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ビザールウォッチがおもしろすぎる!

これは時計かラケットか?世界初の“キメラウォッチ”誕生

author: 篠田 哲生date: 2021/05/08

腕時計とは「時刻を知り、また時間を計るのに使う、腕にのせる器機」である。ところが現代の高級時計の世界には、最高峰の時計技術を駆使しているにも関わらず、針も読めなければ、現在時刻もわからないという“ 奇妙な時計”が生まれている。それこそが「変態的腕時計=ビザールウォッチ」。高級時計を知りすぎた人がたどり着く末路へようこそ!

時計愛好家が注目する新進気鋭ブランド

RICHARD MILLE

リシャール・ミル

RM27-04 トゥールビヨン ラファエル・ナダル

手巻き、TitaCarb®ケース、ケース縦47.25×横38.4mm。50m防水。世界限定50本。価格:1億2650万円

キメラ(キマイラ)とは生物学の用語で、異なる遺伝子型の細胞が共存している生物のこと。その語源はギリシャ神話の怪物で、ライオンの頭と蛇の尾、ヤギの胴体を持ち、口から火を噴くという恐ろしい姿をしている。その特異な存在感は、アーティストの創造性を刺激したようで、様々な絵画や物語の題材にもなっている。ドラドンクエストシリーズには「キメラ」というモンスターも登場したっけ。この時計を見ていて、そんな恐ろしくも魅力的な神話上の生物のことを思い出した。

時計ブランド「リシャール・ミル」は、一般の人には知られていないかもしれないが、極一部に熱狂的なファンがいる新進気鋭の時計ブランド。メカニズムと構造、素材に徹底的にこだわり抜いたエンジニアリングの最高峰であり、時計の平均価格は数千万円。ダイヤモンドやゴールドを使った結果の高価格ではなく、航空宇宙産業や兵器産業などで使われる特殊素材を使い、複雑なメカニズムを取り入れることで結果的に高価になっている。その凄みは、時計愛好家でなければわかりにくいが、その探求心と情熱に時計愛好家は惚れこんでしまうのだ。

テニス界のBIG4、ラファエル・ナダル着用モデル

そんなリシャール・ミルのキメラウォッチこそが、「RM 27-04 トゥールビヨン ラファエル・ナダル」である。これは赤土の王者として13度の全仏オープンで優勝しているテニスプレーヤー、ラファエル・ナダルとのコラボレーションウォッチ。彼とリシャール・ミルとの関係は2010年から始まっており、激しいテニスの試合中に着用しても壊れない時計を製作してきた。しかもただ壊れないだけではなく、繊細なトゥールビヨンという機構を搭載するために、様々な耐衝撃装置を考えてきた。

ストラップは、着用感を高めるためにラバーのベルクロストラップ。ケースサイドにはナダルの愛称であるRAFA(ラファ)の文字が。綺麗に編まれたケーブルにムーブメントを固定する。時分針は網目を超えて軸を上側に出して、そこに取り付けている。ケースバックから見た姿。ケーブルの下には、これだけ大きなムーブメントがある。しかし重さは僅か3.4gしかないのだ。

過去の時計では、F1マシンで用いられるモノコック構造を時計に取り入れたり、ケーブルでムーブメントを宙吊りにしたりと、これまでの時計の常識からはかけ離れた大胆な提案を行ってきた。しかし最新作となる「RM 27-04  トゥールビヨン ラファエル・ナダル」は、もはや時計というよりも“ラケット”に近い。

まずは時計の内部に直径0.27㎜のスティール製ケーブルを、テニスラケットのガットと同じ方法で編み込んだ。しっかりとテンションをかけてズレないようにしたら、そこにチタン製のフックをかけてムーブメントを支えている。そのため時計に衝撃が加わったとしても、ガット部分が吸収し、ムーブメントを守ってくれるのだ。これはもはやコラボレーションの域を超え、ラケットが時計側に侵入している。つまり“時計×テニスラケット”というキメラウォッチなのだ。そしてラファエル・ナダルは、実際にこの時計を腕に全仏オープンを戦い、2020年に13回目の優勝を果たした。もちろん時計は壊れることはなく、繊細な機構でありながら、正確に時を刻み続けたという。

異世界への扉を開ける“空想と現実”のキメラ

ではなぜリシャール・ミルは、こういった特殊な構造の時計を追求し続けるのだろうか? 

想像を超える時計を作るためには、想像を超える世界が必要だ。トップアスリートがしのぎを削る舞台はその一つだろう。アスリートがいつでも自分の限界を超えたいと願うように、リシャール・ミルもまた、限界を超えて進化するために創造力を押し殺さない。どれだけ異色の発想であっても、可能性がある限りは突き進むのだ。

「RM 27-04  トゥールビヨン ラファエル・ナダル」は、時計とテニスラケットのキメラであり、理論と狂気のキメラでもある。しかもこの時計は、スポーツウォッチでありながら価格は1億2650万円もするので、もはや空想と現実のキメラでもあるのかもしれない。

ギリシャ神話のキメラは想像上の生き物だが、リシャール・ミルは存在している。しかもこの時計をつけることができるだけの人物であれば、それなりの格だと見てもらえるし、そういった特別な時計愛好家のコミュニティーにも招かれるだろう。そうか、この時計は異世界へのパスポート。あの日憧れた“キメラのつばさ”は、ここにあったのだ。

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時計ジャーナリスト
篠田 哲生

1975年生まれ。講談社「ホットドッグ プレス」編集部を経て独立。時計専門誌、ファッション誌、ビジネス誌、新聞、ウェブなど、幅広い媒体で硬軟織り交ぜた時計記事を執筆。スイスやドイツでの時計工房などの取材経験も豊富。著書に『成功者はなぜウブロの時計に惹かれるのか。』(幻冬舎)、『教養としての腕時計選び』(光文社新書)がある。
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