「考える前にまず動け!」
すでに啓蒙や説教の場などでも散々使い古されてきた、しかし、いまだ性別・分野・世代・肩書を問わないすべての人々のハートに響く永遠に色褪せないメッセージである。
また、とくに体力的にも知力的にもまだ「フットワークの軽さ」を最大の武器とできるZ世代にとっては、より「座右の銘」とすべき、もはや「格言」とも呼べる金言であろう。
本コラムは、還暦間際のベテランライターが老体に鞭打ちながらも、
「考えるな! 感じろ!」
…と、自身を奮い立たせてさまざまなジャンルの「新しい経験」にチャレンジし、そこで得た感動と成長をZ世代の読者諸君にも伝えたい!…そんな想いを込めた体験ルポ型の連載企画である。願わくば、ここで紹介するアダルトなイベントやスポットに若いあなたが少しでも興味を示してくれたなら、なお幸いだ。
『Beyond』読者である、先行きの読めない苛酷な現代社会をしたたかに生き抜くZ世代の皆さま、お元気ですか? 山田ゴメスと申します。わたしはそこそこ元気です。
ってなわけで、この原稿を執筆している今現在(※令和4年4月中旬時点)は、コロナ禍による緊急事態宣言もまん延防止等重点措置(=まん防)も全国的に解除され、一応、日本国内もにわか活気を取り戻しつつある。
けれど、得体の知れない新型コロナウイルスの脅威にまだ全世界が翻弄され、テレビや新聞、インターネットに流れるニュースの大半がコロナ関連で埋め尽くされていた2年ほど前は、公私ともどもライフスタイルにもあらゆるかたちでの制限がかかり、「他者とのコミュニケーション活動ができないなら、せめて自身のスキルアップや日常の充実に時間とお金を投資しよう!」といった、ある種の「自分磨きブーム」──ややカラ元気に近いポジティブな空気がただよっていた。
わたしもその例外に漏れず自宅に引きこもり、「己(おのれ)を見つめ直す絶好のチャンス!」と孤独にみずからを鼓舞しながら、コロナ以前だと飲み会やら合コンやらに忙殺されていたはずの有り余る時間を、(仕方なく)読書や(WOWOWが放映する)映画鑑賞や思索に費やしていた。
こうしたさなか、本格的に取り組みはじめた“勉強”の一つが「温泉」だ。
昔から、あちこちの温泉旅館やスーパー銭湯に足を運ぶのは好きだった。でも、本当に好きだったのは入浴後にそこでいただく料理やお酒のほうで、正直なところ温泉は“ついで”でしかなかった。ぶっちゃけ、大浴場さえあれば水道水を沸かしたお湯でも全然平気だった。そんなわたしがなぜ……???
理由は、長年懇意にしているMさんから
「温泉マイスターの資格を別府まで取りに行かない?」
……と誘われたからにほかならない。2020年10月の話であった。ちょうど第何波だかのコロナ禍が落ち着きだしたころで、「Go Toトラベル」キャンペーンによって、政府も少人数の国内旅行を推奨していた時期だったと記憶する。
別府の温泉巡りも兼ねて資格取得──なかなか悪くないプランではないか。「行く行く!」と、小柳ルミ子ディナーショーのときと同様(笑)、二つ返事で快諾した。わたしは他人があらゆるお膳立てをしてくれたら、突如腰が軽くなる便乗型の性格なのだ。「温泉マイスター」という肩書きがつけば、今後の仕事にもいろいろと広がりができそうだし……。
温泉系二大メジャー資格「温泉ソムリエ」と「温泉マイスター」
「温泉保養士」「温泉観光士」「温泉観光アドバイザー」……etc.と、「温泉」と名のつく資格はいくつもあるが、なかでもメジャーなのは「温泉ソムリエ」と「温泉マイスター」の二つだ。
とくに、「温泉ソムリエ」はメディアでもたびたび取り上げられている注目の民間資格であり、手軽に温泉についての体系的な知識を得られるため、多くの温泉愛好家からの人気を集めており、資格保有者は全国で13,000人以上とも言われている。わたしが長年懇意にしているMさんもその一人だ。
「温泉ソムリエ」は、約半日かけて行われる「温泉ソムリエ認定セミナー」を受講するだけ──すなわち、試験なしで資格を取得できるのが最大の魅力であり、セミナーは全国の主要都市において定期的に開催されている。
受講費用は26,400円(税込)。ワインのソムリエなどとは違って、ややこしい受験資格の条件も一切なく、「温泉ソムリエ協会」のトップに君臨する「家元」の講義を一度聞いただけで、誰でも協会から認定証とオリジナルタオル……それに「ソムリエ」という“ハク”をいただくことができる。西村知美、釈由美子、テリー伊藤、ダンディ坂野、スギちゃん、アントキの猪木(※モノマネ芸人。アントニオのほうではない)……と、芸能人の保有者が多いのも、そのカジュアル感ゆえなのかもしれない。
一方の「温泉マイスター」は、「別府温泉地球博物館」が主催する講習会を受け、さらには筆記試験と実技試験を突破しなければならない。
「温泉マイスター検定」は年2回、春(2月)と秋(10月)に大分県別府市で開催され、温泉関係の資格では最難関とも言われている……らしい。別府の温泉&グルメ旅も楽しみではあったが、それにも増して「温泉系資格では最難関」というフレコミが、わたしのハートの奥底に眠る負けず嫌い(※ゴメスの本名は「勝也」)に火をつけたのだ。はたして、どーなることやら……?
受験時代の苦しかった想い出が次々と…!?
わたしが参加したのは2020年10月11日の日曜日に行われた「秋の検定」で、受験費用は講習会・検定料・テキスト代・認定発行費用込みで15,000円(税込)。9日の朝イチに大分空港へと乗り込んで、11日の夕方に空港を発つ二泊三日の“検定旅行”であった。
行きの飛行機で初めて、全84ページにわたる『温泉マイスター検定テキスト』を開く。
初めて開いて、その凄まじい量の専門用語の連続に、ぞっと背筋が寒くなった。ネット上には「受験者の合格率は90%!」なんて情報も流れていたせいか、気持ちのどこかでナメていた。
「コイツはマジメに勉強しなきゃ、ヤバいぞ!」
こうあらためてケツの穴を引き締める。あくまで「ちゃんと勉強してきた人たち」だけが集まったうえでの「合格率90%」なのである。さすが「最難関」はダテじゃない!
大分空港からレンタカーを借りて、午後1時ごろには別府市に到着。
出発前から(温泉学習もそっちのけで)下調べしていた「大分名物 とり天発祥の店」をうたう「東洋軒」で昼食を。絶妙な味付けの衣に包まれた鶏のモモ肉を少々酸味の効いた特製ダレにつけて食べる“とり天”は、前評判どおり絶品であったが、ビールはこれからの勉強タイムに悪影響を及ぼしかねないので、断腸の思いで我慢する。まるで、『少年ジャンプ』を親から取り上げられた受験生のようだ。
午後3時には予約していた旅館に到着。しかし、湯に浸かったら心身ともにダラダラとふやけてしまいそうなので、温泉も我慢して、さっそく再びテキストを開き、要点っぽい箇所に赤線を入れる作業からはじめてみる。
「要点っぽい箇所」が多すぎて、さっぱり頭に入ってこない──より正しい表現をすれば、どこが要点なのか特定すらできない。
焦りのあまり、あからさまに狼狽する情けないわたしの姿を見るに見かねて、Mさんが「コレ、使いなよ」と、ホッチキスで止められたA4のプリント集をポンと差し出してくる。2年分の「過去問(題)」であった。
大学受験用の赤本みたいなもので、2000円という高額に、わたしは購入をつい躊躇(ためら)ってしまっていたのだが、毎年問題の傾向はほとんど変わらないとのこと。マジ助かる!!! コレね、万一あなたも「温泉マイスター検定」を受ける機会があるなら、ケチらずに絶対買っといたほうがいいです。
とにもかくにも、ようやく「まずはなにから暗記すべきなのか」──そういうことが整理できてきた。受験時代に散々向き合ってきた“優先順位をせめぎ合う”感覚がほのかに甦ってくる。とりあえずは
「温泉とは、地中から出る温かい水」
……という定義を念頭に置いて、「鉱泉の分類法」から取り組んでみよう。
【鉱泉分析法指針による分類(略述)[平成26年改訂]】
(1)泉温の分類
冷鉱泉:25℃未満
低温泉:25℃以上34℃未満
(※34℃は熱くも冷たくも感じない温度)
温泉 34℃以上42℃未満
(※42℃は体にあまりよくない温度)
高温泉 42℃以上
(2)液性(pH)の分類
酸性 pH3未満
弱酸性 pH3以上6未満
中性 pH6以上7.5未満
弱アルカリ性 pH7.5以上8.5未満
アルカリ性 pH8.5以上
うん! なんとなく「温泉に詳しいヒト」チックになってきた!?
昼食も抜きで、試験開始ギリギリまでテキストとにらめっこ!
翌日10月10日の朝──いよいよ検定当日である。駅前にあった「ロッテリア」のモーニングセットで軽い朝食をとって(←脳への糖分補給!)、このときの会場であった「J:COMホルトホール大分」へと向かう。
指定された小会議室に入って、室内を見渡してみると……受験者は50人程度といったところで、性別・年齢層はバラバラ──おじいさんから20代の女性、10代半ばくらいの少年まで……と、バラエティに富んでいる。
この日のタイムスケジュールは、おおよそ以下のとおり。
10:00〜12:00 講習会
13:30〜15:00 検定試験(筆記・実技)
もちろん、講習会の段階から全員が全員真剣そのもので、ムダ口を叩く者は一人もいない。一言一句たりとも聞き漏らしてなるものか……と、誰もが講義に一心として耳を傾けている。
講習会後にはランチタイムを含む1時間半の休憩があったが、わたしは満腹状態で頭の回転が鈍ってしまうリスクを避け、昼食抜きで何度も何度もテキストを、穴が空くほど見直した。
それこそ高校や大学受験のときと同様、筆記試験の問題用紙が配られるギリギリの時間までテキストを閉じずに粘った。
すると! 前方の席に座る人に配られた問題用紙のてっぺんに
「【鉱泉分析法指針による療養泉の定義】として、溶岩物質(ガス性のものを除く)」の総量は[ ]mg以上]
……という設問が、一番後ろの席だった私の目に入った……ような気がした。
うわ! ホンの数秒前チェックした箇所やん!? 正解は「1000mg以上」。超ラッキー!! 合格ラインはかなりの高点数で、「(100点満点中)80点以上とも85点以上」とも噂されている。ここでの一つのミスが致命傷になることだって充分にありうるのだ。
ちゃんと勉強しなければ100%落ちる!?
ほぼ時間どおり、午後3時に「2020年度 秋の温泉マイスター検定」は終了し、わたしとMさんは会場近くにあった喫茶店に入る。受験生のささやかな楽しみの一つ──「答え合わせタイム」である。問題用紙はそのまま持ち帰り可だったので、かなり正確な獲得点数を弾き出すことができた。
受験後の率直な感想は……? やはり、テキストをはじめて開いたときとまったく同じ……いや、いっそう強く確信できた。
ちゃんと勉強すればさほどハードルも高くない(気もする)が、ちゃんと勉強しなければ100%落ちます!
ちなみに答え合わせのすえ、「ちゃんと勉強しなかった一夜漬け派」だったわたしの筆記試験は、推定「78点」……くらいだった。「湯桶にある3つのお湯を匂いと肌触りだけで当てる」という、テキストでは正解を導き出すことができない実技試験3問の出来次第で合否が決定する、微妙なラインである。
……とは言え、もはや済んでしまったこと──時間は元に巻き戻せない。せめて、残り時間は「別府」の“湯”と“食”をたっぷりと堪能しようじゃないか……と開き直り、わたしとMさんはレンタカーに乗って、街へと繰り出したのであった。
さて。そろそろこのあたりで今回もルポの総括をしよう。ズバリ!
「温泉マイスター検定を兼ねた別府の温泉巡り旅」
……むっちゃオススメです!
一つは、大分県の海の幸と山の幸を存分に味わい尽せること。
さらに一つは、大分県は源泉数・湧出量ともに日本一で、なかでも「別府」は塩化物泉・炭酸水素塩泉・硫酸塩泉・硫黄泉……ほか、7種類もの泉質を楽しむことができる屈指の温泉地であること。
あと、なによりも「受験勉強に四苦八苦し、答え合わせに一喜一憂していた思春期のあのころ」特有のピリピリとした切迫感を程良い塩梅で体感できるのが、ノスタルジックでたまらない。
仮に、不運にも「不合格」の憂き目に合ったとしても……「一度チャレンジしてみる価値は間違いなくある!」と、わたしは淀みなく断言したい。
【後日談】
約2週間後──「別府温泉地球博物館」のホームページにて、このたびの「温泉マイスター検定」の合格者が発表され、なんと! わたしの名前があった!!
その数週間後には、同団体が「温泉マイスター」の証(あかし)として公式に贈与してくださる「認定証」と「バッヂ」が自宅へと届いた。
「なんかトロトロしてる」だとか「なんか硫黄臭い」だとか「なんか鉄っぽい匂いがする」……くらいの根拠のみから半ば当てずっぽうで書いたちんぷんかんぷんの実技試験が、奇跡的にドンピシャだったのだろう。
心底うれしかった。下手すりゃ大学に合格したとき以来の大はしゃぎっぷりであった……が、今回わたしにこんなにも多大なる感動のきっかけを与えてくださったMさんは、残念なことに不合格だった。
まさかの結末! すでに「温泉ソムリエ」の資格を持つMさんの場合、もしかしたらその豊富な知識が逆にアダとなり、設問の一問一問を裏読みしすぎてしまったのもしれない。
Mさん……本当にごめんなさいm(__)m そして、ありがとうございました!!!