職業の数だけ“つい目がいく”光景あり。
「クリエイティブさんぽ」は、クリエイターや職人、研究者など、さまざまな専門分野を持つ人が好きなエリアを散策し、独自の視点で気になった場所を紹介してもらう連載企画。読んだ後にちょっとだけ視野が広がるかもしれない、未知の仕事への理解が深まるかもしれない、そんなレポートをお楽しみあれ。
9回目となる今回さんぽしてくれたのは、動画クリエイターの葛飾出身さん。

葛飾出身
香川出身。2018年頃より、X上で自作のレタリングをフィーチャーした短編ビデオ日記「今日の日記」の投稿のほか、MVを中心に映像作品を制作。ビザールギターを見るのが好き。
X:@ahtamaraneze
3DCGではどう見える? 世界を広げる“テクスチャ”を求めて
東京で映像作家をしている葛飾出身と申します。葛飾の出身ではありません。香川県高松市出身です。すみません。
京都で大学生活を送ったのち、就職の都合で上京してきました。武蔵境はそんな僕が初めて一人暮らしをした場所。東京の土地勘がゼロの状態で友達に「武蔵境がいいよ」といわれたその一言だけを頼りに武蔵境だけで部屋を探し、4年くらい住みました。駅前には商店街があり、家系ラーメン屋があり、業務スーパーがあり、ヨーカドーもあり……それでいて閑静。都心にも電車一本で行ける。ほぼ考えなしに選んだ場所だったにもかかわらず、上京一発目に住む場所としてこの上ない場所でした。友達ありがとう。
そんな思い出の街を、当時の感じで(素材がほしくてウロウロしている感じで)散歩してみようと思います。これは現住所でも続けていることですが……。
普段の制作でローポリ(3Dモデルを構成するポリゴンの数が少ない状態)のCGをよく使います。3Dモデルの説得力を増すための方法として、そのモデルに写真や絵を貼り付けて質感を表現するというのがあります。この写真や絵のことをテクスチャというのですが、これに周囲をウロウロして撮った写真を使うとそれだけでいい感じになります。
この手法はプレイステーション前後の3DCGを使ったゲームなんかで多用されてる印象もあり、粗いレンダリング(数値などのデータを画像や動画にすること)でもって写真テクスチャを貼ったモデルを出力するとこれがまあ雰囲気出ていいのです。

武蔵境駅北口前の商店街「すきっぷ通り」。こういう写真も建物の壁とかを切り抜いてテクスチャにする。普段撮る写真のほとんどが「テクスチャになるぜ!」と思って撮った写真です。

こういう建物のいい壁を撮る。3階と2階の造りが違うのもいいですね。増築したんかな。友達とうろついてたり旅行行ったりするときにもそういう動機で突然立ち止まったりして写真を撮っているのですが、最近はもう無視されています。

塀です。

これも塀。

これもまた塀。ブロック塀の写真を何故かよく撮りがちです。これは透かしブロックが見たことない形をしていた。作風や好み的にもこのコンクリート塀の無骨で基本薄汚れてる感じが好きというか……きっとそういうことなのでしょう。使う使わないにかかわらずブロック塀はとりあえず写真を撮る傾向にあります。
次点で地面の写真をよく撮ります。これを……

Photoshopの「遠近法ワープ」機能でこうして……

Blenderでさっきのブロック塀と組み合わせたりすると……

こうなる(結局どうなっているんだ?)。こういう利用方法を期待していろんなところを歩いていたわけです。
同じタイミングで撮った写真を組み合わせると色合いが揃うのでよりリアルに見えます。それを低解像度で出力することであとは見る人の補完力にすべてを委ねる卑怯な戦略を取ります。

歩きざまに撮るので後々角度が非常に使いづらいものになったりもするが「遠近法ワープ」はそれを解決してくれる。
ここは駅近くの駐輪場です。久々に寄ってみたら料金所のシステムが変わってて驚いた。

ここを走っている白線を始点から終点までタイムラプスで撮影して素材にしたことがあります。いい感じにクランチの効いた(質感が荒い)帯の素材が撮れるんや。
右側の幕状の壁にご注目。

今回寄ったらメタクソに枯れてました(かなしい)が、写真上部を走る植物、これがまだ青々としていた頃、背景が真っ白なのをいいことに切り抜いてジャングルの背景の植物たちとして使いました。

前はこのくらい青々としていたんだが……。

奥に見える鉄骨造りの階段の骨組み。こういうのも撮っておくと非常に便利である。

画面奥のマンションもMVで使用した3Dモデルの参考にさせていただきました。

これが実際にMVで使用したマンション。あんまり似てないけど……。

駐輪場を後にして南下してたら「ご自由にお持ち下さい」のカゴを発見。ツボだ……。持って帰って中に豆苗でも入れようかと思ったけどやめました。

日頃から欠かせないハードオフ巡回。南下の目的はこれです。
極めてクリエイティブな行為であるハードオフ巡回。一店舗巡るだけで、お経を一巡唱えるのと同じくらいのご利益を得られるとされています。万病にもそのうち効くようになります。

う~ん(左のギブソンJ-45のことを在住当時狙っていました)。
一緒に歩いてくれている担当編集の山梨さん(そしてハードオフにつきあわせてしまった)がおすすめしてくれたチック・コリアの「リターン・トゥ・フォーエヴァー」を買いました。B面の1曲まるごとメドレーがメチャよかった。ありがとうございます。
そして駅に向かって北上。ご飯でも食べて解散しましょうかというところで……

あれ?!

さっきのごじおもカゴにときメモのマグカップ含めなんかいろいろなものが増えてました。初代ときメモだと朝日奈さんと清川さんが好きです。彼女らは……いなかったけど全部持って帰りました。適量のコーヒーカップとして普通にちょうどよかったです。

在住後半足繁く通っていた駅の南側すぐにある『上海楼 刀削麵館』で刀削麺を食べて解散です。店主さんが「久しぶり~」って声かけてくださって、顔で笑って腹で泣きました。覚えてくれてたのが嬉しかった。

今どき900円もありがて~もんだ。量多めで満足度もSUPERB。
武蔵境を離れておおよそ半年(に、ちょっとかけるくらい)。かつての日常のルーティンをもう一回たどる……という感じでウロウロしてみたんですが、もうなんか懐かしくてたまりませんでした。変わらないところ、変わっちゃったところなど街の代謝や息遣いをこの短い間でも感じられたのがよかったです。
ここでやってた𝑪𝒓𝒆𝒂𝒕𝒊𝒗𝒆とされる行いは結局今住んでる場所でもやってるし、自覚的には現住所も武蔵境も変わらないのだけれど、あらためて振り返ってみると自分の作品の色が微妙に変化している気もします。今より心が落ち着いているような……(これは非常に不安です)。「土地柄が作家に及ぼす影響」なるものの存在をぼんやりと感じた散歩でした。