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メタバースの普及の壁を最新ガジェットが解決する

「ハイパーバース」の世界はもうすぐそばまでやってきている

author: 山根 康宏date: 2023/03/23

最近流行りの「メタバース」。仮想空間で人と会ったり買い物をしたりと、まったく新しいコミュニケーションの世界が始まろうとしている。とはいえ、メタバースを始めようと思っても高価なVRグラスを買ったり、新しいサービスに加入しなくてはならないなどその敷居は高い。しかし、そんな準備をしなくとも、誰もが普段の生活の延長でメタバースを利用できる時代がすぐにやってくる。2023年1月にラスベガスで開催された世界最大のIT展示会「CES 2023」でメタバースの最新技術を見てきた。

 

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 メタバースを日常的に利用する時代がやってきた

重くて使いにくいグラスは不要、外出先でも気軽にメタバース

メタバースとはクラウド上に存在する仮想空間のことだ。さまざまな仮想空間が展開されているが、それらを利用するためにはVRグラスを使うことが一般的だ。VRグラスはゲーム向けのものが販売されており、頭の上にかぶる大きなディスプレイ一体型の眼鏡である。

すでにVRグラスを使ったことがある人も多いだろうが、実際に使ってみての感想はどうだろうか? 「VR空間やゲームは楽しい、でもVRグラスを長時間つけているのは目の周りが不快になるし重量で肩が凝る」なんて感じる人が多いのではないだろうか。

実は、メタバースの普及の一番の障壁は、この使いにくいVRグラスだ。そこでシャープは軽量で誰もが手軽に使えるVRグラスのプロトタイプを開発した。その重量はわずか175g。装着してみるとそれほど重量は感じられない。しかも使用中を他の人に知らせるために派手に光る仕上げとなっている。その外観は未来のSF映画に出てきそうなデザインだ。

シャープの軽量VRグラスのプロトタイプ

プロトタイプとは言え持ち運び用のケースまで用意されており、このまますぐに携帯して外出することもできる。たとえば、国際線の飛行機など長時間の移動中、機内のエンタメシステムでは好みの映画を放送していないかもしれないし、手持ちのスマートフォンでは画面が狭い。

しかし、VRグラスを装着すれば目の前に大型ディスプレイが広がり、映画でも再生すれば機内にいることも忘れて没頭しながら2時間でも3時間でも視聴してしまうだろう。また機内Wi-Fi経由でメタバース空間内の会社で上司と打ち合わせをする、なんてこともできてしまうのだ。

持ち運び用のケースもすでに用意されている

VRグラスは、単体で使えるように大型のバッテリーを搭載したり、ディスプレイの解像度を高めるなど高性能化を各メーカーが進めている。だが、ユーザーが求めているのは高性能かつ「身体に付けていることを感じさせない」軽量な製品だろう。

CES 2023ではHTCが分離式のVRグラス「HTC VIVE  XR Elite」を発表。バッテリーをつけたケーブルフリーな環境で使えるだけではなく、バッテリー部分をはずせばシャープの製品のように軽量なグラスとなる。これらの軽量な製品が出てくれば、自宅で「ちょっとメタバースで雑談でもしてこよう」なんて具合に気軽にVRグラスを付けることも習慣づくだろう。

HTC VIVE XR Eliteはバッテリー部分をはずせば軽量なVRグラスになる

まるで本当に握手をしているような感覚になる「触感グローブ」

メタバースのなかで人に会って会話するのは慣れればなかなか楽しい体験となる。遠くにいる人や知らない外国にいる人が同じルームに集まって自己紹介をしたり雑談する、なんてともができるのだ。

しかも文字を打つ必要はなく、普段通りに声を出して会話ができる(外国人との会話には英語や外国語が必要だが)。

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メタバースでのチャットは本当に街角で雑談をしているようだ

しかしメタバース内にいる自分の姿=アバターは仮想世界の住人である。目の前の友人の肩をたたいたり、あるいは花束を渡されたので受け取ろうにも、仮想空間内の動きのため実際に人や物に触れてもその実感はまったくわかない。リボンのかかったプレゼントを渡されても、それをもらったという感覚になれないのだ。

そこで、何かに触れたときに物理的なフィードバックが得られるグローブを開発している企業もある。

bHAPTICSの「TACGROBE」は薄い手袋型のデバイスで、指先の部分にバイブレーションが内蔵されている。仮想空間内でボタンを押せば、指先のバイブレーションが適度な振動を起こし実際にボタンを押した感覚が得られるのだ。物を握ったり握手をしたり、あるいは猫をなでたりダンベルを持ち上げるといった「振れる」操作に対して振動を返してくれる。

実際に筆者も試してみたが、メタバース空間内でそれまでは「しゃべる」ことしか積極的に行わなかったが、TACGROBEを腕にはめるとやたらと周りのものに振れたくなるのだ。特に初対面の外国人にチャットルームで会っても積極的に「ハロー」と握手するようになった。触感があるだけでメタバース空間が現実により一歩近づいてくれるのだ。

バイブレーションで触感を再現するグローブ「TACGROVE」

メタバース空間に「入る」だけではなく実際に触感が得られることがメタバース普及のひとつの鍵と考えている企業は多く、HaptXが同様の触感グローブ「Gloves G1」を開発した。

こちらはより細かい触感を得られるグローブで、工場のバーチャルトレーニングなどでも使えるように手袋内の液体が手のひら全体に触感を与える機構となっている。

HaptXの「Gloves G1」。ゴツイ形状だが手の皮膚でより繊細なフィードバックを得られる

たとえば、ハイスペックなゲームをプレイしているとき、スピーカーから出てくる効果音はそのゲームへの没入感を高めてくれる。我々人間は普段、音や触感のある世界に生きているからこそ、どんなに高度なコンピューターグラフィックの世界が実現されたとしても、そこから得られる何らかの触感がなければリアルに感じることは難しいわけだ。

そのほかにも、VRゲーム用だがシャツの中に電極センサーを10個も内蔵したOWOの「OWO Haptic Gaming System」は、30種類の衝撃を体感できるという。風を身体に受けたときの感覚から、物騒だがゲーム中に銃撃を受けたりナイフで刺されたときに感覚を味わえるという。もちろん、これらの歩触感はバーチャル空間で何かにぶつかったとき、たとえば肩をたたかれたときなどのフィードバックにも応用できるだろう。

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「OWO Haptic Gaming System」。身体を痛めたときの感覚を味わえる

グラスフリーでメタバースの世界も

メタバース空間を手軽に楽しむためのハードウェアが次々と開発されていることがわかっただろうか。しかし、さらにメタバースを手軽に楽しむソリューションも次々と登場している。たとえばARを使ったサービスだ。VRは眼を完全に覆うグラスをかけ、目の前に完全な仮想空間を実現するものだ。

それに対してARは「Augmented Reality=現実空間」を仮想的に拡張するものである。ARのグラスはVRグラスほど物々しいものではなく、普通の眼鏡をちょっと大きくした程度のサイズだ。ARグラスをはめれば目の前には実際の風景が広がるが、そのなかにアニメキャラが現われて動いたり、本が出てきて中身を読める、といったことができる。

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TCLのARグラス「RayNeo X2」を使ってみた。普通の眼鏡と見た目は変わらない

さらには、眼鏡も不要でメタバースを利用できる技術も開発が進む。それは立体ディスプレイだ。ロッテデータコミュニケーションは小型の3Dディスプレイを紹介。写真ではただの画像に見えるが、目の前に立つと奥行きのある空間が広がり、指を伸ばせば展示されている商品を触ることができるような感覚に陥る。

現在はマウスによる操作だったが、先ほど紹介した触感グローブと連携させればバーチャル空間内の商品を手に取ったり、店員さんにクレジットカードを渡す、なんて操作もまるで現実のような感覚で行える。

ロッテデータコミュニケーションの3Dディスプレイ

ほかにもホログラムを使った大型ディスプレイの展示もいくつか見られた。

「Holo Panorama X」は曲面したディスプレイの前に立つと、映像が目の前に飛び出すように表示される。動感センサーを内蔵しており、手のひらを動かすだけで映像を動かすことも可能だった。ホログラムを使えばバーチャルな空間が現実の空間と融合されて表示されるため、現実と仮想の区別がつかなくなるほどだ。

ホログラムが現実と仮想空間の敷居を無くす

コロナの蔓延が深刻だったころ、オンライン会議システムを使って仲間内で集まる「オンライン飲み会」が流行ったことがあったが、分割された画面で談話するのには限界だった。

メタバース空間ならバーチャルな世界で友人たちと集まることを楽しめるが、時には本人と直接会いたいと思うこともあるだろう。これからメタバースが流行し、仮想空間を使うことが当たり前になっていくだろうが、その先には現実と仮想の区別のない「ハイパーバース」と呼べるような世界がやってこようとしているのだ。

メタバースの先を見据えた展示も多くみられた
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携帯電話研究家
山根 康宏

香港在住。最新のIT・通信事情を取材するため世界各国の展示会・新製品発表会を1年中追いかけている。日本のメディアに海外事情の執筆記事多数。訪問先では現地取材と称し地元のキャリアや家電店を訪問し必ずスマートフォンを買い求める。最新のハイスペックモデルからジャンクなレトロ端末まで興味の幅は幅広く、時には蚤の市で20年前の携帯電話を買っては喜んでいる。1度買った端末は売却せず収集するコレクターでもあり、集めた携帯電話・スマートフォンの数は1700台を超える。YouTubeでは日本で手に入らないスマートフォンや香港情報を発信している。YouTubeチャンネルは「yamaneyasuhiro」。Twitter ID「hkyamane」、Facebook ID「hkyamane」。
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