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広大な干潟で行う伝統漁「むつかけ」と「すぼかき」を楽しもう

有明海にしかいない珍魚、ムツゴロウとワラスボを釣りに行く

author: 西川 マレスケdate: 2023/02/10

世の中相変わらずコロナがまん延しており、気軽に海外旅行に行けそうな気配は一向に訪れないが、そろそろ国内旅行くらいは楽しみたい。そこで、国内外のあちこちを旅しまくっている友人でオカルトコレクターの相蘇敬介さんとデザイナーの小出真さんに「国内で、これまでどんなレジャーが一番印象に残っているか」と聞いてみたところ、口を揃えて「有明海の干潟体験である」と言う。

佐賀県の有明海沿いにある「道の駅鹿島」では、国内で有明海にのみ生息する魚ムツゴロウを釣る漁「むつかけ」と、ワラスボを捕る漁「すぼかき」をお手軽に体験できる。二人が遊びに行ったときは時期的に「むつかけ」を体験できなかったが、「すぼかき」だけでも十分インパクトの強い体験だったと言うのだ。

変わった旅や遊びのエキスパートといって差し支えない二人の言うことだ。絶対楽しいに違いない。彼らも、やり残したむつかけはいずれ体験するつもりだったとのことで、何人かを誘い合わせて、むつかけとすぼかきを一度にまとめて体験できる9月に出発することにした。

見るとやるとじゃ大違い! むつかけがムズすぎる

2022年9月22日に長崎に一泊して翌23日。道の駅鹿島に到着したのは9時頃だが、目の前に広がる有明海は完全なる海であった。これが本当に干潟になるのだろうか。

本日の満潮は7時31分で干潮は13時43分だが、朝9時の時点でこの海っぷり。干潟感がまったくない。

受付と着替えを済ませ、まずはむつかけ名人・岡本忠好さんのレクチャーを受けることに。干潟となった有明海の上をピチピチと跳ね回るムツゴロウは、泥に付着した藻類を食べているので、エサ釣りができない。鉛で固めた針をムツゴロウの近くまで投げて、体に引っ掛けて釣るのだ。

海岸に砂が敷かれ、その上に並べられたファンシーなムツゴロウ人形で練習を行う。ムツゴロウは気配に敏感な魚なので、そーっと近寄って、体は動かさず腕だけを動かす。針を振り子の要領で投げて、一番遠くに到達した時点で竿を倒し、ムツゴロウ人形の数十センチ先に針を着地させる。この、針を遠くに投げる操作ができないとむつかけはできないという。

名人がサッと針を投げると、ムツゴロウ人形の少し奥に着地し、そのまま竿を引くと見事に人形を引っ掛けて釣り上げた。見ている分には実に簡単そうだ。

むつかけのコツを教えてくれる岡本名人。砂地の上のムツゴロウ人形をいとも簡単に釣り上げる。

このむつかけだが、昭和世代の男性なら釣り方をふんわり知っている人が多い。漫画『釣りキチ三平』でやってたからだ。私も23~25巻をしっかり再読してきた。「むつかけにまぐれはない」「素人は釣れない」などと書かれているが、「秘技・ツバメ返し」のコツを伝授された三平くんは、ちょっと練習しただけでサクサク釣っている。私も頭の中ではイメトレで何百回と釣り上げたので、多分楽勝だと思うのだ。

むつかけと言えばこれ、釣りキチ三平の「秘技・ツバメ返し」!! マスの死点を目指して針を投げ入れるのだ。なるほど理解した! (出典:矢口高雄『釣りキチ三平』第23巻/講談社)

いざ練習を開始すると、もちろん楽勝なわけがなかった。漫画を読んで上達するなら苦労はない。地面にぶつけると針が壊れるから人形が置かれた砂の上に落とすように、と念を押されたにも関わらず、さっそくコンクリの地面に叩きつける勢いでぶつける。そもそも狙った場所に飛ばない。うまく飛んでも、針にムツゴロウ人形がついてこない。

これに加えて、「ガタスキー」と呼ばれるただの板で、干潟の上を縦横無尽に進まなければならないのだ。泥の上を滑って進みたい方向に移動するスキルと、ムツゴロウがいる場所まで針を飛ばすスキルと、うまくひっかけるスキルが求められる。難易度高すぎんかこの釣り。

砂の上に並ぶムツゴロウ人形を釣り上げる練習。こんな止まった的にも当たらないんだから、生きたムツゴロウを釣れる道理がないのでは……と不安がよぎる。
むつかけの針はこんな形。自転車のスポークを曲げて鉛を流し込み固めたもので、市販されていないからひとつひとつが手作りだ。

ガタスキーに苦労しつつ、ついにムツゴロウが釣れた!

むつかけ練習を30分ほど行い、片膝をついた状態でもなんとかムツゴロウ人形を釣り上げられるようになったところで、いよいよ実践だ。有明海に目を向けると、いつの間にやら完全に潮が引いており、見渡す限りの干潟が広がっていた。さすが日本一の干満差。実際にこの変化を目の当たりにすると感動する。

さっきまで海だったのに、あれよあれよという間に広大な干潟に。有明海は、最大で約6mほどの干満差があるそうだ。

足元は貸し出されたガタタビで固め、ガタスキーにウレタンのクッションを置いて膝サポーターを巻いた片膝を付き、釣り上げたムツゴロウを入れるためのプラスチックコンテナと竿を持って、いざ泥の上を滑り……滑り出し……滑らんがな。真っ直ぐ進まんぞこれ。

最初はそこそこ順調に移動できるが、ガタスキーの上に泥がかぶりだすともうダメだ。泥の重みで動かなくなる。片足を泥に突っ込んで蹴り進むのだが、ズブズブとどこまでも沈んでいくのでちょっと怖い。右足で漕いでると、左へ左へと曲がってしまう。む、むずーい……。

ガタスキーにカゴを乗せて竿を持ち、片足で泥の中を蹴って進むのだが、これに慣れるまでがまた大変。

ガタスキーの扱いに慣れるまでは周りを見渡す余裕がなかったが、ある程度沖合に出て前方に目を向けると、いるわ、いるわ。あっちでもこっちでも、ムツゴロウが跳ね回っている。有明海にしか生息しない貴重な魚を、素人が適当に釣って良いのだろうかと思っていたが、地元で消費する程度なら今のところ絶滅の心配はなさそうなくらいの数が見える。

あたり一面同じ色で獲物を見つけづらいと思いきや、あちこちで飛び跳ねているので、どこにムツゴロウがいるか意外と分かる。

一緒に出発した名人が、さっそく竿を一振りするのが横目で見えた。次の瞬間には、見事ムツゴロウを釣り上げている。早い。さすが名人。

こちらも負けていられないと、目の前のムツゴロウ目掛けてとりゃーっと一投。はい、針が泥に突き刺さった。さっきの練習がまったく活かされていない。あと距離感も全然掴めてない。ムツゴロウのはるか手前にしか針が届かない。

こりゃダメだ、となるべく限界までムツゴロウに忍び寄り、針は大雑把に奥へ投げて、あとは針を手前に引きずりつつ、ムツゴロウがうまく引っかかるように運に任せることにする。

この作戦が功を奏したのか、開始1時間ほどでついに最初の1匹を釣り上げることに成功! さらに立て続けにもう1匹。よーし、完全にコツを掴んだ!! 同行したメンバーは、未だ誰一人として釣っていない。今のうちにバンバン釣って引き離すぞー!

ムツゴロウの泥を落とすと水玉模様の背びれがとても鮮やか。こんなに美しい魚だったとは。

などと自分の隠れた才能に酔いしれていたが、それからさらに1時間。ムツゴロウにカスリもしない。オッケー。釣れたのは才能じゃなくて偶然だった。限界まで粘ってみたが、もう釣れる気配がまったくない。諦めて、潮が満ちるまでの残り時間はワラスボ捕りに切り替えることにした。

でも、たった2匹でもすごいことなのだ。何しろ、他のメンバーは結局1匹も釣れなかったのだから。5人で干潟に乗り出して釣果は私の2匹のみ。なんという効率の悪さ。目の前にあんなにムツゴロウがいたのにね……。

なんか名人みたいな面してカメラにいい笑顔を向ける小出さん。いかにも釣り上げた感を見せているが、彼のムツゴロウ釣果は0匹である。
なんか名人みたいな佇まいで奥へ奥へと突き進む相蘇さん。彼のムツゴロウ釣果も0匹だ。

わらすぼを捕るすぼかきは超簡単!必要なのは根気だけ

さて、お次は「すぼかき」である。有明海のエイリアンと呼ばれる、なかなか強烈な見た目をした魚ワラスボを捕る伝統漁だ。

ワラスボの見た目はこんな感じ。うーん、キモい。キモいが、食べてみたらこれがなかなかイケるのだ。

これに関しては、コツも何もない。干潟の上には穴がポツポツ開いているのだが、2つ3つほどまとまった大きめの穴がワラスボの棲家だ。この穴は中でつながっており、ワラスボは途中にUの字型に入って潜んでいる。穴の中央を断ち切るように長い鎌のような道具「すぼかき」を突き入れ、ワラスボを引っ掛けて上に掻き出すのだ。

この長い鎌みたいなのが「すぼかき」。先の方にフックが付いており、引っかかったワラスボを泥の上まで掻き出す仕組み。

よって、「むつかけ」のようなテクニックはまったく必要ない。必要なのはただひたすらに泥の中をかき回す根気だけ。途中にワラスボがいれば、すぼかきに引っかかって、びよよんと泥の上に飛び出してくる。

誤算だったのは、この時点でかなり体力を消耗していることだ。むつかけに出発して戻ってきただけで、もう体が全然動かない。ひ、日頃の運動不足が……。ゼイゼイと荒い息を吐きながら、なんとかガタスキーを押し進め、それっぽい穴を見つけては適当にすぼかきを突っ込む。

大きめの穴がいくつか開いている付近にすぼかきを挿し込み、ひたすら掻き出す作業の繰り返し。

そんな作業を何度か繰り返していると、突然すぼかきの先から細長い魚の姿が飛び出した。いたー! ワラスボだ! すぼかきの先に引っかかっていたワラスボは、泥の上にポトリと落ちると、慌てて潜ろうとしている。にっ、逃がすかー! と飛びつくが、無情にもワラスボは手からすり抜けていき、ついでに泥にダイブした私の半身もズブズブと沈んでいく。たた、助けて。

ワラスボいたー! と慌てて飛びかかったら、逃したうえに半身が沈んでいく私。抜け出せないかと思った。

泥の中からなんとか抜け出した頃には、逃したワラスボの影も形もなかった。遠くに落ちたワラスボに飛びつくのは、怖いからもうやめよう。その後何度か逃したりしつつも、ワラスボをうまくすぼかきに引っ掛けたまま手元に手繰り寄せ、ついに1匹ゲット。さらに、なかなかのサイズのをもう1匹捕り、ムツゴロウと同じく2匹確保できたので潮が満ちる前に引き上げることにした。

今回の釣果は、ムツゴロウが2匹に、ワラスボが2匹。ムツゴロウの釣果は私だけだが、ワラスボは相蘇さんもそこそこの数を獲っていた。
こちらは名人のムツゴロウ釣果。もらって帰り数えたら59匹もいた。しかも名人は途中で引き上げている。1時間くらいしか釣ってないんじゃないか。

むつかけ、すぼかきを体験した感想だが、個人的には非常に楽しかった! 楽しかったのだが、これは偶然と言えどムツゴロウを釣ることができた私の感想である。1匹も釣れずにただ干潟の上を彷徨っていた他のメンバーは、楽しさより悔しさが勝つかもしれない。

むつかけを体験するなら、成功体験を得るためにすぼかきもセットで体験することをおすすめする。すぼかきは適当に泥を掘ってれば、わりと高確率で捕ることができるので。すぼかきを楽しむ体力も残しておこう。なお、2つを一緒に体験できる時期は9~10月に限られる。

あと、ムツゴロウが釣れないならば、道の駅鹿島で買えばよろしい。10匹400円くらいで素焼きが売られているから。あんなに苦労して釣ったのに、有明海ではイワシレベルの雑魚なのだ……。

ついでに棚じぶも体験したよ

有明海の伝統漁といえば、「むつかけ」と「すぼかき」だけではない。道の駅鹿島では、「棚じぶ」と呼ばれる漁も体験できる。以前紹介した岡山の「四つ手網」の有明海バージョンである。

海岸から20~30m先に設置された小さな小屋に入り、×字型に組まれた巨大な網を海に下ろして、10分ほど待ってから網を引き上げる。うまく網に魚がかかっていたら、これをタモですくって小屋に取り込むという漁法。

岡山の四つ手網は電動で上下させるのに対し、棚じぶは人力で網を引き上げる必要がある。網の上に乗っている魚が逃げ出す隙を与えないように、ロープを一気に引いて素早く網を上げるのだ。

これが棚じぶの小屋。ロープを解いて四つ手網を海に浸し、しばらく待ったのちにロープを引いて人力で引き上げる。
時期によってこれらの魚が捕れます。運が良ければ。(「道の駅鹿島 棚じぶ漁体験」HPより転載)

むつかけ/すぼかき体験の翌日は、この棚じぶで遊んだのだが、棚じぶ体験を熱望した私と相蘇さん以外のメンバーは、有田焼を見に行ってしまった。付き合ってくれたのは、相蘇さんの息子だけだ。この子は真っ直ぐ育つと思う。

これはこれでとても楽しい漁なので、むつかけやすぼかきのシーズンでなければ、ぜひ通年で遊べる棚じぶを体験していただきたい。ただし潮が引いてしまうと、泥の上に網を置くだけの状態となり何も釣れないので、満潮の時間はしっかり確認しておこう。

子供でも楽しく遊べる漁なのだ。泥だらけになって汚れることもないし。
シラタエビはとにかく大量に捕れる。あとはハゼなどの小魚が少し。


道の駅 鹿島

http://michinoekikashima.jp/main/
TEL:0954-63-1768
ADDRESS:鹿島市大字音成甲4427-6
むつかけ体験:料金/4,500円(2人以上は1人3,500円)
体験期間/7月~10月
すぼかき体験:料金/3,000円(2人以上は1人2,500円)
体験期間/4月中旬~5月初旬と9月~10月
棚じぶ体験:料金/2,000円(1基)
体験期間/通年(潮が満ちている時間のみ)



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西川 マレスケ

パソコン自作雑誌の編集を経て、フリーライターとして独立。standards社のiPhone・Android解説ムック「便利すぎる! テクニック」「完全マニュアル」シリーズなどの執筆を担当する。趣味はジビエや釣りや昆虫食など、自分の手で獲って自分で調理して食べる珍食探求。たまに仕事につながったりしている。
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