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若者フリーク連載「好きを転じて夢と為す」vol.3

落語家・桂枝之進が“落語”という好きを見つけた日

author: 小林 雄大date: 2024/12/19

FREAK’S STOREとBeyond magazineによる、ユース世代応援プロジェクト「若者フリーク」。このプロジェクトは、若者の「好き」がいつか「夢」に変わり、もっと将来の自分に「ワクワク」してもらうきっかけを作ることを目指している。
 
若者フリーク連載「好きを転じて夢と為す」では、自分の好きなことを見つけてその夢に向かっている人たちや、夢の実現に向けて行動しているユース世代に、その半生や夢との出合いを語ってもらう。先輩フリークたちの言葉を聞けば、自分の夢を見つけるヒントになるかもしれない。
 
第3回に登場するのは、落語家の桂枝之進。中学卒業後、15歳の若さで弟子入りした彼は、いつ落語と出会い、落語の道に進もうと決意したのはどんな瞬間だったのだろうか?

桂枝之進

2001年6月20日生まれ。2017年1月 六代文枝一門三代目桂枝三郎に入門。2017年12月 天満天神繁昌亭「枝三郎六百席」にて初舞台。 全国の寄席やイベント、メディア等で活動するほか、2020年、落語クリエイティブチーム「Z落語」を立ち上げ、渋谷を拠点にZ世代の視点で落語を再定義、発信するプロジェクトを主宰している。

Instagram:@edanoshin
X:@edanoshin

桂枝之進と落語の出会い

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ーー好きを見つけた日、好きに気づいた瞬間を覚えていますか?

ちょっと話が遡るんですけど、僕が落語と一番最初に出会ったのは5歳のときでした。家の近所の文化ホールに落語会が来て、親に連れられてたまたま観に行ったんです。別に落語が好きだったわけでもないし、親も落語が好きなわけでもない。たまたま近くで催しがあるから行ってみようって連れて行かれただけでした。

何が始まるのかなってそわそわしてたら着物姿の知らないおじちゃんが出てきて、座布団に座って、右を向いて左を向いて話が始まる。周りのご年配の方がみんな大きな声で笑ってる。そのときに「なんだこれは!」ってすごい興味を持ったんです。

でも、まだこのときは落語が好きという感覚ではなかったです。“なんだこれは”というただの驚きでした。そこから家のテレビやラジオを落語が流れてると「なんか見たことあるやつだ」って興味を持つようになっていきましたが、そこまで落語が好きかっていうとそうでもない。

今でも印象的に覚えてるのは、家族旅行で飛行機に乗ったときのことです。僕は早く着かないかなと退屈してたんですが、機内のオーディオサービスに落語のチャンネルがあったんで聴いてみたんです。

難しい言葉をたくさん使ってるし話の内容もすべて分かるわけではないけど、本の知らない漢字を飛ばし読みするような感覚で聴いてみたら「なんかこれ面白いかも」って、どんどん引き込まれて、気づいたら機内で夢中になってました。そこで「自分は落語が好きなんだ」と確信しました。

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ーー実際に落語を始めたのはどのような経緯だったのですか?

僕、自分の半径5mの人を楽しませたいというのが根っこにありまして。近くの友達に、自分が面白いと思ってることが伝わって“面白い”と笑ってくれたりとか、自分が美味しいと思ったものを分けてあげて“美味しい”って感覚を分かち合ったりとか、共有することが好きなんです。

そんな感じで、子どものときから登下校中に本で読んだ都市伝説を話したりしてたんですけど、だいぶネタが尽きてきたな、なんかないかなと思ったらそういえば最近ハマってる落語の本を読んだぞって。こないだこんなおもろい話あったなって、落語を喋り始めるんですよ。

そしたら友達が「それおもろい」「クラスのお楽しみ会でやってや」って反応してくれて、どんどん落語をやる場所が広がっていきました。落語をやること自体が、自分の根底にある“何か共有して楽しむ”をそのまま形にしたようなものだなと。自分の覚えた話で笑ってもらうというのが自分はめちゃくちゃ好きなんだと、実際に落語をやるようになってから気づきました。

ーーそこからプロの落語家になるまでの決断を教えてください。

中学生まではアマチュアで落語をやってたんですけど、プロの落語家になるには弟子入りをしないといけない。3年間ぐらいの修行があるんですけど、これを経て初めてプロの噺家になれる。

プロにはなりたいけど、いつ修行に入ればいいんだろうと悩みました。高校出てからのほうがいいかなとか、いや最近は大学出てから修行に入る人も多いよなとか、いろいろ考えて、周りの大人にも高校か大学を卒業してからがいいんじゃないかと言われました。

でも、もしそこまで待ったとして、自分の好きっていう気持ちが冷めちゃったらどうしようって思ったんです。自分はいま落語が好きで、いま落語家になりたい。この熱量が高い状態でプロを目指して修行するのがいいんじゃないかと思い、中学3年生の秋ぐらいの進路相談の時期で、まわりが高校を決めるようなノリで、弟子入り先を決めました。

自分だけの好きを発信しづらい時代

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ーー日本財団の18歳意識調査のデータによると、日本の若者は夢中になれることや、夢を持っている人がほかの国に比べて少ないらしいのですが、桂さんの周りではいかがですか?

たしかに周りの同世代の友だちと喋っていると、“自分だけ”が好きなものを大きな声で発することにためらう空気があるような気がします。みんなが好きなもので自分も好きなものの話は大きな声でできるけど、自分だけが好きなものの話をすることに、空気を読むじゃないですけど、ためらいがあるのかなっていうような感じがします。

悪目立ちしたくないっていう思いがあったり、SNSで日々いろんな人が炎上してるのを横目に見ながら、石橋を叩いて渡るようなSNSの使い方をしているうちに、そういう心持ちになっていくのかもしれません。

なので、そんな中でみんなの共感を得られるか分からない自分だけが目立った行動をするという、吉と出るか凶と出るか分からないことなら言わない、みたいな感じなのかなと。

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ーー桂さんは10代の早い段階でみんなと違う道を選ぶというチャレンジの決断をされましたが、そのときに勇気が必要だったり、目立つことに対する恐怖だったり、そういうものは当時はなかったですか?

僕はあんまりなかったかもしれないですね。多分そこまで人と違うことを本当に気にしないんだと思います。むしろ多分、人と違うものを選びたいんですよ。

逆にみんなが同じでも、みたいな感覚があって、自分の趣味や好きなものが流行っちゃったりすると、「そりゃいいもんな、みんな気づいてハッピーになってそれはいいけど流行っちゃったか……」みたいな気持ちにもなるんで(笑)。僕は人と違うものを選びたいという傾向が強いんだと思います。

ーー今回Beyond magazineとFREAK’S STOREによるユース世代を応援するプロジェクト「若者フリーク」について、どのような感想を抱きましたか?

僕の中でFREAK’S STOREさんってすごくメジャーなセレクトショップの印象で、Beyond magazineさんのようなユース世代の情報を発信してるメディアと一緒に取り組みを始めると知ってワクワクしました。

今回落語をさせていただいたフリークス渋谷店の地下にあるOPEN STUDIOという場所があったり、ディープなクリエイターと一緒に小さな規模で実験をやってみたり、イベントを企画したりとかこういうこともやってるんだっていう、なんかそこにすごく驚きましたね。

夢は、死ぬ直前に人間国宝になること

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ーー夢に向かって行動している同世代に向けて一言いただけますか?

好きっていう気持ち、ピュアな好きって気持ちがめちゃくちゃ大事だなって思います。これは実際に落語を仕事にしてから、より強く感じるようになりました。好きなものを仕事にした後に、自分がその仕事をやり続けるために絶対に好きっていう気持ちが必要です。

好きを仕事にすると、どうしても嫌いな部分も見えてくるじゃないですか。苦しい場面もあるし、面倒な瞬間もある。辞める理由はいくらでも出てくると思うんですけど、やっぱり最後の辞めない理由は好きっていうところなのかなと。

続けてたら意外と何とかなったりするし、悩んでることもだいたい解決してたりするんで、とにかく続けるためには好きっていう気持ちが大事です。何かを始めるときに、一番ピュアに好きなものを選ぶことが、絶対に何事も長続きしてうまくいく秘訣なのかなというような気がするんですよ。

だから本当に周りの目を気にせずというか、本当にピュアに好きなものをやってたら周りも応援したくなるし、みんなハッピーだなって思うんです。

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ーー最後に桂さんの今の夢を教えてください!

実はこの回答は難しいんですが、「人間国宝です」って言うようにしています。僕は5年後とか10年後とか近い将来のことをあまり考えてなくて、自分が今やるべきで面白いと思って、自分にできると思ったことをまず取り組んで、そこからどう転ぶかを見るのが好きなんです。

その結果によって、どんどん展開が変わって、自分が思いもよらなかったいい方向に進んでいったりするっていうのをリアルタイムで自分で肌で感じて楽しむのが好きなので、あんまり近い目標を作らないようにしていて。

だから一番先の夢、一番遠いところにある目標らしいもの、何かなって考えたら、死ぬ直前に人間国宝、みたいなことになる。文字面だけ見るとめちゃくちゃ「なんか生意気な奴だな」「こいつ若者のくせに人間国宝って言ってる」みたいなことになるんですけど、それは死ぬまで落語やってるぞっていう覚悟でもあります。

Photo:野口悟空
Text & Edit:小林雄大

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Beyond magazine編集長
小林 雄大

ファッション業界や音楽業界、ソニー・ミュージックエンタテインメントのWebメディア「d365」副編集長を経て、独立。現在はフリーランスの編集者として、企画・編集・執筆を中心に活動。新規メディアの立ち上げや企業内の新プロジェクトなど、情報発信に関わる土台構築から実行まで広く携わる。
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