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ファッション

6ヶ月ごとに新しいシューズが届く

「オン」が生み出した“シューズのサブスク”はリサイクルの理想形だった

author: 神津文人date: 2022/10/31

近年、カーボンニュートラルを目指す取り組み、サステナビリティの追求は、企業活動をするうえで、当たり前にやらなければいけないことになっている。アパレルであれば、リサイクル素材の積極的な採用、製造工程で出る廃棄物の削減、利用するエネルギーの見直しといったところが主となるが、スイス発のスポーツブランド「オン」が環境負荷を低減する革新的なサービスをスタート。これをきっかけに、ランナーとシューズの関係性が変わることになるかもしれない。

履いたシューズは、次のシューズの原料に

「オン」がスタートした新しいリサイクルプログラム「Cyclon(サイクロン)」はサブスクリプション型のサービス。料金は月額3,850円で6か月ごとに新品のシューズがランナーに届けられる。そして半年間履いたシューズは回収され、手元に置いておくことはできない。従来のものに当てはめるのであれば、長期レンタルをしている感覚に近いかもしれない。

半年ごとにフレッシュなシューズが届くというだけでも、走るモチベーションアップに貢献してくれそうだが、このサービスのキモは、回収されたシューズが100%リサイクルされる部分。アッパーも、ソールも、シューレースも、余すところなくリサイクルされ、新しいシューズを作るための原材料になる。バージン素材の使用量も、製作工程での廃棄物も大幅にカットできるというわけだ。

Cyclonの料金は月額3,850円。6か月ごとに新しいシューズが届く

月間で150km、200kmと走るようなランナーであれば、数か月でランニングシューズを履き潰すことになり、定期的にシューズを新調することになる。そして履き潰したシューズは、ほとんどの場合、ゴミ箱に行くことになる。世界中のランニング人口を考えれば、その数はかなりの量になるはずだ。「ランニングをして、シューズを履き潰して、シューズがゴミになる」という従来のサイクルを、オンはCyclonによって変えようとしている。

リサイクル素材を使い環境負荷を小さくするランニングシューズは、多くのメーカーから登場している。しかし、かなり積極的にリサイクル素材を採用したモデルでも、使用率はシューズ重量の30~40%程度が一般的だ。それと比較すると、100%というのはとんでもない数字なのだが、一体どうやって実現できたのだろうか。

一般的なランニングシューズやスニーカーの場合、たとえばアッパーにポリエステル、シューレースにナイロン、ハトメに金属、ミッドソールにEVA製のフォーム、ラバーのアウトソールに、ポリウレタンのプレートといった具合に複数の素材を活用している。これらの混合素材をまとめてリサイクルすることは現時点の技術ではできず、すべてを分離して各々をリサイクルするとなるとかなり大変な作業になる。さらに石油由来の素材も多く、サステナブルな存在とは言い難い。Cyclonの仕組みはこれを根本から見直したものだ。

素材の原料はトウゴマの種子

Cyclonに加入した際に届けられるのは、「Cloudneo(クラウドネオ)」というモデル。無染色で、バイオベースの糸で構成されたニットアッパーが採用されている。廃棄物はゼロで、環境に有害な染色工程がない。素材は、トウゴマの種子から抽出されたヒマシ油から作られたPA11と呼ばれる特殊なポリアミド。100%バイオベースでありながら、ランニングシューズのアッパーに必要な耐久性、軽量性を備えている。また、熱プレスされたアイレット、シューレースもPA11で作られている。

つまり、シューズの大部分がトウゴマの種子が原料になっているということ。トウゴマは、他の多くの植物が育つことのできない乾燥地域で栽培されるため、農地を奪う、森林を破壊するといったこともないという。

ボトムユニットに使われているのはPebaxと呼ばれる高性能ポリアミド(部分的にPA11と同原料を使用)。100%リサイクルが可能な素材でありながら、反発性に優れ、軽い。ランナーが満足できるエネルギーリターンが得られるレベルのフォームにするために採用されたのが、超臨界フォーミングテクノロジーという技術。有害な化学物質の代わりにフォームの膨張を制御するガスを使い、反発性に優れたフォームに仕上げている。また、フォームと連動して爆発的な蹴り出しを生み出すSpeedboardプレートも同じくPebaxで作られている。

Pebaxは、トウゴマ由来のポリマーに非常に近い減量から作られているため、アッパーとボトムユニットはまとめてリサイクルすることが可能。それゆえ複雑な分離作業が不要で効率が良く、廃棄物が生まれないという。非常に上手くできた設計なのだ。

リサイクル効率が良いとはいえ、数か月でシューズを履き潰すような熱心なランナーから支持を得るためには、機能的な妥協はできない。いくら環境に優しくとも、安定性やクッション性に欠ける故障のリスクが高まるシューズでは、敬遠されてしまうのは間違いないだろう。故に、「クラウドネオ」は機能性も追求されている。

「完全にリサイクル可能なシューズの製作を目標にする一方で、私たちはさらに一歩先を目指しました。サステナビリティとパフォーマンスの両立が可能なことを示したかったのです。その結果、おそらくOn史上最も優れたパフォーマンスシューズが誕生することになりました」と、共同創設者兼イノベーションチームリーダーのオリヴィエ・ベルンハルト氏も述べている。

オンの代名詞的テクノロジーであるCloudTecは「クラウドネオ」用に設計された2層構造。クッション性、反発性、安定性といったランニングシューズに求められる機能をしっかりと備えている。アッパーのサポート性も十分に感じられる。

気になる耐久性だが、通常、一足で600km程度走れるという。6か月ごとに新しいシューズが送られてくるので、月間100kmは「クラウドネオ」で走れる計算だ。健康維持、コンディション維持を目的として走るランナーには十分過ぎるだろう。それ以上を走るシリアスランナーならば、ジョグには「クラウドネオ」を活用して、スピード練習や距離走には別のシューズを使うといった使い分けも考えられる。

100%リサイクル可能な素材でシューズを作り、ランナーは履き潰したシューズを返却、そして再生された新しいシューズが手元に届く。オンが生み出した新しいサイクル。この輪が広がっていけば、ランニングはより地球にやさしいアクティビティになっていくはずだ。

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ライター・編集者
神津文人

雑誌編集者を経てフリーランスに。「Tarzan」などのヘルス&フィットネス系メディアや、スポーツの領域で活動中。「青トレ」(原晋/中野ジェームズ修一著)、「医師も薦める子どもの運動」「医師に運動しなさいと言われたら最初に読む本」「60歳からは脚を鍛えなさい」(中野ジェームズ修一著)、「100歳まで動ける体」(ニコラス・ペタス著)、「肺炎にならない!のどを強くする方法」(稲川利光著)、「疲れない体になるライザップトレーニング」(RIZAP)などの書籍の構成も手掛けている。趣味は柔術、ときどきランニング。
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