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Interview

DESIGNART TOKYO 2023:UNDER 30 21B STUDIO

3人の若手クリエイターが目指す「上限を超えたやわらかな」発想

author: Naomidate: 2023/08/21

「DESIGNART TOKYO」で毎年注目を集めるのが、30歳以下のクリエイターを選出する若手支援プログラム「UNDER 30」。「DESIGNART TOKYO 2023」の会期(2023年10月20日〜10月29日)を前に、Beyond magazineでは、この「UNDER 30」部門に選ばれた国際色豊かで才能あふれる5組のクリエイターのインタビューを敢行した。

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「DESIGNART TOKYO 2023」で『ink couture project』を発表する、21B STUDIO(トゥーワンビースタジオ)は、2021年に有村大治郎さん、コエダ小林さん、時岡翔太郎さんの3名が、「よりやわらかな発想で、芯のあるアイデアを。」をコンセプトに活動をスタート。すでに複数のコンペティションで受賞歴を重ねる、注目のプロダクトデザイナーチームだ。

かつて別のチームで一緒にものづくりをしていた有村さんと小林さん。再び一緒に何かできないかと相談していたところ、とあるコンペティションの受賞をきっかけに、有村さんと時岡さんが出会う。初対面ながら意気投合した時岡さんを、有村さんは小林さんに紹介した。

2021年、まずは一緒に何かやってみよう、と初めてチャレンジしたコンペティションの出品作『和柄紋様朱肉』がいきなりファイナリストに。「コクヨデザインアワード2022」では、1,000点以上もの応募作品の中で2作品が優秀賞に輝くなど、応募したコンペティションでは常に入賞を続けている。

まったく異なる3人が「21B STUDIO」になるまで

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左からコエダ小林さん、時岡翔太郎さん、有村大治郎さん

──21B STUDIOとして3人で活動する良さって、どこにあると感じていますか。

有村:まずは、自分だったら絶対作らなかった造形や、選ばなかった選択をできることですね。自分なりに「これが正解だろう」と考えたことに「いや違うと思う」って反応をされて「ほんとかな?」と思うこともありますが、最終的には「これがいちばん正解だったな」と思えるアウトプットになることが嬉しいです。

小林:有村くんは僕より全然若いのに、一緒にやっているとめっちゃいいアイデアを出すんですよ。それがいいんです。でも、やっぱり悔しい(笑)。逆もしかりかもしれませんが、悔しくもあり喜びでもあり、でも悔しいですね(笑)

時岡:みんな負けず嫌いかもしれないですね。ケンカはしないけど議論は白熱します。有村くん、こう見えて結構はっきり言いますし(笑)

有村:それはふたりだから言えるんです(笑)

──年は違っても仲は良さそうですね! 3人それぞれの役割分担はあるのでしょうか。

有村:いえ、明確にはありません。1/3ずつ分担するというより、全員が1/1ずつやって3倍以上にするイメージです。そのうえで各々の得意分野や関心を持っているところで、さらにより多くアイデアや意見を出していますね。僕は現在所属している事務所で、アートディレクションやブランディング、グラフィックの仕事を行っているので、21B STUDIOでもビジュアル面を特に。

小林:僕は家電などのインダストリアルデザインを得意とする事務所から独立して、現在は都内の拠点で「実験家」としての活動もしています。人が集う場づくりやコミュニケーション、さまざまな自然現象を掘り下げていくことに関心がありますね。

時岡:僕は新卒で入社した自動車メーカーのデザイナーを経て、現在はプロダクトデザイン事務所に所属しています。かたちとしての魅力が商品の魅力になるような、彫刻的なアプローチを特にテーマにしています。

あと、アイデアからプロダクトとして完成させるまで、さまざまな意思決定は常に3人で行っています。傍から見れば非効率かもしれませんが、時間をかけて「3人のフィルター」を通します。

「分担」するのではなく「共作」するマインドで活動できているのは、ひとりで発想できるアイデアの領域を超えて柔軟にやれるのでは?とみんなが思っているから。そして有村くんが言ったように、1/1で持ち寄ったアイデアが3倍にも5倍にもなる面白さは、このチームならではだと思います。

実は声をかけてもらうまで、僕自身、チームでデザインするって考えたこともありませんでした。すべてを自分でコントロールしたくなってしまうんです。でも、ふたりはそれぞれに僕とは違った魅力があるから、続けることができていますね。

上限を超えたやわらかな発想と、同世代と一線を画すクリエイティブ

チームの名前「21B STUDIO」の「21B」とは、HやHBなどの鉛筆の硬度に由来する。製品としてあるのは「20B」が上限で、「21B」は存在しない。上限を超えたやわらかな発想と、これまでのデザインから一歩前進したい、という意志の表れだ。

そして、少し引いて見るとビックリマークにも見えるロゴは、クリエイションの根源である鉛筆の先からアイデアが生まれる瞬間を表し、鉛筆1本あればデザインができること、自分達や受け手がアイデアに出会えたときの驚きが込められている。

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小林:例えば「コクヨデザインアワード2022」で優秀賞をいただいた『果実の楽器』は、3人でアイデア出しをしていたとき、僕がふと思いついたアイデアを共有したところからスタートしました。振ると音がする、マラカスのようなプロダクトですが、「マラカ」という果実を乾燥させ、中に種を入れて楽器にしたという、マラカスの起源になぞらえてアイデアを発展させていきました。

アート作品のような視点で考えることもできたかもしれませんが、僕たちは美術作家ではなくプロダクトデザイナーなので、あらゆる意味で、辻褄、ロジックが合うものにしたい。だから、果実の造形や構造を調べることはもちろん、デザインとしてどこまで抽象化するか、量産した場合はどんな製造方法が現実的か、鳴らして楽しいという楽器としての機能や価値まで、あらゆる要素において、辻褄が合うかを判断軸に取捨選択して、あの形にたどり着きました。

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時岡:僕らはプロダクトデザイナーだからこそ、当たり前の機能は担保しないといけません。その一方で、ロジックでは扱えないことも出てきます。『果実の楽器』なら、「これはどんな音がするだろう?」 と思わず手に取りたくなる、振って音を聴き比べたくなる、音階があったら楽しそう、とか。ロジックを超えて「20B」ではなく「21B」のアイデアに辿りついたかどうか、ロゴのビックリマークのように、想像できる範疇から一つ抜けた! と3人が思えたかどうか、でも判断しています。

「21B」に辿りつけたアイデアをすくいとるように

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「UNDER 30」に選出された『ink couture project』は、大量の印刷物を生産するオフセット印刷機で、残った廃インクの拭き取り掃除に使った不織布を素材として捉えた企画だ。3人で印刷工場を見学した際にたまたま見つけたという、いわば「ゴミ」だったものが、なぜ「作品の素材」となり、「21Bのアイデア」となり得たのか。

有村:工場見学のルートを一人外れた小林さんがこの不織布を見つけて僕らに見せてくれたとき、単純にすごくきれいで、めっちゃカッコよかったんですよ。お金を払って捨てている産業廃棄物が、お金を払ってでも欲しいものになったら面白いし、作品にできたら素敵じゃない? ってその場で3人で話しました。

小林:21B STUDIOをやっていて僕は本当に驚かされるんですが、ふたりには2〜3言うだけで10伝わるんです。かつて僕と有村くんがいたチームではあり得なかった。初めの頃からある程度、デザインを感覚的に判断する軸や、共通言語のようなものを共有できていたのは、運が良かったです、本当に。

時岡:そうですね、幸運だったと思います。そして今は、「21B STUDIOの考え」みたいなものを3人で育てている感覚もあります。

有村:そうですね。「21Bクラウド」みたいなものの精度や内容が充実していくイメージがあります。

小林:「そう! コレ!」って言えばみんなわかるような、見極める目も考え方も似ている。けれど100%同じじゃないから「こういうのもいいんじゃない?」って話し合うのが面白いですね。

──そこまで近しいものの見方や感覚、判断の軸を3人で共有できていることが不思議です。なぜそれが可能なのでしょうか。

時岡:普段「これが良いよね」って3人で話すときに、言語化できていないことが多いです。でもそこを、例えば、大江戸骨董市を巡りながら、「なぜそれがいいのか?」を話し合うことで、感覚や共通言語を少しずつすり合わせているのかもしれません。

有村:あと、いいものを見つけたら、とりあえずふたりにLINEしています。僕が先日ドイツへ出張した際も、芸術・建築学校「バウハウス」の美術館の常設展示の方法が面白くて、日本は夜中でしたが、ふたりにビデオ通話で見せました(笑)。ここがいいよねって話し合いを繰り返すことで、少しずつ「21Bクラウド」の精度が向上していると思います。

──常に言語化ができていなくとも、こまめに感覚を共有する試みが行われているんですね。でも、そこからさらに「21Bのアイデア」へと辿り着けるのは、なぜでしょうか。

時岡:僕らは、世の中の多くの人が見ている世界の範疇で、「21Bのアイデア」を探しています。「みんながわかっているけれど、気づいていないところ」を、すくいとるようなイメージです。

それは僕らの好奇心がきっかけですが、結果的に誰もが知っている要素なので、広く多くの人に響くのかもしれません。またその時々で最適化した判断が加わるので、アウトプットも常に変化します。その結果、「21Bのアイデア」になっているのかもしれません。

有村:正直なところ、これまでコンペティションに応募した僕らの作品は、設定されたテーマのど真ん中のものばかりではなく、変化球もあります。でも、「21B」のアイデアに辿りついた結果、魅力的なアイデアやデザインになっていたのかもしれませんね。だからファイナリストに選ばれたり、受賞できたりしてきたのかな、と。

チームでしかできないこと・3人それぞれがやりたいこと

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「自分たちのような若い世代が、さらにデザインの質を上げるために、複数のデザイナーが一緒に取り組むメリット、プロダクトの魅力、そして、ブランドとしての世界観がある、という複数の要素が掛け合わされたデザインを、チームでやりたい」。そんな夢を有村さんが小林さんと時岡さんに語って始まった21B STUDIO。終始とても楽しそうに会話を交わす3人へ、個人として、21B STUDIOとして、これからやっていきたいことを最後に尋ねた。

小林:僕はこの先も、個人の仕事や実験家の活動と並行して、21B STUDIOを続けていきたいです。プロダクトデザイナーとしてなら、21B STUDIOで有名になりたい。

時岡:3人の知的好奇心が21B STUDIOの強みであり、まっさらな目で物事をピュアにとらえることで、本質的な部分が見えてくると思うので、今後もジャンルレスで活動したいです。それに、個々人が仕事で取り組んでいる分野が少しずつ異なるので、チームとしてできることの範囲も広がっていくはず。今後手がけてみたいプロダクトを挙げるとすれば、長く残る道具、例えば食器とか家具とか。

小林:求められるものを素直に打ち返せたら、長く使い続けてもらえるような、みんなが使う必需品のようなツールをやってみたいですね。とはいえ、チームが続くためにはお金や場所も必要です。やりたいと思ったことをやりたいときにできる環境や資金、人脈を常に作っていくべきだと思うし、ある程度のフィーがいただける仕事に取り組む必要もある。

一方で、自分たちがやりたいことにクライアントがついてものづくりできたら、すごく素敵ですよね。

有村:僕個人としては、今の事務所で携わるブランディングも、21B STUDIOで手がけるプロダクトデザインも、どちらにも興味があるなかで、前者、ブランドの世界観をつくることに、より取り組んでみたいです。新たなブランドやその世界観をどんどん生み出していきたい。そこに僕自身の作家性を出したいとは思わないけれど、自分の名前が売れることでチームにメリットがあるなら頑張りたいです。

そして、自分に依頼が来た仕事でも3人でやった方が面白くなるなら、3人のプラットフォームとして21B STUDIOを機能させていきたいですね。

時岡:3人の帰る場所が21B STUDIOっていいですね。僕自身はもう少し彫刻的なアプローチを、理屈じゃないところで勝負してみたいです。それこそ言語化できないのですが、そこにあるだけで場の雰囲気を変えてしまうような影響力を持つ、魅力的な道具を生み出せたら、と。

小林:僕は実験家としてやっていることが21B STUDIOとまったく異なるので、個人で得たことをチームに還元したいです。それぞれが個人でやりたいことを遠慮なくやりつつ、チームで純粋にやりたいと思えること、チームでしかできないことができている限り、21B STUDIOはこの先も続いていくと思います。

21B STUDIOが選ぶ「TOKYO ART SPOT」

大江戸骨董市@東京国際フォーラム

「大江戸骨董市」は、日本最大級の露天骨董市。毎月第1・3日曜日に東京交際フォーラムで開催され、21B STUDIOの3人もよく訪れている場所です。アイデアを出すときに、並んでいるものをみてインスピレーションをもらったり、骨董商の方とのコミュニケーションが発想のヒントになったり。そして3人で初めて出かけた思い出の場所でもある。

21B STUDIO┃トゥーワンビースタジオ

有村大治郎・コエダ小林・時岡翔太郎の3名によるデザインスタジオ。東京を拠点として、プロダクトデザインを軸に活動。「よりやわらかな発想で、芯のあるアイデアを。」をコンセプトに掲げる。「第14回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」ファイナリスト(2021年/『和柄紋様朱肉』)。「コクヨデザインアワード2022」で2つの優秀賞(『描画で広がる質感の世界』『果実の楽器』)。「第15回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」でファイナリスト(2022年/『名字の万華鏡』)。

Instagram: @21b_studio

DESIGNART TOKYO 2023

開催期間:2023年10月20日(金)〜29日(日)
会場:表参道、外苑前、原宿、渋谷、六本木、広尾、銀座、東京
規模:参加クリエイター&ブランド数 約300名/約100会場(予定)
主催:DESIGNART TOKYO 実行委員会
▼インフォメーションセンター
設置期間:2023年10月20日(金)〜29日(日) 10:00〜18:00 予定
場所:ワールド北青山ビル
住所:東京都港区北青山3-5-10


HP: DESIGNART TOKYO 2023
Instagram: @designart_tokyo


Photo:山田英博
Edit:山田卓立

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アートライター・文筆家
Naomi

服作りを学び、スターバックス、採用PR、広報、Webメディアのディレクターを経てフリーランスに。「アート・デザイン・クラフト」「ミュージアム・ギャラリー」「本」「職業」「生活文化」を主なテーマに企画・取材・執筆・編集し、noteやPodcastで発信するほか、ZINEの制作・発行、企業やアートギャラリーなどのオウンドメディアの運用サポートも行う。好きなものや興味関心の守備範囲は、古代文明からエモテクのロボットまでボーダレス。
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