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A.T.カーニー日本法人会長 梅澤高明さんの「マクラーレン」レビュー

五感で感じる。異世界を感じる。その瞬間がクルマに乗る楽しさ。

author: 梅澤高明date: 2022/02/05

戦略コンサルティング・ファームを率いて日米で活躍する梅澤高明さん。新卒で自動車メーカーに勤務していたというだけあって、大のクルマ好きでもあります。そんな梅澤さんが、乗りたい!を思うクルマに試乗する連載企画。初回は、世界最高峰のレースであるフォーミュラ1で磨いたテクノロジーをロードゴーイング・モデルに落とし込んだスーパー・スポーツカーであるマクラーレンで箱根へドライブ。魅力的な英国製スパイダーを駆ってみての感想に加えて、梅澤さんにとってのクルマの魅力について、モータージャーナリストの川端由美が訊いてみた。

想像を超える、フレンドリーな乗り心地

今回試乗するマクラーレン「720S」スパイダー/全長×全幅×全高=4545×1,930×1195mm/車重:1283kg/駆動方式:RWD/エンジン:ツインターボ付き4リッターV8/トランスミッション:7段AT/最高出力:720PS/最大トルク:770Nm/燃費:276g/km/価格:3930万円(税込)

川端 大学を卒業して、せっかく内定した都市銀行を蹴って、日産自動車に入社したという梅澤さんの経歴から、きっとクルマ好きなんだろうなあと思っていましたが、実際にお話をうかがっていると、次々と乗り換えるというよりは、気に入ったクルマを長く乗られるタイプですよね。気に入ったものへのこだわりの強い梅澤さんが、今回、マクラーレンというブランドを指名した理由はなんでしょうか?

梅澤 単純に乗ってみたかったから選んだんです(笑)。……というのも、僕が今乗っているアストンマーティンを購入したときは、まだマクラーレンが本格的にロードゴーイング・モデルの事業に乗り出す前だったので、じっくり検討したことがなかったんです。英国のスーパー・スポーツカーという共通点もあって、かねがね気になっていました。

川端 マクラーレンは、元々は世界最高峰のレースであるフォーミュラ1に参戦するレーシング・チームから生まれたテクノロジーを活用して、一般道を走れるロードゴーイング・カーの生産を始めたという経緯があります。私自身、英国本社にお邪魔したこともあるのですが、最先端のテクノロジーを活用して開発・生産が行われており、非常に現代的なスポーツカーという印象です。実際に試乗されて、どう感じましたか?

CIC Japan会長|A.T.カーニー日本法人会長 梅澤高明さん

梅澤 思っていたより乗りやすいというのが、率直な感想ですね。前後の重量バランスがすごくよく、手のひらでクルマを操っている感覚があって、ボディ・サイズを感じさせない乗り味。箱根のワインディングロードでもあつかいやすかったです。

川端 もっと運転が面倒くさそうなイメージだったということですね。重量バランスといった細かなところに配慮している点は、さすが、レーシングカーを設計してきた歴史を持っているなあ、と思います。

梅澤 強大なエンジン・パワーを受け止めるシャシーも安定していたし、乗り心地も悪くない。見た目のエグさから想像するイメージと違って、そんなに構えなくても普通に乗れる、というのが第一印象ですね。

マクラーレンの印象について川端氏とざっくばらんに話し合う

川端 「バットマン」の舞台である仮想都市・ゴッサムシティから来たような風貌の割に、フレンドリーに乗れるじゃないか、ということですね(笑)。クルマ好きの梅澤さんとしては、合格点といえそうでしょうか。

梅澤 はい。もちろん合格です。

人とクルマが一体化する気持ちよさを求めて

川端 クルマ好きからすると「乗りやすい」というのは、「モノ足りない」という部分に繋がる部分もあるかもしれませんが、その点はいかがでしたか?

梅澤 僕はマニュアル・トランスミッションで自らの手で操る感覚が好きなので、自動変速でイージーに操れるのは、気軽に乗れる反面、もの足りないという気持ちもあります。

川端 今の時代、ほとんどのスーパー・スポーツカーがシーケンシャル・トランスミッションの設定になってしまいましたね。論理的には、デュアルクラッチの方が変速が速いのは理解できるのですが、情緒的には、マニュアルで変速する方が味わい深いし、運転する魅力も増しますよね。梅澤さんにとって、マニュアルで操作する魅力はどこにあるのでしょう。

梅澤 僕がクルマに求めているのは、「人車一体感」。クルマが自分の体の一部のように感じたい。自分がここでエンジンを回したいとか、ここでエンジンブレーキをかけたいとか、思った通りに実現できるクルマがいい。この回転数までエンジンを引っ張って、トルクを引き出してから、一つ上のシフトに変速したい、といった自分の感覚に沿って、クルマを感覚的に操れるのがいいんですよ。ただ、自動変速だと、自分の予期せぬところでシフトアップしたりするので、「人車一体感」がどうしても薄れてしまうんです。

川端 自分がコントロールしている感覚が大切ということですね。

梅澤 加速やブレーキング、操舵といった走りのすべてをコントロールしたい。自分がこう走りたいと思っているイメージに沿って、違和感を感じることなく、操作して走らせられたら気持ちいいですよね。例えば、操舵したとき、これくらい曲がるだろうと予測するじゃないですか。そのとき、実際に曲がるクルマの挙動が、自分の予測している感覚と一致してると気持ちいい。

シーケンシャル・トランスミッションでも、ギアを固定して引っ張ってからマニュアルで変速することもできるので、慣れたらきっとスポーティに走らせられるんだろうと思います。ただ、自分が普段、マニュアル・トランスミッションに乗っていて、急に乗り換えると、パドルを引いた瞬間に変速したとき、あまりにも素早くてなんだか拍子抜けしてしまう感じがします。

クルマは「感性価値」商品だ

川端 そういう「気持ちよさ」のような感性を品質として担保するのは、すごく難しいですよね。例えば、音の品質管理にはこだわれても、感性という視点で音を捉えてどういうクオリティを追求するかとなると、答えられない会社が多い気がします。

梅澤 特に日本車の場合、音を抑えるエンジニアリングは得意でも、感性価値の高い、エモーショナルに気持ちを上げてくれるような音づくりに投資をしているようには見えないですね。でも、これからは、より一層、そういう感性的な部分が大事になってきます。クルマというのは感性価値商品ですから。

川端 クルマがコモデティ化すると価格競争になるしかありません。そうではない場所で競争するには、「感性」という付加価値が必要だということですね。

梅澤 クルマに求められる感性価値というのは、自分の体の延長線上にあるかのように気持ちよく「自己拡張」することだと思います。それはエモーショナルな音だったり、手触りや視覚だったり。五感全部に対して、いかに気持ちよく働きかけられるか、ということ。しかし、自動車メーカーは感性的なことより、スペックの優秀さを競う傾向がありますからね。

川端 一応、エンジニアだった側からすると、目標設定として、スペックはわかりやすいんです。具体的な目標値として、耐久性や性能の目標とする数値があれば、エンジニアはその数値に向かって開発すればいいんです。

梅澤 音の場合なら、何デシベル以下に抑える、とか。

川端 そうなんです。一方で、感性というのは、指標に置き換えづらいものです。エンジニアはどこに向かって突っ走ればいいのか、わからなくなるんだと思います。その結果、わかりやすいコモデティ化が進んで、ワゴンやSUVといった同じような人気車種ばかりになってしまっているのが現状です。

大半がシェアカーに。少数派向けには感性価値を追求すべき

梅澤 でも、これからの自動車は、コミュニティ全体でシェアする「共有財産」になっていきますからね。完全自動運転が普及すると、世の中の大半の人がシェアカーしか使わない時代になるので、クルマは必然的にコモデティ化するでしょうね。

川端 MaaS(※)は儲からないと言われていますが、所有を前提とするのであれば、自動車メーカーはコモデティ化とは違う、感性などの付加価値を重視するしか生き残りの道はなさそうですね。

(※)MaaS=Mobility as a Serviceの略。バス、電車、タクシー、ライドシェア、シェアサイクルなどあらゆる公共交通機関を、ITを用いてシームレスに予約、乗車、支払いを結びつけ効率的で便利に使えるようにするシステム

梅澤 MaaSによるシェアカーが主流になるとして、それでもプロダクトとしてのクルマをつくることに情熱をかけるなら、残りの少数派向けの所有するクルマをつくらざるを得ないでしょうね。ターゲットは、最後まで自分でクルマを運転することにこだわるユーザー向けとなるはずです。つまり、機能価値重視ではなく、どれだけ気持ちよく運転できるかに価値を置くことになると思います。

川端 自動車メーカーとして生き残りたいなら、それぞれの「らしさ」こそが感性という価値であり、そこをやっていくしかないですよね。

梅澤 MaaSに代表されるシェアリング・エコノミーの世界で自動車メーカーとして存続するということは、Uberのような巨大なライドシェア企業のサプライヤーになるということです。ただ、そうなりたくないのであれば、違う戦い方で違う価値を高めるしかないんです。

川端 EV化により、もはや、自動車メーカーでなくてもクルマがつくれる時代になりつつあります。だからこそ、職人芸のようなクルマの乗り心地の細かいチューニングでそれぞれの自動車メーカーの「らしさ」という「感性」を追求するしか、差別化できない。

梅澤 そのチューニングが気持ちいいか、気持ちよくないかが、僕のような「今後、少数派になる」人間には何より重要なんです。最適かどうかは別として、自分がベストと思う変速のタイミングこそが、自分にとって一番気持ちがいい。それを実現できるのが、感性を大事にしているクルマといえます。

川端 せっかくなので、ルーフを下ろして走ってみましょう。

梅澤 このクルマは、オープンにしているときの方が、断然、開放感があって気持ちいい。ハードトップの開閉も自動でできるから、ちょっと首都高速に乗るときだけでも、オープンにしたいという要求にも応じられるし、オープン走行時であれば、シーケンシャルで気楽に操れるのも魅力の一つになりますね。安定したシャシーがあってこそ、アクセルペダルを踏み込んで、頬で風を感じる瞬間の気持ち良さが引き立つ気がします。

川端 移動が必須の場合に乗るクルマではないだけに、ルーフを下ろして、走り出した瞬間から異世界に連れ出してくれる感覚がいいですね。梅澤さんの笑顔が、その気持ちよさを物語っていますね(笑)最後に、梅澤さんにとって、クルマに乗っているのは、どんな時間なのか教えていただけますか。

梅澤 五感でいろいろ感じられる時間、でしょうね。僕は、普段からオープンカーで走っているので、太陽、風、雨などを全部感じて、五感を開放しています。クルマに乗りながら考え事をするよりも、普段は感じられないような感覚を味わっているというか。それが、ちょうどよい切り替えになっているんだと思います。


取材を終えて一言

梅澤さんのお話をうかがっていると、クルマへの愛情を感じるフレーズがたくさん飛び出してきます。マクラーレンは、以前から気になっていたブランドということもあって、じっくり長距離の試乗をしていただいた上で、インプレッションをしていただきました。

あいにく前半は雨模様だったため、濡れた路面を気にしながらルーフをあげての試乗ゆえ、不完全燃焼気味ではあったのですが、雨雲が逸れた後に、ルーフを下ろして走り出してからは、快適性も兼ね備えたスーパー・スポーツカーであるマクラーレンの面目躍如たる乗り味を堪能できました。

梅澤さんのコメントにもあるように、自動車の世界でもシェアリングエコノミーが主流となっていくにあたって、クルマを所有する人たちが少数派になっていくと想定すると、やはり“感性品質“が重視される時代になるはずです。

Text:工藤千秋 Photo:下城英悟


author

A.T. カーニー日本法人会長/CIC Japan会長
梅澤高明

東京大学法学部卒、マサチューセッツ工科大学(MIT)経営学修士。日産自動車を経て、A.T. カーニーのニューヨークオフィスに入社。日米で25年にわたり、戦略・イノベーション・マーケティング・組織関連のコンサルティングを実施。CIC Japan会長(兼務)として国内最大規模の都心型イノベーション拠点CIC Tokyoを2020年秋に開設、スタートアップ支援にも取り組む。観光、都市政策、知財戦略、クールジャパンなどのテーマで政府委員会の委員を務める。一般社団法人「ナイトタイムエコノミー推進協議会」(JNEA)および「自然文化観光機構」(ATCT)の理事として、富裕層観光、文化観光、夜間観光の発展に注力。一橋ICS(大学院国際企業戦略専攻)特任教授。著書に『NEXTOKYO』(共著、日経BP社)ほか。 Photo: Leslie Kee
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