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ファッション

雪駄型スニーカーにアウトドア用提灯……

人々の心を奪う、伝統製品の美。プロダクトデザインユニットgoyemonの想い

author: 三浦希date: 2024/11/23

“見立て”。あるものを、それと似た別のもので示すこと。プロダクトデザインユニット『goyemon(ゴヱモン)』のメイキングには、そのムードが色濃い形で表れているように思う。煌めかんばかりの好奇心と揺るがぬ信念をもとに、積極的な “見立て” を続ける彼らに、話を聞いた。

goyemon

高校時代からの友人である大西藍と武内賢太が2018年に設立したプロダクトデザインユニット。スニーカーのソールを搭載した雪駄「unda-雲駄-」や切子を保温性・保冷性に優れたダブルウォールグラスに仕上げた「Fuwan-浮碗-」など、日本の伝統技術と現代のテクノロジーをかけ合わせたアイテムを製作する。スウェットやキャップなどのアパレルも人気。2024年には渋谷に直営店『goyemon SHIBUYA』をオープンする。

Instagram:@goyemon_japan
X:@goyemon_japan
WEBサイト:https://www.goyemon.tokyo/

2024年、秋。開発に次ぐ開発により、その姿を日に日に異なるものへと変化させ続ける街、渋谷。けたたましく響く工事の轟音を背に駅から歩みを進めること10分、そこに『goyemon』の店舗兼オフィスがある。

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2018年春に発足して以来、クラウドファンディングを通じて2167万5600円もの資金を集め鮮烈なデビューを果たした“雪駄 × スニーカー”「unda-雲駄-」や、伝統的なガラス製品「切子」の魅力を活かしながらもまた新たな命としてリフォームした「Fuwan-浮碗-」、セラミックを使用して作った革新的刺身包丁「matou-磨刀-」など、唯一無二のクリエイションで人々の心を奪い続けている、同ブランド。

本稿では、そんな『goyemon』の共同発足者であり、高校から続く旧来の仲だというお二人、大西 藍氏(以下、大西)と武内 賢太氏(以下、武内)から伺った、ブランドにまつわるさまざまなお話をご紹介。友人でありビジネスパートナーでもあるお二人の繋がりについて、また、物作りにまつわる矜持、そのあり方について。快刀乱麻を断つがごとく、エポックメイキングなクリエイションを続ける彼らの、魅力に迫る。

心根で強く共鳴し合った二人だからこそ、為せること

赤く燃えたぎる炎と、青く静かにゆらめく炎。その二つを眺めたような、そんな気がする。ビジネスパートナーである以前に「大親友」だという彼ら二人に、インタビューの手始めとして、その関係性の出発点について聞いた。

――まずは『goyemon』の成り立ちについて、お話を伺ってみたいです。

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(写真左から)武内賢太さんと大西藍さん

武内:僕たち『goyemon』は、2018年の春に結成したプロダクトデザインユニットです。そもそも “結成した” とは言うものの、僕ら二人は高校の同級生として、昔からずっと仲が良くて。高校の入学式の時に、オレンジ色の髪でめちゃくちゃ怖い感じの人がいて、それが藍ちゃん(大西 藍氏)でした。そういえば、髪の色が今と逆だね(笑)。

大西:僕自身、千葉の出身なのですが、東京だったら別にこんなの目立たないだろうなぁ、ぐらいに思ってたんですけどね。破茶滅茶に浮いてましたし、先生から「ちょっと髪が明るい子もいますが、明日からはしっかり黒くしてくるように」と言われて、なんでだよ……って(笑)。制服がなく、私服登校の学校だったので、髪色ぐらい大丈夫だろうと思ったんですけどね。

また、僕らが入学した東京都立工芸高等学校って、実は結構偏差値が高いんですよ。真面目な子が多くて。「これ、やっていけんのかな……」と思っていたところに、武内と出会ったんです。

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武内:藍ちゃんから話しかけてくれたよね。クラスメイト全員のプロフィールが共有されて、それを見た際、オレンジ髪の奴のところに「特技:バスケットボール」と書かれていて。僕もバスケットボールばかりやってきていて、バスケットボール部に入部しようと思っていたから、あの時話しかけてもらったのはうれしかったなぁ。

大西:「やっと話が合いそうな人がいた……!」って、俺も相当うれしかった。

――その頃の二人に共通していたものは、バスケットボールと、他に何がありますか?

武内:僕らは「マシンクラフト科」という学科に属していたのですが、やはり、ものづくりへの興味は共通していました。高校の授業が終わった後でも作業場を使えるような学校だったので、そこを使って二人でアクセサリーを作ったりもしたよね。

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大西:懐かしいね。僕ら二人は三年間同じクラスだったこともあり、ほとんどいつも一緒にいました。部活が終わった後、秋葉原のゲーセンに行ったり、ヨドバシカメラなんかにも行ってたっけ。卒業後、大学は別々だし、就職後も場所こそ離れたけど、ずっと連絡は取り合っていたね。

武内:うんうん。それは『goyemon』の成り立ちについても、同じかもな。ずっと仲良く連絡を取り合えていたからこそ、同じような心や興味を共有できていたからこそ、すごくスムーズだった。お互い、いわば “副業” のような形でスタートしたんですよ。その始まりは「一緒になんかやろうよ」というような、シンプルなものでした。それぞれ働きながら、会社の仕事が終わった後で、あれこれやってたよね。

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大西:そうそう。その連絡方法は、今もあんまり変わってないな。LINEを通じて「こんなの良くない? 作ってみようよ」「めっちゃ良いね、こうしたらもっと良いかも」って。そこから、大体のクリエイションが始まっているような。そんな感じですね。仲が良いからこそ、お互いが良いと思うコトやモノが、通じ合っているような感じ。本当にありがたいなぁと思っています。

ひとつの “入り口” を提示し、伝統や文化そのものに光を当てる

仲は良くとも、馴れ合いにはしない。明確な言葉にはせずとも、そんなムードが感じられる。プライベートとビジネスの狭間、その境界線がゆるやかに融解されているかのような、お二人の関係性。「朝まで酔っ払ってることだって、いまだにありますからね」と、武内氏が笑う。そんな彼が、ファーストプロダクト「unda-雲駄-」についてのお話を続けてくれた。

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「unda-雲駄-」(写真左から)1万3750円、2万9700円、1万3750円

――ファーストプロダクトである「unda-雲駄-」のクリエイション、その魅力やこだわりについて聞かせてください。

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武内:「unda-雲駄-」については、というか『goyemon』が手がけるものづくりは、基本的に「自分たちが欲しいもの」を叶えることが先立っているんですよ。まずは、自分たちが欲しいと思えるか。どんなプロダクトなら、自分たちが欲しがるか。そこがもっとも大きなポイントだなぁと感じています。

それが結果的に「世の中に無いものを作る」ということに繋がっているのだろうなぁ、と。いわゆる「ペルソナ(商品を作る際にイメージする顧客の人物像)」のようなものを、決して設定しないんです。あえて言うなら、ペルソナは「自分たち」になるのかもしれません。

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大西:架空の人物をターゲットにしても、刺さらない。だからこそ、存在しないペルソナを信じることは、ほとんど無いですね。「自分たち」以外にも、たとえば、身近な人たちを頭に思い浮かべていることも大いにあります。「あの人なら買ってくれるだろう」とか「あの人が憧れるようなプロダクトにしよう」とか。「あの人が憧れるプロダクトは、きっと、あの人に憧れている人も気に入ってくれるだろう」とか。

武内:「unda-雲駄-」で言えば、“いいとこ取りの融合” みたいなことへの好奇心だったり興味だったり、そういうツボを僕ら二人が持ち合わせていることから、プロダクトづくりが始まったんですよね。例を挙げるなら、そもそも「雪駄」には「左右」が無いんですよ。

――左右が、無い……?

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武内:スニーカーには、右足と左足が明確に存在するじゃないですか? それが、雪駄には、無いんです。あえて設定していないんですよね。その理由は「定期的に左右を入れ替えて着用することで、靴底が均等に減って、長く使うことができるから」というものなんです。めちゃくちゃ面白いなぁと感じたし、その慣習をスニーカーで再現すれば、ものすごくユニークなものが出来るんじゃないか、と考えたんですよ。これは数ある意匠のうちのひとつですけどね。

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大西:僕らが掲げている「日本特有の伝統を活性化すること」は、そこに集約されています。日本の伝統製品が持ついいところを残しながら、また別のものが携える良点を取り入れる。そうすることで、ベースにある「日本の伝統製品が持ついいところ」に、光を当てる。光が当たった状態にする。その結果、僕らが手がけたプロダクトを見た若い世代が、いつの間にか「日本の伝統製品が持つ良さ」に触れているような状態になると思っていて。

――伝統文化そのものを販売するような形で“直接的”に扱うのではなく、半ば“間接的”に、それを伝えていくということ。

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大西:そうなんです。僕らはあくまで「入口」を作っているに過ぎません。このお店に、若いお客さんが複数人で来てくれることがあるのですが、その時、結構な割合で「お客さんがお客さんに説明をしている姿」を見かけます。うれしそうな表情で周りの友人たちに説明してくれているのを見ると、やはり僕らがやるべきは「伝えること」なんだ、そうして「きっかけ」を提供することなんだ、と強く感じますね。

伝えること、その努めをひたむきに果たし続けていく

入り口としての、ブランド。クリエイションそのものによって世の関心を集め、自分たちだけが “おいしい思い” をするのでなく、あくまで「文化」の美しさを伝え続け、業界そのものにも興味・関心を持ってもらう、ということ。その想いは、はたしてどこから生まれたのだろうか。

――「unda-雲駄-」以外のメイキングにおいても、その気持ちは同じですか?

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武内:刺身包丁というひとつの伝統製品に、独自の製法で高密度化=高耐摩耗性を実現したセラミックナイフ(スーパーセラミック刃材)を取り入れる。それによって、刺身包丁の文化に光を当てること。

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美しいデザインの「切子」に耐熱ガラスを用いる事で、電子レンジに対応するようなものに仕上げる。現代の生活においても不自由なく使用していただけるよう、工夫する。あくまで伝統そのものに対するリスペクトを保ったまま、文化を伝えていくような。そんなクリエイションであると自負しています。

――そもそも、日本の伝統製品たちに光を当てよう、その魅力を伝えよう、と感じたのはどういった理由なのでしょうか?

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「ANCOH-庵光-」4万8500円

武内:「デザインすべて」の話になってしまうかもしれませんが、特に伝統製品に関しては、すべての意匠に「理由」があるんですよ。形状もそうですし、色もそうですし、先ほどお話した雪駄に左右差が無いことにも代表されるように、すべてに明確な「理由」があるんです。

昔の時代を生きた人々が知恵を振り絞って作ったものだからこそ、その製品が持つ「奥行き」であったり「ストーリー性とその機能美」みたいなものに、愛情を抱いてしまうんですよね。芸術品やアートピースではない、生活に根ざしたデザインに。

――とはいえ、伝統製品に対して革新的な技術や機能を取り入れることは、想像よりもなかなか難しいのではないか、と感じます。

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大西:めちゃくちゃ大変ですよ。本当に、めっちゃくちゃ大変です。今でこそ実績が積み上がってきたので、職人の方々からもご支持をいただけることも多いですが、始まりの時期なんかはかなり大変だったよね。「いや、誰?」って感じの雰囲気だった(笑)。

武内:昔、デザインコンペなどにも参加していたこともあったけど、そこで賞をいただくことは全然なかったし、そもそもやっぱり、とっかかりの部分では厳しかったよね。「マジで誰だよ」みたいなムードを出されて、それはさすがに風当たりが強すぎるだろ……って。

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大西:それで言うと、ものを作ること自体は簡単だと思うし、今の時代って始めることのハードルって実は全然高くないと思うんです。それこそ僕らのようにクラウドファンディングを使えば、変な話、サンプルだけ作っちゃえば資金を調達する術はさまざまあるわけで。ただ、それを持続していくとなると、話は別だなぁと。

武内:そこで大切なのは、きっと、とんでもなく真剣に調べ尽くすことなんだと思うんですよね。それはもう、ものすごく、めちゃくちゃに調べ尽くすこと。

――めちゃくちゃに調べ尽くすこと、ですか。

武内:雪駄 × スニーカー、切子 × ダブルウォールグラス、刺身包丁 × 高密度セラミック。提灯に「ソーラー充電」「折りたたみ式」「防滴」「コードレス」の機能を取り入れた「ANCOH-庵光-」もそう。全製品、分野が違うんですよね。でも、その分野ごとに、ものすごくたくさん調べて、知り尽くした上で、職人の方々とお会いするんです。それこそがリスペクトだと思うし、そもそも、話をともにできなければ、製品化に踏み切ることもできませんから。もちろん大変ですけどね。

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大西:大変だからこそ、誰もやらないし、やる価値がある。そう思います。その末にこそ、オリジナリティや唯一性のようなものが立ち現れてくるから。「unda-雲駄-」のリリース以降、僕たち『goyemon』のことをアパレルブランドであると捉えている方々も少なくないですが、あくまで僕らはアパレルブランドにはならないようにしています。自分たちの好きなことを、かっこいいと思えることを、楽しくやっていく。そして、しっかりと伝えていく。それが一番大切だし、決してブレたくないですね。

“目の前の「やりたい」を叶え続けていたら、今いる場所に辿り着いていた”

「瀟洒(しょうしゃ)だ」と思った。俗っぽくなく、とことん洒落ている。

ふと思い立って、ブランドのフィロソフィーを読んでみた。

「天下の大泥棒・石川五右衛門になぞらえ付けられたブランド名、同じく某天下の大泥棒3代目もこんな言葉を言っています。“優れた芸術と泥棒は似ている。どちらも人の心を盗む術を知っているからだ”」。彼らは今や、とんでもないものを盗んでいったようだ。

――最後に、お二人にとっての夢や目標について、教えてください。

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武内:僕、ちっちゃい夢がいっぱいあるんですよ。月や火星に『goyemon』のオフィスを作ってみたいとか。

大西:いや、それはめっちゃデカくない?(笑)

武内:それこそ「こんなものを作ってみたい」とか。目の前の目標、目的、夢、そういうものはたくさんある。ただ、それぞれに違いはないんですよね。夢も目標も、同じ。やりたいことを、みなさんのお力を借りながら、叶えていくこと、それを真摯に続けていくだけです。その先で、多くの人々が「なんかこれ、goyemonっぽいね」と言ってくれていたら、すごくうれしいなぁと。「goyemonらしさ」のようなものが伝わったら、きっとその時、日本の伝統や文化も一緒に伝わっているはずですからね。

――夢も目標も、同じ。本当に素敵です。

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大西:目の前の「やりたい」を叶え続けていたら、今いる場所に辿り着いていた、みたいな。そういう感覚をおぼえます。個人的には、憧れる人もほとんどいなくて。誰かに中指を立てたいとか、そういうことでは全然ないんですけどね。その時々に面白いと感じたものを作って、仕込んで、それをリリースして、というのをずっと繰り返している感じ。

強いて言うなら、今は特に「同世代の人々と一緒にやりたい」という気持ちが強いかもしれません。職人の方々にしても、家業を継いだ人であったり。ルックを撮ってくれているカメラマンの方々も、ほとんど同世代なんですよね。同じ目線で、一緒に高め合える人たちと、やっていきたい。そう感じています。

goyemon SHIBUYA(ゴヱモン シブヤ)

住所:東京都渋谷区東1-1-36
営業時間:14:00〜19:00(土日は12:00〜)
定休日:月曜
Instagram:@goyemon_japan
X:@goyemon_japan
WEBサイト:https://www.goyemon.tokyo/

Text:三浦 希
Edit:山梨幸輝
Photo:藤重廉


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ライター・編集者
三浦希

1993年2月26日生まれ、北海道出身。WEB制作会社、編集プロダクション、ECサイトディレクターを経て、2020年4月に独立。ライター・編集者として活動する。
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