「今日は予定がないから、遠出しようかな」。多摩エリアは、そんな日の行き先にうってつけ。地元の人からコアなカルチャー好きまでに愛される名店がたくさんあるんです。
例えば、“穏やかな音楽”が集まるCDショップや、都内で唯一の木造映画館。どの店もオーナーが溢れるカルチャー愛を伸びやかに表現していて、とにかく個性的。一度その世界に浸れば、趣味が合う友達を誘って、何度も訪れたくなるはずです。
「本や映画、服などと触れ合うインプットの時間は、曲を作る上で欠かせません」。そう語るのはシンガーソングライターの荒谷翔大さん。今回はさまざまなカルチャーに浸れる5つのお店を体験。多摩の魅力を発見してもらいました。

荒谷翔大
1997年、福岡県生まれ。2023年12月にボーカルとほぼ全曲のソングライティングを手がけていたバンド・yonawoを脱退。2025年6月には最新曲「真夏のラストナンバー」をリリース。11月には東京、大阪、名古屋の3都市でバンド編成でのワンマンライブツアー「Last Number」の開催を予定している。
X:@araaraaratani
Instagram:@araaraaratani
公式サイト:https://aratanishota.com/
今回訪れた“浸れる”スポット
📍新月社/食文化研究所書店(国立)
📍雨と休日(八王子)
📍STAN(福生)
📍シネマネコ(青梅)
📍トルタンタロン(清瀬)
“ジャケ買い”確実な、まちの本屋「新月社/食文化研究所書店」(国立)
「3年前に福岡から上京してきたので、実は東京にはまだ詳しくなくて。多摩と聞いてすぐ思い浮かぶのは、多摩川くらい(笑)。それでも、なんだか親近感が湧く場所なんですよね。この商店街も、何度も訪れたような懐かしさがあります」
JR南武線「谷保」駅から5分。緩やかに時間が流れる商店街を歩くと、ずらりと本が並ぶ一角が。

元々は出版社「小鳥書房」が運営する書店だったこの店は、2025年に閉店。当時の面影を「新月社」と「食文化研究所」という異なるコンセプトを持つ2つの書店による複合店舗へと姿を変えました。

「地域ごとに根付いた“まちの本屋”の魅力は、店主の個性が選書に色濃く表れること」と語るのは、1階にある「新月社」のオーナー・笹井さん。商品のラインナップは詩集からエッセイ、小説など。ジャンルは違っても一貫したセンスを感じます。
店内の一角には、書店員志望の人などに棚の一部を貸すコーナーも。もともとは「小鳥書房」の常連だったという笹井さんらしい、“未来の本屋”を応援する試みです。


「アルバムと一緒で、本もタイトルと表紙のデザインに世界観が現れると思うんです。だから、書店でも第一印象で選ぶことが多くて。この中だと『now loading』という本にピンときました。精神科医で翻訳家の阿部大樹さんによる子育て日記のようです。優しいパステルカラーの表紙が素敵ですよね」

年季の入った木の階段を上ると、2階にあるのは「食文化研究所書店」。さまざまな地域を巡り、現地の食文化に魅力を感じた店主・洪さんが、その発信拠点としてオープンした場所です。世界各国のレシピ本や、アーティストによるアジア料理のリソグラフ作品などが並ぶ空間は、本屋なのにお腹が鳴りそう。

「洪さんに街中華の本をおすすめしてもらいました。食べたこともない外国料理のレシピ本から、表紙の時点で美味しそうな食のエッセイ集まで、どれも気になります!」
ジャムや調味料なども購入できるほか、不定期でバーイベントなども開催。読むだけでなく、実際に“味わえる”試みにも注目です。

好奇心をくすぐる本を何冊も見つけた荒谷さん。「買っちゃおうかな……」と思わず悩む声が漏れます。
「本を読んでいると、著者にとっては当たり前かもしれないけど、僕にとっては新鮮な言い回しに出会えたりする。そういうところから歌詞が思い浮かんだりするから、やっぱり言葉に触れることって僕には欠かせないんです」

新月社/食文化研究所書店
住所:東京都国立市富士見台1-8-15
アクセス:JR南武線「谷保」駅徒歩5分
営業時間:12:00~19:00 ※営業日時についてはSNSもご確認ください
定休日:火、水曜日
Instagram:
@shingetsusha
@food_culture_laboratory
週末をそっと彩る“穏やかな音楽”が集まる場所「雨と休日」(八王子)

京王線「北野」駅を出て15分。虫や鳥の鳴き声が心地よい緑道を「こんなところにお店があるんですか?」と半信半疑で移動。突然現れるロイヤルブルーの扉が、「雨と休日」の目印です。

2009年に西荻窪でスタートし、2019年に八王子へ移転したこのお店。有名レコードショップ出身のオーナー・寺田さんが“穏やかな音楽”をテーマに選んだCDが揃います。
「レコードやカセットではなく、CDというのが一周回って新しい。大好きなピアニストの高木正勝さんから、タイの少数民族の音楽まで! 最近気になっていたブラジル人アーティストのブルーノ・ベルリがCDをリリースしていたのも発見でした。アルバムの魅力を熱量たっぷりに綴ったポップを見ると、昔通っていたCDショップを思い出しますね」

試聴機でじっくり音楽と向き合うのもCDショップならではの楽しみ方。「実は今日、荒谷さんに聴いてもらいたい音楽があって……」と寺田さんが持ってきたのは、ギタリスト・坂ノ下典正がソロで演奏した1枚。収録は「雨と休日」の店頭で行われたのだとか。
「ギターの即興演奏と自然の音が混ざった、詩的なアルバム。このお店で聴くとより沁みます!」


カラフルなジャケットで一際目を引いていたのが、おなじみのアニメ「PEANUTS」のサウンドトラック。
「ヴィンス・ガラルディ・トリオというジャズバンドが演奏しているんですよ。実際の放送では使われなかったアウトテイクも入っていて。よりアドリブが効いた内容になっているらしいので、とても気になります。寺田さん、これ買います!」

「サブスクで聴いているだけだとなかなか出会えないCDばかり。好きなミュージシャンを追うのもいいけど、たまには『雨と休日』に足を伸ばして心を洗われたいです」

雨と休日
住所:東京都八王子市打越町777
アクセス:京王線「北野」駅徒歩15分
Tel:042-699-1245
営業時間:13:00〜17:00
定休日:月、木曜日(日曜日も不定休)
公式サイト:https://shop.ameto.biz/
Instagram:@ametokyujitsu
おにぎり専用ポーチ!? “斜め上”の欲しいに出会える「STAN」(福生)
JR青梅線「牛浜」駅から徒歩6分の場所にある「STAN」は、オーナー・小野寺さんいわく「自分が欲しいものを作っている店」。その言葉通り、つい衝動買いしてしまいそうな、捻りの効いたオリジナルアイテムが揃います。

まず荒谷さんが見つけたのが、アウトドアなどで用いられる軽量素材「ダイニーマ」を使ったリュック。
「身軽でいるのが好きだから、バッグを見るとつい欲しくなってしまいますね。とにかく軽くて頑丈だし、それでいてシンプルだから街でも使いやすい。『あのTシャツに合いそうだな』とか、想像が膨らみます」


ダイニーマを用いた手のひらサイズのポーチ「DCFおにぎりポーチ」も発見。読んで字のごとく、おにぎりがちょうど2つ入るように設計されているのだとか。
「登山の時なんかに使えそう。ポーチそのもののデザインもおにぎりっぽいのがかわいいです!」


スタイリッシュなデスク用品やペット用のベッド、端材を使った小物が手に入る1回500円のガチャガチャなど、全方向に気になるアイテムが並ぶ「STAN」。新商品は小野寺さんが“欲しいものを思いつき次第”追加されるとのことで、何度訪れても新たな発見がありそうです。
「棚の下にひっそりと置いてあった水草のスリッパに一目惚れ。コロンとしたフォルムがかわいらしいです。履き心地も良さそう!」

「福生は友達のミュージシャンの地元だから、一度訪れたことがあって。米軍基地のあるアメリカンな街のイメージだったから、『STAN』のような無国籍な雰囲気のお店があるのは発見。福生に足を運ぶ理由が1つ増えました!」

STAN
住所:東京都福生市熊川985-1 西東京マンション1F
アクセス:JR青梅線「牛浜」駅徒歩6分
メールアドレス:stan.store.info@gmail.com
営業時間:13:00〜18:00
定休日:不定休
公式サイト:https://stanstore.official.ec/
Instagram:@stan.store.tokyo
スクリーンの外もシネマティック。都内唯一の木造映画館「シネマネコ」(青梅)
「ここ自体が映画の舞台みたいですね」と驚きの声を漏らす荒谷さん。やってきたのは、JR青梅線「東青梅」駅から徒歩8分ほどの映画館「シネマネコ」です。
ここだけタイムスリップしたような風情ある建物は、昭和10年ごろに建てられた国登録有形文化財「旧都立繊維試験場」をリノベーションしたもの。東京で唯一の木造の映画館なのだそう。

木漏れ日が降り注ぐロビーには、上映作品のポスターがずらり。話題の作品から、少人数で撮影されたドキュメンタリー、世界各国の受賞作、過去の名作まで、幅広いラインナップが2週間に1回ほどのペースで更新されます。

「『サブスタンス』は映画好きの友達がおすすめしていたな。タイの『おばあちゃんと僕の約束』やデンマークの『愛を耕すひと』はアカデミー賞のノミネート作品なんですね! ……ってどれも面白そうで目移りしてしまいます。1日中ここで過ごせそう!(笑)」

豊富に選べるドリンクやフードメニューも特長。隣接するカフェではカレーやパスタ、ケーキなども提供されるので、上映前の腹ごしらえもできます。
「有機栽培のコーヒーにクリームソーダ……。ここでも迷ってしまいますね(笑)。悩んだ結果、今日はCINEMANEKO SODAにしてみました。建物と同じブルーが綺麗!」


自然の音が漏れて聞こえるロビーから一転し、シアターの中は心地よい静寂の世界。天井の高さや木の材質、広大な敷地を活かすことで、レトロな建築からは想像できないほど極上の音質を実現しているのも「シネマネコ」ならではです。
「今はパソコンやスマホでも見られますけど、大きな音で作品に没頭できるのはやっぱり映画館の特権。その場所が『シネマネコ』だったら、より特別感が増しそうです」


「好きな映画は今敏監督の『パーフェクトブルー』や『パプリカ』のような哲学的なアニメ作品。ストーリーや映像から普段生活している中ではなかなか得られない刺激を貰えて。「僕ってこんなことを思うんだ」と、自分の新たな一面に出会えるんです」

シネマネコ
住所:東京都青梅市西分町3-123
アクセス:JR青梅線「東青梅」駅徒歩8分
電話:0428-28-0051
開館時間:9:30
定休日:火曜日
公式サイト:https://cinema-neko.com/
Instagram:@cinemaneko_ome
老若男女の“ディグ欲”を刺激するカオス空間「トルタンタロン」(清瀬)
最後にやってきたのは清瀬市にある下宿エリア。静かな住宅街を歩くと、レトロな喫茶店の横に現れるのが、オブジェや家具、古着が溢れんばかりに並ぶカオスな空間。ここが2025年にオープンした「トルタンタロン」です。

ユニークな響きの店名について、オーナー・高橋さんはこう語ります。
「意味は、フィリピンの家庭料理であるナスのオムレツ。店の名前を考えるとき、たまたま食べていたんですよね(笑)。でも、なんだかリズミカルで覚えやすくないですか?」
“フィーリング重視”なエピソードを体現するように、取り扱うアイテムも独自の感性で選ばれたものばかり。アメリカを旅して仕入れた古着から、市場で毎週(!)買い付けるという骨董品まで。キャッチーで遊び心のあるラインナップを見れば、高橋さんいわく「下は5歳、上は93歳」という幅広すぎる客層にも納得です。

「このTシャツ、見てください! 葛飾北斎のような和っぽさとサイケデリックな色が絶妙じゃないですか? Ocracoke Island(オクラコーク島)って書いてあるから、リゾート地のお土産で売られていたのかもしれませんね」

「チェック柄をつなぎ合わせたシャツもあまり見たことないデザイン。ちょっとサイズが大きいかな。高橋さん、試着していいですか?」

スナックの跡地に作られたというこの店。コの字型のカウンターには色とりどりのグラスや招き猫、異国のオブジェまで、骨董品が所狭しと並びます。


「革のような素材でできたコースターを見つけました。手作り感のあるいびつなハートにグッときますね(笑)。羊の置物のもつぶらな瞳がかわいい。値段もお手頃だからここでも衝動買いしてしまいそうです」

「普段から古着をよく着るんです。買う時『生産国が』とか『〇〇年代の特徴は』などと理屈で考えるより、直感で選ぶことが多くて。『トルタンタロン』はそんな僕にぴったりなお店ですね」

トルタンタロン
住所:東京都清瀬市下宿1-124-14
アクセス:西武池袋線「清瀬」駅徒歩30分、西武バス「台田団地」駅徒歩2分、所沢ICから車で5分
メールアドレス:tortang.talong.vintage@gmail.com
開館時間:12:00〜19:00
定休日:水、金曜日
公式サイト:https://tortalo.base.shop/
Instagram:@tortang_talong_vintage
“五者五様”な店舗をめぐり、行く先々で「これ、買おうかな?」と本気で悩んでいた荒谷さん。様々な人や物との出会いを通して、創作意欲も刺激されたそうです。
「行く先々で欲しいものや素敵な空間と出会えて、純粋に楽しかったです。それぞれの土地で唯一無二の文化が育っていて、改めて『東京は行きたい場所がまだまだたくさんある』と思いました。それに、物やことに愛着を感じると、自然と言葉が沸き上がってくる。いい刺激を貰いたい時は、また多摩でカルチャーに浸りたいです!」

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