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音楽

没入体験とエコ視点

ドイツ・IFAで見た、オーディオの最先端と未来

author: 山本 敦date: 2023/11/10

今年の秋、ドイツの首都ベルリンでは世界144カ国から18万人を超える来場者を集めてエレクトロニクスのイベント「IFA 2023」が開催されました。IFAの取材を通して私が見た、間もなく日本にも訪れるであろう「オーディオのトレンド」を報告します。

サウンドに「包み込まれる体験」

皆さんはふだん、映画や音楽を日常生活の中でどれぐらい楽しんでいますか? 今はアニメを含む映画も音楽も、スマホがあればいつどこでも再生できるようになりました。そのため、コンテンツに触れている時間は意外に長いのかもしれません。

でも、時々映画館やコンサートホールに出かけると、やっぱり映画や音楽を楽しむ際には「没入感が一番大事」だと感じるはずです。

スマホで再生するコンテンツの映像やサウンドを、まるで映画館やコンサートホールで聴いているかのように包み込まれる体験に変えてしまう新しいエンターテインメントがいま注目されています。空間オーディオ、3Dオーディオ、あるいはイマーシブオーディオなどとも呼ばれています。

立体音響体験を実現する技術の中で、最もポピュラーな「ドルビーアトモス」が今年のIFAで脚光を浴びていました。

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 IFA2023にはヤマハのブースも。サウンドに包み込まれる体験が楽しめるブースが一般来場者にも大人気だった

ドルビーアトモスは、空間に存在する音に「大きさ」やXYZの3次元座標など「位置情報」を記録するオブジェクトベースという手法に則った立体音響技術です。

大きな特徴は、サウンドを生のリスニング体験に限りなく近づけて録音・再生できること。例えばリスナーの正面で歌うボーカルの声、天井から降ってくるような楽器の余韻、背後から押し寄せる歓声の「大きさ」と「位置情報」が緻密に記録・再現されることでリアルな没入感が味わえるのです。

2010年代に誕生したドルビーアトモスは、最初は映画館の新しい立体音響技術として始まり、以後その波は一般家庭のリビングルームにホームシアター、そしてスマホやタブレットで楽しむモバイルエンターテインメント環境にも押し寄せています。

ワイヤレスイヤホンに広がる立体オーディオ

ドルビーアトモスによる没入型立体音響の普及拡大を象徴する3つの新製品を、私はIFAで体験してきました。

ひとつはデンマークのJabra(ジャブラ)が発表したワイヤレスイヤホン「Jabra Elite 10」です。日本でも11月9日から全国販売がスタートしました。

Jabraは、ドルビーアトモスの技術を開発する米ドルビーラボラトリーズ社の技術を採用して、没入型の立体音響体験が楽しめるワイヤレスイヤホンを開発しました。本機で映画や音楽のサウンドを再生すると、まるで自分の周りに映画館や大きなコンサートホールの情景が広がるような感覚が味わえます。

ドルビーアトモスに対応するワイヤレスイヤホン「Jabra Elite 10」。頭の動きにサウンドが連動するヘッドトラッキング機能も搭載している

本機の場合はさらに、内蔵するセンサーでユーザーの身体の動きを検知するドルビー独自のヘッドトラッキング機能に対応しています。立体サウンドの再生中に頭の向きを変えると、例えば正面から聴こえてくる映画の台詞があるべき位置に定位して、声が左右どちらかの耳に偏って聴こえてきます。この機能の有無によって、例えばゲームなどのコンテンツを体験する際の没入感が大きく変わってきます。

老舗スピーカーブランドも立体オーディオに本腰

ふたつめの製品は老舗のスピーカーブランドであるJBLの「Authentics 500」です。

ドルビーアトモスによる没入型の立体音響を楽しむ環境を、アンプや複数のスピーカーを揃えなくてもこの1台のワイヤレススピーカーで楽しむことができます。

同様に1台でドルビーアトモス再生に対応するスピーカーにはAppleの「HomePod」や、Amazonの「Echo Studio」などの製品がありますが、「JBL Authentics 500」のサウンドはスピーカーメーカーならではといえる本格派。存在感あふれるレトロなデザインも魅力的です。

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 スピーカー1台でドルビーアトモス再生が楽しめる「JBL Authentics 500」は写真左側の一番大きなモデル。JBLの銘機と呼ばれるスピーカー「L100」を模したレトロスペクティヴなデザインも魅力

JBLは最先端の技術とレトロなデザインが交わるAuthenticsシリーズのコンセプトを「Newstalgia(NewとNostalgiaを掛け合わせた造語)」と名付けました。日本での発売時期は未定ですが、生活空間に馴染むデザインが人気を集めそうです。これからはJBLだけでなく、オーディオメーカーによるコンパクトなドルビーアトモス対応のスピーカーが流行ると私は思います。

ゼンハイザーも立体オーディオの独自技術

3つめの製品は、ドイツのゼンハイザーが日本でも発売したサウンドバー「AMBEO Soundbar mini」です。リビングの4Kテレビと組み合わせて、包み込まれるような立体シネマサウンドを再現します。


本機の特徴はドルビーアトモスだけでなく、AMBEO(アンベオ)というゼンハイザーが独自に開発した音質重視の立体音響技術にも対応していること。元がサラウンド、またはステレオで制作されたあらゆるオーディオコンテンツから、リスナーを全方位から包み込むようなきめ細かなサウンドを引き出せるところがAMBEOの特徴です。

AMBEO Soundbar miniを企画したゼンハイザーのMaximilian Voigt氏。AMBEOシリーズのサウンドバーにはひとまわり大きいサイズの「Plus」もあるが、「コンパクトなminiもPlusに負けないほどリアルな立体感が再現できる」と語っていた

横幅が約70センチ、高さは6.5センチという、日本のリビングルームの広さを意識したというコンパクトでスリムなサウンドバー。これぐらい導入しやすいサイズ感で、没入型オーディオが気軽に楽しめるサウンドバーが2024年以降もますます増えそうです。

パッケージもエコフレンドリー

IFAが開催されるドイツをはじめ、ヨーロッパの先進国に暮らす人々は元からエコフレンドリーな生活に高い関心を持っています。


今年のIFAを見渡しても、AIテクノロジーを駆使して運転時に消費する電力を抑えたり、家庭の電気代を節約できるスマート家電の展示に多くの来場者が足を止めたりと、エコフレンドリーな姿勢がうかがえました。

オーディオもまた、リサイクルされたプラスチックや金属を使うなど、パッケージの簡素化によるエコ対応が進んでいます。商品の「包装」に関して、日本では小分けになっているお菓子や食品のパッケージをよく見かけます。対する欧米のスタイルの包装は元から簡素で“味気ない”と言われることもありました。

温室効果ガスの排出量を減らして、カーボンニュートラルなライフスタイルを徹底追求する取り組みを欧州のオーディオメーカーが見せて、その展示に熱い視線を注ぐ来場者の姿がIFAの会場にありました。これからは製品そのものの性能や機能だけでなく、メーカーのエコ対応に向けられる関心が、日本国内でもより高まってくるはずです。包装については、特にプレミアム価格帯の商品は、上質さと梱包材の機能性を保ちながらエコフレンドリーを追求するトレンドが今後加速すると思います。

IFA2023に出展したパナソニックのブースでは、従来よりも印刷を1色に簡素化、中の梱包材料もシンプルにした環境に優しい最新の商品パッケージを紹介していた

「光」による自己充電ができるワイヤレススピーカー

カーボンニュートラルを追求したオーディオプロダクトと言えば、IFAの会場に面白い製品がありました。壁コンセントからの充電が要らないワイヤレススピーカーです。

より正確に言えば、太陽や人工照明の「光」によって内蔵バッテリーをセルフチャージできるワイヤレススピーカーです。スウェーデンのオーディオブランドであるUrbanista(アーバニスタ)が、秋以降欧州で発売する「Malibu(マリブ)」という新製品です。

スウェーデンのベンチャー企業であるExeger(エクセジャー)が開発した「Powerfoyle(パワーフォイル)」という技術を搭載する光充電セルシートが本体の天板に組み込まれています。本体は防水防塵対応なので、太陽光で充電できるスピーカーとして夏のアウトドアレジャーに持ち出す機会が増えそうです。

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 アーバニスタの光によるバッテリーの充電に対応するBluetoothスピーカー「Malibu」。天面に光充電に対応するセルシートが埋め込まれている

現実は、曇天の屋外光の標準的な明るさである「5万ルクス」の光に当てても、Malibuが内蔵するバッテリーは残量ゼロの状態から満充電になるまで約60時間もかかるそうです。だから実際は、USB充電を使う方が現実的です。一方では光による充電は今後もさまざまなガジェットに広がりながら、技術革新を遂げることになると思います。「電気代が節約できるガジェット」として目線を変えれば、日本でもヒットする可能性が十分にありそうです。

Text &Photo:山本敦

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スマートエレクトロニクス・ライター
山本 敦

オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はオーディオ・ビジュアルからIoT、ウェアラブルまでスマートエレクトロニクスを幅広くカバー。ヘッドホン・イヤホンは毎年300を超える新製品に体当たり中。国内・海外スタートアップの製品やサービスを多く取材、開発者の声を聞くインタビューなどもしています。
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