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Interview

DESIGNART TOKYO 2023:UNDER-30 So Tanaka

言葉、音、光が紡ぐ、So Tanakaのクリエイションの源泉

author: Naomidate: 2023/09/02

「DESIGNART TOKYO」で毎年注目を集めるのが、30歳以下のクリエイターを選出する若手支援プログラム「UNDER 30」。「DESIGNART TOKYO 2023」の会期(2023年10月20日〜10月29日)を前に、Beyond magazineでは、この「UNDER 30」部門に選ばれた国際色豊かで才能あふれる5組のクリエイターのインタビューを敢行した。

 

クリエイターの視点、物事や世の中の見方は、ときに哲学者のようだ。無限の可能性の中から、これ、というかたちを探し求める道のりは、多様で深い思考の繰り返しが必要である。また、古今東西の文献や哲学書を読み漁る読書家であったり、文筆を得意としたり、幅広いインプット·アウトプットや自問自答を絶えず繰り返すことが苦ではない、という方も多い。 

インタビューの場に現れたSo Tanakaさんも、どこか哲学者のような佇まいだった。ドイツの哲学者、マルティン・ハイデッガーの『存在と時間』、フランスの哲学者、モーリス・メルロー=ポンティの現象学に関する著作などを手に取り、古代から脈々と続いてきた “人間とは何か” という問いから思考を巡らせ、プロダクトへと落とし込む気鋭のデザイナーである。

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新たなプロダクトでエントリーし再びの受賞を掴む

Tanakaさんは、DESIGNART TOKYO2021に続き、二度目のUNDER-30選抜となった。前回は、高木健太郎さんとのデザインユニットAROUNDANT(アランダント)として、今回は個人としての選出で、「改めて自分の活動を評価していただけたのかな、と思うと、やはり嬉しい」と、柔らかな物腰で語り始めた。

Tanaka:2021年に受賞した『Less Than Instrument』という照明作品は、高木くんとの共通テーマ「purism」から着想し、光そのものに近い照明を目指して制作しました。

2021年に受賞した『Less Than Instrument』
2021年に製作したCD。パッケージにはコロナ渦の非接触の象徴でもある使い捨ての手袋を使用した

今年の作品『vnsh(ヴァニシュ)』は、「周囲を照らし、⾃らも光の中に消えていく照明」という発想をもとに、より「意識」や「関係性」に主眼を置いた照明です。LED光源がどんどん小型化し、デザインにおける自由度が高くなっていく中、新しい光の表情を表現したい、と長い間実験を重ねてきました。

それと並行して、私は普段から読書をすることも好きで、哲学書などを中心に読むうち、世界のさまざまな物事の相対性、関係性への興味が増していき、光源の実験と哲学的思考の2つが重なって形になりました。

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 『vnsh(ヴァニシュ)』

──Less than instrument』と、今回の『vnsh』に、関連性はあるのでしょうか。

Tanaka:考え方としては180度異なるので、意図してはいませんでした。ただ、どちらも使っている素材や光の照らし方、光というものを媒体にして、存在や空間を考えるという過程ではあるので、その意味では、連作と言えるのかもしれません。

Tanakaさんが創作の拠点にするのは、東京・北千住にある共同スタジオ「以外スタジオ」だ。主宰するのは、アーティストの関川航平さん。2019年、以外スタジオを舞台にグループ展『5月』を開催したり、パフォーマンス、映像、ドローイングやテキストなど、多彩な作品を発表することで知られる。

Tanaka:現在、以外スタジオは、関川航平さん、AROUNDANT で組んだ高木くんと後輩という、年齢もテーマも作風も異なる4名が利用しています。僕はもう2年ほどいますが、ほかの作家とお互いに作品で観たり、話ができたりする環境が気に入っています。

特にオーナーである航平さんとは、家賃を現金でお支払いに行くたびに交わす会話が楽しいです。航平さんご自身が言語を使って作品を制作しているので、非常に刺激をもらっています。

──最近、スタジオの皆さんとお話しされたことや、印象に残ったテーマを教えてください。

Tanaka:先日、航平さんと話していて記憶に残ったのは、「他者を理解するというのはどういうことなのか」ということです。

SNS上で見かけた、社会的にマイノリティとされている人たちに理解を示さない人を批判する投稿について話していたのですが、私たちは「移民」や「LGBT」というように、なんとなくひと言で表せるところまでズームアウトしなければ、不特定多数の他者を捉えられない。

かといって、例えば自分の親のように近しい存在でも、分かりきれない、計り知れないところがあります。結局、他者理解ってゆう概念自体あいまいだよね、と。でも、そのなかでどこまで細部の違いに迫っていけばいいのか、またその相手によってどのように対応すればいいのかを考えることはできる。理解するということと考えるということはセットなのかもしれません。

読書、インテリア、ものづくりへの興味、そして音楽。すべてが必要だった

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東京で生まれ育ったTanakaさんは、写真やグラフィックデザインの仕事に就く両親を見て育ち、「サラリーマンにはなりたくない、という気持ちだけはあった」という。武蔵野美術大学でインテリアデザインを専攻し、卒業後は創作活動の傍ら、さまざまなデザインの現場を経験してきた。

Tanaka:子どもの頃をなんとなく思い出すと、今の自分を形作った要素がいくつかあります。

例えば、読書や哲学への興味は、父の影響です。中学生の頃、誕生日に父から、ヘルマン·ヘッセの『車輪の下』を渡されて以来、本棚にある父の本を少しずつ手に取り、「人間ってなんだろう」と考えるように。

Tanakaさんの愛読書。(左から)『空間の経験(イーフー・トゥアン)』『考える身体(三浦雅士)』『二十億光年の孤独(谷川俊太郎)』『Walead Beshty work in Exhibition 2011-2020』

また、手を動かして何かものを作ったり、絵を描いたりするのも好きでしたし、家に定期的に届くIKEAのカタログを、雑誌感覚で読むのが楽しくて、たぶんそこからインテリアやプロダクトへの興味がわいていったと思います。

何かを表現する、という点では、高校の軽音楽部でギターを弾いていた経験が大きいです。例えば、テクニックにこだわっていてはダメ、とか、グルーヴを出すことを大切に、とか、自分が作るもので、どれだけの人を感動させられるのか、とか、何より、表現することの面白さを知りましたね。

その後、大学でデザインのテクニックや知識を学び、作品制作に取り組んだとき、それまでの経験が作品に現れてきたんですよね。ギターを弾いていた時に感じていた、感情がわっと動く瞬間だったり、「人間ってなんだろう」という自分の中にずっとある思考だったり。

──Tanakaさんのなかでさまざまな経験が重なりあい、影響しあっていますね。その後、ギターや音楽活動は続けていますか。

Tanaka大学ではジャズ研に所属し、週1で集まってはアドリブでセッションしていました。音楽理論が関係してくるなかで、高校までやっていたロックとは異なるグルーヴ、感情が動く瞬間を、プレーヤーそれぞれが表現していくジャズは、常に周りを聴いて自分の演奏を変えていくところに、ひと言では言い表せない面白さがあってハマりましたね。

また、当時は並行してパソコンで作曲もしていて、打ち込みやサンプリングで、アンビエント·ミュージックのようなジャンルの音源を作っていました。卒業後すぐに行った展示で流す音も作りました。

──音源の制作も、展示や作品制作に関連していますか。

Tanakaはい、音楽は、言葉にできない部分で作品制作と関連していると思います。いつも展示の準備は、空間を作る意識で取り組んでいますので、そこに音が必要だ、と思ったら用意します。

自分が制作しているときに感じた感動を、いかに鑑賞者と共有できるか、は空間づくりにかかっていると思うので、妥協はできません。

何者でもないから何にでもなれる。言葉にできるもの、できないもの

「自分のキャリアは無駄ばかりだ」と笑うTanakaさんだが、話を伺っていると、すべてが現在の活動に活かされているように思えた。そこには、惜しくも早世した天才芸術家の言葉に共感し、自身の目指すプロダクトデザインを探求し続ける、Tanakaさん自身の哲学が垣間見えた。

Tanaka私は、画家のエゴン·シーレが遺した「すべての芸術家は、詩人でなければならない」という言葉に、とても共感します。また、いろんな物事や要素を、細かく分けて考えすぎない、という姿勢もとても重要だと思います。

私自身、いろんなところに興味が分散しがちで、映画も、音楽も、料理も好きです。ただ、これを分けるものは言葉の働きでしかありません。実際はひとつの家具のなかに詩があってもいいし、音楽を家具でやってもいいし、映画を音楽でやってもいいはずです。

──Tanakaさんの思考が、「詩」へたどり着いたのはなぜでしょうか。ご自身の哲学への思索とも繋がっていますか。

Tanakaそうですね、「人間ってなんだろう」という話に再び戻りますが、詩は、「自分ではない何かになる手段」と言えるかもしれません。

例えば、火の気持ちや鳥の気持ちになって書かれた詩があるように、詩を通して私たちは何にでもなれます。

それはつまり、何者でもないから、何にでもなれる。だから、自意識があり、この世界の捉え方も一人ひとり異なります。表面へ現れるのは、デザインや音楽という形ですが、根本にある課題は、何かになり、また自分になり、捉えた世界を他者とどう共有していくか、ということではないか、と。

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──「詩」とはつまり言葉ですが、何かを誰かと共有するには、やはり言葉がわかりやすい手段ではありますよね。

Tanakaはい。実は私は大学生の頃、展示の際にコンセプトを文章として発表せず、「そのもの自体で観る人に良いと思わせたい」という気持ちがありました。でも、「そのもの自体」とは何か、と考え始めると、それもまた捉えどころがなく、実はとても言語的です。

例えば、建築は打ち合わせを重ねて作り上げられますよね。「ここは垂直、水平に」とか、「ここは日の光が入ってくるだろうから、こうしたら気持ちいいよね」とか、まだ世の中にないものを、観念的な理解に沿って言語で共有して作られます。

プロダクトも同じで、自分が今感じている「そのもの自体の良さ」は、言葉と無関係ではいられない、と気づいたとき、言葉を無視できない、むしろ面白い、と思い、あえて逆手にとり、言葉との関係性という側面から身の回りの物事を捉えなおすようになりました。

──言葉にできる·できない、で言うと、アートもデザインも、言葉で説明できることに限りがあるように思いますが、いかがですか。

Tanaka結局、言葉ではすべてを表現できないと、私も思います。でも、アーティストって、実は理論的で哲学的なことを考えながら創作する方もいらっしゃいますし、共同スタジオのオーナーである関川さんもそうです。

もし言葉がなかったら、すべてが渾然一体として、無でしょう。「言葉にできない感覚」は、「言葉にできる感覚」があるから、相対的に存在できるもの。そして、「言葉にする」という時点で、世界を少しずつ分節しています。

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例えば、海に浮かぶ島をたどると、ひとつの航路はできますが、それ以外の海域に何が存在しているか、までを考えようとしないと、人間は考えることができません。言葉というものについても、いろいろと考えを巡らせていると、それ以外の存在へと意識が向いていきます。だからきっと、アートも言葉からは逃れられないのではないでしょうか。

そして、「美」というものは、人々のコミュニケーションのなかから生まれるものだと考えています。あるひとつの社会には、そこにおける美の基準があり、国や時代が違えば美の基準も異なります。

その理由は、そこで人間が言葉を用いてコミュニケーションしているからで、デザインというものは、そこに生まれる「美」を捉える装置、だと考えています。

──“を捉える装置としてのデザイン、は、とても興味深い表現です。最後に、Tanakaさんが、これからチャレンジしたいことをお聞かせください。

Tanaka先ほど、空間との関係性の話をしましたが、今後、自分が発表する作品が、ハイコンテクストなインスタレーションへ進化していくことは、ないだろうと考えています。

ただ、デザインをやりたい、と思うのも、もともとは生活そのものに対する興味が根底にあり、自分の考えや感じるものが、他人の生活に入っていくことへのスリル、というか、可能性に興味や面白さを感じるのです。そのためにも、自分のプロダクトの魅力と精度を同時に高めていきたい。

個人的な思考に留まらず、積極的に第三者とコラボレーションしていきたいですね。

So Tanakaが選んだ「TOKYO ART SPOT」

エスパス ルイ・ヴィトン東京

So Tanakaさんが挙げてくれた「エスパス ルイ・ヴィトン東京」は、表参道にあるルイ・ヴィトン表参道ビルの 7Fに位置する、コンテンポラリーアートのスペース。高い天井とガラス張りの空間は2011年に完成した。Tanakaさんは、展覧会が開催されるたび、ほぼ欠かさず足を運んでいるという。「まずはこの空間そのものと、開放感が素晴らしいです。東京の街を見渡す眺望のなか、アーティストによるすべての試みがここで展開されていることが魅力的ですね」

現在は、ウェールズ出身のアーティスト ケリス・ウィン・エヴァンスによる 個展「L>espace)(…」 を2024年1月上旬まで開催中。 

エスパス ルイ・ヴィトン東京
address:東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル7F
tel:0120-00-1854
open:12:00〜20:00

So Tanaka

武蔵野美術⼤学を卒業後、東京を拠点に活動。⾃発的に作品を発表している。素材、⾃然現象、他分野の芸術や哲学に触発され、空間を媒体とした抽象詩としての家具や照明を⽣み出す。今回は、「周囲を照らし、⾃らも光の中に消えていく照明」という発想をもとに、「意識」や「関係性」に主眼を置いた新たな照明作品『vnsh(ヴァニシュ)』を発表。

WEB:So Tanaka
Instagram:@s_o_tanaka

DESIGNART TOKYO 2023

開催期間:2023年10月20日(金)〜29日(日)
会場:表参道、外苑前、原宿、渋谷、六本木、広尾、銀座、東京
規模:参加クリエイター&ブランド数 約300名/約100会場(予定)
主催:DESIGNART TOKYO 実行委員会
▼インフォメーションセンター
設置期間:2023年10月20日(金)〜29日(日) 10:00〜18:00 予定
場所:ワールド北青山ビル
住所:東京都港区北青山3-5-10

HP: DESIGNART TOKYO 2023
Instagram: @designart_tokyo

Photo:下城英悟
Edit:山田卓立

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アートライター・文筆家
Naomi

服作りを学び、スターバックス、採用PR、広報、Webメディアのディレクターを経てフリーランスに。「アート・デザイン・クラフト」「ミュージアム・ギャラリー」「本」「職業」「生活文化」を主なテーマに企画・取材・執筆・編集し、noteやPodcastで発信するほか、ZINEの制作・発行、企業やアートギャラリーなどのオウンドメディアの運用サポートも行う。好きなものや興味関心の守備範囲は、古代文明からエモテクのロボットまでボーダレス。
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