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“iPhone×Mac”が当たり前の人たちへ。

マイクロソフトが仕掛ける「AI PC」は、アップルの“心地よい庭”をどう越える?

author: Mochtan Athyssadate: 2025/12/17

ユース世代は、気づけばApple製品に囲まれている。ポケットにはiPhone、腕にはApple Watch、カフェで開くのはMacBook、AirDopで写真を送り合う。「みんなが持っているから」「連携がラクだから」。そんな理由で選んできたこの“心地よいエコシステム”は、確かに快適だ。

でも、そんな「Apple一強」のユース世代に向けて、マイクロソフトが今、本気で新しい選択肢を提案しようとしている。それが、生誕40周年を迎えるWindowsが打ち出す新カテゴリー「AI PC(Copilot+ PC)」だ。ユース世代にどうしたら使ってもらえるか、その戦略について日本マイクロソフトの當野喬之氏(コンシューマー事業本部 デバイス戦略本部 本部長)に聞いた。

「みんなと同じ」から一歩外へ。僕たちがアップルに浸かる理由

正直なところ、日本におけるiPhoneのシェアは異常なほど高い。直近の統計でも出荷台数の約半分を占め、14年連続トップ。特に20代を中心としたユース世代では、「スマホ=iPhone」がほぼ常識になっている。

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Androidを比較することなく、なんとなくiPhoneを使っている人がほとんどだ

當野氏はこの現状をこう分析する。「日本のお客さまは、一度“これが便利だ”と感じると、そこから長く使い続ける傾向があります。一方で、その快適さゆえに“他の選択肢を比べてみる”機会が少なくなっているのも事実です」

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日本マイクロソフト業務執行役員 コンシューマー事業本部 デバイス戦略本部 本部長 當野喬之氏

確かにそうだ。AndroidやWindowsと比較して選んだというより、「みんなが使っているから」「AirDropが便利だから」といった、友人やコミュニティとの“つながり”を重視した結果、自然とAppleのエコシステムの中にいることが多い。この、美しくデザインされた「心地よい庭(Walled Garden)」は、ユーザー体験として素晴らしい反面、そこから抜け出すコストを高く感じさせてしまう。マイクロソフトが挑むのは、まさにこの強固な“空気感”だ。

「AI PC」って何?パソコンの中に “第3の頭脳” が入る意味

そこで登場するのが「AI PC」、具体的には「Copilot+ PC」と呼ばれる新しいマシンたちだ。これまでのPCと何が違うのか。一番のポイントは、CPU(計算)、GPU(グラフィック)に加えて、「NPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)」という“AI専用の第3の頭脳”を搭載している点にある。

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Copilotのホーム画面

これまでのAI体験といえば、わざわざブラウザを開いてChatGPTにアクセスしたり、専用アプリを立ち上げたりする必要があった。いわば「さあ、AIを使うぞ」というモードチェンジが必要だったのだ。

しかし、NPUを搭載したAI PCは違う。「理想は、“AIアプリを使う”という感覚が薄れていくことです」と當野氏は語る。「いつものアプリを開いているだけなのに、その裏でAIが静かに支えてくれている。その状態こそが、私たちが考えるAI PCのゴールです」

例えば、Web会議の議事録を勝手に要約してくれたり、長文メールの内容を一瞬でかみ砕いて教えてくれたりする。画面上のよく分からないボタンについて「これ、どう変えればいいの?」と聞けば、画面そのものを認識して教えてくれる。

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ユーザーがこれまで自分でやるのがいちいち面倒だなと思う作業こそ、裏で先回りするようにやってくれるのがCopilotだ

まるでWi-Fiや電気のように、あって当たり前で、意識しなくても生活を支えてくれる存在。マイクロソフトはAIを、そんな“透明なインフラ”にしようとしているのだ。

恋愛相談もAIにするユース世代。Copilotは「賢い友達」になれるか

マイクロソフトが特に注目しているのが、ユース世代のAIとの距離感だ。當野氏のエピソードが面白い。「最近の学生さんは、恋愛相談をAIにするんですよ。“このLINE、どう返した方がいい?”とAIに聞く。それがもう、日常の行動として染みついているんです」

ユース世代にとってAIは、もはや検索エンジンでも先生でもない。「ちょっと賢い友達」のような感覚に近い。勉強も、人間関係も、時には恋愛も相談する。そんな“生活の一部”としてのAI体験を、スマホだけでなくPCという、よりクリエイティブな環境でも当たり前にしていこうというのが彼らの狙いだ。

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Z世代はAIに対して、友人や知人、良き相談相手など、人格があるように自然と話しかけるのが普通になっている

「学生時代に“AIって便利だな”“PCで使うとこんなに自然なんだ”と感じてもらえれば、その後の10年以上、彼らはAIを前提に働くようになっていく」

そのためにマイクロソフトは、Surfaceなどの「Copilot+ PC」において学生や新社会人向けキャンペーンを強化。「特別価格」や「Microsoft 365のバンドル」などを通じて、学生生活のパートナーとしての地位を確立しようとしている。

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学生や25歳以下のお客様向けの特別仕様のSurface Pro 12インチとSurface Laptop 13インチの新生活応援モデル。これら2モデルはもちろんCopilot+ PC。キーボード、マウスだったパソコン操作に、声で操作する機能を加える。Copilotアプリからマイクマークをオンにすることで声でCopilotを操作、眼鏡マークをオンにすることで画面をCopilotに共有し、Copilotに画面を見せながら相談したり作業を進めることができる。2025年12月19日発売。

レポート作成やプレゼン資料の構成案出し、就活の自己PR作成まで、「まずはCopilotに叩き台を作ってもらう」のが当たり前になる。そうやって浮いた時間を、バイトやサークル、本当にやりたいことのために使う。「時間を買い戻す道具」としてAI PCを使ってほしいと、當野氏は語る。

「囲い込み」ではなく「つなぎ役」。オープンであることの強み

Appleの強さが、ハードウェアとサービスが完璧に閉じた世界観にあるとすれば、マイクロソフトの戦略はその逆。「オープン」であることだ。

「スマホはお好きなものを選んでもらえばいい。PCも、好きなメーカーを選んでいただいて構いません。そのうえで、“真ん中”にWindowsとCopilotがいて、どの組み合わせでもきちんと働いてくれる。そんな『つなぎ役』のような存在を目指しています」 

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Copilot Keyboard Beta は楽しく、思い通りの日本語入力を提供します。話しかけるとCopilotは自分をキャラクター(キツネの名前はミカ)と認識しており、「ミカちゃん」と呼びかけると返事をします。デスクトップ上を動きます

iPhoneを使っているからといって、必ずしもMacを使う必要はない。Windows PCなら、iPhoneともAndroidとも連携し、さらにDellやHP、Surfaceなど、多様なデザインやスペックのPCから自分に合った一台を選べる。

「AIの時代は、どこかひとつの企業だけで完結する世界ではない」。クラウドサービスも、AIモデルさえも、将来的には複数を使い分けられるようになるかもしれない。クローズドに囲い込むのではなく、どんな端末、どんなライフスタイルとも繋がる「自由さ」を提供する。これがマイクロソフトが40年間、世界中のパートナーとWindowsを育ててきた文化であり、AI時代における最大の武器なのだ。

「AI PC」という言葉が消える日 自由に選んで使ってほしい

インタビューの最後、當野氏が印象的な言葉を残した。「いずれ『AI PC』という言葉は、あまり使われなくなるかもしれませんね」

かつて「カラーテレビ」や「インターネット対応テレビ」が、普及とともにただの「テレビ」になったように。すべてのPCに当たり前のようにAIが搭載され、僕たちが意識せずにその恩恵を受けるようになれば、「AI PC」はただの「PC」になる。

今はまだ、その過渡期にある新しいカテゴリーだ。だからこそ面白い。「みんなと同じiPhoneとMac」という安心感もいいけれど、自分のやりたいことやスタイルに合わせて、自由にハードウェアを選び、AIという相棒とともにもっとクリエイティブに時間を使いこなす。そんな新しいデジタルライフの選択肢として、Windowsの「AI PC」は、僕たちの目に魅力的に映り始めているのではないだろうか。

これからの10年、ユース世代の“当たり前”はどう変わっていくのか。その鍵を握る一台を、まずは店頭で触れてみるのも悪くないかもしれない。

Author:滝田勝紀


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Mochtan Athyssa