MENU
search icon
media
Beyond magazineでは
ニュースレターを配信しています
  1. TOP/
  2. 音楽/
  3. “名刺曲”、交換しませんか?
音楽

DJ2人が挑戦する、やさしい音楽談義

“名刺曲”、交換しませんか?

author: 山梨幸輝date: 2024/08/25

音楽の話って難しい。自分が好きなアーティストを相手も知っているか分からないし、もし共通点を見つけたとしても、「熱を込めて話したら引かれちゃうかな?」なんて考えてしまう。そんなふうに慎重になってしまうのも仕方ない、とも思う。音楽は自分たちを構成する大事な要素なのだから。

でも、だからといって、その話題を避けてしまうのももったいない。まずは「誰もが知っていて、自分も大好きな曲」「音楽を聴き始めるようになったきっかけの曲」 など、“名刺”のような音楽を教えあうところから始めてみたら、ハードルが下がるかもしれない。

そこで今回は、DJとして活動する矢部ユウナさんと奥冨直人さんによる、お互いの“名刺曲”をテーマにした対談を実施。音楽を通して交流を深めていく様子をお届けする。

矢部ユウナ

1997年、静岡県生まれ。雑誌のオーディションでグランプリを獲得しモデルデビュー。2017年にDJとして活動をはじめ音楽フェスやクラブイベント・パーティーに出演。音楽や古着をテーマにしたYouTubeチャンネルも不定期で更新中。

Instagram:@yunaaay1030
X:@yunaaay1030
YouTube:@yunayabe


奥冨直人

1989年、埼玉県生まれ。“FASHION&MUSIC”をコンセプトにした渋谷のセレクトショップ『BOY』のショップオーナー。DJ TOMMY(BOY)として、全国各地にわたり幅広い選曲と激情的なパフォーマンスで精力的に活動中。

Instagram:@tommy_okutomi
X:@TOMMY_okutomi

J-POPからエモロックまで。奥冨さんの“混沌”な名刺曲

──DJとして活躍しているお二人ですが、以前から交流はあったのでしょうか?

矢部さん:何度か現場でご一緒したことがありますね。奥冨さんといえばJ-POPを流す人のイメージ。初めてお目にかかったのは4、5年前くらいなのですが、背中に巨大な羽飾りをつけて大量のCDをガサガサしながら選曲する姿が衝撃でした。

奥冨さん:今とやっていることがそんなに変わらないな(笑)。ユウナちゃんは90年代の曲をよくかけているイメージ。でも音楽について深く話したことはないよね。

fade-image

──今回はお二人に7曲ずつ挙げてもらった名刺曲をテーマに話してもらおうと思います。最初は奥冨さんから教えてください。

奥冨さん:まずはMr.Childrenの「HANABI」BUMP OF CHICKENの「天体観測」。バンドを好きになったきっかけとも言える2組で、DJでもよくかけます。特に「天体観測」は僕のアンセムとも言える一曲かな。

矢部さん:奥冨さんが音楽を聴くようになったのはいつ頃なんですか?

奥冨さん:小学生の時かな。テレビっ子が音楽好きになる王道パターンで。当時は民放で音楽バラエティーが毎日のように流れていたんだよね。定番だけど、「HEY!HEY!HEY!(MUSIC CHAMP)」「うたばん」「Mステ」とかを見ていたな。

矢部さん:ミスチルやバンプもその流れで出会ったんですね。どっちも最高な曲!

奥冨さん:3曲目はaikoさんの「ボーイフレンド」。小学生の時から好きで、歌詞のたくましさと繊細さにグッとくるんだよね。それと、単純にこのイントロでテンションが爆上がりする。aikoさんの楽曲は、何回聴いても「このパートってこんな音作りしているんだ」と新鮮な発見があるんだよね。

矢部さん: いつの時代に聴いても好きと言える曲が名刺曲なのかもしれないですね。

奥冨さん:次はサカナクションの「ミュージック」。いわゆるアリーナクラスのメジャーバンドであそこまで玄人受けするダンスミュージックを発表し続けるって本当にすごいなと。名刺曲を通して「ポップな音楽が好きだ」ということを知ってもらいたいけど、その一方でコアな部分に惹かれていることも伝えたいなと思った。

矢部さん:奥冨さんはどういう音楽が軸にあるんですか?

奥冨さん:ずっと好きなのはオルタナティブロックだね。あとは2000年代に流行した、電子音楽とロックが融合したサウンドからも影響が大きかった。サカナクションもその延長線上にいるね。くるりもダンスミュージック色が強まった時期にテレビCMで見て知ったな。

fade-image

その流れとは違うけど、くるりの「東京」は名刺曲。当時僕らが使っていた方の“エモい”という言葉の意味にぴったりなんだよね。シンプルなバンドサウンドなんだけど、徐々に激しくなるような展開がどこか切なくて。この“エモ”の感覚がわかってくれる人がいたらシンパシーを感じそう。

矢部さん:エモいってそういう意味もあるんだ! こうやって話を聞いていると、「他にはこんな音楽も聴いてそう!」って想像が膨らみますね。

奥冨さん:そうそう。あとは人から紹介された曲が自分に欠かせないものになることってあるよね。それでいうと、僕はもともと2000年代の海外のR&Bやヒップホップを経由してこなかったんだけど、8年前くらいに男友達がカラオケでAlicia Keysの「If I Ain’t Got You」を歌って、それがめちゃくちゃよかったんだよね。それから定期的にこの曲を聴くようになった。でも、アリシアもいいけどやっぱり彼のが聴きたい(笑)。

矢部さん:名刺にさせてもらった曲といえますね。あと、ここで急に洋楽が入ってくるのも面白い。

奥冨さん:洋楽もテレビをきっかけに聴くようになったな。夜更かしするようになった中学生ぐらいから深夜の音楽番組に夢中になって。他の時間帯と違って音楽チャートを50位ぐらいまで紹介してくれるから、国内外のちょっとコアな曲にも興味を持った。その頃から好きなのはWeezerの「Perfect Situation」。これもまた“エモい”! 世間的に超名盤とされている1st、2ndではなく、あえて5thアルバムに収録されているこの曲を選ぶ感じも、理解してもらえたら距離が縮まりそう。

──奥冨さんの名刺曲を聴いてどう思いましたか?

矢部さん:私はバンドに詳しくないけど、それでも「わかる!」と思えるものが多かったです。あと、ハイテンポな曲に混じってアリシアのバラードが入っているところが人間っぽい(笑)。

奥冨:なんだか混沌としているなって自分で思ったよ。

矢部さん:そこも含めて奥冨さんっぽさです(笑)。

古着&90’s好きのルーツ。矢部さんのスタイルを作った7曲

──次は矢部さんの名刺曲を教えてください。

矢部さん:1曲目はTLCの「baby baby baby」ですね。実は私、小学生の頃にちょっとだけダンス教室に通っていたことがあって。そこの先生に「ファッションが可愛いからチェックしてみて」と言われてTSUTAYA でレンタルしたのがTLCのファーストアルバム(「Ooooooohhh... On the TLC Tip」)でした。ジャケットのBガールファッションがとにかくイケてるんです! それから地元の静岡の古着屋に通って90年代のお洋服を買い始めて。音楽からファッションまで今の私を形作る曲ですね。

奥冨さん:音楽が服の趣味に影響されることってあるよね。僕も一時期はオルタナティブロックのバンドTばっかり着ていた。

矢部さん:次はLauryn Hillの「Ex-Factor」。上京したての時に行った渋谷のクラブ『THE ROOM』で流れていて。もともと好きな曲だったけど、その場にいた知り合いに「この曲は和訳すると女性の強さがわかる」と言われたんです。後で歌詞カードを読んだら「私よりも若いのになんでここまでしっかりした恋愛観を持てるの?」と感動して。私が自分の意思を言葉で伝えるのが苦手なこともあって、TLCが憧れの存在になりました。洋楽も歌詞まで楽しむようになったきっかけの曲でもありますね。

3曲目は「BLACK STREET」の「Happy Song(Tonite)」。「レコードに針を落としてハッピーにいこうぜ」とポジティブに歌っている曲ですね。私もそんなスタンスで生きていたいなと思わせてくれるんです。

奥冨さん:僕のaikoじゃないけど、音楽性の好みが合うだけじゃなく、歌詞に共感できるのって大事だよね。同じところで「わかる!」と思ってくれたら仲良くなれそうだなと。

矢部さん:次はEVISBEATSさんの「いい時間」ですね。

奥冨さん:今までは90年代のR&Bだったけど、これはユウナちゃんの世代って感じがするね。

矢部さん:ドンピシャです! それまではジャンルを意識せずにひたすら好きな音楽を聴いていたんですけど、ある時に「いい時間」を知って。なんとなく90年代のR&Bの流れで耳にしていたヒップホップとは全然違うゆるさで、「これもヒップホップなんだ!」と私の中の既成概念が崩れたんです。それから日本のヒップホップを掘るようになりました。

fade-image

奥冨さん:ゆるいヒップホップに衝撃を受ける時期って一回はあるよね。

矢部さん:次はtofubeatsさんの「衣替え feat. BONNE PINK」。最初は季節の変わり目にちょうどいいくらいのイメージだったけど、何度も聴いていくうちに気持ちを切り替えて前を向こうとする歌詞に思えてきて。のんびりした私好みな曲調でリラックスできるんですけど、勇気ももらえますね。

奥冨さん:ユウナちゃんはどういうシチュエーションで音楽を聴くの?

矢部さん:せっかちな性格なので、落ち着かなきゃ! と思った時が多いですね。以前、ジムに通っていた時は自分を追い込むためにアップテンポを聴いたけど、最近はあんまり。基本、自分を甘やかしてしまうタイプなんです(笑)。

6曲目はORIGINAL LOVEの「接吻」

奥冨さん:この曲は1993年のリリースだからユウナちゃんの世代ではないよね。

矢部さん:そうですね。でもなぜか聴き馴染みがあるんです。誰かがDJで流していたのかもしれないけど、気づいたら当たり前のように好きになっていて。いつ聴いてもこんな素直で素敵なラブソングがあるんだ! と思います。

奥冨さん:もはやクラシックといえる曲だよね。僕は中島美嘉のカバーで知ったなぁ。

矢部さん:絶対に盛り上がるからよくDJでもかけますね。次は久保田利伸さんの「LOVE RAIN」。心地よいリズム感の曲ですね。地元が一緒で、ママが昔からファンなんですよ。久保田利伸さんってライブがとにかく良くって、特に開演前が面白いんです。ミラーボールが回ってて、DJ DAISHIZENという方がディスコソングをかけている。高校を卒業したぐらいの頃に親子でライブに行った時、ご機嫌なムードに衝撃をうけましたね。あんなに楽しそうに踊るママを見たのは初めてでした(笑)。

奥冨さん:TLCも久保田利伸も、国やジャンルが違ってもブラックミュージックにルーツがあるのは共通しているね。ユウナちゃんの名刺曲はいい感じにニュアンスがまとまっていて「こういう方向性が好きなんだな」ってわかりやすい。

矢部さん:ここまで音楽について広く話すことってなかなかないから面白いです。

コアな趣味はどんな感じ? 二人の“プライベート曲”

──「他の人に話す機会がないくらいコアだけど、実は大好き」な“プライベート曲”という概念も考えてみました。名刺曲を通してお互いの趣向がわかったので、次はそちらについても聞いてみたいです。

矢部さん:R&Bとは全然違うけど、スペースディスコが大好き。

──1980年代ごろに登場したダンスミュージックですね。近未来感のあるシンセサイザーの音色や独特な効果音が特徴です。

矢部さん:私がスペースディスコを感じるのはTodd Terjeの「Inspector Norse」。出だしの音から“宇宙”って感じで最高なんです! 聴いているうちに心が別世界に持っていかれそうになるんですよね。奥冨さんはどうですか?

奥冨さん:名刺曲として紹介したのはいわゆる“歌もの”だったけど、僕が『BOY(奥冨さんが経営する渋谷のセレクトショップ)』でBGMとして流しているのはアンビエントが多いんだよね。

──音数を削ぎ落としたミニマルミュージックの一種ですね。

奥冨さん:環境音楽だったりBGMとしても耳馴染みがいいイメージだけど、ポップなものから実験的で難解なものまでいろいろあって。そういうのを掘っていくのが楽しいんだよね。Spotifyはその年ごとの一番聴いた音楽ランキングを作ってくれるけど、僕の去年のアルバム部門1位はLaurel Haloの「Atlas」だった。これだけを一日中流した日もあったし、こういう感覚に居心地の良さを覚えてくれる人は信頼できるかもしれない。

矢部さん:心地よくて深海にいるような気分になれますね。名刺曲について話してからコアな音楽を教えてもらうと、「こういう一面もあるんだ!」と発見があります。どうせなら“プライベート曲”もセットで話した方が楽しくなりそうだなと思いました。

fade-image

楽しいけど、最初の一歩が踏み出せない。“音楽の話”の話

──最後に、今回の企画を考えたのはSNSで話題になっていた塾講師の方の投稿がきっかけでした。その方曰く、生徒の高校生に「何を聴いてるの?」と聞いても答えが返ってこないことがあると。それは音楽がプライベートな話題だからなのではないか、との分析でした。音楽で親睦を深めることについてどう思いますか?

奥冨さん:その人が言っていることはわかるようで、ちょっと歩み寄りが必要な部分もあるなと思って。実は去年、高校の文化祭でDJをやったんですよ。生徒達がライブするイベントに僕も参加させてもらった形で。軽音部がない学校だったから機材の相談に乗ったり、セッティングを手伝ったりもしたんです。それで当日、生徒のステージを初めて見たらルーパー使ってエド・シーランを弾き語りしたりとか、クオリティが想像以上に高かったんですよ。

fade-image

矢部さん: 音楽に相当詳しくないとできないことですよね。

奥冨さん:でも生徒たちと最初に顔合わせした時、僕が「どんな音楽を聴いてるの?」と聞いたら、なかなか話し出せない雰囲気があって。そういえば僕の高校時代も「こういうアーティストが好きです!」とは切り出しにくかったかもと。あの年代だとコミュニティが既に固まってるから、他のグループにいる「話したら多分音楽の趣味が合うんだろうな」みたいな人と仲良くならないまま卒業しちゃったりして。どっちかが歩み寄れば距離は縮まるはずなんだけどね。

──音楽好き同士であっても、共通の話題で盛り上がるのは意外と難しいですよね。

矢部さん:私の場合、高校時代はジャニオタだったから、同じドラマを見ている人同士で「あの主題歌いい曲だよね」って盛り上がったりもできたな。

fade-image

奥冨さん:それも今は昔より難しいのかもね。コンテンツが溢れているから共通の話題を見つけにくそう。あとは好きなものを直接言うよりSNSに書く人が多いような気がする。プロフィール欄にジャンルやアーティスト名をスラッシュで区切って書いたりね。でも、それも情報量が多すぎると伝わりにくかったりするんだよね。

──音楽の話で親睦を深めるにはどのようなことを意識すればいいと思いますか?

奥冨さん:好きなアーティストのライブに行くとかを繰り返していると、「〇〇が好きな人」という印象はできるよね。ライブの現場で自然と友達ができたりもするし。あとは、今は音楽をシェアしやすいから、LINEとかSNSのDMでリンクを共有するのも効果的かもしれない。

矢部さん:それでいうと私は学生時代、友達が恋人と別れる度に失恋ソングを教え合ってました。メンタルケアとしておすすめの曲を提案すると会話が広がるかもしれないですね。

fade-image

奥冨さん:ちょっとずつ好きな曲を教えあってお互いを知っていくのがいいかもね。急がずに同じ歩幅で距離を縮めていくようなイメージで。

矢部さん:その第一歩目に“名刺曲”はちょうど良さそうだなと思いました!

fade-image

Edit & Text:山梨幸輝
Photo:笠川泰希

author's articles
author's articles

author
https://d22ci7zvokjsqt.cloudfront.net/wp-content/uploads/2024/02/141.jpeg

編集者/ライター
山梨幸輝

編集者/ライター。大学時代にファッションブランド・writtenafterwardsでのインターンを経験し、卒業後にフリーランスとして活動を開始。雑誌やWEBメディアでの執筆や編集、ブランドのカタログ制作などを行う。
more article
media
シンガーソングライター・荒谷翔大が“音楽”という夢を掴むまで
音楽
date 2024/12/10