アラカンのベテランライターが老体に鞭打ちながらも「考えるな! 感じろ!」と自身を奮い立たせ、あらゆるジャンルの「新しい経験」にチャレンジ! そこで得た感動と成長を、Z世代の『Beyond』読者諸君にもお伝えすることを旨とする体験ルポ型の本連載──第9回目は、日本チア界の第一人者として名高い西沢モトさんが率いるプロチアリーダーチーム「TEAM☆SPARK」に “一日仮入部” し、チアガール……ならぬチアボーイ・スピリッツをスパルタン(※←死語?)に注入していただいた!
10年ほど前、『解決!ナイナイアンサー』(日本テレビ系)という番組に「クセ者相談員」としてレギュラー出演していたことがある。お笑いコンビ・ナインティナインの岡村隆史さんと矢部浩之さんがメインMCを務め、ひな壇に並んだ一癖も二癖もある「相談員」らがゲストで呼ばれた芸能人の悩みに辛口で応じる……といった内容の、なかなかに異色で、それなりの視聴率も稼いでいたバラエティであった。
そこでのわたしは、おもに “特攻隊長” 的な役割で、新橋駅前だとか東大前だとかまでロケに向かい、通行人を捕まえてはさまざまなリサーチを行っていた。そして、いつもわたしの横に座っていた “ボケ役” が、「中野の秋元康」とのキャッチコピーを持つ、日本チアリーダー界の第一人者・西沢モトさんだった。
そのモトさんから、何年かぶりにこんなLINEのメッセージが入った。
「ゴメちゃ〜ん! 元気?」
「久々、またなんか一緒にしよ〜よ!」
モトさんは、いつも唐突かつ気さくで陽気だ。いきなり「またなんか一緒にしよ〜よ!」って言われても……「ですね。ぜひまたご一緒したいですね〜(ハートマーク)」と、いかにも社交辞令な文面を返そうとした直前、パッと閃くものがあった。そうだ! この「大人の社会見学」があるじゃないか、と。さっそく
「コレコレこーいう企画がありまして、よろしければチアボーイとして体験取材させてもらってもいいですか?」
……と、LINEで訊ねてみたら、
「おっけ〜(ハートマーク)」
……と、お気楽このうえない快諾の返信が、「よろチクビ」と踊るサルのスタンプとともに数秒後、届いた。
かつてはハリウッド女優の9割強がチア出身だった!?
約束の当日。丸の内線の中野新町駅から徒歩約5分の位置にあるショッキングピンクのビル──プロチアリーダーチーム「TEAM☆SPARK(チーム・スパーク)」を柱とする芸能プロダクション「東京MSSエンターテインメント」にお邪魔すると……。
「いやぁ〜〜〜っ、ぶっちゃけコロナの時期はウチも大変だったよ〜! イベントがゼロの日が何ヶ月も続いちゃったりしてさ…」
西沢モトさんが開口一番、こう嘆く。内容こそネガティブだが、不思議と悲壮感はただよってこない。つらいことを明るく伝える──。
「いいかげんをイイ加減に!」
……を座右の銘とするモトさんの真骨頂といったところだろう。
「ここ数年は “笑うこと” 一つとっても、思いっきりがなかったっていうか…誰もが表情筋も固まっちゃってたでしょ? だから、そろそろ世の中が溌剌とした“若々しさ” と “元気” を、チアに求めはじめてきてるんじゃないかな?」
その時代分析は、たぶんおおよそ正しい。けれど、「世の中が求めている “若さ” と “元気” =チア」という公式は、いささか飛躍しすぎな気もしなくはない。
「影がまったくないのがチアの最大の魅力! もう “脳天気” ってくらい徹底的に明るい。そんな心底から脳天気なマインドこそが負の連鎖やオーラを払拭できる。ちまたの暗い雲を、太陽や爽やかな風の力で吹き飛ばし、明るさと暖かさを取り戻すのがチアなのよ」
もちろん「脳天気=バカ」という意味ではない……と、モトさんは注釈する。
「チアリーディング発祥の地であるアメリカだと、20年ほど前まではハリウッド女優の9割強がチアの最高峰とされるNFL(アメリカンフットボール)出身だった。とにかくビジュアル・インテリジェンス・マナー・スマイル……と、あらゆる面で最高レベルの女性が集まっていた…。自己管理能力に優れているという点も含めてね。
彼女たちは、アメリカ国民の代表であり、憧れであり、必然としてスター街道に乗っていくスタイルが一つの王道としてあったわけ。
そりゃ色気は必要ですよ! あくまで健康的な色気。これが大事!! チアって露出はしているけど、陰湿さや淫猥さがないでしょ? 鍛えられた身体の線のキレイさだとかさ…。そういったものに日本人女性特有のきめ細やかな気配りなども兼ね備え、いまだ世界で前例のないかたちで表現できるのがジャパニーズ・チアの可能性だと、僕は信じています」
モトさんの口から、こんなにも熱くて真摯なセリフが出てくるとは……と、ちょっぴり戸惑ってはしまったものの、なるほど言わんとすることはなんとなく納得できる。しかも、澱みがない。
チアダンスはアイドルダンスよりもアスリート寄り?
現在、「TEAM☆SPARK」に所属しているのは、20歳〜30代後半までの約20名。正式には女性のみで、年齢は不問。学生でもOKであるらしい。
「TEAM☆SPARK」メンバーの皆さん。
しかし、率直な話……彼女らメンバーはチアの仕事だけで食べていけるのだろうか?
「これだけで食っているのは4~5人ほどかな? イベントのギャラでやっと食べていけるのが現状。あとの子は、いろんなアルバイトをしながら生計を立てている。(ほかの会社の)正社員になっている子はいない。急な仕事も入ってくるので、正社員をやりながら同時にやっていくのはきびしい。仮に一年契約をして、無理だと思えば自分の道を選べばいい。契約している期間はウチを第一に考えてもらうようにしているから、辞めていく子も多いんだけどね…(苦笑)」
「声を出す」「自分を表現する」「笑顔を絶やさない」「規律を守る」「礼儀正しくする」、それに「着替えのスピード」……と、「芸能の基礎」のすべてがチアには詰まっている──チアの技術と精神を身につければ、ベクトルを少々変えるだけで歌やダンスだけのユニットなんてすぐにできると、モトさんは胸を張る。
「チアは、いつでもお客さまと近い距離での活動がメイン。テレビやYouTubeといったメディア中心には動いていない。コレだけは体質上、どんなに売れても絶対に変わりません!」
たとえば、AKB48グループや歌って踊れる韓流アイドルグループなどと、ダンステクニック的な面で違いはあるのだろうか。
「んん〜〜〜っ…だいぶ違うと思う。AKB系とか坂道系のダンスは“歌ぶり”といって、いわゆるダンスが歌手寄り、アイドル寄りなのよ。実際、彼女たちって、どことなく体がふにゃふにゃしてるよね? ファンありきゆえ、あまり鍛えすぎるのはよくないと考えているフシさえある。
一方の我々は、一貫してチアダンスがメイン。筋力を使ったアームモーションやレッグモーションをしっかりとやっていて、どちらかと言えばアスリート寄りだったりする。とにかく、人前で最高のパフォーマンスを見せるため、極限まで肉体を鍛え、そういう体が美とされている。マドンナもレディー・ガガもそうでしょ? ある意味、発想がアメリカ的なのかも…」
楽しそうに踊ればそれだけでOK!
ってなわけで、いよいよ「体験チアボーイ」のスタートである。
近ごろは、ダンスブームなのか、一糸乱れぬ振り付けでとても高度で難解なパフォーマンスを披露するダンスユニットもメディアでよく目にする。スポーツは野球とテニスとボクシング(を少々)しかできない、まるっきしの “ダンス未経験者” のわたしなんぞでも「TEAM☆SPARK」に(一日)加入できるものなのか???
「ダンスを専門とするユニットは目的が “自己表現” だから、ついマスターベーション的になりがち。対するチアリーディングは “お客さまのテンションを上げること” ありきで、その目的を果たすためにダンスの要素を取り入れているわけだから、まずは楽しそうに踊ってくれたら、それで大丈夫!」
メンタルの部分で、チアに必要なのは「一に素直、二に素直、三・四がなくて五に素直!」──それだけだと「中野の秋元康」は断言する。フィジカルの部分は、やる気さえあれば90歳のおじいちゃんでも筋力は確実にアップする。そこに「寝る」と「食べる」を加えたら、もうパーフェクトなのだそう。
「あと、できれば常に音楽は聴いていてほしい。そうやって自分の体の中にリズムとグルーヴができ上がってくれば、振り付けなんて簡単に覚えられる。音楽のジャンルはなんでもかまわないから」
音楽は、18歳でドラムを始めて以来、約40年間──毎日欠かさず聴いている。が、わたしが聴くのはJAZZとかクラシックとかサンバとかキューバンミュージックとかばっかりで、8ビートモノは昭和歌謡以外とんと疎かったりする。けっこうな偏りっぷりではあるものの……まあ「聴いてない」よりはマシだろう。
なにを着て踊ればいいのかもサッパリわからなかったので、とりあえずはゴメスなりの「エアロビクスダンス風」コーデとして、黒のノースリーブとピタピタのハーフサイズスパッツでキメてみた。モトさんが着ている、どこで売っているのかすら見当もつかないショッキングピンクを基調とするパーカと比べたら、地味めな「黒」を選んだのはミステイクだったか……と猛烈に後悔する。
“本番” に入る前に、「入門編」とされる簡単な振り付けのレッスンを15分ほど受ける。
(原則として)チアダンスは、これらいくつかの基本的な動きのリフレインで構成されており、上級者になるほど、その組み合わせやユニゾンにテクニカルなアレンジが施されていくらしい。
“たった” 5分程度ダンスしただけなのに、たちまち息切れして膝に手をついてしまう……。
「活気」「元気」「勇気」!
ほとんど “ぶっつけ” のかたちで、 「健康的に露出」したチームユニフォームに着替えた「TEAM☆SPARK」の皆さんに混じり、 “本番” に備えスタンバイする。
今回、わたしがチャレンジする演目(?)は、約1分30秒──バックミュージックはビル・ヘイリーが1954年にリリースした、あのロックンロールの名曲中の名曲『Rock Around The Clock』だ。
曲がはじまると同時に、先ほど教えてもらった振り付けはキレイさっぱりと脳内からすっ飛んでしまう。やはり、一度や二度のレッスンだけで身につくような代物ではなかった──チアにかぎらず野球だってテニスだってドラムだって、幾度も幾度も修練を重ね、120%の技能を習得しなければ人前で100%のパフォーマンスは発揮できないというシンプルな真実をあらためて痛感する。
鏡に映る他のメンバーの流暢な動きに、見よう見まねで必死に付いていく──きっちりと周囲とは半テンポずつズレた滑稽なダンスではあったものの、どうにか踊り終えることができた。
最後には、
「活気」「元気」「勇気」
……さらには、サプライズとして
「山田」「ゴメス」「ハートマーク」
……のプラカードが!
ヘトヘト……をとうに通り越した完全に酸欠状態で、しばらくはしゃべることさえできなかった。「TEAM☆SPARK」の皆さんは、一人たりとも息ひとつ切らしていない。
1時間や2時間、ほぼ休憩なしのぶっつづけで踊らなければならないこともザラなんだとか。我が愛する阪神タイガースの「Tigers Girls」も、試合開始前のセレモニーから試合終了後まで、下手すりゃ4〜5時間、ずっと踊りっぱなしだったりする。
「チアリーダー」とは、ウィキペディアには「(おもに)スポーツにおいて応援を先導するチーム」とあった。
そして、応援する側であるチアメンバーたちもまた、紛れもないアスリートであり、真剣に頑張っている人たちの、よりいっそうのモチベーション向上を後押しするには、あの松岡修造のようにタフなフィジカルと底抜けに天真爛漫なメンタルが不可欠なのである。
わたしの、このたびの誰に向けて贈ったのかはイマイチ判然としない、でもゴメスなりに全身全霊でチアダンスに込めたエールは、はたしてどれくらいの人に伝わったのだろう?
西沢 モト(にしざわ・もと)
1963年、ハワイ生まれ。スポーツモデルとして子役から活躍すると同時に、日本人離れした身体能力を活かし、ダンスを始める。1990年にエアロビクス全日本チャンピオンとなり、1991年にはエアロビクス世界選手権で4位に。2000年に中野区でプロチアリーダーチーム「TEAM☆SPARK(チーム・スパーク)」を柱とする芸能プロダクション東京MSSエンターテインメントを設立。以降、チアの育成をメインとし、イベントやお祭り、企業パーティ、テレビ企画などを対象に、制作や演出も含めてプロチアチームをパイに合わせて提供している。自らの媒体出演も多数あり、スキーの腕もプロ級!
東京MSSエンターテインメント:https://mss.bz
取材協力:東京MSSエンターテインメント