MENU
search icon
media
Beyond magazineでは
ニュースレターを配信しています
検索
Tags
  1. TOP/
  2. ファッション/
  3. 欲しかったのは、こんな日用品。『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』で本当に愛せる一点ものと出合う 
ファッション

どうせ買うならこれがいい vol.5

欲しかったのは、こんな日用品。『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』で本当に愛せる一点ものと出合う 

author: 生駒 奨date: 2024/09/20

たくさんのものが溢れる現代、「おしゃれ」「便利」はもはや当たり前。インテリア、ファッションアイテム、雑貨……どれもせっかく買うならエシカルなものが良いと考えている人も多いのでは。そんなあなたに向けて、本連載では「どうせ買うならこれがいい!」と思えるようなプロダクトやサービスを紹介する。

今回見つけたのは、気鋭のクリエイター2人が手がけるアートプロジェクト『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』。一見どこにでもありそうな家具や食器などに、インパクト抜群のオリジナルデザインを施したプロダクトを展開している。そのアイテムラインナップには、廃材や廃棄寸前の中古品を活用しているものもあるのだそう。

制作しているのは、mayumiさんとshonさん。2人にプロジェクトに込める想い、クリエイションの裏側などを伺った。

HOME ECONOMICS EXPERIMENT

コロナウイルスによってもたらされたstay homeの期間を過ごす中、パーソナルな室内空間の重要性と自由度の高さを再認識したことをきっかけに2020年に活動を開始したプロジェクト。

家政学の考えかたに実験的な制作手法とサスティナブルな視点を加えることによってクリエイションを行い、生活空間に新たな可能性を提示することがコンセプト。

WEB:https://hee.theshop.jp/
Instagram: @homeeconomicsexperiment

「よくあるもの」の存在を問い直す。超実験的プロジェクト『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』とは

もともとは別々に作家として活動していたというmayumiさんとshonさん。『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』の始まりは、2人が共同で手がけたとある展示だったそう。

「2019年に初めて2人で作品を作ったんです。その時のテーマが『2人のクリエイティビティをかけ合わせて、ひとつの空間を構成する』といったもので。実現したこと以外にもいろんなアイデアが出て、終わったあと自然に『今後も一緒にやりたいね』という話になりました」(mayumi)

こうして始まった共同創作を、2人は「ブランド」ではなく「実験プロジェクト」と呼ぶ。その理由は、2人が持つ「創作への飽くなき探究心」だ。

shonさんは大学でデザインを専攻し、染色加工技術を活用した洋服作りやテキスタイルデザインを研究。卒業後は家業の内装業を手伝いながら、それを通じて得た技術や経験、大学時代の知識を活かしてものづくりに取り組んできた。一方、映像やグラフィック、立体物などマルチなクリエイションで注目を集めていたmayumiさんは、実はアパレル企業出身。商業デザイナーとして求められる仕事をこなす中で、「大量生産・大量消費されることが前提のデザインって、本当に自分がやりたいことなのか?」という疑問を抱き、個人でさまざまな制作活動を行うようになったという。

『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』の意味は「家政学実験」。『デジタル大辞泉』(集英社)によると、家政学とは「日常の衣食住・家計など、家庭生活を対象とし、そこで営まれる人間の諸活動を分析研究する学問」のこと。このプロジェクトのアイテムは、生活空間の中で何気なく使うプロダクトに「そもそもなぜ存在するのか?」といった根源的な疑問を問いかける。

fade-image

『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』のアイテムたち

たとえば「Metal pipe stool 7」の座面には、「SIT(座る)」「RELAX(くつろぐ)」といった文字が大胆に踊る。これまで一方的に人間に消費され、「そこに在るのに透明化されてきた」椅子たちが、まるで自らの存在意義を主張し始めたかのように感じさせるのだ。このデザインはユーモラスでもあり、誰しもが持つアンコンシャス・バイアス(無意識の偏ったものの見かた)を可視化させるシリアスさも持つと筆者は感じる。

Slide 1
Slide 0
Slide 1
Slide 0

デッドストックのスツールを加工して制作した「Metal pipe stool 7」。ワンオフアイテムのため、同じものは手に入らない。新作を待とう

「そういえば家にある椅子、引っ越しの時『とりあえず』で買ったものだっけ……。なんで気に入ってないものに囲まれて生きているんだろう?」。出合ったが最後、そんなふうにものとの向き合いかたやそれまでの生きかたまでも問い直される。それも、嫌味のないスマートなやりかたで。『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』のプロダクトには、そんな憎たらしいまでの魅力があるのだ。

「私たちのプロダクトを社会について考えるきっかけに」。使命感の裏にある作り手としての想い

mayumiさんとshonさんの個性が噛み合って生み出される『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』のコレクション。このコンビネーションはどうやって培われたのだろうか? 2人は学生だった10代後半のころに知り合い、気の合うクリエイター仲間としてお互いを認識していたのだそう。

「2人とも近いエリアで活動してきて、好きな音楽や遊び場所が同じだったこともあってずっと仲が良かったんです。その中で制作について相談し合っていたんですが、得意なことやできることがちょっとずつズレているのが面白くて。話すことによって新しい発想が生まれたり、お互いの足りない部分を補い合ったりしてものづくりするのが心地良いんです」(mayumi)

「最初にやった展示の時から、僕が作品の制作面、mayumiがヴィジュアル表現を担当するスタイルが良いバランス感だと感じました。『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』になってからもそれを続けていて、今では、思いついたアイデアは全部お互いに話して、2人の作品としてどう実現するかを前提に考えています」(shon)

fade-image

アイデアのタネも、よく2人で訪れる場所や共通の知り合いからもたらされることが多いのだという。

「昔からリサイクルショップに行く機会があって、そこで売られている中古品から『このファブリックをもっとこうしたら面白いよね』とか、『こんなグラフィックを載せたらかわいいかも』なんてインスピレーションが湧いたんです。そんな折、ちょうどコロナ禍も訪れて、ホテルや映画館なんかが廃業せざるを得ない状況になって。『廃棄されるものたちをベースに、2人でなにか作れないかな?』と考えたのも、『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』を始めたきっかけのひとつです」(mayumi)

「そうそう。だから、『その時出合ったものでどう表現するか』という“偶然性”も、『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』のものづくりにおいて大切です。今制作しているものは家具やインテリアが多くて『空間づくり』が大きなテーマになっているけど、絶対に空間が関係していないといけないわけじゃない。『2人が試したいことを実験する』という意味で芯が通ったプロジェクトなんです」(shon)

廃材や余剰在庫に新しい文脈を与えている2人。今ではメディアやSNSなどで「サステナブルなブランド」として紹介されることも多い。ただ、本人たちは「それにとらわれて、クリエイションの可能性を狭めたくない」と話す。

fade-image

「環境負荷や労働問題などに配慮し、未来の社会に胸を張って送り出せるものを作ることはもちろん重要です。ただ、『今、こんなものがあったら面白いはず』という、自分たちの純粋なインスピレーションは、やっぱり大切にしたい。逆に言えば、多くの問題が表出化している現代だからこそ、そんなインスピレーションも自然と社会への影響を見据えたものになる。

『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』のアイテムを『なんか良いな』『なんとなく欲しい』と手に取った人たちにとって、身の回りで起きている問題について考えるきっかけになってくれればベストだと思っています」(shon)

「作ったものは全部自信作」。出合ったら即買い必須のおすすめプロダクトたち

そんな『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』の代表的な作品が「Table Light」シリーズだ。ベースになっているのは、デッドストックのテーブルライト。クラシカルでトラディショナル、有体に言えば「普通」なライトのシェードに、2人が手がけたファブリックとグラフィックが大胆にプラスされている。一つひとつに違ったデザインが施されていて、2人曰く同じものを作らないようにしているという。

Slide 1
Slide 0
Slide 1
Slide 0

スツールと同じく、デザインはすべて一点もの。同じものには二度と出合えないというところも、買い物中毒の筆者としては強烈に惹かれるポイントだ。欲しい

「ライトや灰皿などは今後も作るつもりですが、ベースはデッドストックや余剰在庫、廃棄前のものなので、まったく同じものとは出合えません。私たちは、微妙に形が違うもの一つひとつに合ったデザインを一から考えて制作しています。だから『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』で作ったものは、全部自信を持って代表作だと言えるんです」(mayumi)

fade-image

生の大理石で作られた灰皿は、昭和の時代では企業の応接室や社長室に置かれる定番品だった。流行が終わって必要とされなくなり、大量に残された余剰在庫に、それぞれの形に合わせたグラフィックデザインを1点1点施している。まさに入魂のプロダクトだ

顧客との会話もインスピレーション。『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』がポップアップストアにこだわる理由

現在『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』のアイテムが買える場所は、公式のECサイトや各地で実施されるポップアップストア、アートギャラリーでの展示販売がメイン。音楽フェスなどのイベントにも随時出店しており、口コミでその魅力が広がっている。そうした場で出会う人々との会話が、2人の大きなモチベーションとなっているそうだ。

「その場で『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』を知ってくださる人がほとんどですが、プロジェクトの背景や私たちの想いを話しているうちに、『Tシャツが気になって見にきたけどランプも椅子も欲しい!』と言ってくださったり、その後もECサイトで定期的に注文してくださったりして、本当に励みになります。それに、先ほどお話ししたみたいに『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』がきっかけで環境問題や大量生産・大量廃棄の問題に関心を持ってくれる方も実際にいて、作り手として意味のある活動ができていると実感しています」(mayumi)

「うれしいのは、お客さんだったりギャラリーのスタッフさんだったりから『廃棄しなきゃいけないものがあるんだけど、2人なら良いものに作り変えられるんじゃないかな』『誰も使っていない物件があるんですけど、プロジェクトの活動に活かせませんか?』といった相談がどんどん舞い込むようになったこと。周囲の人たちが『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』ならなんとかできると思ってくれて、それが実際に自分たちのネクストステップにつながっていく。すごくありがたいし、面白いサイクルが作れています」(shon)

fade-image

今後について聞くと、「その時の出会いやマインドがすべて。来月には全然違うものをつくっているかもしれません」「各地でのポップアップやイベントに最新作を持っていくので、SNSをチェックしてください」と話してくれたmayumiさんとshonさん。その硬派な姿勢が、筆者的にはたまらない。ユニークで変幻自在な『HOME ECONOMICS EXPERIMENT』から、目を離すことができなさそうだ。

author's articles
author's articles

author
https://d22ci7zvokjsqt.cloudfront.net/wp-content/uploads/2024/06/145-EDIT.jpg

編集者・ライター
生駒 奨

ファッション、アート、映画、文芸、スポーツなどさまざまな分野で編集者・ライターとして活動。企業のオウンドメディアでのコンテンツディレクションにも携わる。好きなものはビーグル犬、洋服、森博嗣の小説、ホラー映画。
more article
media
人々の心を奪う、伝統製品の美。プロダクトデザインユニットgoyemonの想い
ファッション
date 2024/11/22