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WAKAYAMAごんぱち家族の移住日記

一子相伝よりレア話! 我が子にも教えぬマツタケどこにある?

author: 利根川 幸秀date: 2022/11/29

「WAKAYAMA」こと和歌山県へ移住した利根川一家。連載7回目を迎えた今回は、禁断の「マツタケ狩り」。そこには新参者には想像できないほどの隠語のような情報戦が繰り広げられ、笑顔で交わす話の中でそれとなくマツタケの生え場を探り合うという……。マツタケ長者を夢見るトネガワ氏を待ち受けるのは? マツタケ狩り極秘ツアー、開催です!(前編)


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パンチ力全開!マツタケ様の存在感

都会じゃわからぬ“マツタケ観”

「マツタケ食ったかー?」

マツタケシーズンに入る10月頃から、地元の人たちの間では、あいさつのようにマツタケ話が飛び交うようになる。以前に採った大きいマツタケや大収穫だった時の写真をスマホで見ながら、古き良き時代でも思い出すように話してくれる人も一人や二人じゃない。

その話にすっかり感心して「すごいっすねー! どこで採ったんすか!?」と、何も気にせず聞くと、さっきまでの多幸感に満ち雄弁だったトーンから一転。

「これ採ったのはだいぶ前やからなぁ…」(ガス屋さん)

「年々マツの木が枯れてるからの〜…」(近所のおいちゃん)

「あの辺の山を登って谷を下りてゴニョゴニョ…」(元役場職員)

と、的を得ない返事が多く、聞いてはイケナイことを聞いてしまったかのような微妙な空気が流れる。このなんとも言えぬゴニョゴニョ感の答えは、いろいろな人と“マツタケ話”をすることで少しずつ分かってきた。

それはいたってシンプルで、宝物(マツタケ)が埋まっている(生えている)場所は、誰にも知られたくないのだ。そこには都会ではわからない、田舎特有の“マツタケ観”が存在している。都会において高額な値段で売られているマツタケには、高級食材としての存在感は漂っているかもしれないが、それを探しまわって採る暮らしは漂ってこない。都会ではただの高価な秋の味覚なだけである。

しかし、田舎でマツタケは大枚はたいて手に入れるものではなく、早朝から険しい山に入り朝日を浴びながら「拝みたいの〜、拝みたいの〜」と、歩きまわりやっと出合えるありがたい存在なのだ。

自分で山に入れなくなったお年寄りにマツタケをあげると、涙を流して喜んでくれるのがマツタケの威力であり魅力。採った人も、もらった人も、みんなを喜ばせるミラクルマッシュルーム! それが田舎のプライスレスな”マツタケ観”だ。

マツタケ拝みたいのぉ〜と求め歩く。
「今年はマツタケ様がやってきた!」(妻・きみよ)

お値段以上のマツタケ話、都市伝説じゃありません。

名人クラスになると、1シーズン(約1ヶ月)で100万円以上採ることも珍しくないマツタケ。地元企業の社長さんは、「ワシはマツタケで専門学校を卒業させてもらったでなー」と、笑いながら話していた。

また、我が和歌山県本宮町に隣接する日本一大きい村、十津川村のマツタケレベルは半端ではなく、ひと昔前、マツタケのよく生える山を持っている集落はその山を集落共有の財産として止め山(入山禁止)にし、そこで採れたマツタケは全て集落のものとして、売ったお金を山分けにしたとの話だ。

それが多い時では1シーズン、1世帯辺り100万円以上にもなったというのだから、マツタケで専門学校や大学に行った話も大袈裟な話ではない。その話を聞かせてくれた本宮町のおいちゃんが、今年採ったマツタケ写真を見せてくれた。

「超デケー!」

思わずその巨大さに叫んでしまったが、隣にいた十津川の人はその写真を見ても驚くことなく「まぁまぁやな」と一言。得意気に写真を見せてくれたおいちゃんは「十津川は次元がちゃうからのぉー…」と、意気消沈を通り越し、羨望感いっぱいに呟いていた。

まさに十津川のマツタケレベルを感じた瞬間だった。またマツタケにはメンタル滋養効果もあり、普段、足腰が弱って買い物に行くのも一苦労と言っている人たちが、この季節だけはピシっと元気になって山に入り、ホクホク顔で帰ってくるのもよく聞く話で、マツタケフルネス効果を感じずにはいられない。

そんなマツタケに魅了されて、天に召される人も少なくないのも事実で、向こうに見える山を指差し、「誰それの兄やんが未だに見つかっとらんでー」とか、別の山でも「あそこにばあさんが一人で採り行って帰って来んくてなー、消防団やらみんなで捜索して見つかったのは10日後やった……」など、眉間にシワを寄せたくなる話も少なくはない。

年甲斐もなく山に入ったりするから、そんなことになるのかと思っていたが、実際にマツタケ採りに行ってからは命を落としてしまうのもうなずける気がした。

巨大マツタケ、まぁまぁレベルとは思えない
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2021年度は過去最高額1グラム/1万1850円の値がついた

マツタケ神拳、一子相伝より狭き門

マツタケ情報戦が繰り広げられていることなど、まったく知らずに過ごしていたマツタケシーズン。こっちで知り合った松平直太朗(仮名)さんに、「マツタケって松の木周辺を探したらあるんですか?」と聞くと「お前、マツタケ採りたいんか? 今度、一緒に連れてったるわ!」と、ぶっきらぼうに誘ってくれた。

山歩きや古道歩きに連れて行ってもらうくらいのノリで「今度マツタケ採りに連れて行ってもらうんです!」と地元の人に話すと、「連れて行ってもらえることなんて滅多にないで!」「自分の生え場を教えてくれる人なんか、ほんまにおらんで〜!」と、話した人全員に「よほどのことや!」と驚かれうらやましがられた。

まったくわかっていなかったけど、いわゆる”生え場”(マツタケがよく生える場所)に一緒に連れて行ってもらえることは珍しく、どうやらかなりのレアケースらしい。そういえば「我が子にもマツタケの生え場は教えない」と、地元の人が笑って語っていたことや、近所のおいちゃんとマツタケの話をしたときの、おいちゃんの謎の動き思い出した。

半径300m以内に僕たち二人しかいないような状況なのに、マツタケ話をする時だけ、やたら周りをキョロキョロ見回し、声をひそめて話をするのだ。その時は不思議に感じたけれど、マツタケ採りに連れて行ってもらう貴重さを知ってよく理解できた。親子間でも共有しないレベルのトップシークレット。

骨の髄まで染みついた習性なんだろう。宝くじが1億円当たったとき、人にバレないように振る舞う感じに近い感覚なのかもしれない。声をかけてもらってから日数が空いたので、忘れられたかと思っていた矢先に連絡があった。

「来週の金曜日、行けるか? 7時に道の駅や。足袋履いてこいよ。飲み物と腹に入れるもん持ってこいや」「はい! ありがとうございます!」いよいよデビュー戦の日は決まった。

後編へ続く

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フォトグラファー
利根川 幸秀

1978年埼玉育ち、99年にインドよりエジプトまで陸路で旅して、途中イスラエルで旅費を稼ぎ、2000年ハンガリーより帰国、その後も東南アジアなどバックパッカーしたのち、職人などを経て、2006年写真家・𣘺本雅司氏に師事。2010年フリーランスとして独立。雑誌、webメディア、ポートレート、家族写真等、多岐にわたり撮影。趣味:川遊び、ダム瞑想。2021年、家族で東京より和歌山に移住。
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