自分が好きな曲を選んで、歌って、次は友達の歌う歌を聴く。誰もが一度は経験したことがあるであろうカラオケには、ライブでミュージシャンの演奏に聴き入ることとも、クラブで踊りながら聴くことともまた違った体験が潜んでいる。
でも、何を求めてカラオケに行くのだろう? その場所に秘められた魅力と、そこで味わう音楽について考えるため、大のカラオケ好きを公言し、J-POP歌姫を愛する“DIVA”のゆっきゅんに話を聞いた。
ゆっきゅん
1995年、岡山県生まれ。2014年に上京と共にアイドル活動を開始。サントラ系アヴァンポップユニット「電影と少年CQ」のメンバーとして活動しながら、2021年よりセルフプロデュースでのソロ活動「DIVA Project」を始動。作詞提供やコラム執筆、ポッドキャスト配信など、様々なメディアで活躍の幅を広げている。2024年9月11日に2ndアルバム『生まれ変わらないあなたを』をリリース。
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カラオケはお祭り。音楽を“披露”するステージだった
――まず、普段どれくらいの頻度でカラオケに行くのかから聞いてもいいですか?
平均すると、週に1回かな? 連日行くこともあれば、ライブとかレコーディングで行けない時もあるし、とかいいつつライブ後に友達と行くこともあるので……。少なくとも月に3回は行ってますね。
――ライブ後にも! 本当にお好きなんですね…! 最近はどんな人とカラオケに行かれましたか?
この間、小説家の金原ひとみさんと柚木麻子さんと3人で行きました。新宿・歌舞伎町のパセラで、柚木さんとEE JUMPの「おっととっと夏だぜ!」を歌ったり、金原さんが椎名林檎の「歌舞伎町の女王」を歌ってくれたり、金原さんと一緒にm-floの「come again」を歌ったり……。「カラオケなんて久々だよ~」って言う人を誘ってカラオケに行くのが楽しいんですよね。
――いつからカラオケ愛に目覚めたのでしょうか?
好きになったのは高校生になってから。中学生の頃からJ-POPが好きで歌うことは好きだったけど、カラオケはまだ大人数で行く大イベントのイメージが強くて。好きな曲を歌う場所というよりも、皆が知っている曲をその場の雰囲気を見ながら歌うような場所だったので、当時は家で一人で歌う方が多かったです。
でも、高校生になるとカラオケがもう少し日常的になるというか、学校帰りに行ったり、休みの日に行ったりするじゃないですか。そうしているうちに、好きな先輩と行ける機会があったり、歌がうまい先輩のカラオケに呼ばれるようになったりして、気づけば好きになっていましたね。
――高校生の頃くらいから、日常的なものになったと。
でも、そういう場所だと、私が一番好きなアイドルの曲とか歌いづらいじゃないですか。たぶん歌っても知らないし。でもどうしても好きな歌しか歌いたくなくて、℃-uteの「Danceでバコーン!」とか「都会っ子純情」の振り付けを完コピして友達に披露してて。曲を知らなくても、私が歌詞画面も見ずに完璧で全力だから、楽しんでくれるんですね。その頃くらいからカラオケ=自分のステージだと思っていました。マイクが回ってくると「出番だ!」みたいな。
――ステージ! そこまで思える人は多くない気がしますね……。逆に、一人で行くことは少ないですか?
行きますよ。大学生になってからは、空きコマの時間に宮益坂の歌広(カラオケルーム歌広場)に一人でよく行ってました。暇な時間の過ごし方がそれくらいしかなかったというか、時間を潰すために通っていた感じですね。今でも「とりあえずカラオケに入る」は時間の潰し方のひとつですし。お酒も飲まないのでカラオケで飲むわけでもなくて、当時はひたすら歌うストイックカラオケファイターでしたね。でも、あの頃飽きるくらいに通ったからこそ、今胸を張ってカラオケ好きだと言えるんだと思います。
歌を通してその人の“蓄積”が見える
――歌が得意な人同士で行くのが楽しかったりもするのでしょうか。
なんかミュージシャンの方ってそんなにカラオケ好きじゃないからあんまり一緒に行かなくて(笑)。というか、カラオケに歌の上手さは全然関係ないです! 上手な歌を聴きたければ音源を聴けばいいし、ライブに行けばいい。そうじゃなくて、まだあんまり互いのことを知らない状態でカラオケに行くのが楽しいんですよ。お互いを知り合う手段にもなるというか。
特に雑誌の企画などで対談した人は誘いたくなって……。エッセイストの能町みね子さんとも行ったし、歌手の柴田聡子さんとも行ったし。あとは編集者の人とか、映画評論家の人とも行きましたね。だいたい私がどうしても行きたくなってしまって、「歌は、嫌いじゃないですか?」とか「私歌うんで、ついてきてもらっていいですか?」って口説いて一緒に行ってもらうんです。私は人をカラオケに連れて行く才能があるんですよ。カラオケ姫です。その人の歌を聴きたい気持ちももちろんあるし、選曲とか歌っているところを通して「この人ってこういう一面があるんだ」って感じられる時間が大好きで、誘っちゃうんですよね。
――どういうことですか?
一曲をフルコーラスで歌うためには、ある程度聴き込んでいないと難しいじゃないですか。だから選曲や歌っているところを見ると、その人の人生の蓄積みたいなものが垣間見えたようで嬉しいんです。「ちゃんと2サビの頭一拍あけて入れるほど聴いてるんだ!」「椎名林檎の音源通りのフェイクだ……」って。お酒を飲んだりご飯食べたりしているなかではなかなか見られない“どう生きてきたか”みたいな部分が自然と見えるのがいいんです。そういう意味では、高校生の頃よりも大学生の頃よりも、大人になってから行くカラオケのほうがずっと楽しいですね。
――たしかに、それぞれが別の人生を生きてきたからこそ歌を通して感じるものも多いのかも。
友達と歌詞を画面に表示しながら一曲をじっくり聴く時間なんて、カラオケという空間でしかありえないじゃないですか。あの時間もいいですよね。
このあいだ、君島大空さんと函館でカラオケに行ったんですけど、そこでMr.Childrenの「くるみ」を一緒に歌ったんです。君島くんは数年ぶりのカラオケだったらしいんですけど。あらためて歌詞を目で追いながら二人で歌っていると「これ、めっちゃいい曲じゃない……!?」って感動して。いい曲なことは、誰もがもうすでに知ってると思うんですけど(笑)。
特にヒットソングは誰にでもわかるような普遍的な言葉で書かれているからこそ、こうやって歌詞を見直すことで言葉の可能性を感じられるし、それがまた、友達の誰が歌うかによっても魅力が深まる感じもいいですよね。そうやって何回でも好きな音楽に出会い直せることこそカラオケの魅力だと思います。
友達のフルコーラスを聴かないと!
――話は戻りますが、今の活動はカラオケの延長に近い感覚もあるのでしょうか?
カラオケで歌いたくなるような歌を作っていきたい気持ちはあるんですけど、それは全然違いますね。やっぱり人が書いた言葉で歌うことと、自分で書いた言葉を歌うことは全く別です。歌うのが楽しいことは変わらないけど、自分の曲は見てくれている人に届けなきゃいけないので、そこで流れる時間の重たさみたいなものも違うし、やっぱり別物。ただ、その大元にある「目の前の人を楽しませたい」みたいな思いは変わらないですね。
――カラオケでも「楽しませたい」と思っているところにエンターテイナーの一面を感じますね。
カラオケって、自分が歌いたいから好きな曲を歌うけど、だいたい5分くらいの曲をその場にいる人たちに聴かせる時間でもあるじゃないですか。しかも、テレビじゃないからワンコーラスじゃなくてフルコーラスだし、動画みたいにスキップしたり早送りもできない。そう考えるとかつては「自分がやりたいことをやりたいんだったら、せめて人を楽しませないと」みたいな義務感があって。もっとくだけていえば「楽しませるから許して?」みたいな。
だから誰にも頼まれてないけど、本人映像に合わせて完コピのダンスも踊るし、セリフパートも完璧にやる。そうやって私がここにいる理由を皆に説得するためにパフォーマンスしている感じが近かったかな。
――だとしたら、友達にも思いきり踊ってほしいとも思いますか?
私は歌いたいから歌ってるし踊りたいから踊ってるだけなので、皆にそれをしてほしいとは思ってないですね。私はみんなが私のパフォーマンスを見たことで、できるだけ楽になったり恥ずかしいことが減ったりするといいなと思っていて。「こんなに自由な人間がいるんだから、私がこうしてもいいか」と思ってもらえるなら、それが本望。そういう意味では、カラオケと今の活動は繋がっている部分もあるのかな。
だからこそ、一緒にカラオケに行った人がその場の流れとか一切無視して好きな曲入れて歌ってる瞬間とか嬉しいんですよね。恥ずかしがらずに自由に振る舞ってくれてる! って感動します。
それでいうと、映画『溺れるナイフ』のカラオケの場面で、重岡大毅さんが吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」をフルコーラスで歌うシーンがあるんですけど、「長い!」って指摘されてたんです。でもそういう声に対して監督の山戸結希さんは「だって、ちょっと長くてたるんできた時間こそカラオケだと思うので」みたいに返してて、たしかにそうだなと思ったんです。たしかにそういう時間も含めてこそカラオケだなって。
――複数人で行くと、歌う時間よりも人の歌を聴いている時間の方が長いことも多いですもんね。
そう。だから楽しいし、ただ自分で選んだ音楽を聴いているだけでは生まれないような思い出も生まれやすいんじゃないかな。だからこそ、友達のフルコーラスを聴くことってすごく大事だなと思います!
カラオケで友達が歌う曲の中には知ってる曲もあれば知らない曲もあるじゃないですか。あ、これいい曲だなって自分も好きになることもあれば、そうじゃなくても聴き続ける必要があるっていうか(笑)。サビしか知らなくて、Bメロは初めて聴くような曲でも、別に上手じゃなくても聴けるんですよね、それは友達が歌っている歌だから。
大学生の頃、「これ、いつも彼氏が歌うんだよね」って言いながら毎回back numberの曲を入れる女友達がいたんです。私はその曲を知らなかったけど毎回カラオケで聴いてたから、今でも私も歌えるくらいに覚えちゃってて。その曲を頭の中で再生する時、もう私の中の原曲はその子がカラオケで歌ってるバージョンなんですよね。
それって、スマホで音楽聴いているだけではそうありえないじゃないですか。でもカラオケを通すと時空が歪むっていうか。普段好きにならないような音楽まで好きになれるし、好きな曲をもっと好きになれるような何かがあるから、みんなもっとカラオケに行けばいいのにって思います。もし苦手だなーって思うなら、私が連れていきます!