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林信行がデザイン的視点で紐解くGalaxy Z Fold3 5GとFlip3 5G

完成したサムスン式フォルダブルの基本形<後編>

author: 林 信行date: 2022/01/22

スマートフォンとタブレットとそのどちらでもない中間の形を行ったり来たりできるFold 3、自分で工夫して新しい使い方を生み出せるFlip 3。ユーザーにとってこの柔軟性こそが魅力であるフォルダブルな両機について、さらにデザイン視点でジャーナリストの林信行氏が掘り下げる。

この記事の前編はこちら

テクノロジーを追求し続け
3世代目でいよいよ結実した

ここでもう少し踏み込んでデザイン視点の考察を交えてみたい。まずはFoldシリーズ。Foldシリーズが届けようとしている体験価値は「開けば小型タブレット、閉じればスマートフォン」。これを実現するにあたってサムスンには2つ選択肢があった。

ディスプレイを内側にして折るか、外側にして折るかだ。実際にディスプレイを外側にして折る端末を出しているメーカーもある。

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しかし、サムスンが選んだのは内側にして折る方式だった。この方式は折り目を小さく目立たないように抑えることができ、たたんだ状態で最もパーツ価格の高い大型ディスプレイを保護できるメリットがある。

 目立たないと言ってもある程度の耐久性を保って開閉するために、画面を消した状態で見てしまうとしっかり折り目は見えてしまう。この際、ディスプレイを外にして閉じる端末だと、ヒンジ部分の全長が大きくなるので、その分、折り目部分も大きくなってしまう。サムスンは、それよりも折り目が小さくなる形を基本とした。

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 実は、この方法には1つ大きなハンディキャップがつきまとう。たたんだ片手サイズの状態の時、ディスプレイが内側に隠れてしまい操作ができないのだ。これでは「開けば小型タブレット」は実現するが「閉じればスマートフォン」が実現できない。そこでサムスンが工夫したのが、閉じた状態の片面にもう1つCover Displayを搭載することだった。初代製品では、比較的小さな縦型ディスプレイだったが、2代目製品からは本体サイズいっぱいにディスプレイを広げることに成功。これにより閉じたスマートフォン状態でも十分な使い心地を実現した。

かくしてFoldシリーズは、折りたたんだ左右とその裏表の合計4面のうち3面がディスプレイという基本形になったが、最後の1面は外観的特徴の1つである3連カメラとユーザーの個性を表現する面、つまり製品カラーバリエーションや、2代目においては、コラボ商品であるトム・ブラウンモデルのストライプ柄などを見せる面としても活用されている。

スマートフォンも、タブレットも基本の考え方は持ち歩くディスプレイ。いかにディスプレイを大きく美しく見せるかがデザイン状の重要ポイントとなる。サムスンがFold3で特に力を入れたのが開いた状態のディスプレイで映像を心地よく見せることだ。前モデルのFold2までは、開いた状態の大型ディスプレイの右上にポツンと小さい黒い点が見えた。ビデオ会議をしたりセルフィー撮影をするためのカメラのレンズだ。

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有機ELに穴を開け、そこにレンズを設置するパンチホールレンズはレンズの周辺かなりギリギリいっぱいまで表示領域となっているが、やはりディスプレイ表示が明るい時などは目立ってしまう。そこでFold3では有機ELディスプレイに注射針の穴ほどの小さな穴をたくさんあけ、その下にレンズを置くアンダーディスプレイカメラを採用。よく見れば小さい穴がたくさん開いていて直径5mm弱ほどのエリアが、やや表示が暗くなっているが、注意していなければ気がつかないというレベルで、目立つことはない。

パンチホール越しの撮影とあってカメラの撮像は解像度が低くなるなどの犠牲は払っているが、それでも折りたたみスマホを選ぶことで得られる最高の体験である「大きいディスプレイいっぱいに広げた映像を楽しむ」を優先させたのは良い選択だと思う。

目立たないのはマイクやスピーカーも一緒で、折りたたんだ本体を電話の受話器のようにして耳に当てた時、どこから音が出たのか探ってみるとディスプレイ全体が振動してスピーカーの役割を果たしていることに気がついた(本体の上側についているスピーカーからも多少音が出ている)。

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Flip3では、折りたたんだ片面に、これまでのスマートフォンになかったカバーディスプレイ(サブディスプレイ)を搭載。ディスプレイの長いフィットネスバンドほどのサイズ(約1.9インチ)で、ここにウィジェットを1つ表示できる。時刻や通知表示も可能な個性豊かな壁紙的ウィジェットを表示することもできれば、音楽再生機能やストップウォッチ、メールの受信箱など機能的なウィジェットを表示することもできれば、カバーディスプレイを左右にスワイプして他のウィジェットに切り替える操作も気軽に行える。

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ディスプレイが大きくなく、表示できる情報量が少ないため、このディスプレイでできることは少ない。しかし、この抑制された情報との距離こそが良い、という人も少なくない。

デジタルデトックスのように完全に情報を遮断するのではない。その一方で、ちょっと通知を確認しただけのつもりが、仕事そっちのけになっていたというほどの没入も起きない。メールなら閲覧するだけといった抑制された情報との距離感がなんとも良いと思った。

Androidスマートフォンは表示する情報の量も、便利と言われる機能も多ければ多いほど良いという価値観の端末が多いが、その中にこうした情報との繊細な距離感を模索している端末が出てきたのは良い兆候だと感じた。

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3度目の正直というか、サムスンによる折りたたみスマホは、3世代目にして自らが追求するスマートフォンの基本形を「掴んだ」印象を持った。iPhoneの完成度と比べて、精度や反応速度などの面で、まだブラッシュアップできると思う部分はあるが、それでも新たな基本形を完成させたように感じる。

もちろん、ここに至ることができたのは最初から現在の基本形の体験をよくするために不可欠な努力を時間をかけて重ねてきたからだろう。無段階のヒンジ部分は(初期の製品では問題も出たが)耐久性の良さも十分な検証が重ねられている上に、「無段階」という言葉の通り、かなり繊細な角度調整が可能で、そうした角度調整の後、本体がパタっと転んでしまうようなこともない慎重な重心設計がなされている。

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Fold3に関しては「機械は苦手」と言う人には少しわかりづらい部分もあるかも知れないが、「得意」な人は、従来型のスマートフォンでは味わえない新しい使い方を自由に探求し作り出せる楽しさがある。

難しさの部分に関してはAndroid端末最大の難関であるソフトウェアの開発に重点をシフトし、今後のアップデートなどで改善してくれることを期待したい。Android端末のソフトウェア開発の障壁は、OSの基本部分はグーグル、その上の機械固有の部分はサムスンがつくっていると、これだけでも複雑なのに、その上に携帯キャリア独自のソフトも載って、必ずしもメーカーが狙った体験をユーザーに提供できないことだ。

今後はキャリアに最高の端末体験をしてもらうことの重要性を理解してもらったり、サムスン側で付属ソフトを監修(あるいは開発)をするなどできると良いだろうと思った(ソフトウェア開発のガイドラインを用意するのも重要と書こうと思ったが、これは既に行われているようだ https://developer.samsung.com/one-ui/foldable-and-largescreen/intro.html )。

いずれにしても、一旦の完成の形を見た上で、この上でどのような新しい使い方のスタイルや、新しいアプリが登場し、それが今後のFoldシリーズ、Flipシリーズのどのような飛躍を見せるか楽しみに思う。

この記事の前編はこちら

Galaxy Z Fold3 5G

サイズ:高さ約158mm、幅約128mm、奥行き約6.4mm
クローズ時サイズ:高さ約158mm、幅約67mm
奥行き約14.4mm 重量:約272g
ディスプレイ:約7.6インチ
Dynamic AMOLED 有機EL
アウトカメラ:約1200万画素×3
インカメラ:約1000万画素、約400万画素
バッテリー容量:4400mAh
RAM:12GB
ROM:256GB

Galaxy Z Flip3 5G

サイズ:高さ約166mm、幅約72mm、奥行き約6.9mm
クローズ時サイズ:高さ約86m、幅約72mm
奥行き約15.9mm 重量:約184g
ディスプレイ:約6.7インチ、Dynamic AMOLED 有機EL
アウトカメラ:約1200万画素×2
インカメラ:約1000万画素
バッテリー容量:3300mAh
RAM:8GB
ROM:128GB

製品貸与:サムスン

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テクノロジージャーナリスト
林 信行

未来の風景を求めて1990年にテクノロジージャーナリストとして活動を開始。パソコン、ネットインフラ、ネットビジネス、スマートフォン、タブレットの最新トレンドや企業動向を取材し、さまざまな媒体で発信。アップル、グーグルなど米国IT大手の経営者やデザイナーの取材で知られる。iPhone登場後は、テクノロジーと良いデザインの両立の重要性を訴え企業向け講演やコンサルティング活動を開始。現在はAI全盛時代を見据え「22世紀に残すべき価値」を基軸に現代アート、地域と伝統、教育など広範なテーマを取材。ソーシャルメディアを中心に発信中。REVOLVER社社外取締役、ダイソン財団理事、金沢美術工芸大学客員教授。
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