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Interview

実録「ホワイト系YouTuber」〜vol.2〜

自分をさらけ出すことで見えてきた「LGBTQ +」の未来【かずえちゃん】

author: Beyond magazine 編集部date: 2022/07/05

小学生がなりたい職業第1位のYouTuber。しかし、ニュースを見ていると炎上系や暴露系といったグレー系なYoutuberが取り沙汰され、エキセントリックな部分ばかりクローズアップされてしまいがち……。本連載では、模範的な活動を続けるホワイト系のYouTuberにスポットを当てて直撃インタビュー。第2回目は、自らがゲイであることをカミングアウトし、「LGBTQ +」に関するさまざまな情報を発信するかずえちゃんです。

自分の素直な感情をずっと隠し続けてきた

自身がゲイであることをカミングアウト(※)し、「LGBTQ +」の現状や性の多様性などをYouTubeで世界に向けて精力的に訴える「かずえちゃん」──自分のセクシャリティに対してあきらかな違和感を覚えたのは、小学5年生のときだったと回想する。

(※)この文脈での「カミングアウト」は、自身が「LGBTQ +」の当事者であることを自分で打ち明けるという意。

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かずえちゃん:当時は、とんねるずさんがバラエティ番組で演じていた「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)」がドンピシャに流行っていた時期でした。その“悪意のないコント”を観ながら「男が男を好き」ってことはこういう風に笑われてしまうんだ……と刷り込まれてしまったんです。

男の子同士で仲良くしていたら「お前らホモか?」みたいなことを、学校の先生が平気で言っちゃうような時代でもあったので、自分の素直な気持ちは頑なに隠していました。それどころか自分に「男が好き」という感情があること自体、認められなかった。女の子とも一度付き合ったことがあります。そうすることで、同性しか恋愛対象として見れない自分を「治す」ことができるんじゃないか、と。

就職してからも、職場の会話は常に「異性愛」が前提。「彼女はいないの?」「結婚はしないの?」と同僚から質問されるたび、適当にお茶を濁しつつも、内心ではビクビクする毎日……。

「カミングアウト」なんて発想はとんでもなかった。自分は一生「男性に抱く“特殊”な好意」と抗(あらが)い、胸の奥に秘めてずっと生きていくものなんだな、と悟っていました。

人生初のカミングアウトを両親に……

そんなかずえちゃんが、はじめてのカミングアウトを果たしたのは24歳のとき。同性愛者専用の掲示板で知り合った「彼氏」をどうしても「パートナー」として両親に紹介したかったからだという。

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かずえちゃん:男の子なので「友だち」と誤魔化すことだってできました。でも、自分の家族に嘘をつくのが嫌だった。あと、自分のパートナーに「友だちのフリをしてね」と嘘をつかせるのもつらかった。めちゃくちゃ怖かったけど、「本当のことを話したい!」という気持ちが勝って、それがカミングアウトへとつながったわけです。

ある日、一人で両親に「ちょっと話したいことがある」と切り出しました。最初は「ごめんなさい」と謝ってしまって……。ずっと「ゲイであること」が悪いことだと思い続けてきたから──しかも、僕は長男なので「いずれは結婚して子どもをつくって家を継いで、孫の顔を両親に見せてあげるのが役目なんだ」という旧来的な価値観の呪縛もありました。

──ご両親の反応は?

かずえちゃん:二人ともびっくりしていましたね。すぐに受け入れられたかといえば、たぶんそうではなかったでしょう。

生まれてはじめて、自分以外の人に自分の口で「自分がゲイであること」を伝えた瞬間だったので、僕もすごく泣いてしまいましたし、両親も呆然とするばかりで……。だけど、二人とも最後まできちんと話を静かに聞いてくれました。

そして、父親が「お前が幸せだったら、そのままでかまわない。堂々と生きていけばいい。お前のパートナーだって家に連れて来ればいい」と言ってくれたんです。

これまでカミングアウトはしたことがなかったので、他人から「ゲイであること」を否定されたことはありませんでした。ただ、逆に肯定されたこともなかった──なにより自分自身が肯定できていなかった。

だから、「そのままでかまわない」という父親の言葉は、僕にとって最高の支えになりました。「これでいいんだ……」と、心に柱が立ったような勇気をもらえたのです。

カナダ生活で得たポジティブマインド

かずえちゃんがYouTubeをはじめるきっかけとなったのは、30歳を迎える直前にワーキングホリデーを利用して移住したカナダでの、3年間にわたる貴重な体験の数々であった。

かずえちゃん: 2005年に同性婚が認められた国であり、顔見知りが全然いない“異国”でもあったカナダでは「自分がゲイであること」を隠さずに生活していました。

日本にいるときはロールモデルが身近にいなくて、自分自身の将来をまったくイメージできなかったのですが、カナダで暮らしているうちに「ゲイでも結婚できるんだ」「なんで今までこんなことを隠していたんだろう」「悪いことをしているわけじゃないのに」と考えられるようになったんです。

カナダ時代のかずえちゃん

2016年の1月にカナダから帰国してからも「自分のこんな想いをオープンに共有したい」という願望は募るばかりでした。そこで辿り着いたツールがYouTubeだったんです。

「先駆者」として人気YouTuberに……

かずえちゃんがYouTubeチャンネルを開設した2016年の7月は、すでにヒカキンさんほか著名なYouTuberが続々と世に輩出され、活躍を果たしていた時期であった。こうした強力な“ライバル”がひしめく状況下で、かずえちゃんはなぜ「人気YouTuber」の一人として、名を連ねることができたのだろう?

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かずえちゃん:今では珍しくないのですが、当時は「自分がゲイであること」を公言するYouTuberさんが、僕の知るかぎりほぼいませんでした。それも追い風になったのかもしれません。

YouTuberとしての苦労話は一切ない!

現在は「週一回ほどの頻度で自身のYouTubeチャンネルを更新している」と語るかずえちゃんだが、1か月間まったくアップしないときもあるんだとか。他の人気YouTuberと比べ、やや緩やかなペースだとも言えなくはないが?

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かずえちゃん:あまり根を詰めすぎて動画制作が「義務」になってしまい、ストレスを溜めるのもいやなので。

YouTube以外には、企業や学校での講演があります。あと、2020年の8月から、京都府に本社がある三洋化成工業の非常勤嘱託で、社内の社員に向けてのLGBTQ +に関する研修などを行う仕事もしています。

講演中の様子。社内などでLGBTQの方のトイレ問題など、内容は多岐にわたるそう

──プライベートは?

かずえちゃん:プライベートと仕事を分けるという発想が僕にはあんまりなくて(笑)。スケジュールもかなりアバウト。「さあ、今日はYouTube撮るぞ!」って感じではありません。旅行に行っても撮影は簡単にできますし、嘱託の仕事はリモート中心なので、編集の時間も比較的自由につくれますし。自分のなかではYouTubeを仕事として捉えていないんじゃないかな?

──動画制作中の苦労話などをお聞かせください。

かずえちゃん:一切ありません。だって、たくさんの人たちと会えたり、お話を聞いたりすることで学べることが山ほどあるから。「いろんな生き方があっていいんだな」「世間体なんかに縛られる必要なんてないんだな」と再確認することで自分も解放されていく──それが僕にとってのYouTubeなんです。

LGBTQ +の十人十色な個性との出会い

2017年からはじめた、毎年10月11日の「カミングアウトデー」に向けてアップしている『LGBTQ100人カミングアウト』は、かずえちゃんがこれまで制作してきた幾多の動画のなかでも、とくに思い入れが強いシリーズなのだそう。

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かずえちゃん:YouTuberとして活動するにあたって、僕が痛感したのは「はじめてゲイの男性とお話ししました」「LGBTQ +の人とはまだ会ったことないです」……みたいなことをおっしゃる人がとても多いということ。

けれど、それは「いない」のではなく「言えない」のが大半なだけ。「皆さんの周りにもLGBTQ +の人はいるんですよ」という事実を『LGBTQ100人カミングアウト』では伝えたかった。

僕だってYouTubeをはじめる前は、ゲイについては理解していたものの、他のLGBTQ +──たとえばレズビアンだとかトランスジェンダーの人とは、実際に会ったことがなかった。知識もほとんどなかった。でも、この100人動画を通じ、いろんなセクシャリティの人たちと毎年出会うことによって、LGBTQ +の十人十色な個性に触れることができて、自分も変わることができました。

インタビューイが使ってほしくない

言葉は絶対に使わない!

「LGBTQ +」というデリケイトなテーマを扱うかぎり、制作の段階であらゆる細密な部分に万全の注意を払わねばならないのは、かずえちゃんも当然のこと例外ではない。

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かずえちゃん:自身のしゃべり方や映り方へのこだわりはありません。一番むずかしいなと感じるのは、LGBTQ +用語の一般的な認知度の見極めです。

仮に「女性の身体で生まれて、今は男性として生きている人」を取材したとしますよね? その場合、普通はサムネールやタイトルには「FtM」(※「Female to Male」の略)って言葉を使いたくなるんですけど、クリックしてくれるのは“当事者”だけで、その言葉を知らない人はクリックしてくれない。

じゃあ、「元女性」とか「元男性」みたいな言葉を使おうか……ってことになるんですが、僕はインタビューを受けてくださった人がその言葉を使ってほしくないなら絶対に使いません。

たしかに、この姿勢を貫けば、ときにクリック数がぐんと落ちてしまうこともある──だけど、僕はそれでいいと思うんです。

「理解してもらう」のではなく、
まずは「知ってもらいたい」

最初のころは、自分と同じ悩みを持つ“同士”に向けて動画を発信していたというかずえちゃんだが、自身がイメージする視聴者層は徐々に変わりつつあるらしい。

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かずえちゃん:YouTuberとしての活動が順調になればなるほど、だんだんと「LGBTQ +」という言葉すら知らない人にも観てもらいたいという欲求が大きくなってきました。なので、最近は「この人に観てもらいたい」という、いわゆるターゲットの設定はしていません。

あなたの周囲にいる人たちを無意識に傷つけないためにも、一人でも多くの人に「理解をしてもらいたい」のではなく、第一歩として「まずは知ってもらいたい!」という気持ちでつくっています。

「LGBTQ +」「カミングアウト」

という言葉がなくなる世界を…

最後にYouTuberを目指しているあなた、そして『Beyond』読者であるZ世代のあなたに、かずえちゃんからメッセージをいただいた。

かずえちゃん:基本的にはなんでもチャレンジしてみるべき。ただし、YouTubeをやるのであれば、自分の価値を再生回数だとか視聴者数だとかの「数字」で判断するのだけはやめてほしい。

そこにゴールを置いてしまうと、結果として「もっともっと!」と自分を追い詰めてしまい、「楽しい」という感覚がなくなってしまう。人様に自分の“作品”をスルーされようが、批判されようが、「自分が好きなことを続けていくこと」が大切なのではないでしょうか。

「そもそも、僕はどうしてこんな動画をつくっているんだろう?」と、ふと疑問に感じることがあります。子どものときから「僕は男の子が好きなんだ」と公言できる環境であれば、カミングアウトなんてする必要もなくなるわけですから。

早く、このYouTubeでLGBTQ +について主張したり、カミングアウト動画を配信したりしなくてもいい世界、マイノリティの人たちがいちいち声を上げなくてもいい世界になればいいのに……。

極論すれば、「LGBTQ +」だとか「カミングアウト」だとかという言葉が消え去ってしまうような社会づくりを、僕は皆さんと一緒に目指していきたいのです。


かずえちゃん

1982年11月福井県福井市生まれ。小学5年生のころ、自分がセクシャリティ的に周囲と違っていることを自覚。高校卒業後、地元でウェディングプランナーの職に就く。2006年に生命保険会社(当時アリコジャパン・現在はメットライフ生命)の営業職へと転職。同年、両親に自分がゲイであることを生まれてはじめてカミングアウト。30歳になるほぼ同時(2013年)に生保会社を退職し、単身でカナダへ。ワーキングホリデーで3年間在住のち2016年に帰国。同年7月に自身のYouTubeチャンネル『かずえちゃん』を開設。現在は登録者数約9万人を超える人気YouTuberに。メディア出演、講演ほか幅広い活躍をみせる。2020年8月から三洋化成工業(京都府本社)の非常勤嘱託として社内研修なども担当する。

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Beyond magazine 編集部

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