ボタン1つで料理が届き、インテリアも既製品で揃えられる便利な時代。
アパレルブランド「HER NEON」を運営する守田ももさん・ひなさん姉妹は、DIYで整えたキッチン空間で、自作の器に手料理を盛り付け、日々の食生活を楽しんでいる。
彼女たちにとってキッチンは単なる調理場ではなく、自分たちの手で作り上げる生活の中心地。なぜ「自分でつくる」ことにこだわるのか? 彼女たちのキッチンまわりのこだわりや背景にある理由を聞いた。

守田 もも(左)・ひな(右)
1996年、神奈川県出身の双子。アパレルブランド「HER NEON」 オーナー。2019年にブランドを立ち上げ、デザインから発注まで2人だけで手がける。これまでに東京や大阪、名古屋などでシーズンごとポップアップを展開。
Instagram:@herneon_official
HER NEON公式サイト:
herneon.com
部屋の決め手はアイランドキッチン

「HER NEON」は、Tシャツやキャップなどカジュアルなアイテムにカラフルなデザインを落とし込んだ注目のアパレルブランド。そのデザインから発注、配送までたった2人だけで担っている守田ももさん・ひなさん姉妹。
この日は、25SS新作の服にスタッズをつける作業をしていたそうで、ミシンや布など部屋のあちこちに2人の仕事の様子が垣間見える。仕事場でもあり生活の基盤でもある姉妹の部屋は、大きなワンルームで打ちっぱなしのコンクリートが特徴的だ。

部屋のなかでも特にお気に入りの場所というのが、部屋の真ん中にある大きなアイランドキッチン。天板は木製で、パッと華やかなイエローのラインが目を引く。

2人が住むマンションは賃貸でありながらリノベーション"推奨"の特殊な物件。「部屋をどんどん作り変えて、次の借り手に受け継いでほしい」という大家さんの希望もあり、2人も自由にインテリアを作り上げている。
ひな:このキッチンは内見の時からあったもので、この部屋に引っ越す決め手になりましたね。2人ともピカピカのキッチンはあまり好みではなくて。外国っぽいというか、ちょっと使い込んだような温かみのある雰囲気が好きなので、まさに理想のキッチンに出会えました。

クローゼットなど収納スペースがほとんどないというこの部屋。キッチンの後ろには2人が考えて友人に取り付けてもらった壁付けの食器棚がある。また、天井にはワイングラスホルダーもDIYで設置。
まるでレストランのような洗練さもありながら、ひなさんが好きだという観葉植物も吊るされ、居心地の良い空気を作り出している。
ひな:私たちが使いやすいようにものを置いていったら、自然と今のキッチンの形になりました。不思議と食器棚を買おうという発想にはならなかったですね。場所も取るし、家具を買うよりは自分たちの好きなようにこの家に付け足して作っていこうって思いました。
それぞれの心地よさを大切にできる場所
2人のキッチンでの過ごし方には、姉妹それぞれに個性がある。

もも:キッチンは1日の中でもっとも長く過ごす場所かもしれません。食事するときはもちろん、仕事中や休憩するとき、考え事をするときもこのカウンターに座っていることが多いんです。静かに自分のペースで過ごせる場所になっていますね。
ひな:私はリフレッシュしたいときに使う場所ですね。仕事の合間にその日の体調や気分に合わせた食事を作っています。
2人の話を聞いていると、キッチンの使い方は異なるものの、自分のペースで過ごせる欠かせない居場所になっているようだ。

ひなさん:生まれた頃からずっと一緒に暮らしてきて、いまは仕事も一緒。食事のタイミングは相手に合わせるのではなくて、それぞれ自分のペースでとるように自然となっていきました。各々の時間も一緒に過ごす時間も無理して合わせなくてもいいから、本当に気楽です。
近所のスーパーで食材を買ってきて、キッチンでそれぞれ好きな時に料理をする。ももさんがカウンターで仕事をしている横で、ひなさんが軽く夕食を作る姿も。そんな双子のキッチンは、互いの個性と時間を尊重する空間となっているようだ。
シンプルが美味しい、私たちの自炊ライフ
お酒が好きな2人は、外食に行くことも多いが、自宅での食事は自炊することがほとんどだという。

もも:スーパーやコンビニのお惣菜はほとんど買わないですね。人工的な違和感のある味が苦手なので、自分たちで作ったほうが美味しいなと感じるんです。お肉かお魚、あとは野菜を買ってきて、1品作ればそれで充分。なんというか、名前のない簡単な料理ばかりです。
例えばお肉をたまねぎと一緒にアルミホイルで包んで、魚焼きグリルに入れてほっておくだけとか。鶏のせせりを買ってきて焼くのも好きです。
ひな:味付けは基本、シンプルな調味料だけで作ります。塩・コショウ・オリーブオイルだけ、など余計なものを入れない方が美味しいと思うんです。 私たちの料理は、結構美味しいんですよ~! 食べてみてほしい!

友人が家に来ておもてなしをするときは、一緒に料理をするという2人。よく作るパスタは、ももさんが粉から自家製麺を作るというから驚きだ。
製麺機はイタリア製のもので、フリマサイトで見つけて購入したそう。ほかにも、パンや餃子の皮なども自分で作ってしまうという。一方ひなさんは、ももさんの隣で手際よくソースやおかず作りを担当。示し合わすことなく、あっという間に1品完成してしまう。
ひな:仕事でもそうなんですけど、阿吽の呼吸で役割分担ができるんですよ。キッチンでも同じように自然と役割分担ができているんです。
姉は凝り性で職人気質なところがあるので、パンや麺を自分で作るのが好き。私は飽き性だから、毎日違うものをその場で考えて作るほうが好きです。お米を研ぐのもちょっと億劫なくらい(笑)。本当に私たちの相性は最高だなっていつも思います。

手作りの器が変えた食生活
食器棚を見ると、カラフルでかわいらしいお皿が並んでいる。実は、器のほとんどがももさんの趣味で作っているものだ。

ももさんが陶芸を始めたのは去年(2024年)の秋頃から。少し仕事がひと段落して、洋服作りとは違うインプットがしたいと思うようになったことがきっかけだという。
もも:自分でもこんなにハマるとは思っていなかったので、ちょっと驚いています(笑)。作りたいものを自由に作らせてもらえる教室なので、時間がある時には事前にノートにデザインを描いて、イメージを膨らませて作ることもありますね。

そんな創作の楽しみに出会ったのは、彼女たちのブランド活動にも変化が訪れていた時期だった。
去年(2024年)の夏、ECでの販売に加えて、ポップアップも積極的に展開しブランドが急成長するタイミングだったという。フリーランスとして忙しさは嬉しい反面、2人だけで全て切り盛りしているため、無理が続いた。姉妹そろって胃腸炎になってしまったり、体調を崩したこともあったそう。そんな、家に籠りがちになっていたももさんが気晴らしに始めた陶芸だったが、ひなさんにも思わぬ影響があった。
ひな:カラフルな器を使うようになってから、食事と向き合って丁寧に味わうようになりました。いくつか小皿を並べておかずを盛りつけたり、彩りを加えるようになったり。ゴマをふる、七味をかける、そんな小さなことなんですけど味が変わるし、なんだか食材も生き生きして見えるんですよ。

ひな:これまで、食事に対して結構いい加減になってしまっていたなと気が付くきっかけになりました。私の生活にはこれが足りてなかったんだ! って。今では、自分で食事を作って、味わって食べる一連の過程が癒しの時間になっています。
最近は、ひなさんがSNSに投稿する写真が好評で、フォロワーからのポジティブな反応も後押しとなって、ますます自炊を楽しむようになったという。

必要なものだけで作る、ちょうどいい日常
自分たちが本当に気に入ったものだけを持つ、シンプルな暮らしを目指しているという2人。そこには、幼少期の経験の影響もあったという。
もも:父が料理好きだったおかげで、私たちも食べることが大好きになったと思うんです。ただ、買い癖のある人だったのか、いつも冷蔵庫がいっぱいで。時には食べきれずに捨ててしまう食材もありました。私がその環境がすごく苦手で、自分に必要のない食べ物が沢山あるのがストレスだったんです。
そういった影響のせいか私たちの冷蔵庫の中は、その日使う分だけの食材をスーパーで買ってその日のうちにほとんど使い切ってしまうんです。

そんな2人は、料理を通じてメンタルも保っている。
ひな:あまりメンタルが強い方ではないので、ちょっとしたことで影響を受けてしまうほうで。ニュースを見るのも苦手なくらい。だからこそ、毎日の食事でも悩んだり、失敗したりするのは極力避けたい。
外食する時もいつも同じお店ばかりですね。選択肢が多いと疲れてしまうので、なるべく削いで削いで……自分たちで作ればいつも安定した美味しい味になるから、食事が大好きだからこそ、逆にシンプルなものを求めるようになっています。
食生活から垣間見えたのは、無理をしないシンプルさを大切にした2人のものの選び方。自分の好みをきちんと把握していることで選択肢を減らし、豊かな暮らしを営んでいる。

今年で29歳になる2人、30代を目前にして、生活への意識も変わってきた。
ひな:まだ若いって言われるけれど、昨年体調を崩したこともあり、体や食との付き合い方を考えるようになりましたね。心も体も健康第一だなと。自分たちしかいないから、病気になったら何もできなくなってしまいます。自分で料理すれば今日の体調にあわせて味も食べるものも変えられるので、体へのストレスも減りますよね。
もも:最近大切にしているのは、いかに平穏を保つか、ハラハラしないか。同じ店に行き、同じものを食べ、今日も美味しいって思える。そういうことを今後も大切にしていきたいですね。

キッチンという空間から姉妹の生活を見つめていくと、自分たちが心地よく過ごすためにDIYした棚、自作の器、シンプルな自炊中心の食生活といった工夫を積み重ねているようだ。
ひな:キッチンは私たちにとって、毎日の安心と喜びを作り出す場所なんです。私たちはここで、自分たちのペースに合わせて心地よいと思える時間を大切にしたい。複雑な世の中だからこそ、ここでは迷わず、ただ「今日も美味しい」と思える瞬間を味わっていきたいです。