスストップ、街の案内サイン、更には津波避難のための訓練アプリまで、実に様々だ。こうしたものは、一般的にはデザインの対象と思われないこともある。しかし、デザインが「より良い暮らし」を生み出すものだとすれば、こうした公共性に関するデザインも当然必要なのだ。そこでは、多様な社会の課題を解決したり、地域の特色を創ったりする役割が求められる。一般の商品デザインでは、デザイナーの個性がユーザーの感性とつながった時に「欲しい」という気持ちを生み出し、購買行動につなげている。しかし、公共性のあるデザインでは、一過性の魅力づくりとは異なり、長い時間を社会と共に生きる普遍性が必要だ。

今日、SDGsが社会の常識となり、企業活動もエシカルな価値に背を向けていては成立しない時代となった。そしてコロナ禍は、世界が課題に満ちていることを明らかにした。また、日本では自然災害とは無縁で暮らすことは不可能であり、「フェーズフリー(日常時も非常時も価値を発揮する)デザイン」という概念も生まれている。今後デザインは、益々社会とのつながりを深めるとともに、より総合的なものへと変化していくだろう。

プライベートな感動づくりから、パブリックな問題解決まで、デザインの役割は深く広い。私たちGKデザイングループは、組織創造力を持ってデザインにかかわり続けている。デザインを考えることは、人を考えることであり、社会を考え世界を考えることでもある。この連載では、私自身の経験を通して、デザインの魅力を皆さんに伝えていけたらと思っている。


成田エクスプレス E259系N’EX2009年

日本の玄関の空港特急として、日本らしいナショナルブランドを表現すると同時に、インテリアを含め移動の快適性をデザインしている。20年~30年を生きるロングスパンのパブリックデザインだ。

郵政省標準型ポスト開発 1996年 

郵便物の大型化や車椅子からの投入を考慮し、明治以来初となった統一企画開発が行われてから既に四半世紀が過ぎている。赤い色彩と〒マークは100年スパンの普遍的なロングライフデザインである。

西新宿サイン計画 サインリング 1994年

映画「君の名は」でも注目された、風景をつくるランドマーク的構造物。照明やサイン、信号機などが一体化し、それまで縦割りだった行政管理区分を繋げた。その後、世界で円形の都市構造物が各地で出現するが、その原点となったデザインである。

JR東日本 標準案内サイン1988年

国鉄民営化に伴って整備されたJR東日本全域共通サイン。人の行動心理から考えたサインシステム(案内誘導体系)今日でも継承されている。

津波避難訓練アプリ「逃げトレ」2018年

南海トラフ巨大地震を想定した、避難訓練アプリ。日常の学習が、もしもの時に命を守る。社会課題へのソリューションは今日のデザインの使命だ。

防災ピクトグラム研究 1996年~

津波の危険性を知らせるピクト(絵文字)。京都大学防災研究所とともにおこなってきたGK京都の自主研究プロジェクトは、その後ISO化につながっている。
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株式会社GKデザイン機構 代表
田中 一雄

1956年東京生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。世界屈指の総合デザイン会社の代表として活躍するほか、(公社)日本インダストリアルデザイン協会 特別顧問、(公財)日本デザイン振興会グッドデザイン・フェロー、世界デザイン機構(WDO)アドバイザーなども務める。また、グッドデザイン賞、ドイツRed Dot Design賞 、オーストラリア国際Design賞、などの国内外の審査員を歴任。グッドデザイン賞グランプリ総理大臣賞の他多数受賞している。インドAjeenkya D.Y. Patil 大学名誉博士。技術士(建設部門/建設環境)。これまで、プロダクトから都市環境まで多様なデザインを手掛け、常に社会的視点からデザインを考えてきた。現在は、総合デザインプロデュースや国際デザイン運動など幅広い活動を続けている。
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