ボディコンスーツに聖子ちゃんカット、そして流行りのメイク。昔懐かしいスタイルと現代のトレンドをミックスした“ネオ昭和”を表現するのが、2000年生まれのインフルエンサー・阪田マリンさんだ。現在はラジオ番組のパーソナリティも担当するほか、今年4月29日(昭和の日)にはデュオを結成し、ザ・ブラックキャンディーズとして歌手活動を開始。さまざまな方法で昭和の魅力を発信する彼女が対談相手に選んだのは、1968年生まれのブロガー・平山雄さん。平山さんは、ブログ「昭和スポット巡り」を運営し、全国2000カ所以上の昭和遺産を発信している。生まれた時代は違っても、同じように昭和に惹かれるお二人に、お互いの“昭和愛”を思う存分語ってもらった。
阪田マリン
2000年12月22日生まれ。昭和カルチャーが大好きで“ネオ昭和”と自ら命名し、ファッションやカルチャーを発信する人気インフルエンサー。数々のメディアや企業からの出演オファーが殺到中!SNSでの総フォロワー数は約23万人。同じくZ世代で昭和歌謡に精通するシンガーの吉田カレンとタッグを組み、世に放つ懐かしくも新しいネオ昭和歌謡プロジェクト「ザ・ブラックキャンディーズ」を結成。昭和98年4月29日にシングル「雨のゴールデン街」でデビュー!
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Instagram:
@marin__neo80s
■リリース情報
ザ・ブラックキャンディーズ「雨のゴールデン街」
昭和98年4月29日(土)リリース
https://theblackcandieeez.jp/
平山雄
1968年東京生まれ。ブログ「昭和スポット巡り」で、2012年から、ジャンルを問わず昭和が体感出来るスポットをレポートしている。訪ねたスポット数は2000カ所以上。住まいも、古い一軒家を買い取り、完全に昭和の家庭を再現して暮らしている。著書に「昭和遺産へ、巡礼1703景」「昭和喫茶に魅せられて、819軒」(いずれも303BOOKS)がある。現在、新刊を製作中。
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■リリース情報
「昭和喫茶に魅せられて、819軒」
2023年3月14日(火)リリース
https://303books.jp/showakissa/
不完全だからこそ愛おしい。昭和好きへの入り口
─お二人は一度会われたことがあるそうですね。
平山さん(以下、平):2021年に一度。昭和の雰囲気を体験できるスポットをまとめた『昭和遺産へ、巡礼1703景』という書籍を出版した時、出版社に「若い人のあいだで今こんな方が人気みたいですよ」と教えてもらいまして。プロモーションの一環として阪田さんの写真を撮らせてもらったんです。
阪田さん(以下、阪):その節はお世話になりました! 今日はじっくりお話できてうれしいです。
─阪田さんの第一印象はどうでしたか?
平:新しい波が来たと思いましたね。彼女が提唱している“ネオ昭和”というコンセプトがまず面白い。ただ懐かしいだけではなく、今っぽさをプラスアルファで表現しているんです。モッズ(1950年後半~60年中頃にイギリス・ロンドンで流行したロックミュージックを中心とするユースカルチャー)を再評価した“ネオモッズ”のような解釈なんだろうなと。ネオ昭和という言葉は自分で考えたんですか?
阪:はい。『AKIRA』にインスピレーションを得ました。舞台となるのが“ネオ東京”という架空の街で、東京がなくなった後にできた新しい首都という設定なんです。語感の良さに惹かれましたね。
─平山さんの第一印象はどうでしたか?
阪:お会いする前に平山さんが『昭和遺産へ、巡礼1703景』を送ってくださったのですが、それが衝撃的で。「載っている喫茶店やスナック、全部巡りたい!」と思いました。付箋を貼りながら読みふけりましたね。
その時に平山さんの写真も拝見したのですが、ファッションも私の好みなテイストでとにかくおしゃれなんですよ。実際お会いした時にはサインをくれたり、優しく話しかけてくれたりと、好印象でしかないですね(笑)。
─相思相愛な様子が伝わってきました。そもそもお二人が昭和を好きになったきっかけはなんでしょうか?
阪:中学2年生の時、祖母の家でレコードを聴いたことです。私の世代だと音楽を再生するならCDやMP3プレイヤーが当たり前だったので、そもそもレコードに針を落とすという行為が新鮮で。その後に曲が流れるまでの数秒間の沈黙や、アナログな音の質感も含めて、じーんときてしまったんです。CDよりも1曲を大切に感じさせてくれるといいますか、その手間が愛おしくて。“懐かしさ”というより“新しさ”を感じましたね。
平:音楽が入り口だったんですね。
阪:ちなみに、その時聴いたのはチェッカーズの「Song For U.S.A.」という曲です。それからレコードショップに通い始めたのですが、いろいろなレコードの帯に「〇〇映画の主題歌」と書いてあるのが気になって、次に映画を見漁るようになりました。
平:映画はどんなものが好きですか?
阪:浅野温子さんの初主演作品の『スローなブギにしてくれ』や、野村宏伸さんが天才サックス奏者を演じた『キャバレー』などの角川映画ですね。昭和の映画は視聴者を置いてけぼりにするくらいぶっ飛んだシーンがたくさんあって面白いです(笑)。平山さんはどんなきっかけで昭和を好きになったんですか?
平:昭和好きを自覚したきっかけはファッションです。80年代後半に学生時代を過ごしたのですが、当時の流行に魅力を感じなくて、古着屋で買った60年代や70年代の服を着るようになったんです。思えばバイクも音楽も古いものにハマりましたし、新しいものに興味がないんでしょうね(笑)。最初は国内外問わず古いものが好きだったのですが、だんだん日本のものばかり選ぶようになって。徐々に昭和に惹かれていったのだと思います。
─では単刀直入に、昭和の魅力ってなんでしょう?
平:“不完全さ”ですね。50年代から70年代にかけての高度経済成長期は日本が海外の文化を取り込もうと躍起でしたが、当時はインターネットがないですから、取り入れる情報が完全ではなくて、どうしても「アメリカってこんな感じじゃない?」と手探りな部分がある。つまり、垢抜けてないと思うんですよ。でもその不完全な部分こそが愛おしい。
阪:本当にそう思います。逆に今って“完全”な時代だと思うんです。例えば、好きな人に電話をかけるとなったとき、「向こうの家族が出たらどうしようってドキドキしながら、自宅の固定電話で電話する」みたいな経験ができない。スマホが登場して便利になったともいえますけど、「好きな人が一発で電話に出たときの喜び」みたいな、不完全だからこそ生まれる愛おしさは現代だと絶対感じられないと思います。平成生まれの私からするとないものねだりなんですけど。
“アイドル”と“亭主関白”に見る昭和らしさ。現代では出会えない「アイドル像」と「価値観」
─昭和の人物や物事の中で、あえて一番好きなものをあげるとしたらなんですか?
阪:アイドルです! 大人数で活動するのがメジャーな現状を決して否定はしませんが、ひとりで勝負する人が多かった昔の方が好きなんです。
中森明菜さんが「スローモーション」という曲でデビューした時は、可愛くて無邪気な女の子という雰囲気を打ち出していたのに、次にリリースした「少女A」ではカッコ良くて不良で、“いい加減にして”というアンニュイな表情で歌うんです。ひとりで色々な顔を使い分けられるのが本当に素敵だなと思いますね。
平:僕は中森明菜さんよりちょっと前にデビューした松田聖子さんのファンだったので、当時は「すごい新人が出てきた、ピンチ!」と思っていました(笑)。
阪:“聖子派”“明菜派”があったと聞いています(笑)。聖子ちゃんももちろん大好きです。あそこまで芯が通って、可愛いアイドル像を貫き続けている人はいないと思います。昔ハワイで週刊誌に写真を撮られた時も、答えるべき質問にはズバッと答えつつ、アイドルらしい“ぶりっこ”も忘れないプロ意識を感じましたね。
平:リアルタイムで観ていないのに、ここまでの熱量で語れるのはすごいです。
─昭和を経験してきた平山さんに、阪田さんが聞いてみたいことはありますか?
阪:亭主関白な価値観はやはり多かったんでしょうか?
平:そうですね。僕の実家もそうだったと思いますし、昔の男はちょっと威張っていた気がします。
阪:例えば、沢田研二さんの「カサブランカ・ダンディ」のような世界観ってやっぱりあったのですね。
平:「ききわけのない女の頬をひとつふたつはりたおして」という歌い出しの曲ですね。
阪:「男のやせがまん 粋に見えたよ」とも歌っていますね。私自身は亭主関白な考え方を押し付けられたくはないですけど、その一方で魅力も感じるんです。沢田研二さんが歌うからそれすら色っぽく見えてしまうのかな、とも思いますね。
ボディコンスーツに“プチプラ”なバッグ。令和に響く昭和の伝え方
─お二人が昭和について発信するときに意識していることはありますか?
平:実はブログ「昭和スポット巡り」を始めるまでは写真を撮る習慣がなかったのですが、「ここが良い!」とグッときた瞬間にシャッターを切るようにしていて。昭和の“野暮ったさ”がうまく伝わるように意識しています。だからどの部分を見てもらいたいのかが分かりやすい作品に仕上がっていると思いますね。
阪:それであそこまで“刺さる写真“を撮れるなんてすごいです。私は、同世代や下の世代にも響くような要素を入れることを意識しています。実は高校生の頃は昭和の格好をひたすら再現していたんです。でも、それだけだと懐かしがってもらって終わりだということに気付いて。昭和一色にならないようなスタイルを目指すようになったんです。例えば、ボディコンスーツを着るなら、小脇に抱えるバッグは今流行っている「CHARLES & KEITH(チャールズ&キース)」にするといった具合。若い方にも親近感を持ってもらえるような、令和の要素を入れていますね。
平:昭和と令和のバランス感覚はどのように掴んだんですか?
阪:私も平山さんと似ていて、とにかく好きだなと思ったものを詰め込んでいるだけなんです。その結果、「懐かしいね」だけでなく「新しいね」という感想ももらえるようになったのがうれしいです。
─昭和が再評価されていることについて、平山さんはどう思いますか?
平:率直にうれしいです。歳を取ると、世の中という舞台の端の方に追いやられていく感覚がありますから(笑)。実際、平成の初期の頃は「昭和=ダサい」という価値観がメジャーでしたからね。そんな中で、今になって自分の青春時代を良いと言ってもらえるとは思ってもみなくて。3、4年前に昭和が若い人たちのあいだで再評価されていると聞いた時は本当にびっくりしましたよ。
阪:平山さんみたいな方がいるからこそ、昭和好きの若者が増えてきているんですよ。あのブログや書籍を読んで「こんな魅力的な喫茶店があるんだ」「昭和ってこんな素敵なんだ」と影響を受けている人は、絶対に私だけじゃないと思います。
「古い文化の魅力を残したい」。二人が描く昭和のこれから
─都市の再開発が進む中で、昔ながらの街並みが失われつつあります。昭和の魅力をどのような形で残していきたいですか?
平:日本って京都や鎌倉にある歴史的建造物レベルでないと、お金をかけて残すほどの価値を認めてもらえないことが多いですよね。実際、昭和初期から中期にできた建物はどんどん取り壊されていて。僕が活動する中でその魅力を伝え続けることで、「もったいないから残そうよ」と発言する人が増えてくれたらいいなと思います。その結果、意識レベルで古いものを大切にする感覚が根付いてくれたらうれしいですね。
阪:私は、昭和文化が爆発的に流行らなくてもいいと思っているんです。一度トレンドになってしまうと消費されて衰退しまうのが怖くて。昭和好きな人がちょっとずつ増えていって、人気が細く長く続くのが理想的なのかなって。その結果、継ぎ手がいない喫茶店や銭湯で働くような人が増えれば、昭和の文化を守ることにも繋がると思います。実は私もいつかは喫茶店を継いでみたいという夢を持っていて。そこに昭和好きな常連さんがたくさん集まればいいなと思います。
─ありがとうございます。最後に、令和の今“昭和好き”を貫くお二人から、Beyond magazine読者にメッセージをお願いします。
平:昭和の生まれの僕としては、古き良きものの良さに一つでも気付いてもらって、次の世代に伝え続けてくれたらうれしいなと、それに尽きますね。
阪:昭和に限らず、好きなものを好きって言える素晴らしさを感じてほしいです。実は私も、中学生の時は昭和好きを公言するのが恥ずかしくて。周りの人にいじめられたらどうしようと思っていたんです。でも、堂々とアピールするようになったら、今のような仕事にまで繋がりましたから。好きなことを貫いてみてください。
平:人の目を気にしていたら自分を見失いますし、何もできなくなってしまいますからね。誰にどう思われるかではなく、自分自身が良いと感じたことが結局は合っている。それは僕も自信を持って言えます。
Text:山梨幸輝
Photo:村田研太郎
Edit:那須凪瑳