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ユースカルチャーの発信者たち【ダンサー・THE D SoraKi】

19歳の世界王者・THE D SoraKi、世界一のダンサーの次なる使命

author: Beyond magazine 編集部date: 2023/04/29

「世界一のダンサー」の称号を手にした、ダンサー・THE D SoraKi(ザ・ディー・ソラキ)は、紛れもなく“ユースカルチャーの発信者”の一人だ。本特集「ユースカルチャーの発信者たち」のネクストバッター、“世界を全部持っていった” 19歳は、なにを考えて踊るのだろう。


2022年12月、南アフリカ・ヨハネスブルグで行われた世界的なダンス大会「Redbull Dance Your Style 2022 World Final」で、世界王者に輝いたTHE D SoraKi(以下、SoraKi)。ダイアナ・ロスの『I'm coming out』と聞けば、彼を思い出す人もいるかもしれない。

一音も逃さずに魅せ続けた準決勝での彼のダンスは、tiktokやInstagramに拡散され続け、その総再生回数は1億回を超えた。

「ダンス」の前には「HIP HOP」がある

ダンスやスケボーなど、ストリートカルチャーを少しでもかじったことがある人であれば、「Redbull」で世界を獲ったといえば、その偉業は説明不要でしょう。若干19歳で世界一への階段を駆け上がり、「SoraKi」の名は世界中に鳴り響きました。「ダンスをはじめたのはいつ?」という質問に「わからない」と回答します。

SoraKi:ダンスを始めたのは姉の影響ですね。姉は、2歳半からダンスを習い始めて、4歳でコンテストに出ていました。そのコンテスト会場まで姉を送る道中で母に陣痛がきて、僕が生まれたんです。母のお腹のなかにいるときからきっとダンスミュージックは聞こえていたし、生まれてすぐにダンスができる環境がありました。

「いつからダンスをはじめたの? 」とよく聞かれますが、正確にはわからないですね。

2003年生まれのSoraKiさんの最初の先生はお姉さんでした。当時、TVやメディアや影響もあり、多くのキッズダンサーたちが生まれ、2012年には学校教育に「ダンス」の授業が組み込まれました。そんな時代背景のなか、SoraKi少年もダンススクールに通い出します。

SoraKi:いまでこそ、自分はダンスのジャンルに問われることなく「フリースタイル」で踊っていますが、ぼくの通っていたダンススタジオでは、全ジャンルを経験しなくてはいけなくて。ジャンルを習得するたびに、ブルー、グリーン、シルバー、ゴールド、スーパースターと、空手の帯のように昇格していくシステムがありました。しかも、昇格すればするほど月謝も安くなるという、親にも都合のいい制度になっていて。

世界で活躍するダンサーを育成するために、頑張らざるを得ない環境が用意されていました。でも、4年間そのスタジオでしっかり基礎がついたのは、よかったことだと思っています。

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当時を振り返って、「ダンス」の在り方について疑問を感じながらも、世界チャンプの肝っ玉の強さは幼少期から自分のなかにあったといいます。

SoraKi:ダンスバトル自体は、年長のころから好きで出ていたので全然緊張はしないんです。もともと人前に出ていくのが好きで、中学生のころは合唱コンクールの指揮者や体育祭の応援団長と、目立つことはひと通りやっていましたね。

母親がHIP HOP好きで幼少期から向こうの音楽が身近にありましたし、ぼくもストリートカルチャーとともに育っていったので、ラップ系のクラブイベントにも少しずつ行くようになったんです。いまでもレコードやCDを集めるのが趣味で、どちらかというとダンスよりもHIP HOPで育ってきた感覚のほうが強いかもしれません。

SoraKiさんの出身は神奈川県茅ヶ崎。幼いときから湘南エリアのクラブカルチャー、ストリートシーンに傾倒していきます。「ダンス」の前に「HIP HOP」。現在も茅ヶ崎を拠点にしており、多くのHIP HOPシーンの担い手がそうであるように、(HIP HOP でいうhomie/ホーミー)地元のツレが一番の仲間。

SoraKi:一番好きなクルーは、Fla$hBackS(フラッシュバックス)です。KID FRESINOとJJJとFebbが大好きで。でも、彼らをクラブで見られることなく、2018年にFebbが亡くなってしまったので、行けなかったことを悔やんでいますね。地元の「江ノ島オッパーラ」にもめっちゃ行っていました。

意外にもダンサーの友達って少ないんです。一番遊んでいるのは、中学時代の友達。最近キャバクラで働きはじめた子が、お店での出来事を会った時に教えてくれるんですけど、それがめっちゃおもしろくて、毎回聞くのを楽しみにしています。それ以外だと、オッパーラで出会った先輩とか、スケーターの先輩とか。そう考えると、地元の人ばかりで本当にダンサーの友達っていないですね(笑)。

他人は他人、自分は自分

「何事も基礎が大事」「しっかり基礎を学んだ方がいい」と、上の世代の声が聞こえてきそうだが、SoraKiさんの考えは実に自由だ。物心ついたときにはスマホがあり、ありとあらゆる情報が手に入る時代において、ダンスもスタジオに行かずともネットを介して学ぶことも不可能ではありません。

SoraKi:どっちでもいいんじゃないでしょうか? 自由でいいと思いますよ。基礎をちゃんと習いたければ、基礎を教えてくれる先生につけばいいし、その人のやりたいようにやればいいと思いますね。

僕は、好きだと思った人についていくという自分の気持ちだけで生きてきたので、ほかの人の選択にものを言える立場でもないですし。偉そうな言い方になってしまいますが、知ったこっちゃないっていうか。誰かを悪くいう人がいたとしたら、その人が頑張ればいいって思います。

——今回の『Redbull Dance Your Style 2022 World Final』のダンス動画は、SNSでかなり拡散されました。それをきっかけにSoraKiさんを知ったという人も多いと思います。そういう意味では、個人が活躍していくにはいい時代という見方もあります。

SoraKi:そうですね。そこには自分も間違いなく感謝していますけど、SNSがあるからこういう結果になったとも思っていないというか。昔もいまと同じようにクラブシーンがあって、そこにプロデューサーが見にきていたわけだし、見つけてもらう方法はちゃんとあった。

だからいまも昔も、やっていることはそこまで変わらないんじゃないかなって思っています。

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目標は「JAY-Z」。ダンスの地位向上が“世界チャンプ”の使命

こと日本のダンスシーンにおいては、2012年に小学校の指導要領にも「表現運動」としてダンスが組み込まれ、中学校の体育では男女ともダンスが必修化。2020年には、プロのダンスリーグ「D.LEAGUE」が開幕しましたが、SoraKiさんの目には、少し歪な光景に見えているよう。

SoraKi:「ダンス」という文化はもともと日本にはなかったものです。だから、みんなダンスって「習うもの」だと思っている。なので、本当の意味で根づかないんだと思うんです。

ダンスをやっていない人でも、音楽が流れれば自然と体が動きますよね。「それがダンスだよ!」って僕は思うんです。踊るって感覚よりも遊ぶって感覚の方が大きいかもしれません。

19歳の世界一のダンサーの目標は高い。彼を世界一にたらしめたものは、ダンスのスキルはもちろんかもしれませんが、シーンを見つめる真剣さであり、そんな実直な考えなのかもしれません。

SoraKi:ダンスって、めっちゃ地位が低いんですよ。いつもバックダンサー止まりで、ダンスが主役になることってすごく少ないじゃないですか。小学生のころ、アーティストのツアーに帯同していろんなバックダンサーをした経験があるんですけど、あまりしっくり来なくて。

自分の表現したいパフォーマンスではなく、バックダンサーとして「与えられた振り付け」を踊らないと稼げない地位の低さがすごく嫌で。だからこれからはダンスの地位を確立して、ちゃんと稼げるような職業にしていきたいと思っています。

SoraKi:ぼくの夢は「スーパーボウル」。世界最高峰のスポーツの祭典に、自分がメインで「スーパーボウル」のハーフタイムショーに出ることです。今年はリアーナがメインでしたが、「なんでバックダンサーがラッパーの前に隣に立つことができないのか?」という疑問があって。ラッパーと平等に見てほしいんです。

いまでこそ主役の座に上り詰めたラッパーたちも、90年代には「なんでロックンロールのアーティストと平等に見てくれないんだ」って思っていた。いま僕が抱いている感情は、その感覚に近いと思います。

当面の目標は、NFLとパートナーシップを結び、「スーパーボウル」のハーフタイムショーに対して発言権をもつ、「世界一のラッパー・JAY-Zと友達になること」。SoraKiさんは真剣な眼差しで夢を語ります。

SoraKi:JAY-Zと並んでショーケースがしたいです。ダンスで稼いでいくことができないのって、世界で見ても日本だけだと思いますよ。海外を見ると、そもそものダンスの人気が高くて、それをひとつの文化として国がサポートする体制が整っているんです。だからダンサーに憧れる人も多いし、ダンスをすることが、より自然なかたちで根づいていますよね。

日本のダンスグループでも、すでにダンスのツアーをしている人もいますが、今回のバトルも含めてひとりでなにかを成し遂げてこそ、世間からの見られ方が変わるんじゃないかなって思います。ダンサーってひとりで生きていけるんだぞっていうのを証明したいんですよね。

目先の目標は、JAY-Zと友達になるってこと。いつ死んでもいいと思えるくらい、いまはやりたいことをやろうと思っているので、思いついたら即行動って感じですかね。

Text:山下あい
Photo:下城英悟
Edit:山田卓立

THE D SoraKi┃ザ・ディー・ソラキ

2003年生まれ、神奈川県出身。4歳上の姉の影響で、4歳からダンスを始める。幼少期から世界中のダンスバトルで活躍し、2022年12月に南アフリカで行われた「Redbull Dance Your Style 2022 World Final」で日本人で初めて優勝を勝ち取る。「The D」の名は、フランスの著名なダンサーに「お前は『The D』だ!」と言われたことに由来。

Instagram:@the_d.soraki_dance
Twitter:@sorakisoraki

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