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DESIGNART TOKYO 2023:UNDER-30 Leo Koda

ヨーロッパの空の下、人間味あるプロダクトデザインを探求し続けて:Leo Koda

author: Naomidate: 2023/09/18

「DESIGNART TOKYO」で毎年注目を集めるのが、30歳以下のクリエイターを選出する若手支援プログラム「UNDER 30」。「DESIGNART TOKYO 2023」の会期(2023年10月20日〜10月29日)を前に、Beyond magazineでは、この「UNDER 30」部門で選ばれた国際色豊かで才能あふれる5組のクリエイターのインタビューを敢行した。


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オランダの首都・アムステルダムから電車で約80分、南オランダ最大の都市、アイントホーフェンは、美しくデザインされた建物があちらこちらにあることから、「デザインシティ」と呼ばれている。ここを拠点に、プロダクトデザイナーとして活動するのが、Leo Kodaさんだ。

幼い頃から、身近にあった家具や家電製品に愛着を覚え、プロダクトデザイナーを目指したKodaさん。穏やかな語り口の奥には、世界有数の美大でデザインを学ぼうと日本を離れ、ものづくりに真摯に向き合い続ける、圧倒的な行動力があった。

オランダ・ロッテルダムの芸術収蔵庫「デポ・ボイマンス・ファン・ベーニンゲン

プロダクトに感じた人間っぽさ。愛着が湧いてデザインをやりたくなった。

In Fill Out」は、3Dプリントしたオブジェクトを、染料インクを⼊れたお湯で茹でて膨らませ、ユニークな⾊と形を⽣み出すプロジェクトだ。きっかけは、使い込まれた3Dプリンターをたまたま譲り受けたことと、コロナ禍によるロックダウンで工房と化した自宅のキッチンで、加熱調理の実験を繰り返すうち、たどり着いたという。

Kodaさん:このシリーズを作り始めた初期に、MULTISTANDARDの秋山亮太さんに声をかけてもらい、「DESIGNART TOKYO2021」の「1-15-22 Apartment」へ参加しました。あれから2年近くが経ちますが、オブジェクトの大きさ、膨らみ方や色など、違う作品かと思うぐらいバージョンアップしていると思います。

──3Dプリントのオブジェクトに必要不可欠な、インフィル(※1)がポイントの作品ですね。

Kodaさん:はい、熱によって内部の空気が膨張し、茹でて柔らかくなったオブジェクトの表面に模様が浮かび上がります。装飾のように見えますが、内部構造による必要美とも言えるものです。

Photographer : Ronald Smits

インフィルの構造自体を設計・デザインできて、茹でて膨らんだときの形を作れるところが面白いですね。フィラメント(※2)はバイオベースのプラスチック素材を選んでいますが、特別なことはしておらず、3Dプリンター自体もごく一般的なものです。このときほぼ初めて3Dプリンターを使ったことが逆に良かったのかもしれません。

──Kodaさんは、中高一貫校の芸術コースで学び、武蔵野美術大学でプロダクトデザインを専攻・卒業。インテリアやデザインに明るい両親のもとで育ち、プロダクトデザインへの興味を抱いたのは、小学5年生のころ——。どんなものに興味があったのでしょうか。

Kodaさん:引っ越し好きな家族でしたが、住まいが変わっても、愛着のある家具や家電製品はずっと一緒に暮らしていました。それらに相棒や友達のような存在感や人間味を感じたとき、デザインへの強い興味が湧いて、こんなものを作れる人になりたい、と思ったんです。

イタリアの照明メーカー、Artemide(アルテミデ)の「Tolomeo(トロメオ)」シリーズのランプは、佇まいに人間っぽさが重なります。また、2000年代にAppleが発表した、ポリカーボネート素材のノートパソコン「MacBook」は、スリーブ状態のとき、まるで人間が呼吸しているようなリズムで、インジケーターのランプがゆっくりと点滅する様子が衝撃でした。まるで生き物を見ているような感覚だったのを覚えています。

——「プロダクトデザインを学びたい」という動機は何年経っても揺らぐことはなかったとのこと。高校卒業後は、行きたい学部・専攻があった武蔵野美術大学へ進学されましたね。

Kodaさん:はい。今いるオランダのスタジオもそうですが、武蔵美には、溶接のスペースや木を切る大型機械など、ここにいたら自分で何でも作れてしまえそうな、充実した設備が揃っていて、いろんな実験をしましたね。

例えば、エアコンプレッサーを吹き付けて現れた、波紋のような偶然のかたちから、型を作ったことがあります。空気というかたちのないものを型にして量産する、という、工業製品の製造工程と似て非なるところに興味を持ちました。

──その手法や、3Dプリントの「In Fill Out」も、インダストリアルデザインのようでありながら、完成するもののクオリティは一定ではなく、どこかアートとデザインの間のようなものづくりにも思えます。

Kodaさん:そうですね、工業製品は本来、品質がブレてはならないもので、ミスプリントなどは「B品」と呼ばれ、安く販売されることがありますよね。でも僕は、ここにしかない工芸のような一点もの、というユニークさが好きです。家具や家電に人間味を感じるのと似て、愛着が湧いて、心理的な距離が一気に近づくのかもしれません。ものを見てるようで、人間を見てるような感覚があります。

スイス・ECALへ在籍して、気づいた世界と変わった見え方

ECALでのプレゼンテーションの様子

コロナ禍が始まってまもない、2020年の春、武蔵野美術大学を卒業したKodaさんは、その年の9月、世界でも指折りの美術大学として知られる、スイス・ローザンヌ州立美術学校(通称 ECAL)へ入学した。

Kodaさん:海外で学ぶならどこの学校がいいのか、大学1年生の終わり頃からリサーチを始めていました。当時はワクチンもなかったですし、留学を諦める学生は多かったと思いますが、合格できたので、万全の感染対策をとってスイスへ渡りました。

ECALで過ごした2年はとても充実していましたね。一緒に学んでいた学生たちは、国籍も年齢も見事にバラバラ。飛び級で入学してきた中国出身の年下の子から、30代後半くらいの方までいました。

ヨーロッパでは大学院を2つ修了している、という方も珍しくない。3つ、という方もいるくらいですし。自分自身も「そうか、社会人を10年くらい経験して、大学に行くという選択肢もあるんだ」と気づきました。

──講義中の学生の様子や先生方について、日本との違いや考えたことをお聞かせください。

Kodaさん:まず、ECALで講義をしてくれる先生方は、ご自身でもデザイン業界の第一線で仕事をしている方が多いので、現場のリアルなデザインの動向を教えてもらえます。

作品の講評のときは、先生が学生へ一方的に話すのではなく、学生も意見を述べますし、「あーなるほど」と受け止めてくれるところもありがたいです。学生同士のフィードバックも盛んですね。

──積極的にフラットなコミュニケーションが交わされているのは素敵です。Kodaさんは、2022年、無事にECALを卒業されましたが、日本に帰国せず、ヨーロッパで活動しようと考えたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

Kodaさん:そうですね、「2年じゃ時間がまったく足りない、もうしばらくヨーロッパにいたい」と思ったからです。幸い、デザイナーの方の仕事を手伝ってお金を少しいただきながら、自分の作品制作や学びも続けています。

実は、イタリア・ヴェネチアのアーティストインレジデンスに4か月滞在し、1週間前に戻ってきたばかりなんです。日本国内で移動する感覚に近しいですが、卒業してからの1年程で、ECALのあるスイスから、イタリア、オランダ、そしてイタリアと、いろんな場所に滞在して活動する経験が得られて、貴重だなと。ただ、ヨーロッパにこだわっているわけでもないですし、世界各国、いろんな場所で仕事できたらいいですね。

オランダのスタジオを拠点に素材とデザインに向き合い続けて

このインタビューは、オランダにあるKodaさんのスタジオと、取材陣のいる東京とをオンラインでつないで実施した。かつて工場だったという広大なシェアスタジオは、DIYによってスペースが区切られ、あらゆるデザイナーやアーティストら100名を超えるクリエイターが活動しているという。

Kodaさん:このスぺ-スは元々、仕事を手伝わせていただいたデザイナーが使っていました。彼は今、別の拠点で活動しているため、良かったら、と紹介してもらったんです。まさか自分がスタジオを持てるとは思ってもいなかったので、これから内装を整えたり、片付けをしたりすることも含め、楽しみですね。

──お話を伺っていると、デザイナーもアーティストも、ジャンルを問わず、ものづくりをするたくさんの方が同じスタジオを利用しているって、日本よりもずっと、のびのびとものづくりに取り組めそうですね。

Kodaさん:そうですね。以前、別のスタジオで作品の制作していたときに、年配の男性2人組がふらりと立ち寄って、作業しているほかの作家たちに細かく質問をしながら、現場をゆっくり見学していったことがあったんです。こちらでは年齢を問わず、シニアの方々でも、デザインやものづくりへの興味や関心がとても高いですし、理解しようとしてくれる方が多いように感じます。

一方で、ここにいる人達が作っているものは、果たしてデザインなのか、アートなのか、という問いは難しいですね。粘土の人形を動かすクレイアニメーションを制作している人とか、アートにもデザインにも当てはまらないような作品のも多いですし。いわゆる「肩書き」も気にせず、創作活動をしているかもしれません。

──ヨーロッパという場で、多様な人々からものづくりへの刺激を受けたり、コミュニケーションを重ねていったり、とても魅力的な場所で活動されていらっしゃることが伝わってきました。では最後に、Kodaさんが、これからチャレンジしたいことをお聞かせください。

Kodaさん:はい。3Dプリント以外にもさまざまな素材でものづくりを試していきたいですね。

でもまずは、このスタジオを作ること、でしょうか(笑)。例えば1階で、素材の実験や制作作業をして、2階でデータの編集作業や、アウトプットの質を磨いていくような場所を作る、とか、これからの制作活動のためにも、環境を整えたいですね。

※1:インフィル/3Dプリンタでデータ出力した立体物の内側の構造体の密度。格子状やハニカムなど、用途に応じて使い分ける。
※2:フィラメント/3Dプリンターで、データを出力するために用いる材料で、細いコード状のもの

Leo Kodaさんが選ぶ「TOKYO ART SPOT」

武蔵野美術大学の大学図書館

Leo Kodaさんが挙げてくれた「TOKYO ART SPOT」は、母校である武蔵野美術大学の大学図書館。特に、在校生しか立ち入ることができず、資料の閲覧にも厳しい制限があるほど貴重な資料が保管されている、地下の書庫がお気に入りだという。

「デザインの歴史は、他の芸術に比べれば、まだまだ短いものです。でもここの地下書庫に初めて入って、雑誌のバックナンバーがずらっと置かれたシェルフを見たとき、短いながらもどれほどのデザイン活動が行われてきたのか、を目の当たりにして、衝撃を受けました」



写真提供:武蔵野美術大学 美術館・図書館

Leo Koda

12歳よりアート・デザインを中等教育課程より専攻し修了。遊び心に満ちたアイデアと軽快なアプローチの裏には、一見すると想像できないようなプロセスへの繊細な理解と、背景への深いリサーチが備えられている。2022年にスイスのECALを卒業後、オランダのEindhovenに自身のデザインスタジオを構える。今回は3Dプリントならではの「インフィル」という内部構造に着目し、3Dプリントしたオブジェクトを染料インクを入れたお湯で茹でることで膨らませ、ユニークな色と形を生み出すプロジェクト「In Fill Out」を発表する

DESIGNART TOKYO 2023

開催期間:2023年10月20日(金)〜29日(日)
会場:表参道、外苑前、原宿、渋谷、六本木、広尾、銀座、東京
規模:参加クリエイター&ブランド数 約300名/約100会場(予定)
主催:DESIGNART TOKYO 実行委員会
▼インフォメーションセンター
設置期間:2023年10月20日(金)〜29日(日) 10:00〜18:00 予定
場所:ワールド北青山ビル
住所:東京都港区北青山3-5-10

HP: DESIGNART TOKYO 2023
Instagram: @designart_tokyo

Edit:山田卓立

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アートライター・文筆家
Naomi

服作りを学び、スターバックス、採用PR、広報、Webメディアのディレクターを経てフリーランスに。「アート・デザイン・クラフト」「ミュージアム・ギャラリー」「本」「職業」「生活文化」を主なテーマに企画・取材・執筆・編集し、noteやPodcastで発信するほか、ZINEの制作・発行、企業やアートギャラリーなどのオウンドメディアの運用サポートも行う。好きなものや興味関心の守備範囲は、古代文明からエモテクのロボットまでボーダレス。
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