ロッカー、黒板、跳び箱、「大浴場」の看板……。ツッコミどころ満載の部屋に住むのは古書店員のブンさんだ。
個性的なアイテムばかりの部屋だから、インテリアにはさぞこだわりがあるのだろうと思いきや「ものにはあまりお金をかけたくないんです」と語る。一方で「本にならいくらでも!」とも。
よく見れば、さすが本屋さん勤務と思わされる本の山。本を中心にブンさんの部屋づくりについて聞いてみた。
休みの日は9割家にいる。大好きな部屋との出合い
──この部屋で暮らし始めたのはいつ頃ですか?
上京してすぐからだから、3年前くらいかな。熊本出身で、大学生の時に岡山に住んで、新卒でアパレルに就職して岐阜に配属になりました。それから転職を機に、東京に来て。最初は、大学の図書館で司書をするつもりで上京してきたんですよ。

──ブンさんと言えば古書店のイメージがあるのですが、新卒の時は本関連の仕事はされていなかったんですね。
そうなんです。小さい頃から本が好きで、いつか仕事にしたいなとは思っていましたが、服も好きだったので最初はアパレルに就職しました。
上京を機に司書として働き始めたのですが、思っていたほどシフトに入れず……。ちゃんと週5で働けるところに入りたいなと思って、たまたま求人サイトで見つけたのがいまの職場です。
結果、めちゃくちゃ楽しい。ずっと本を運んでいて体力的にきつい日もあるけど、買い付けで日常生活ではなかなか出会わない人の家に行けることもあって面白いです。めずらしい本が出てきたときにはお店の方々と「やば!!」って盛り上がります。

──部屋決めにおいて欠かせなかった条件は?
まずは、家賃ですね。東京の家賃を知って驚きました。岐阜で1人暮らしをしていた時は、今よりも安い家賃で今よりも広くて駐車場も付いた部屋に住んでいたので。
でも、運よくこのエリアにしては安いところを見つけられて、お気に入りの部屋になりました。かなり古い建物で、取り壊される可能性もあるのですが、何もない限りは居座ろうと思っています。
あとは、間取りや建物の雰囲気です。ワンルームで小さめな部屋ではあるけれど、一目惚れしました。
──Instagramでも「家が大好きで、終電を逃しても家に帰りたい」と書かれていましたね。
休みの9割は家にいるくらい、愛着のある部屋です。間取りも好きだし、置いてあるものも好き。岐阜や岡山に暮らしていた時よりも、今の方が「家に帰りたい!」って思うことが多い気がする。この部屋に住み始めてから、あまり遠出ができなくなりました。

本が第一! だから家具は歩いて探したい
──そんなお気に入りの部屋ですが、部屋作りのこだわりやテーマはありますか?
テーマはないけれど、ものにあまりお金をかけたくないという思いはあります。だから、飾られている小物なんかは、拾ったものとか友達が作ったもの、自分の作品などが多くを占めています。大きな家具はほとんどリサイクルショップやジモティーで買ったりもらったりしているかな。
たとえばこの黒板は、よく買い物している下北沢のリサイクルショップでもらいました。「これ売れないから持っていく?」って聞かれたから、「持ってく!」って言って、抱えて持ち帰ってきました。

──基本的にものにあまりお金をかけたくない、というのはどうしてですか?
本に1番お金をかけたいからです。毎月、少なくても30冊くらいは本を買っているし、家にプラスして本用の倉庫を借りていて。本にならいくらでも払うから、他のものはできるだけ抑えたい。
もちろん、家具だって「これだ!」と思うものがあればお金を出すかもしれないけど、なんだかんだ良いタイミングで良い出合いがあるから、お金をかけなくても揃っちゃうんですよね。
それに、流行っている家具やインテリアってお金を出せば買えるけれど、私は自分で探して自分で選ぶことを大事にしたいとも思っていて。自分で選んだものの方が長く愛せるじゃないですか。そう思っているから、流行り物の揃うセレクトショップよりもリサイクルショップに足が向くのかもしれません。

リサイクルショップで手に入れたバスケットゴールを設置
──部屋にもたくさん本がありますが、これ以上に本があるんですね…! 部屋の中だと、このロッカーが本棚代わりでしょうか?
前は玄関の方に置いて、行き場のないお菓子とか花瓶とかを入れていたのですが、最近、本棚になりました。千歳烏山のリサイクルショップで1年前くらいに購入したものです。アメリカの学校で実際にロッカーとして使われていたものらしいのですが、可愛くて気に入っています。
実はこのロッカー、電車で持ち帰ってきたんですよ。ロッカーと同じくらい身長が高い後輩に「持って帰れるよね? 半分運んでよ」って手伝ってもらって(笑)。

本棚代わりのロッカー
──家の他に倉庫もあるとのことでしたが、それでも家に置いておきたい本はどんな本ですか?
部屋に置いているのは、ほとんどここ1年で買って、身の周りに置いておきたいと思った本です。倉庫には昔から持っている本と、もう読み終わった本、あとはいずれ自分で本屋をやりたいのでその時のための本を入れています。
部屋の中では置き場所はあまり分けていないんですけど、たとえばそこのラックのあたりは大判の美術本とか図鑑とか。机の上は、よく読んだり調べ物に使う本。ロッカーの上は“読む”というよりは“見る”ようなビジュアルメインの本とか。ざっくりしてます。
大学生の頃までは小説ばかり読んでいたけど、働き始めてから人文書とか美術系の本もよく読むようになって、最近はそっちの方が多いです。働いている本屋で、手ぶらで出勤したので退勤時にはたくさん本を買って帰ってくるなんてこともよくあります。
──最近お気に入りの本は?
基本的に本は6冊くらい同時に読んでいるので、その時々で結構お気に入りは入れ替わります。
いまは、シオランの『生誕の災厄』(紀伊國屋書店)を読み直していて。「ネガティブ男」って感じの卑屈な文章が、詩みたいに書いてあるのですごく面白いです。「こういうヤツもいるんだな」って思いながら読んでいます。
あとは、牛若丸出版の本も好きで、まとめ買いしました。装丁がかっこよくて、見ているだけでテンションが上がります。

机の上にも本がずらり
──ブンさんにとって本はどんな存在ですか?
両親が本好きなので、私にとっても小さい頃から身近な存在でした。読むのも書くのも苦ではなかったんですよね。本って文字がメインだから、物語の中の人物のビジュアルや動きも自分で想像できる。自分に全部委ねられている感じが好きです。
でも、「この本に救われた」とか、「この作家さんが大好き」っていうのがあるわけではない。本がなくても生きてはいけるんですよ。本って衣食住には入らないし。でも、あった方が嬉しいし、あった方が私の機嫌が良くなる。ないと暮らしの彩度が低く感じます。

友達も後輩も自由に出入りする“オープンな部屋”
──ロッカー以外にも気になるものがたくさんあるのですが、ブンさんが特にお気に入りのアイテムを教えてください。
ロッカー横の机です。これは、熊本・阿蘇のリサイクルショップで購入しました。2年前ぐらいに帰省した時に初めて行ったお店で、看板とかポスターとか購入して店主さんと仲良くなったんです。大浴場の看板とかもそこで買いました。
しばらくして、店主さんがInstagramに机の入荷情報を載せているのを発見しました。私、ずっと木の素材で引き出しのついた机を探していたので、一目惚れしちゃって。廊下の幅と机の幅がほぼ同じなので搬入が大変だったんですけど、めちゃくちゃ気に入っています。木の良い匂いがして、床の色ともマッチしていて、ここ最近で1番良い買い物です。

──この机はどんなときに使っているのでしょうか。
執筆がほとんどですね。noteなどでよく文章を書いていて、執筆環境を整えるためにキーボードも購入しました。文章を書くのが好きでコロナ禍の時期から本格的に書くようになったんですけど、「書いてます」って言うのが恥ずかしくて。でも、新卒1年目の時にある賞をもらってちょっとだけ自信がついて、周りに言えるようになりました。
あとは、机の前に座って本を読むことも多いですね。と言いつつ、本は本当にどこでも読みたくなっちゃうので、ベッドの上でも、キッチンでも、玄関の前に置いたベンチでも読みます(笑)。
──机を買った理由のひとつとして引き出しを挙げられていましたが、引き出しには何が入っているんですか?

ほとんど作品用のテプラのテープです。上の段はカラフルで、下の段は全部白。テプラも上京してから始めたんですよ。上京したての頃、めっちゃ暇で、何か遊べるものないかなと思って最初に買ったのがテプラでした。文字を印刷してパズルみたいにして1人で遊んでいたら、友達が「それで展示やればいいじゃん」って言ってくれて。
2年前に展示をやることになった時に、どデカいテプラも買いました。当時6万円くらいだったので、私の家にあるもので一番高いものはこれかもしれない。テプラを作っているキングジムの方に、「この大きさのテプラを持っているのは、自衛隊かブンさんだけです」って言われました。

炊飯器くらいの大きさがあるどデカテプラ
──部屋の中にもテプラで印刷された言葉がたくさんあって素敵です。玄関にも来訪者に向けたメッセージが貼られていて、オープンな部屋という印象を受けました。
結構人の出入りが多い家だと思います。私がいない時に友達や後輩がうちにいることもありますし、友達が勝手に持ってきたものもたくさん置いてあります。
あと、斜め上の部屋に親友が住んでいるんですよ。私が上京した1年後に、親友も上京してくると聞いて、「斜め上空いてるよ! 初期費用安いよ」って言って。今でもしょっちゅう会いに行ったり、ご飯を作りすぎた時におすそ分けしたりしています。

友達たちの身長がテプラでマークされている
──そういった人が集まる場所が好きなのでしょうか?
場所というよりは、気軽に他人のために動ける人になりたいっていう憧れがあるのかもしれないです。私はおじいちゃん・おばあちゃんが大好きで、2人はすごく優しくて、いつでも他人のために動ける人だったんですよね。人の記憶は薄れていってしまうものだけど、2人みたいに、ふと思い出してもらえるような行動がしたいなと。
だから、東京で知り合った後輩も家に呼ぶし、働いてる古本屋に来てくれた子が困っていたら「ご飯食べてく?」って声をかける。私は10代の時にあまりそういうことをしてくれる大人に出会えなかったから、自分はそういうことをしてあげたいなって。
将来、自分がおばあちゃんになったら、すっごい安い家賃で若者が住めるアパートの大家になりたいし、休憩所みたいな古本屋も作りたい。みんなが安心して本を読んだり話したりできて、大人になった時に思い返すと「特別な時間だったな」と思えるような空間。いまは、そんな場所を作るための修行期間だと思っています。
