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どうせ買うならこれがいい vol.2

倉庫に眠る「木彫りの熊」からアート作品を生み出す『Re-Bear Project』

author: 日比楽那date: 2024/04/30

たくさんのものが溢れる現代、「おしゃれ」「便利」はもはや当たり前。インテリア、ファッションアイテム、雑貨……どれもせっかく買うならエシカルなものが良いと考えている人も多いのでは。そんなあなたに向けて、本連載では「どうせ買うならこれがいい!」と思えるようなプロダクトやサービスを紹介する。

今回ピックアップするのは『Re-Bear Project』の熊の置き物。同プロジェクトを手掛けるのは、古い日本家具のアップサイクルを行う家’sだ。「木彫りの熊をもう一度リビングへ」というコンセプトのもと、多様なアーティストとのコラボレーション作品を世に送り出している。

株式会家’sの代表で『Re-Bear Project』の生みの親でもある伊藤昌徳さんにお話を伺った。

Re-Bear Project

Re-Bear Project

木彫りの熊をアップサイクルし、アート作品として販売するプロジェクト。サイズや形、価格は作品ごとに異なる。
公式サイト:https://rebearpjt.thebase.in/

いつの間にか飾られなくなる「木彫りの熊」が目に入った

まず、『Re-Bear Project』を手がける家’sはどのようにスタートしたのだろうか。きっかけは伊藤さんが富山県高岡市に移住し、古民家をリノベーションしたゲストハウスの事業を始めたことだった。

「ゲストハウスの運営をするにあたって空き家の残置物の問題を目の当たりにしました。残置物とはつまり、その家の前の持ち主が置いていった生活雑貨や家具などのこと。なかには日本の古き良きものもたくさんあるのですが、そのほとんどが廃棄されている現状を知り、どうにかできないかと思うようになりました」

残置物のなかでも約5〜10%のものには骨董価値があるとされるが、残りの約90〜95%はゴミとされてしまうそう。一方で、骨董マーケットでは価値がないとされていてもまだ十分使えるものや隠れた魅力があるものもある。そうした家具や雑貨に手を加え、流通させる仕組みをつくりたいと考えたのが家’sの始まりだという。

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古いタンスに蛍光アクリル板を組み合わせてアップサイクルするプロジェクト「P/OP」

そんななか、北海道出身の伊藤さんは地元の名産品である木彫りの熊にも目をつけた。

「いつの間にか飾られなくなってしまった木彫りの熊の存在はずっと気になっていました。『なにか手を加えたらまたリビングに置いてもらえるようになるんじゃないか』『でもただ色を塗り替えるだけではおもしろくないな』などと考え、アーティストの手で一つひとつアップサイクルするアイデアに行き着きました」

それから使われなくなった木彫りの熊を集め始めた伊藤さん。その後、『Re-Bear Project』が立ち上がったのは2020年の春頃、ちょうどコロナ禍が始まった時期だ。

「木彫りの熊の発祥については諸説あるのですが、一説によると農閑期の厳しい冬を乗り越えるために人々の副業として始まったといいます。コロナ禍に『Re-Bear Project』を始めたことは、厳しい時期を乗り越えるという意味で重なる部分もありました。ステイホームの時期を乗り越えられるような、素敵な置き物を生活に取り入れてもらいたいという思いがありましたね」

アーティストたちも厳しい状況にあった当時、伊藤さんは以前からつながりのあったアーティストやInstagramで見つけたアーティストにアプローチし、リモートでやりとりをしながらプロジェクトを進めていった。

「ビデオ通話でいくつかの熊を見せて、どの熊をベースに制作するかアーティスト自身に選んでもらいました。こちらから『こういう作品にしてください』といった具体的なオーダーはしません。ただ、木彫りの熊には野暮ったいイメージや重たいイメージがつきがちなので、新しいイメージをつくってもらえそうなアーティストにお願いしています」

同じ熊でもアーティストそれぞれの解釈を楽しめる

実際に生まれ変わった熊たちのラインナップをサイトで見るととても多様で、アーティストそれぞれの解釈による個性豊かな面々にわくわくする。

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元の熊の面影が感じられるものから、一見すると、木彫りの熊をベースにした作品だとは気づかないようなものまで。ペイントによって木彫りならではの魅力を引き立てながらも新しいイメージが感じられる作品、糸や革、ラメや粘土など、異素材を組み合わせて造形的にも変化を加え、木彫りの熊の概念を拡張していくような作品……。

他にも、海で拾ったという廃材や捨てられるはずだった布を加えた作品、熊の背中に森に見立てた草木を乗せた作品など、自然環境への願いを熊に託すアーティストも目立つ。

ひび割れや剥がれといった経年変化も楽しめるようにと絵具が何層にも重ねられた作品。口元に加工がなされ、熊がドライフラワーをくわえられるようになっている作品。凝った仕掛けがある作品もある。

特に筆者が気になった作品のひとつはSAYOKO OZAWAさんによるもの。

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Re-Bear by SAYOKO OZAWA

青みがかった黒色の体に草花を纏ったようなペイント。丸まった背中からニョキニョキと茎が伸び、赤い花が踊るように咲いている。かわいらしくも、どこか神秘的に感じられるその姿と静かな青い瞳が印象的だ。

「彫られたときに彼の内側に閉じ込められたであろう自然の力強さやうつくしさが、かたい背中をつきやぶり、もう一度うまれるさまを想像して制作しました」という作者のコメントからも、こんな作品を生活空間に迎え入れられたらパワーをもらえると感じる。

「見た目が楽しいだけでなくそれぞれ作家さんのメッセージが込められているので、生活をより豊かにしていくためのお守りみたいに思ってもらえたら嬉しいです。熊は小さく生まれて大きく育つ動物ということで、縁起物として経営者の方が会社に置いてくださることも多いですね。退職祝いのプレゼントに選んでくださったお客さんもいました」

「古いから」は本当に捨てる理由になるのか?

最後に、『Re-Bear Project』をはじめとするアップサイクルの事業を通して伝えたい価値観についても伺った。伊藤さんは廃棄物の最終処分場を見学したときのことを回想する。

「たくさんのものがダンプカーで運ばれてきて、埋め立てられていく様子を見てすごく悲しかったのを覚えています。一方で、ゴミになってしまうものを減らすために始めたプロジェクトではあるのですが、最近は純粋に古いもののよさを実感して、その魅力を伝えたいと感じることも増えています」

古いからと捨てられてきたもののなかには、質のいい素材が使われているもの、新品にはないような珍しいデザインのもの、『Re-Bear』のようになにかを掛け合わせたり手を加えることで再び輝くものがたくさんある。

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「好きなものを生活に取り入れるっていいじゃないですか。僕自身、さまざまな古いものに出合って、見れば見るほど好きになっていって、好きなものがそばにあると本当に暮らしがよくなると感じます」

そう話す伊藤さんの思いは、家’sが手がけるプロダクトや作品一つひとつからも伝わってくる。

『Re-Bear Project』では、コンセプトのみならず作品につける値段もアーティスト自身が決めているそう。また、収益から木彫りの熊の発祥の地だと言われている北海道・八雲町への寄付も行っている。もの、作家、土地、それぞれへのリスペクトが感じられるのも心地いいプロジェクトだ。

すべて1点物のためすでにソールドアウトした作品もあるが、サイトやポップアップイベントを訪れればきっと新たな才能や心ときめく作品と出会える機会となるだろう。

株式会社家’s

2017年創業。「見過ごされていた価値を再構築し、世界を豊かにする」をビジョンに掲げ、家具のアップサイクル事業や空間プロデュース事業を行う。

公式サイト:https://www.yestoyama.com/
Instagram: @yestoyama

Text:日比 楽那
Photo:家's提供
Edit:白鳥 菜都

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ライター・編集者・写真家
日比楽那

2000年生まれ。ライター・編集者・写真家。14歳から役者として活動開始。その後、10代後半から執筆活動を始める。現在は、主にウェブメディアでインタビューやレポートといった記事の企画や制作を担当。ゴールデン街でも働いています。
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