MENU
search icon
media
Beyond magazineでは
ニュースレターを配信しています
  1. TOP/
  2. ANNEX/
  3. ドイツの家電ハイブランド「ミーレ」が追求する本質的なサスティナビリティ
ANNEX

MZ世代が求めるのは、製品価値だけではない企業価値

ドイツの家電ハイブランド「ミーレ」が追求する本質的なサスティナビリティ

author: 田中 謙太朗date: 2022/09/22

「Miele(ミーレ)」は1899年創業、ドイツ発のハイエンド家電メーカーだ。100年以上の歴史を持ち、さらに2015年には“ドイツ人が選ぶドイツを代表する企業ランキング”で1位を獲得するなど、国内外で根強い支持を集めている。ブランド力に定評のある同社が、ハイブランドであり続けるための取り組みを明らかにした。

“どんな製品”に加えて “どんな企業”がこれからの価値観

“Immer Besser”(「常により良く」の意)を企業理念に掲げ、家電ブランドとしてトップを走り続けるミーレは、機能性やデザイン、耐久性などさまざまな面で高い評価を獲得し続けている。しかし、こうした“製品が提供する価値”に加えてこれからの時代は企業としての取り組みも重視されるようになるだろう。

今後の市場で主要な役割を果たすニューラグジュアリー層(25歳から40歳くらいの年代の富裕層)。彼ら彼女らの贅沢心理では、社会問題に取り組む“フェア”な企業の製品を買うことを志向する割合が高くなっており、製品の価値における差別化だけではなく、企業の価値を重視する時代になろうとしていることは紛れもない事実なのだ。

 ミレニアル・Z世代は企業の社会的価値をみる世代
出典: RISKYBRAND MINDVOICE 2019 (N=4,972)

これまで、製品性能とともに高いブランド力を武器としてきたミーレは、欧州最大の家電展示会である「IFA 2022」でサスティナビリティを中心とした同社の提供する企業価値を示した。

プレスカンファレンスには共同経営者であるラインハルト・ツィンカン氏とマルクス・ミーレ氏、そしてマーケティング最高責任者のアクセル・クニール氏が参加し、同社の製品および企業としての価値について発表した。

ミーレ氏(写真左)、ツィンカン氏(写真中央)、クニール氏(写真右)。同社展示の“Sustainability Alley”(後述)にて

完全なグリーン企業へ。伝統的ブランドの挑戦的な姿勢

同社が企業として提供する価値について、ミーレ氏は次のように語っている。

「企業と製品におけるサスティナビリティは、今や企業の基礎的な競争力の要素です。我々は社会の要求に応え企業としての価値を向上するべく、三つの基本的な行動分野について公約を定めました。

第一にあらゆる段階でのサスティナビリティの実現、第二に環境影響を残さない製品の実現、そして家電製品による廃棄物ゼロ化の実現です」

製品利用などのバリューチェーンのどのレベルにおいてもサスティナビリティを実現し、バリューチェーン/サプライチェーンの全てにおいて100%のカーボンニュートラルを達成することを究極の目的とすると発表した。

正直にいえば、この発表を聞いたときは耳を疑った。「100%なんて思い切った宣言をしていいのか」と、自分が株主でもないのに心配になってしまったくらいだった。

しかし、なんのことはない。この大胆さこそがミーレのサスティナビリティに対する強い姿勢を支え、そこからまた、より良い結果が生まれいくのだ。ミーレ氏はさらにこのように続けた。

「2021年以降、ミーレのすべての拠点で、自社のエネルギー使用による直接的な排出や、電気などの他社から提供されたエネルギーによる間接排出において(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させた状態である)カーボン・ニュートラルを達成しています」

image

同社のサスティナビリティへの取り組みについて説明するミーレ氏

事業活動に関する排出においては、製品の作成から製品価値の発揮までをひとつの繋がりととらえ、その繋がり全体の温室効果ガス排出量を“サプライチェーン排出量”とよぶ。自社でエネルギー資源の使用による直接排出をScope1、他社から購入した電気などの消費による間接排出をScope2、運輸や原材料製作、製品利用などにかかるそれ以外の排出をScope3と呼ぶ。以下にサプライチェーンにおける一例を示した。(出典: 環境省

image

サプライチェーン排出量の一例。出典:環境省

ミーレ氏の話した直接排出と間接排出はScope1とScope2にあたり、今後はScope3への取り組みが期待される。

サプライチェーンにおける二酸化炭素排出量のコントロールについて、ミーレが他社よりも効果的な動きができる理由がある。それは部品ベースでの割合が50%を超えることもある高い内製化率だ。普段はアフターサポートや製品性能などの文脈で用いられるこの値だが、サスティナビリティの議論においても鍵となる話題だ。 

前述したように、サプライチェーン上のサスティナビリティにおける議論では自社製品に関連するすべての作業における排出量が総和として計算される。この中でコントロールが難しいのはScope3にあたる外注者が負担している部分だ。より環境性能の高い業者を探すことはもとより、コストの高い選択をすることになる場合が多く、環境性能へのアプローチは価格競争の中では埋没しやすい議論となっている。

しかし、同社の元々の内製化率が非常に高いことを活かしてサプライチェーンにおける排出量をより効果的に管理することで企業としてのサスティナビリティの確保と高い環境性能を実現し、先進的な企業としてのブランドイメージを与えている。内製化率の高さは固定費の増加にもつながるため、景気が思わしくない時期にはデメリットがあることは事実だ。伝統的な企業かつ多くのカスタマーからの信頼を得ているミーレだからこそ採用できる手法といえるだろう。

このほかにも、2030年のScope1とScope2における排出量を2019年比で50%削減することや、中国工場における太陽光発電システムの拡充による年間1600トンのCO2削減の取り組み、アフターサービスにて用いる車両の電動化など、理念から製品やサービスと、あそび言葉はなく、同社のサスティナビリティ情報の滝のような発表だった。

IFA 2022での同社のブースでは、製品の実物展示に加えて同社の企業としての取り組みの紹介である“Sustainability Alley”(「持続可能性の通り道」の意)が展示されている。同展示はミーレのブースの真ん中に配置されており、これは“サスティナビリティはミーレにとって中心を占める価値観である”という考えを表したものだ。

image

すべての製品展示コーナーの目の前に、“Sustainability Alley”が展示されていた。まさにブースの中心地だ

この“Sustainability Alley”の表現するサスティナビリティには、三つの意味合いがある。「ミーレはどうやってCO2排出量が減らすのか」「ミーレはどのように素材のライフサイクルを回すのか」そして「ミーレは生活による環境負荷にどれだけのインパクトを与えるのか」という点だ。

製品使用による環境負荷を扱ったコーナーでは、ミーレ製品を使用することでエネルギー、水使用量、食品におけるロスの削減によってユーザーが環境保護に貢献できることを表現している。

製品使用による環境負荷の違いを扱ったコーナー

例えば、キャベツの模型が積み重なっている展示(上写真2番目奥)では、ドイツの平均的な家庭では毎年52kgの野菜・果物類のロスがあり、冷蔵庫による鮮度保管などのミーレの生鮮システムを使うことで、最大50%のロスの削減が可能であるとアピールした。

image

52kgはキャベツでいえば40玉ほど。この展示(21玉)でフードロスの削減量が表現されている

製品使用による環境へのインパクトの議論は、製品使用者の使い方に大きく左右される部分であるため非常に不確実性が高く、あらゆるステップでのバリューチェーン/サプライチェーンでのサスティナビリティを実現する上では非常に難度の高い部分だ。目を引く展示によって興味を持たせることで製品使用者の感覚を刺激し、少しでも貢献をしようという取り組みは企業としての価値を向上させる理由のひとつだといえる。

高いブランド力の源は、創業以来変わらぬサスティナビリティへの理念

IFA 2022のプレスカンファレンス内で、共同経営者のミーレ氏がサスティナビリティについて話す姿が何よりも印象的だった。胸を張って、“同じ地球の船に乗っているんだ。みんなで取り組もうよ”と言わんばかりに、その課題に正面から向かっているように感じた。

このような印象をぶつけたところ、広報担当者のラウラ・フリードリヒ氏は次のように答えてくれた。

「ミーレの創業以来、サスティナビリティという言葉は常にミーレの名前に結びついていました。その当時は“サスティナビリティ”という言葉そのものはなかったけれども、創業者たちはすでにその原則を実践していました。

より高い耐久性と信頼性を有する製品を開発・生産し、1909年にはすでに企業による健康保険が実装されるなど従業員の継続性も重視していました」

ミーレは高い耐久性や時代に左右されない洗練されたデザインなどに加え、廃盤になった製品でも15年間、交換部品を用意し続けるアフターサービスの充実性など、とにかく“長く使ってもらうこと”を何よりも意識している。これまでは製品性能として表現されていたその意識が、これからは企業価値としても発揮される時代になるだろう。

“Sustainable Alley”に展示されたミーレの年表の副題としてつけられた“We don’t think years, but in generations”(「一年(家電において主流な新製品発売のスパン)ずつではなく、世代ずつの付き合いを考える」の意)という言葉はそんなミーレの理念を端的に表しているように感じるのだった。

取材協力:ミーレ

author's articles
author's articles

author
https://d3n24rcbvpcz6k.cloudfront.net/wp-content/uploads/2022/06/117.jpg

ライター
田中 謙太朗

2001年東京生まれ。早稲田大学在学中。共同通信社主催の学生記者プログラムに参加したことをきっかけに執筆を開始。その後、パナソニックのイベントへの登壇など、記者としての活動と並行して、英自動車雑誌『Octane』の日本版にて翻訳に携わる。主専攻である土木工学に関連したまちづくりやモビリティに加えて、副専攻に関係するサスティナビリティに関する話題など、これからの時代を動かすトピックにアンテナを張る。
more article
media
MIYASHITA PARK パンエスで、シャオミ・ジャパンの製品と「Xiaomi 14T Pro」の作例を楽しもう!
ANNEX
date 2024/12/20