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MIND THE GAP 〜足元にご注意ください〜 vol.2

ChatGPTがいてくれたから、1週間で修士論文を提出できた

author: 野口岳date: 2023/04/11

世間ではChatGPTに関するニュースであふれているが、実際に仕事で日常的に使いこなしている人はどれだけいるだろうか。僕が主宰するiQ Labは、九州大学にオフィスを構えている都合上、研究と両立しながら仕事をしているメンバーがほとんどだ。メンバーのひとりの松尾は、多忙な日々を極める中、1週間で修士論文の実験と執筆を終えた。なぜ常人離れしたスピードで研究を行えたのか。どうやら松尾は、ChatGPTと共に研究をしたとのことだが……。

 予測不能な世界だからこそ一歩ずつ前に進もう

ChatGPTの話をする前に、まずはiQ Labについて触れておこう。九州大学を拠点に活動するiQ Labには、多くの九大生が集まって「まだ誰も試したことのない未来」を作り上げている。肩書き的には大学生だが、彼らはプロだ。一部上場企業の戦略策定や商用サービスの開発を行い、一人ひとりが持つ専門性と積み上げた職能の掛け算の相乗効果で未来を創る。大学の中にある民間企業のラボだからこそできる掛け算だ。

そんなiQ Lab立ち上げのきっかけは、コロナ初期にある。2020年3月、誰も試したことのない完全オンライン授業をやり遂げるために学生たちが集まって、10日間で九州大学のオンライン授業サポートシステムを構築した。「予測不能」は、僕らの得意分野だ。

当時、コロナ対応で人手が足りない現場には、オンライン授業のセットアップやトラブルに関する問い合わせが殺到していた。その現場に入り込み、ひとつずつロジスティクスを再設計して、一つひとつのフローを効率化。最終的には、問い合わせの99%をチャットボットが自動で対応することに成功した。

鳴り止むことのないメール対応から解放された現場の人々が見せた安堵と驚きの顔を、僕は今でも忘れられない。コロナ初期の緊急事態には多くの人々が混乱していて、予測不能な世界を一歩ずつ着実に前に進んでいる実感が何よりも安心感をもたらした。

 ChatGPTとの出会い

そんなiQ Labでは、各々のメンバーが新しい技術を試しては、こんな使い方もできる、あんな活かし方もできると自主研究を日常的にシェアしている。そのため、ChatGPTに触れたのも比較的早かった。きっかけは年末年始に観た1本の動画だ。

簡単な文章を送るだけで、ChatGPTが音楽を自動生成するプログラムを書いてくれるという内容だ。すぐに手元の環境で真似してみたら、エンジニアでも音楽家でもない僕が、たった10分で曲を作ってしまった。これは面白いと思い、興味本位で自分の仕事にどう活かせるか色々と対話をしてみた。

はじめのうちは驚きと発見があったが、あまりの精度の高さから、近いうちに自分の仕事が代替されていくことを悟った。また、積み上げた専門性も職能も価値にならなくなるのではという不安を感じた。もし自分の仕事のすべてがAIに代替されたとして、そのとき生きがいを感じられるのだろうか。僕はかなり落ち込み、憂鬱な気持ちになった。

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 松尾はChatGPTに絶望していなかった

そんな最中、冒頭に紹介した松尾がChatGPTについてSlackチャンネルでつぶやいているのを見かけた。松尾は、iQ Labで働きつつ研究活動を行う社会人学生で、多忙な日々を極める中、締め切りまであと1週間で修士論文の実験と執筆を行わなければならなかった。

そんな極限状態の彼は、ChatGPTに可能性を見出し、超人的なスピードで修士論文を書き上げた。直感的に僕は、松尾のChatGPTの使い方を聞き出さねばと思った。直ぐに連絡をし、修論提出を無事終えたあとランチに誘って、ChatGPTをどう活用したのか根掘り葉掘り聞いてみた。

「まず大前提として……、ChatGPTは間違った答えを返すから使い物にならないという声をよく聞くが、そもそもChatGPTに知識を問うような質問をすること自体が、利用方法として違うのではないかと思う」

松尾はそのように前提を切り出した。そして、ChatGPTは壁打ち相手として使うのが良いと語り始めた。

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「修士論文での実験を考えるとき、指導教官の先生と壁打ちをしていく中で詰めていく。けれど、遅く始めた自分の場合は先生との壁打ちの時間が確保できず、限られた時間で実験の設計をしなければならなかった。そこで試しにChatGPTに聞いてみた。Wi-FiにPCをつなぐときに情報セキュリティの問題を出題するシステムを考えているから、このシステムを作る上で考慮するべき点を考えてほしいと送った。

するとプライバシー面や倫理的な面など、自分には抜け落ちていた視点を共有してくれたり、どのような技術を使えばシステム構築ができるのかサンプルコードまで返してくれた。こうしたChatGPTとの壁打ちを繰り返すことで、普段1ヶ月近くかけてやってきた実験設計が、たった数時間でできてしまった。

流石にChatGPTより指導教官の先生の方が専門領域に関しては質の高いフィードバックをくれたが、それ以外の領域に関してはChatGPTとの壁打ちで事足りてしまった。むしろ、ChatGPTはさまざまな視点の集合体だと思うと、網羅的にアドバイスを貰いたいときに、一人の専門家に相談するよりも広い視野でフィードバックをもらえる」

つまりは「浅く広く」のときはChatGPTで、「狭く深く」のときは専門家という使い分けがよいということだそうだ。実際にChatGPTのログを見せてもらうと、英語で会話をしていた。

英語のほうが文量を多く送れる仕様になっている上に、難しいニュアンスを質問する際にレスポンス精度が高く、翻訳AIのDeepLと文法チェックAIのGrammarlyを使って英語で壁打ちをしたほうが良いと気づいたそうだ。AIに質問するためにAIを使う構造が、僕は少し面白く感じた。きっと近いうちに、どのAIを組み合わせればいいのかもAIが考えてくれるのだろう。

だとしたら、英語など話せなくても、知識など持っていなくても、技術など持っていなくても、何かを作りたいという意思を表明するだけで出来上がるということだ。SF作家のジュール・ヴェルヌが残した名言「人間が想像できるものは、人間は必ず実現できる」を超えて「人間が想像できたものは、すぐ目の前で完成する」の時代があと少しで来るということだ。これは面白い。

そんな感想を言ってみると、松尾はさらに面白いことを語り始めた。

「『ググる』が登場して、『覚える』という動詞を必要としなくなったように、ChatGPTは『調べる』という動詞を不必要なものにするかもしれない。作りたいシステムの仕様をChatGPTに渡すと作り方を教えてくれて、じゃあ作ってよ、とお願いすると実際にコードを書いてくれる。有能な部下を持った気持ちだ。ChatGPT以前は、プログラミングをするときに技術や記法を調べながら書く必要があったけれど、大体の技術体系がわかっていればChatGPTに質問をするだけでいい」

なるほど。ようやく僕はChatGPTが単なるトレンドではないことを体系的に理解できた気がした。自分でググるよりも、すでに分かっている誰かに聞いたほうが早いと僕も日頃感じている。これは一度経験したら後戻りできないのだろうなと思う。だとすると、これまで以上に質問力が重要になる。有能な上司は部下への指示出しが上手いように、質問力が高い人ほどChatGPTを上手に使いこなすのだろう。

さらに言えば、質問力がある人だけが、傍から見て急激に成長を遂げたような成果を上げる世界になっていくわけだ。実際、iQ Labの中でも松尾は指示出しが上手い。だから、僕よりもChatGPTを使いこなして1週間で修士論文が書けてしまうほどの成長スピードを手にしたのだろう。もしその通りなのだとしたら、これはむしろ希望にあふれているのではないか。

僕も松尾がやったようなChatGPTとの接し方を真似してみた。驚いたことに1時間で作ってみたいミニアプリを作れてしまった。僕はエンジニアではなかったが、ChatGPTがいればエンジニアになれる。これは素晴らしい。

ちょっとだけ憧れがあったのだ。

紙の上で仕様を決めてエンジニアにお願いすることしかできない日々の中で、無から有を作り出す彼らになれるものならなってみたかった。しかし、時間がなかったり、自分には難しかったり、これまでの人生で一瞬でも夢見たことが、ChatGPTがいれば出来てしまう。松尾はChatGPTのことを有能な部下と表現したが、僕からしたらドラえもんだ。

あんなこといいな、できたらいいな

子どもの頃に夢見た世界はもう到達している。たった数人で世界を変えるプロダクトを作ることだってできる。マンガだって、ゲームだって、たった一人とAIですでに作れる。どうやったらできるのかって? そんなときはChatGPTに聞いてみよう。もし望んだ答えが返ってこなかったら、どうやったらうまく聞き出せるか、それもまたChatGPTに聞いてみよう。

もしあなたの仕事がAIによって代替されたとしたら、そのときは喜ぼう。代替されて暇になった時間で、やってみたかったことができるじゃないか。生活で不安なときも、ChatGPTは良きメンターとなってくれる。

人生100年は短い。たった100年で残せることは限られていた。けれど、いまAIと共に進む時代が来た。「人間が想像できたものは、すぐ目の前で完成する」時代を100年も生きられることを喜ぼう。そう思ったとき、僕はこの喜びを何か形に残したいと思った。できれば数百年消えることのないものがいい。

次回、ChatGPTとアナログレコード自動生成マシンを作ってみた。

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(株)imago デザインストラテジスト / iQLab共同代表
野口岳

1998年生まれ。(株)imagoのデザインストラテジスト兼、同社が主宰するiQ Labにて共同代表を務める。UI/UXデザインの視点からサービス企画やビジネス戦略のコンサルティングを行う。ユーザー中心設計かつ道徳的観点から、利用者と提供者の間に架け橋をかけることを常に意識している。学生結婚を経験し、現在は1児の父。
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