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ウェルネス

日本一の運動音痴×虚弱体質作家

体育嫌いの等身大スポーツライフ

author: 山梨幸輝date: 2025/03/19

スポーツが嫌いだ。

バレーボールの授業でどうしてもサーブが入らず立ち尽くしたときや、徒競走で走り方をクラスメイトに笑われたとき。身体を動かそうとすると、嫌な思い出が蘇って足枷になる。それでも、重い腰を上げて走ると頭がすっきりするし、筋トレの成果が出ると嬉しい。もしかすると、本当に嫌いなのはスポーツではなく、体育の授業だったのかもしれない。

そんな考えを分かち合いたくて、対談の場を設けてみた。快諾してくれたのは、バラエティ番組で“日本一の運動音痴”として話題になった郡司りかさん(以降、郡司)と、自身の虚弱体質をテーマにしたエッセイが人気の、絶対に終電を逃さない女さん(以降、終電)。体育の授業への不満から大人になって知ったスポーツの魅力まで、幅広いテーマで話してもらった。

郡司りか

特別支援学校教諭やアイウェアショップの店員を経て、自主映画を企画・上映するNPO法人に所属。テレビ番組『月曜から夜更かし』にて“日本一の運動音痴”として取り上げられて話題を呼んだ。近年は自身の妊活や不妊治療についても積極的に発信中。「スイミングに通っていたので、水泳だけは得意です」

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絶対に終電を逃さない女

大学時代よりライターとして活動し、2023年に初のエッセイ集『シティガール未満』(柏書房)を出版。自炊にまつわるアンソロジー『つくって食べる日々の話』(ele-king books) にも寄稿している。「名前の通り、飲み会などでは絶対に終電前に帰ります。虚弱体質ですぐ疲れるのも理由のひとつですね」

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「ドッジボールも逃げるのは得意なんです」

──まずはお二人の自己紹介からお願いします。

終電:主にエッセイをWebメディアや雑誌で書かせていただいています。昨年、虚弱体質について対談をしたり、エッセイを書いたらありがたいことに話題になって。“身体が弱い人”として色々な場に呼ばれる機会が増えました。常に何らかの不調があって、ずっと眠いです。

郡司:普段は会社員として働いています。6年ほど前に渋谷を歩いていたら、突然「月曜から夜ふかし」というテレビ番組に取材されて。できないことをひた隠しにして生きてきたスキップを、ピンポイントで「やってください」と頼まれたんです(笑)。そのときのテーマが“〇〇を克服する対処法”だったようで、サラリーマンが行き交う朝の街中で1時間くらいスキップを練習しました。それから“日本一の運動音痴”としてよく取り上げてもらいましたね。

終電:郡司さんは数年前、卓球に挑戦しているところをテレビで拝見しました。同じ運動音痴として親近感を覚えた記憶があります。

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──筆者も運動音痴で体育の授業にトラウマがあることから、この企画を思いつきました。お二人の学生時代はいかがでしたか?

終電:子供の頃から運動音痴に加えて筋力もなくて。あと、コミュニケーションも苦手でクラスで浮いてた。団体競技の授業は余計に辛かったですね。

郡司:私は運動神経の悪さがきっかけでいじめられて、小学4~5年生と高校1年生の時に転校しました。運動音痴はスクールカーストに直結すると思います。

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──体育の授業の嫌なところについて話したいです。ちなみに、事前にBeyond magazine編集部にも聞いたところ、最も盛り上がったのがドッジボールの話題でした。

終電:そもそも人にボールをぶつけるという発想がおかしいですよね。子供にあんな野蛮な行為をやらせるべきじゃないと思います。

郡司:ドッジボールが得意な男子の容赦のなさがすごい嫌でした。横投げしてスピードを出す技とかありますよね。

──筆者の地元では“ゴリラ投げ”と呼んでいました。運動が得意な男の子がたまに出す太い声も苦手でしたね。

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郡司:ドッジボール、嫌いなんですけど逃げるのは比較的得意な方だから残っちゃうんですよ。

終電:私もそのタイプでした。でも投げないから試合が展開しない。かといって当たりにいくとブーイングされるんですよね。

郡司:早めに当たっても空気を乱すから、無難な頃合いを見計ったりして。そんなことを計算してやるような遊びではないはずなんですけど(笑)。

あと、ちょっと逸れますけど、体操着の袖を捲るやつは逆に憧れましたね。運動神経がいい人だけに許される着方だと思っていて、私には無縁だったので。

──ハチマキをカチューシャのように巻くのも似たような扱いでしたね。

「できないままやらされて、終わり」

──体育の授業の問題点は他にどのようなところにあると思いますか?

郡司:座学の場合、テストの結果はクラスメイトに知られないじゃないですか。でも体育は人前でやるからバレてしまう。その分、上下関係が生まれやすいし、他者と比較することで自信をなくしやすいですよね。

終電:特に運動会の場合、親にも見られるから非常に残酷。ただでさえ苦手なのに、誰かに笑われた経験もあるから、みんなの前に立つだけでどんどん不安になります。

──他に苦手な時間はありましたか?

終電:私、ボール投げがめちゃくちゃ苦手で7mしか飛ばなかったんです。

郡司:結構いけるじゃないですか! 私はどう投げても下に飛んじゃって、いつも4mでした(※女子中学生の平均記録は16mほど)。

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終電:そもそも何が足を引っ張っているか分からないんですよね。パワーがないのか、フォームが悪いのか教えてもらえないんですよ。できないままやらされて、終わり。

「集団競技を回避できればプレッシャーは少なくなる」

──そう聞くと体育教育にも問題がありそうですね。

郡司:私は2回転校しているから色々な環境を経験してるんですよ。同じように頑張っても、クラスメイトに受け入れてもらえるときとそうじゃないときがあって。先生の人格に左右されると思いました。一番嫌だったのが、ダンスの授業で私だけワンテンポ遅れていたとき。リーダー格のクラスメイトに「みんなの前でできるようになるまで踊ってください」と言われたんですよ。先生も「そうだ」と賛同して、結局40分くらい踊りました。あの時間は本当に苦痛でしたね。

終電:聞いているだけで胃が痛くなります。小学校3年生の時、クラスで私だけ跳び箱の4段が跳べなくて。みんなに馬鹿にされる中で、先生も一緒になって笑っていたんです。そのときに傷ついたのがトラウマですね。

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郡司:今でも思い出すのは相当辛い経験ですね。でも、いい先生もいたんです。スポーツ大会の時にバレーボールをやって、私のサーブが回ってきた。みんなからは「絶対できない」という視線を感じたんですけど、打てたんです。実は体育の先生が放課後に特訓をしてくれていたんですよ。

──先生が“できない側”に寄り添ってくれると気持ちが楽になりますよね。他にやりやすかった授業はありますか?

郡司:高校2年の時に転校した先では体育が選択式だったんです。唯一得意だった水泳や、初心者が多かったテニスを選んでいたので、楽しくできましたね。

終電:私も高校の時は選択授業だったので気が楽でした。卓球やバドミントンなどのラケット競技は筋力がそこまで求められない分、マシで。小中学校でも授業にバリエーションがあったらいいなと思いますね。

郡司:集団競技を回避できればプレッシャーは少なくなると思います。

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──その一方で、カリキュラム的に集団のスポーツも取り入れないといけない側面もありそうです。どのようにすれば運動神経に関係なく楽しく体育ができると思いますか?

郡司:先生が子供にちゃんと注意できるかにかかっていると思います。「何がおかしいんだ」と言ってくれればよかったなと感じた場面はいくつもありましたね。

終電:それも含めて教育の一環ですよね。

郡司:ただ、先生の立場として難しいのも少し分かるんです。実は私、教員免許を持っていて、養護学校に1年ほど務めていました。その時に感じたのは、多数の意見に流されそうになる瞬間もあることで。どうしても生徒の声が大きくなりやすいんですよね。

「“よくない笑い”に繋げない」

──その点でいうと、郡司さんをテレビで見ていて少し不安な部分があったんですよね。一歩間違えると「運動神経が悪い人は笑っていい」と受け止められる可能性があるじゃないですか。

郡司:確かに、私も番組の反響をどう受けとめるべきか悩んだ時期がありました。そこで気づいたのですが、笑いにも悪意が込もったものと、そうではないものがあるんですよ。その違いは、面白がった後にあると思っていて。笑ったことで元気が出たり、勇気を貰えたなら、私も励みになる。でも、「こいつを見下してやろう」「アンチコメントを送ろう」と思ったなら、それはいじめに繋がる笑いですよね。

終電:作る側も見る側もよくない笑いに繋げないことが肝心なんですね。

郡司:実は番組としても工夫をしていたんです。収録中に言われたのが、「できない姿を放送するといじめになるけど、できるようになるまで映せば感動に繋がる」と。そう言ってもらえたから、「自分の嫌いだった部分が誰かの役に立つなら頑張ろう」と思えました。

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「運動音痴がバレない体育祭」

──郡司さんは転校先の高校で体育祭を主催したと伺っています。そこでは運動音痴でも楽しめる工夫をしたとか。

郡司:転校先の学校は先生が優しかったし、友達もいい人で。みんなスポーツが好きだったんですけど、体育祭がなかった。だから恩返ししたくて、私が生徒会長になって主催しました。競技は生徒会で考えたんですけど、運動音痴がバレないようなものを盛り込みたくて。例えばスリッパを1人1個持ってリレーをする“スリッパリレー”とか、オリジナルの競技を考えました。

終電:スリッパリレーはどうやるんですか?

郡司:走者は手に持っているスリッパを次の走者に渡すんです。進むほどにどんどん個数が増えていくイメージですね。終盤はスリッパを落とさないバランス能力の方が求められるから、足の速さに関係なく楽しめるんです。

終電:企画力がありますね。大人がやっても盛り上がりそう。

郡司:環境がいいからできましたね。もちろん普通の徒競走など、運動神経がいい人の見せ場もあります。

「学校じゃないから笑ってくる人がいない」

──お二人は大人になってからスポーツを始めたと伺っています。具体的にはどのようなことをしていますか?

終電:私は肩こりがひどくて。病院や整骨院で「運動した方がいいよ」と言われ続けていたんです。学生時代の思い出もあって避けてきたんですけど、いよいよ肩こりが社会生活に支障があるレベルになってきて。そこで重い腰を上げて始めました。6年くらい続けて、今は筋トレとランニング、卓球をやっています。

郡司:色々やっていますね。6年続けられた理由はなんですか?

終電:最初はスポーツセンターのトレーニング場で筋トレしてたんですけど、学校じゃないから笑ってくる人がいないんですよね。それと、運動してると筋肉が少しずつついてきて、体調も改善してきた実感があったんです。

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郡司:ランニングはどれくらい走りますか?

終電:体力ないから1回15分ぐらいで止めてます。でも全然やらないよりはマシな感じがしますね。郡司さんはどうですか?

郡司:私は筋トレとエアロビを掛け合わせたようなレッスンに通っています。1時間ずっと音楽に合わせて踊るイメージですね。最初は全然できないんで家で練習して、週1、2くらいで2年ぐらい通ってようやくできるようになりました。

終電:なかなか長期戦ですね。いい効果はありましたか?

郡司:エアロビは有酸素運動だから、血行が良くなって血色も良くなりましたね。あとは身体が引き締まったので、思い切ってピタッとしたヨガウェアを買いました。あれを着るとなんだか上手く見える気がするんです。形から入るって大事だなと。そう考えると、体育のときも袖を捲っていたら笑われなかったもしれないですね(笑)。

「大人になってから自分の伸びしろに気づける」

──大人になってから見つけたスポーツの楽しさはありますか?

終電:最近、卓球を始めたんですよ。ゲーム性があるスポーツなら楽しそうだし、続けられるかなと。やり方をスポーツセンターの人が教えてくれたんですけど、明らかに上手くなったんですよ。自分もやり方を覚えて練習すれば上達することを初めて知れて、シンプルに嬉しい体験でした。子供のうちにこういう自尊心を育んでおきたかったです。

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──大人になると誰かに心を折られることがないまま、粛々と練習できますよね。運動神経が悪いなりにトライアンドエラーを積み重ねた結果、人並みのことができるようになると「自分も同じ人間だったんだ」と気づける。その嬉しさはすごく分かります。

郡司:「生きている世界が違う」と思ってしまうレベルでかけ離れているので、意外とその事実に気づけないんですよね。

終電:得意な人は教えてもらわなくても直感的に身体の動かし方が分かるんですよね。ただ、私達も分からないだけで、学べばある程度はできるようになると。あと、大人になってから自分の伸びしろに気づけるところも、ポジティブな要素ですよね。

郡司:生まれ変わったような気持ちを何度も味わえますね。

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そうそう、あとジムに通うようになってもう一つ気づいたのが、意外と運動できない大人が多いということ。それだけで安心できるし、もっとできない人が堂々としていればいのにとも思いました。そこら辺の公園とかで、できないダンスを練習したっていいじゃないですか。

終電:それを体現しているのが郡司さんですよね。大人になると他の人が運動している姿を見る機会ってなかなかないですけど、テレビで郡司さんを見て私は「自分以外にも運動音痴がいる」と思えた。

──クラスという閉鎖的なコミュニティだけだとどうしても「自分一人が駄目」だと思ってしまいがちですよね。郡司さんの存在は大きいと思います。

郡司:嬉しいです。今は“等身大の自分の発信”をコンセプトに活動していて、100日間でダンスを踊れるようになる企画をTikTokやYouTubeに投稿したりしています。世の中を見ているとどうしても完璧を目指す流れを感じるので、“そうじゃない大人”として見てもらいたいな。

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「体育はスポーツとイコールじゃない」

──今後、挑戦したいスポーツはありますか?

終電:私はヨガとピラティスに興味があります。みんなやっているし、身体に良さそうとよく聞くので始めてみたいですね。

郡司:どちらも体育ではやらない種目なので、意外とできるかもしれないですよ。私は小学生の時に『カードキャプターさくら』に憧れて、主人公のさくらちゃんみたいにローラースケートをよく履いていたのを思い出したんです。もう一回やりたいし、いつかはフィギュアスケートなんかにも挑戦したいですね。

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──最後に、この記事を読んでいる体育嫌いだった人や、現在進行形で体育の授業が嫌な学生にメッセージをお願いします。

郡司:体育はスポーツとイコールじゃないので、当時のことは忘れて1つでも挑戦してみたらいいなと思います。あと、苦手な人は今の子供たちのために、運動している姿をもっと見せてほしい。そうして昔の私たちみたいな人を支えられたら嬉しいです。

終電:体育の授業はコミュニケーション能力なども関係してくるから、純粋な運動の以外の要素が結構多い。だから、スポーツを避けている人も、まず一歩を踏み出してほしいです。もし今が辛い学生さんが読んでいるなら「いつかきっと楽しく運動できるから大丈夫」と伝えたいですね。

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Edit & Text:山梨幸輝
Photo:笠川泰希

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山梨幸輝

編集者/ライター。大学時代にファッションブランド・writtenafterwardsでのインターンを経験し、卒業後にフリーランスとして活動を開始。雑誌やWEBメディアでの執筆や編集、ブランドのカタログ制作などを行う。
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