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Beyond SDGs vol.03:ファッションの大量消費にストップ!

サーキュラーデザインが生み出す、持続可能な衣装

author: 大畑慎治date: 2022/03/01

本連載第3回目で登場いただくのは、「Mirach Design Works(ミラクデザインワークス)」(以下、ミラク)。フルオーダーメイドを中心に舞台衣装やダンス衣装を製作するレーベルで、これまでに2000着もの衣装を提供しています。そんなミラクがSDGsの先をいく(Beyondする)「SDGs 2.0」たる所以を大畑慎治さんがナビゲートします。

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環境省によると、日本では毎日、大型トラック約130台分の服が焼却・埋立処分されているといいます。現在、ファッション業界は環境に悪影響を与えている産業として、世界第2位の汚染産業とみなされている(※1)など、その環境負荷は大きな社会問題となっています。

ダンス業界では、一度着た衣装はリユースされていなかったり、リサイクルしづらい素材でつくられた衣装が多かったり環境に与える影響は少なくありません。

ファストファッションがもてはやされてきたここ数年で、私たちはいとも簡単に洋服を捨て、次の服を求めるようになってしまいました。持続可能な地球のために、今できることはなにか? ミラクの考え方をヒントに、思考のパターンを変えてみるのはいかがでしょうか。

ソーシャルアントレプレナー(社会起業家)の共通点

大畑:近藤さんは、もともとダンサーだったんですよね。

近藤:そうです。立教大学のダンスサークルに入っていたのですが、当時からイベントで着る衣装探しにはとても頭を悩ませていました。学生でお金もなかったので、オーダーするなんて余裕もありませんでしたし。

でも、私はラッキーなことに、服をつくるのが得意な後輩がいたので、その子に衣装をお願いしていたんです。だから当時から、オーダーメイドであればイメージに近いものが仕上がるという感覚は知っていました。

大畑:それが原体験になっているというわけですね。卒業と同時に今の仕事をスタートしたんですか?

近藤:いえ、最初は広告制作会社に就職したんです。そこでは、製菓や飲食業階を中心に、20クライアントくらいのプロジェクトマネージャーとして広告の仕事をしていました。でも数年働くうちに、もっと身近な人の役に立つ仕事がしたいと考えが変わってきて。

大畑:それが、ダンスの衣装だった。

近藤:はい。当時も、社会人ダンサーとして、イベントのオーガナイズや舞台演出をしていたんですが、その現場でよく聞く声だったのが「衣装がない」(笑)。

ダンサーって、常に衣装に頭を悩ませているんです。まずデザインが決まらない。全身のコーディネートを揃えるとなると、それ相応の手間もお金もかかる。やっといい感じのものが見つかっても、動きにくいし扱いづらい。それをイベントのたびに繰り返しているんです。

こんなに「衣装がない」っていう人が多くいるのに、そこをサポートするシステムがないなと気がついて。衣装なら自分でもつくれるかもと思ったんです。

大畑:ビジネスの原点はそこですよね。誰もやっていないから、自分でやろうという。それがソーシャルアントレプレナー(社会起業家)の共通している部分。そこからサステナブルに目覚めたきっかけは?

近藤:2017年の夏から、ダンサーの友人が主催するイベントで、衣装をつくりはじめて。そこから今まで途切れることなくお仕事をいただいています。ひと月に約90着ペースで衣装づくりをしているのですが、出るゴミの量がすごい。会社員時代って、ゴミ箱に捨てたゴミのことなんて考えないじゃないですか。

でも、自分で事業をはじめると、そこから出るゴミのことが気になりはじめちゃったんです。衣装をつくると、残布などのゴミが永遠に出続ける。それって至極消費的だな、と。そこで自分でできることを調べはじめたのが、2020年の半ばです。

「買わない」という選択肢のために

大畑:近藤さんとは、2020年の4月頃から一緒に「サーキュラーデザイン構想」(※2)を考えはじめたんですよね。

近藤:はい。まずはクライアントのニーズを満たしながら再生可能な事業にしていくということを、図で可視化しました。そして、よりサステナブルな方に転換していくために、フルオーダーメイドだけでなく、リース事業もはじめようと決めて。

大畑さんにコンサルしていただきながら、先を見据えたマイルストーンを設定できたんですよね。まだまだ道のりは長いですが、このスキームをつくれたことで自分のやるべきことがなんなのか、納得することができました。

大畑:そこに向かって、実際の現場ではどう持続可能な方に変えていけるかっていうところですよね。その最初の一歩がリース事業。今は、オーダーメイドとリースの2軸で事業展開しているんですね。

近藤:そうです。「BY-U(バイユー)」というオーダーメイド事業をメインに、2021年の4月に、「CO-S(コス)」というリース事業をスタートしました。自分たちでつくった衣装をメインに、1着から借りられるというサービスです。

大畑:それぞれ「サーキュラーデザイン構想」の視点から、もう少し詳しく教えてください。

近藤:「BY-U(バイユー)」は、利用者にフルオーダーで衣装を製作し、対価をお支払いいただくサービスです。でも、それだけで完結するのではなく、不要になった衣装を「CO-S closet(コス クローゼット)」を利用することで、私たちに預けていただくこともできるようにする計画です。その衣装が貸し出されると、衣装のオーナーに数%がキャッシュバックされるという仕組みです。

大畑:そうなると、衣装の寿命が延びて、ずっと循環されていくというわけですね。一方の「コス」はどんな仕組みづくりをされているんですか?

近藤:「コス」は、そもそもがリース事業なので、事業がうまく軌道に乗ればそれだけで循環サイクルがつくり出せる仕組みです。あとは、リユースできない残布やハギレは、リサイクル可能な協業先に回すようにしています。また、「バイユー」でサンプルとしてつくった衣装を「コス」で展開したり、「コス」で着られなくなった衣装の部品などを「バイユー」で使用したり、ふたつのサービス間でも循環ができると考えています。

大畑:なるほど。オーダーとリースのどちらもあるからこその循環ですよね。あと聞いてみたいのは、「コス」の事業開発のうえでの苦労だったり、現在の状況ってどうですか?

近藤:結論からいうと、全然借り手がつかないですね。衣装をつくること自体はいつもやっていることなので、そんなに大変ではありませんでした。オーダーメイドと違う部分は、自分たちできちんとストックしている衣装の管理をしておく必要があるということ。

当初は、まとめて数十着のオーダーがくるということを想定していたんですが、いざフタを開けてみたら、1着ずつ借りていく人がほとんど。実際にやってみてわかったのは、リース事業に必要なのは、図書館みたいにラインナップが充実していないといけないということでした。

大畑:そこで、「サーキュラーデザイン構想」では、ラインナップをどう充実させるかについてもコンサルさせていただきましたよね。

近藤:はい。衣装って、使い回しをしないんです。一度着たら終わり。でも、ダンサーのクローゼットには、眠っている衣装が山のようにあるはずで。

そこを活用していけないかというところに着目しました。といっても、個人が所有していた1着をサイトに載せたところで、借り手はつかない。レアなもの、高いもの、買えないものじゃない限り、借りようとは思わないんですよね。そうなると全然解決につながらないし、ビジネスにもならない。

大畑:そこで突破口になったのが、ダンススタジオというわけですね。

近藤:そうなんです。「DANCE WORKS(ダンスワークス)」というダンススタジオを運営している会社があるのですが、今はそことタッグを組んで、新企画を進められないか相談しているところです。ダンスワークスさんもたくさん新しい取り組みがあるので、その流れにうまくマッチしていきたいと考えています。

大畑:眠っていた資産をうまく活用するという、これも持続可能な取り組みですよね。

既存のパターンを変えて持続可能な世界へと近づける

大畑:昨年は、イベント形式でミラクの考えを広める機会もありましたよね。

近藤:サーキュラーデザインの考え方を身近に感じて、個人の視点と行動を変えるきっかけを提供する目的で、「”Free the Pattern” ダンスがつなぐサスティナブルな衣装展」を開催しました。

大畑:「Free the Pattern」って、どんな意味があるんですか?

近藤:「既存のパターンから自由になる」というような意味合いです。ダンスが大好きだからこそ、100年後も同じように踊れる世界をつくろうというテーマがあって。そのためには、見にきてくださったお客さんの行動や思考に染み付いてしまっている、既存のパターンを変えたいよね。それを伝えていくにはどうする? というふうに企画を進めていきました。

「衣装って、基本的には一度着たら終わり」という考え方もそのひとつで。そうじゃなくて、こんな考え方があるんだよ、というところを衣装とダンスパフォーマンスで表現しました。

大畑:観客はやはりダンサーが多かったんですか?

近藤:はい。ダンスに関わっている層をメインターゲットにしていました。彼らは、普段の生活でサステナブルを意識することってあまりないと思うんです。

コンビニのレジ袋が有料化されたからエコバッグを持つとか、マイタンブラーを持ち歩くとか、流行的な目線ではちょっとずつ入ってきてはいますが、実際にはもっと距離があるんじゃないかと思っています。

きっとミラクに衣装製作を依頼しても、そこにサステナブルさを求めているかというと、そうではないはずで。彼らの欲しいものって、かっこいい衣装ではあっても、サステナブルな衣装ではないんです。

その距離感を縮めるために、「考え方をちょっとだけ変えてみませんか?」という提案をしたのが、「Free the Pattern」でした。

大畑:なるほど。「Free the Pattern」を経て、思考の変化を感じた出来事ってありましたか?

近藤:ダンサーとクリエイターが合わせて30名いたんですが、まずは「サステナブルって何?」ということをインプットするところからはじまりました。

サーキュラーデザインをベースに、その考え方や戦略をテキストにまとめて渡したんですが、最初はみんな、訳わからん状態になっていましたね(笑)。「これをどうダンスに落とし込むの?」って。でもひとつひとつ説明をして、ていねいに作品づくりをしていくうちに、みんなの思考が変化しはじめたんです。

「昔の服を引っ張り出して、アレンジして着てみた」というダンサーがいたり、SNSでサーキュラーデザインについてつぶやいてみたり。知らず知らずのうちに、作り手側にもサーキュラーデザインが身近に感じられるところまで来ていたんです。

大畑:ミラクの考えがダンサーに伝わっていったわけですね。

近藤:面白かったのは、ちょっと説明的になりすぎちゃったときに、ダンサー側から「もうちょっと私たちに任せて欲しい」といわれたことです。持続可能な考え方に対して、とても距離があったはずの彼らが、いつの間にか私と同じ目線に立って議論していて。

「もっと観客に対して、想像の余白を残してもいいんじゃないか」と一歩先の話をしている。そんな会話をやり取りで気づいたのは、観客に伝えるために作品づくりをしていたけれど、一番そのメッセージが刺さっていたのは自分たちだったな、ということでした。

直感的に感覚を刺激できるのがダンスの魅力

大畑:サーキュラーデザインって、正直大変じゃないですか。リユースできる素材を選ぶとか、衣装をモジュール化させるとか、そういうデザインにするにはコストもかかるわけじゃないですか。あえてそこにこだわり続けている理由ってどんなところにあるんでしょう?

近藤:うーん。ひとつの形になった光景を見るのが、好きだからですかね。頭のなかでぐちゃぐちゃだったものが、形になったときにうれしいっていう気持ちが強いから、続けていられる。そこに社会性とか、自然や環境に対する思考が掛け合わさって、うまく調和がとれたときに、やっていてよかったと実感できるんです。

サーキュラーデザインなんて難しいし、再生可能な素材にこだわればこだわるほど、正解が見えなくなるときもあります。でも、まずは自分ができるところからやっていこうと思えるのは、そんな気持ちが根っこにあるからだと思います。

大畑:社会性を高めていきながら、ビジネスとしても成立していないと継続していけないですからね。少しずつステップアップするしかない。それを踏まえて、今一番課題に感じていることって、なんでしょうか。

近藤:世の中のニーズと、提案したいものとのギャップでしょうか。素材まで突き詰めるのであれば、化繊を使わないほうがいいと頭ではわかっているんですが、クライアントのニーズにも応えなければいけない。求められている衣装は、再生可能な素材では表現できなかったり。そこのズレが課題ですね。

大畑:難しいところですよね。ミラクは衣装だけに終わらない気がしていますが、今後、別の分野への展開は考えていますか?

近藤: 3Dな空間でメッセージを伝えていくということを他ジャンルにも広げていきたいなと思っています。ブランドやメーカーって、伝えたいメッセージは強く持っているのに、その間のプロセスや想いは消費者まで届けられていない。

それを直感レベルで響かすことができるのは、ダンスの特性でもあるだろうし、3D空間だからこそつくれる世界観があると思うんです。「Mirach Design Work」とは別に「DramaticDining」というクリエイティブチームでも活動しているので、そんなプロデュースをしていきたいな、と考えています。

大畑:最後に、これまでの経験からのアドバイスがあればお願いします。

近藤:「完璧じゃないとできない」って思わず、少しでも前進することが大切。ソーシャルビジネスって、特に課題が大きいからこそ、私はそういうマインドでやっています。

PDCAとはよく言ったもので、本当にそれの繰り返し。初めてのことで正解がないからこそ、いっぱい勉強して、まずはやってみること。やろうと思った自分を肯定して、頑張ってみてほしいです。

撮影:吉岡教雄 執筆:山下あい

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※1 世界第2位の汚染産業:出典/国際連合広報センター
※2 サーキュラーデザイン構想:サーキュラーエコノミー(循環型経済)を実現するためのデザインのことで、廃棄物が発生しないデザインや再利用できる素材を使用するなど、循環型のデザイン。

大畑慎治の「Beyond SDGs」POINT of VIEW

今回の1つ目のポイントは、「サーキュラーデザインにした方が儲かる」モデルをつくりきること。

今、SDGsに挑戦をする多くの企業は「地球や社会にはいいけど、ビジネスとしては……」という状況から脱却できず、結果、企業としても本気で挑戦を進められていない。「ミラクサーキュラー構想」は、進めば進むほど地球環境を救うのはもちろん、手間も少なくなるし、原価も落ちるし利益も大きくなる。ハードルが高いのは承知のうえで、そういうモデルをつくりきれるかどうか。そうなるようにアイデアを出しきれるかどうか、がソーシャルアントレプレナーとしての腕の見せ所になります。

もう1つのポイントは「晴れの場」のデザイン。

「ミラクサーキュラー構想」が完成したのは8月。そのわずか3ヶ月後の展示会「Free the Pattern」では、具体的な7つのコンセプトのプロダクトとパフォーマンスが高いレベルで完成していました。ミラクがこのようなスピードで進められた理由は、いつまでも議論を繰り広げているのではなくて、展示会という「晴れの場」ありきで、どんどんと「形」にしていったから。このように、強制的な具現化を促す「晴れの場」を戦略的にデザインすることも、ソーシャルアントレプレナーが「ここちよくSDGsに挑戦を進めていく」ポイントになります。

今回、ミラクが提案した7つのサーキュラーコンセプトとプロダクトの具現化は、ダンス業界やアパレル業界に限らず、さまざまな業界企業の参考になると思います。
近藤さん、どうもありがとうございました。

ミラクデザインワークス┃Mirach Design Works
近藤香┃Kaori Kondo


1988年東京都出身。衣装レーベルMirach Design Works代表。ダンサー向け衣装を中心にこれまで2000着以上を制作する。2020年よりサーキュラー構想を推進し、リース事業や着物のアップサイクル衣装もスタ―トさせる。自らアート制作も手掛け、Dramatic Diningというイマーシブクリエイティブチームを主催、ダンス×食×空間を活かした作品作りをする他、ダンスxソーシャルアクションの担い手として活動している。


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ソーシャルマエストロ
大畑慎治

ソーシャルグッドの社会実装プロデューサー。メーカーのイントレプレナー、ブランドコンサル、新規事業コンサル、ソーシャルクリエイティブグループで一貫して、新たな事業や市場を生み出す仕事に従事。2016年以降は、SDGs、サステナビリティ、サーキュラーエコノミー、エシカルなどの領域の企業変革、事業開発、ブランド開発、プロジェクトプロデュースなどを手がける。現在、O ltd. CEO、Makaira Art&Design 代表、THE SOCIAL GOOD ACADEIA(ザ・ソーシャルグッドアカデミア) 代表、IDEAS FOR GOOD 外部顧問、感覚過敏研究所 外部顧問、おてつたび ゆる顧問、MAD SDGs プロデューサー、早稲田大学ビジネススクール(MBA)ソーシャルイノベーション講師、ここちくんプロデューサー などを兼務。
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date 2024/12/20