MENU
search icon
media
Beyond magazineでは
ニュースレターを配信しています
  1. TOP/
  2. ANNEX/
  3. 元ビッグモーター幹部が選んだ「まっとうな道」の先にあった成功
ANNEX

中古車販売に“正直さ”を持ち込んだ経営者の挑戦

元ビッグモーター幹部が選んだ「まっとうな道」の先にあった成功

author: 若林敬一date: 2025/05/24

自動車業界に精通したオート・アドバイザーの若林敬一が、クルマ業界のキーマンと対談する連載企画。今回は、中古車販売「バディカ」の代表取締役社長、中野優作さん(以下敬称略)が登場。2017年の創業以来、創業地の香川のみならず四国で販売実績No.1となり、全国規模で急成長中の中古車販売の代表だ。元ビッグモーター幹部でトップセールスマンだった中野氏。その口から語られる内容は、あまりにも正直で、真っ当だった。

正直にやってダメなら会社が潰れてもいい

若林 『クラクションを鳴らせ』を読ませていただきましたけれども、自分が元ビッグモーター出身だということを明らかにして、発信をされています。その発信も悪いものを叩くというのではなく、中古車業界を綺麗にしたい、世の中の人に楽しいカーライフを送ってもらいたいっていう、すごくピュアな理念がベースにあるように感じました。

中野 そうですね、あのときは反響がすごかったですね。書き込みは数百、いや1000を超えていたかもしれないです。YouTubeの再生数もかなり回りました。なかにはそれで儲けたとか言う人もいますけど、あの時、自分がどうなってもいいって本気で思ってなければあの状況下で自分がビッグモーター出身でしたなんて言えないですよ。

ただお金を稼ぎたいのなら、地元で中古車屋さんをやっていた方が楽なんです。お金の儲け方は知っていますので。だけど、そういうのはもういいよねという気持ちがあり、本音で真実を語ったからこそ、この人、本当のことを言っているんだろうなというのが皆さんに伝わったんだと思うんです。会社を成長させていくということについては自分の理念というのはほとんどなく、お客さんにとって何がいいか、というのがまずあり、次に社員にとって何が幸せかというのが来ます。そっちなんです、本当に。

バディカ代表取締役社長の中野優作氏。

若林 バディカさんは、B to C(消費者向けの事業)より、当初はB to B(業者向けの事業)を中心とした中古車販売を中心にやってきた会社だったのですよね。

中野 そうですね。というのも、中古車業界って悪い世界と思われてしまっていますけど、本当に悪い人達はごくひと握りで、多くの人たちはそうではないんです。整備振興会には約10万社ぐらいの登録がありますけど、そのうちおそらく9万9000社は真面目にやっています。僕たちは裏方に回ってその9万9000社を通してお客さんにクルマを届ける。その方が価値として大きいと思っていたんです。実際、5期までは売り上げの7割は業販でした。

今では65%ぐらいが消費者向けになっていますけど、僕たちからチラシを撒いたことは一度もなくて、お客さんが僕たちを探してきてくれたから結果そうなり、それに合わせて慌てて整備工場を増やしたという状況です。

fade-image

若林 古い言い方をすると、お天道さまが見ている、みたいなね。隠れたことは一切やらないっていう心の中のルールが中心にあるのですね。

中野 そうですね。例えばオンラインでクルマを販売する場合、もちろんキズの状態を写真で送りますけど、洗車キズ程度の薄いものだと、これぐらいなら伝えなくてもいいだろうとか、車内がちょっと臭う場合も、ファブリーズして誤魔化すのではなく、前に乗っていた方が動物乗せていたかもしれないですとか、そういうことをちゃんとお伝えして、その上で選んでもらっています。誠実にやるということは価格競争には弱いんですよ。クルマを完璧に仕上げていかないといけないし、お客さんとのコミュニケーションの回数も2倍になりますし、仕上げるまでの工程も増えますから。でも本にも書きましたが、それで立ち行かなくなれば、もう会社が潰れてもいいと思っていますので。それは社員にも言っています。

fade-image

モヤモヤには生産性がある

若林 大手テレビ局の問題を見てもそうですけど、今はもう隠せない時代じゃないですか。1年ぐらいは隠せたとしても、数年後には問題が表面化しています。悪いものを見抜く力を全員が持っていて、そうした情報を見られるプラットフォームも揃っていますからね。とはいえ、中野さんの場合、透明性を前面に出すというのは売るためにやっている戦略ではなく、ご自身の根幹に関わる部分のようですね。

中野 子どもの頃から単細胞でそこは変わってないんですよ(笑)。正義感を出して先生にガツンと叩かれたり、昔からずっとそうでした。常にストレートに生きてきたので、それで問題になるのならそれでもいいやと開き直っているだけです。もちろん起業家としての側面もあるので、逆にイケると思ったらアクセルをグッと踏みます。

若林 子どもの頃からとおっしゃいましたけれども、正直さというか透明性を追求するというのは性格なのですか?

中野 多分、生まれ持ったものだと思います。言わないと気持ち悪いんですよ。例えば最近入社した子がいて、中野さんはYouTubeで見るとニコニコしているのにキレると怖いと。僕はYouTubeでもキレキャラと言ってますけど、笑いながら言っているので想像つかないんでしょうね。ただ、お客さんから緊急の連絡が入って、それに真摯に対応しない社員がいたら、それは感情むき出しで怒りますよ。お客さんからレスキューを出しているのに、新規のお客さんを優先するやつなんてダメだって。なんならやめちまえって言いますよ。だってお客さんのためやっている商売なんですから。

でも言ったあとに、俺良くなかったかもみたいにモヤモヤが残って、結局みんなを集めて会議して、ちょっと言い過ぎかもみたいに反省をすることもあります。それ以来、強い言葉使わないようにしたり、そういう仕組み作りも同時にやっています。このモヤモヤには生産性があるし、言い過ぎた時は謝るし、Xで全部吐露していくみたいな。そういうのも含めて僕はこういう人間ですと世に出して、それでもよければ来てくださいというスタンスです。

YouTubeの仕掛け人は「情報の逆張り」で一気に火がついた

若林 中野さんがやっていらっしゃるマーケティング戦略について教えてください。

中野 大枠でいけばマーケティング活動を3つに分類していて、一つ目は広報、いわゆるPRです。もう一つはSNS。そして最後に広告ですね。僕は三つ目の広告を嫌っているんです。なるべくオーガニックでSNSをやりたいというのが軸にあり、YouTubeを始めたのが3年弱前ぐらいですかね。その時は車屋さんのYouTubeを隈なく見ましたけど、ほとんどが当たり前ですけどクルマを紹介していて、情報を売っている人はいなかったんです。それでここだ!と思って、ビジネスチャンネルっぽく見えるクルマ屋チャンネルで行こうと決めたんです。

fade-image

若林 テーマはどのように設定しているのですか?

中野 YouTubeを始めた頃、実際に僕のところに友人からクレジットで騙されたという相談が来ていて、それは中古車業界に蔓延している風潮があったので、そういうのに捕まっちゃ駄目だとお客さん向けに発信したんです。初日に4本撮ったんですけど、4本とも再生数は50万回以上回ったんですよね。ここで言いたいのは、みんながやっていない情報戦略に打って出たこと。ブランディングとしては、この人、クルマ屋さんなの?みたいな感じでやったこと、あとは闇を暴く、ですね。センセーショナルにやって徐々にマイルドにしていったんですけど、そうしたらビッグモーターの事件が起きたんです。僕が情報を売り出したら、周りがそれに追従してきた。それでいま僕はどうしているかというと、逆にみんなの真似しているんですよ、クルマの前で商品についての説明を始めました(笑)。

2023年には『クラクションを鳴らせ! 変わらない中古車業界への提言』(幻冬舎)を出版。中野氏が自身の経験談や営業やマネジメントについて学んだノウハウを綴った一冊。ビジネス書としても高い評価を獲得している。

若林 すごく思考を巡らせるということと、行動力がすごくあるというこの二面性。この二つはすごく強みだろうなと思います。その考える姿勢というのはどこで身につけられたのですか。

中野 逆算して考える思考はかなり昔から持っていました。ドラクエ世代なんですけど昔からロールプレイングゲームが好きで、ゴールまでどうやって最短で攻めていくかを考えるのが好きだったんです。あとは商売人なので、現地に行って何が起きているのか理解し、それを言語化しないと気持ち悪くて、起きていることを把握し、それをどう改善するか、いつまでにできできそうかという風にPDCA(=Plan計画、Do実行、Check評価、Action改善)を前職でやっていたのもあります。あとは15歳から土木の仕事をやっていて、ダムとか規模の大きなものの工事に携わっていましたので、言葉の使い方によるマネジメントの重要性を肌で感じていました。作業員のやる気次第でパフォーマンスって倍増するじゃないですか。逆に職人さんを怒らせるとスコップを持って怒られる。そういう環境で言語化する能力が高まっていった経験は効いていると思います。

ビッグモーターで多くを学ばせてもらった

若林 作業現場での仕事も今に活きているし、ビッグモーターの時にはウルトラスピードで出世された経験も活きているのですね。

中野 それがなければ絶対に今の僕はないですね。僕たちの会社の成長率はほぼ変わってなくて、ビッグモーターの事件でフォロワー数は増えたんですけど、伸び率はそれまでより下がっているんです。その一年ほど前からYouTubeをやっていて当時の登録者数は20万人ぐらいかな。そこからあの騒動の1ヶ月で増えたのは1、2万人ぐらいです。成長率で言えば最初から1.8倍とか2倍ペースで成長していたのが、ビッグモーター事件以降は1.5倍の成長率なので、むしろちょっと緩やかになっているぐらいです。なので、あの事件で儲けたとか、会社が伸びたかというとそこは違うんです。むしろディフェンスに回ったんですよ。攻めようと思えば攻められたのですが、経営スピードを意図的に落としたところはあります。いずれにしてもビッグモーターの件がなくても伸ばせていたと思います。

fade-image

若林 ただそこはなかったとしても、ビッグモーターで様々な経験をされたことは、今のパワーというか能力には繋がっていますよね。

中野 そこについては、すべてと言っても過言ではないと思います。ビッグモーターでの経験がなければとてもじゃないけど、会社経営もできていないです。僕は土木系だったのですべてのマナーを教えてくれたのはビッグモーターですし、僕をビジネスマンに育ててくれました。仕事の厳しさや楽しさも教えてもらいました。

fade-image

若林 いまの時代、皆さんがクルマ買うとなったとき、大手中古車サイトで調べるのは当たり前になっていると思うんですけど、そこへ殴り込みじゃないですけど、バディカダイレクトで中古車のオンライン販売に切り込んでいった。これは勝算あってのことだと思いますけど、どういう戦略や考えをお持ちだったのでしょうか。

中野 僕らのストロングポイントがすべて透明にすることなので、正直にやること。予算をいただき、その範囲に収まるものの情報をお客さんにLINE等で送って、買ってもらっています。もちろんクルマにもよりますけど、信用していただいているので売ることはできます。これがひとつです。もうひとつはアフターマーケット市場って4兆から5兆円で推移しているんですけど、自分がお客さんの立場なら仕事に集中したいので、どこかに行く手間は省きたいんです。僕の友達もそうですけど、僕を信用してくれているのと同時に、時間をかけたくないんです。そういう人が20人に1人ぐらい、5%ぐらいはいるんじゃないかと。仮に20人にひとつのパイを取れれば、もうその時点で日本一のお店になれるということですね。

fade-image

千葉県に野田市のバディカ16号野田支店。住所は千葉県野田市船形2857-4

“人生最高のエンタメ”としてのカーライフを届けたい

若林 最後に今後こういうことをやっていきたいというビジョンを教えてもらえますか。

中野 真似されないカーブランドにしようと思っています。僕たちが掲げているのは、“ドライブを、人生最高のエンタメに。”です。そのための手段として中古車を扱っていますけど、これを背骨にして今後、枝葉の事業にも取り組んでいこうと思っています。ひとつは最近ローンチした、バディカフェニックスシャンプーもそうです。

あとは自分のクルマを管理できるアプリの開発を進めています。例えば買ったクルマの修理履歴などが全部残り、事故歴のないことが担保できて、整備記録簿が溜まっていく。アプリを見れば、そのクルマの履歴が全部見られるとなれば、購入時に安心できるじゃないすか。さらにこのプロジェクトのポイントは、ユーザーの皆さんが保有時に高く売るために愛車を手厚くケアするようになると思うんですよ。例えばオイル交換。うちの母親は言ってもやらないんですよ。実際に2年に1度しかオイル交換をしない人って、実はめちゃくちゃ多いんです。それでも現場、査定価値は変わらない。これをやめたくて、バディカに売る場合はオイル交換をしたらポイントが貯まっていくような仕組みを作れれば、愛車の状態も良くなるし、ゲーム性もあって楽しいじゃないですか。そういう体験を通じてカーライフが楽しくできればと思っています。

fade-image

若林 中野さんの考えている方向性がよくわかりました。

中野 今の時代、みんなコスパ、タイパと言いますけど、それだけじゃなくて、カーライフを楽しい方向に持っていきたいですね。クルマの中でみんなでカラオケするなんてことは電車では絶対できないし、家族でドライブ中にふとバックミラー見たら子どもが口開けて寝ている姿とか見たら愛おしくなりますよね。若い頃には彼女のところへ行く前に洗車したり、車内にムスクの芳香剤を置いたり。昔はそうやって楽しかったじゃないですか。そういう体験を今の若い人たちにもしてもらいたいし、それで人生が豊かになるのなら、その方が楽しいじゃないですか。ぜひ若い人たちにもクルマをもっと楽しんでもらいたいですね。

YouTubeの登録者数40万人超。これだけの支持を得られるのは、何ごとも隠さず、正直に向き合い、その姿が共感を生んでいるからでしょう。その姿勢が今の時代にマッチしているのかもしれません。そんなことを考えさせられた取材でした。中野優作さんの今後の活躍にも注目です。

Edit&Text:曽宮岳大
Photo:小林俊樹

author's articles
author's articles

author
https://d3n24rcbvpcz6k.cloudfront.net/wp-content/uploads/2021/12/114.jpg

オート・アドバイザー/R-BRAND株式会社 代表取締役
若林敬一

ケロッグ経営大学院MBA、Marketing&Finance をメジャー。フォード本社広報やマツダのグローバル広報部長、本部長などを歴任。その後ボルボ・カー・ジャパン、ジャガー・ランドローバー・ジャパンのマーケティング・広報ダイレクターに転じた。2021年に独立し、R-BRAND株式会社を設立。マーケティングおよび広報の視点からコンサルティングを行う。
more article
media
「Dyson PencilVac」が掃除機の概念を変える!
ANNEX
date 2025/05/29