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Interview

絵を描くことには答えがなくて、終わりがない

松岡柚歩┃色とは…形とは…。絵具がつくり出す”重なり”に心惹かれて

author: 岩崎かおりdate: 2022/12/09

自らもアートコレクターでアートビジネスの起業家でもある岩崎かおりさん。今回訪ねたのは、2021年春に大学院を修了したばかりでありながら、すでにいくつもの個展を開催している注目の作家・松岡柚歩(まつおか・ゆずほ)さんのアトリエです。まるで躍るような色彩が画面いっぱいに広がる松岡さんの作品には、不思議とぱっと目を引き、感覚的に好ましく感じるような魅力があります。なぜ早くから注目を集めるのか、その理由が垣間見える対話となりました。

いま自分が見ているものは、”本当”だろうか

絵具が重なりあう「outline」シリーズは、サイズを測りマスキングして規則正しく描くチェック柄と、ダイナミックに配置された色面が印象的。「パズルのようにしっくりくるかたちが絶対にあって、配置は一発描きなことが多い」という松岡さん。作品が放つ独特な魅力、その理由とは。

岩崎さん:2021年春の修了作品展を拝見した半年後、東京・赤坂のレストラン「FUGA Dining」での個展を企画させていただきましたが、コレクターの方々からは「松岡さんは、色やかたちのバランス感覚がいい」という声を多くいただきました。ここだ! と感覚的に色面を決めているんですか。

(左から)outline(check#31)、outline(check#33)、outline(check#30)<br>制作年/2021年、撮影/木奥惠三

松岡さん:はい、一発描きが多いです。ずっと絵を描いてきて、構図のことも学んではいますが、教科書通りにきっちり、というより自分の感覚も取り入れる方が、画面があんまり窮屈にならず私らしいかな、と思っています。

でも、色選びは好きな色を選んでいるわけではなく、自分のなかのロジックを汲み取っていってこうなった、という感じです。例えば、色相環で補色関係にある色、紫系がメインなら黄色っぽい色面を、と考えます。また、最初の構想段階でも、下地があるから上の層に粒子が引っかかってキラキラして見えるな、とか、画面上でどういう反応が起きるかをイメージします。

私は、何かを具体的に描くというより、人の目にどう映るのか——紫に見えているけれど実は赤と青が重なっている、というような色と色の反応や素材と素材のぶつかり合い、絵具自体をどう見せるかといったことを意識して描いています。

そもそも、自分の目に映っているものって本当? みたいなことに興味があるんです。空想やSFのような話が好きで、何の確証があって私は今ここにいてこの状況を見ているのか、と考えたり。

人間の目に映る作用って、色彩感覚がよっぽど違わない限りだいたい一緒ですが、目の反応でそう見えたり、ハレーションが起きて光って見えたり、その人固有の感覚ではなく、単にそう映ってしまっている現象で不安定で曖昧なものなのに、自分の意見として言うって面白いな、とも思います。

岩崎さん:とても興味深いお話です。松岡さんの作品は、絵具に砂を混ぜていたり、たっぷりと塗っていたり、”立体的な平面”っぽさも特徴であり魅力だと思いますが、そのイメージや探求心はどこから来るのでしょうか。

松岡さん:子どもの頃は泥だんごを作ることが好きだったのです(笑)、今でも絵具そのものを手で触っている感覚が好きです。色面も基本的に、筆ではなく手で直接作品の表面にすりこんで、はっきりと発色するように塗っています。色を混ぜずに重ねて描くのも、発色の鮮やかさが落ちてしまうのを避けたいからです。

岩崎さん:手ですりこんでいるとは! そういう理由があったんですね。修了展のときからこのシリーズを続けてらっしゃいますが、クオリティが上がっていますね。

松岡さん:ありがとうございます。当時は2色くらいでしょうか、もっと色面が少なかったですよね。すでに#100を超えて、今も描き続けていますが、絶対に同じ作品にならないところが面白いです。クオリティも、今はこれが精一杯でも、次は絶対ここを良くしよう、と取り組めます。

私は、自分が納得すると興味がなくなってしまうことが多いタイプですが、絵画は続けられています。答えがなくて、終わりがないところが楽しい。絵具もどんどん新しいものが出てきますし。今後、派生したシリーズが新たに生まれても、この「outline」シリーズは並行して描き続けると思います。

岩崎さん:「絵画は終わりがない」っていいですね。この先も松岡さんの作品を見続ける楽しみがあります。

最適解は変わるもの。”今”の自分の考えを大切に

物心ついたときから、手を動かして何かをつくったり絵を描いたりすることが好きだった松岡さんは、中学生の頃、美術の先生から美大の存在を教えてもらう。推薦入学した進学校の高校には、美大へ進学した卒業生が少なく、予備校探しから受験校の選択まで自らリサーチ。京都芸術大学美術工芸学科油画コースへ進学した。

岩崎さん:しっかりしていらっしゃいますね、自分で何でも調べて行ったというのは。

松岡さん:何でも自分で調べる習慣は高校生のときに身についたと思います。世界のさまざまな問題について自分で文献をあたって調べて、レポートを書いて英語で発表する、という授業を受けていました。

岩崎さん:まるで大学や大学院で行う研究のようですね!

松岡さん:はい、地元の大学の研究室で、一緒に研究させてもらったこともあります。また、部活は美術部ではなく、弦楽部に所属しヴィオラを弾いていました。部員のほぼ全員が楽器未経験で、先輩に教わっていくというスタイル。コンクールなどに出ることもなく、少人数で和気あいあいと楽しかったですね。

高校の同級生は皆、美術業界以外に就職しましたが、今でも交流があって、個展を観に来てくれたり作品を買ってくれたりしています。わざわざSNSから連絡をくれた同級生もいて、嬉しかったですね。

大学院修了早々から作家として活躍する松岡さんだが、意外にも最初から大学院への進学、そして作家の道を考えていたわけではなかった。学芸員課程を履修しつつ、大学卒業後は美術教員に。家族にもそう話して進学していたが、学部3年のときに転機が訪れる。

松岡さん:後にゼミの担当になる先生と進路について話して「本当にそれでいいのか?」と。改めて考えたとき「まずは自分がちゃんと絵を描いておかないと、人に教えるだけの説得力が出ないよな」と思ったんです。

私自身、学校で先生から教わることに、心の底で 「本当にそうかな?そうじゃないかもしれないのになぜはっきり言えるんだろう?」と考える子供だったので、自分に自信がないまま教えるなんて無責任なことはできないし、4年間では時間が足りないと思ったので、自分を確立させるためにも大学院への進学を決めました。

作家をはっきりと目指すようになったのはその後、学部生の卒業制作展以降です。今でも、美術の先生になりたい、という気持ちはありますが、作家としてワークショップで講師をやる、というように、何かを伝えたり教えたりすることって、教員に限らずともできるな、と。

これに限らず普段から、「いつでも何でもやろうと思えばできる」と考えています。それに予定は未定なので、もしかしたら明日、作家を辞めてしまうかもしれない(笑)。でも、今このときに考えていることを大切にしたいんです。そのときの自分が言っていたことは嘘ではないし、未来の自分が考えていることも嘘ではない。「最適解は常に変わるものだ」と思っています。

アートが部屋にあると、”空気”が変わる

「私の作品を買って下さる方って、アートを初めて買いますっていう方が多いんですよね。それに、私と同世代、20代後半くらいの方も多いです」と松岡さん。その理由を自己分析してもらうと、インタビューの序盤に伺った、「人の目にどう映るのか」。そして、「色と色の反応や、素材と素材のぶつかり合い」といったテーマへ再びつながるような話題に。

松岡さん:おそらく、私の作品は観る人の目に留まりやすい描き方をしているからかもしれません。思わず視線が行くような無意識の身体反応や、人間の感覚に作用するような要素を、画面のなかに入れるようにしているんです。

また、ディティールが凝っているから触ってみたいと言われることもあります。関西の方には、絵具をたくさん使っていてお得感があるね、なんて言われることも(笑)。

岩崎さん:それは楽しいリアクションですね(笑)。松岡さんの作品はやはり明るい色が使われ、毎日観ていると楽しい気分になる、というコレクターのお声が多いです。意欲がわくとか、色から元気をもらえるとか。

松岡さん:嬉しいですね。私の作品は、個人宅だとダイニングルームに、ホテルではレストランに置かれることが多いのですが、食卓が華やかになるような印象を持っていただけているのかもしれません。料理モチーフというより、テーブルクロスのように見えますし。

岩崎さん:ほんとですね! 松岡さんはアート作品を買う楽しさって、どんなことだと思いますか。

松岡さん:以前、私の作品を買ってくれた友人の自宅へ遊びに行ったとき、絵のかかった壁一面がまるで大きな絵画のように見えてきて、絵のないところが余白に見えるような感覚を覚えたんです。

家具などと一緒に、絵がその部屋の壁面を飾る一つのパーツになっているような、棚や机があるように絵画があって、その人の部屋という空間になる。絵画が家具のような捉え方ができるって面白いですよね。その壁に絵画があるかないか、で、そのお部屋の空気ががらっと変わりますし、家具よりももっと気楽に、季節や気分でかけ替えることができるのも絵画の良いところです。

私も、いろいろな作家さんの作品を持っていますが、選ぶときは単純に「好きだから買う」「きれいだから買う」っていう感覚はベースにあります。毎回作家さんから直接お話が聞けるわけではないですし。帰宅して部屋に作品を置いた状態を観ると、新たな発見があって面白いですね。特に陶芸作品をよく買いますが、「このサイズがちょうどいいなぁ」とか、本当にぱっと目についた、好きなものを買っています。

本当に好きな作品をぱっと見の第一印象で、服を選ぶように買ってみる感覚でもいいと思いますね

執筆:Naomi

この作品は松岡さんが大学院のときから制作しているシリーズのひとつ。レイヤーを意識した作品で、一見フラットな画面に見えるが、じっと眺めているとそれぞれの箇所で色の溜まり方が違い、さまざまな表情が現れくる。これまであまり発表されてこなかったが、今年に入ってから少しずつ展示の機会が増えている。

今まで多く発表していた「outline」シリーズより早くから制作してたシリーズです。また一味違うこの作品を楽しんでいただければと思います。

松岡柚歩

kint ♯14

¥77,000 (税込)

松岡柚歩┃まつおか・ゆずほ

1996年生まれ、兵庫県出身。2021年、京都芸術大学大学院修士課程芸術研究科美術工芸領域油画専攻修了。次代を担う若手作家のための公募展「シェル美術賞(現・Idemitsu Art Award)」学生特別賞を受賞するなど、注目を集める若手アーティスト。主な個展に「outline」(2022)、「ピースとホール」(2022)。主なグループ展に「DAWN-EXPOSITION 2021.04-」(2021)、「ARTISTS′FAIR KYOTO 2022」(2022)、「ART AWARD TOKYO MARUNOUCHI 2021」(2021)に参加。主な受賞歴として、「ART AWARD TOKYO MARUNOUCHI 2021」Proactive賞(2021)、「シェル美術賞2020」学生特別賞(2020)など。

Instagram:@yuzuhomatsuoka
開催予定の展覧会:
個展「そこから動かない絵画」
会期:2022年12月10日(土)〜12月22日(木)12:00〜18:00
会場:between the arts gallery
住所:東京都港区元麻布2-2-10


2020年創設。アートアドバイザーをはじめ、企業向けのアート事業に関するコンサルティングやブランディング、アートリテラシー向上に関するセミナーを主催。また、アーティストサポートやブランディングも手がける。現代アートを活用しながら、その価値創造機会を創出し、アート×マーケティング、アートシーンのネットワークづくり、アートコンシェルジュなど、アート文脈で多岐にわたる事業を展開。

URL:http://theart.co.jp/
MAIL:info@theart.co.jp

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株式会社THE ART代表取締役社長
岩崎かおり

愛媛県生まれ。アート鑑賞と旅行が趣味の両親のもとで育ち、幼少のころから国内外のアート鑑賞が習慣に。大学院修士課程ではモノづくりの経営学を学ぶ。海外のアートフェアやギャラリーに通い続け、世界のアート関係者とのつながりを通じ、日本と海外のアート市場の格差や、アートがもっと活性化する余地が大きい国であることを痛感。2018年、当時勤務していた大手国内銀行で、有志によるアートクラブを発足。翌2019年、大手国内銀行にてアート企画推進を立ち上げ、日本橋支店の店内に現代アート作品を展示する「アートブランチ」プロジェクトを企画・リリース。国内金融初の試みは、数多くのメディアでも取り上げられた。アートバーゼルで名和晃平氏のPixCell作品を購入して以来、アートコレクションの魅力を知り、アートコレクターとしての顔ももつ。自身の現在のコレクション作品数は約250点。
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