ミュージシャンのRachelさんが、大小さまざまな“やったことないこと”に挑戦するエッセイ連載。第3回のテーマは「受験勉強をする」。人生初の大学入学共通テストを疑似体験したRachelさんが学んだこととは?
勉強よりも、もっとおもしれー青春時代
やったことないことに挑戦しその模様を記録していくエッセイ行為3回目。今回の挑戦はズバリ「受験勉強をする」! 以下編集氏からのLINE(原文まま)。
「Rachelさんがやったことない大学入試を疑似体験するべく、2026年の共通テストの問題を解いていただく。」
ふーん。またおもしれーじゃん。なかなか難しいことをやらせてこようとすんじゃん。解いていただく。じゃないよ。簡単に言ってくれるわね。編集氏からのLINEにある通り、私は大学入試を受けたことがない。大学には通っていたが1年もしないで辞めているし、その時は指定校推薦で入学している(今でも奨学金を払っている。グギギ)。高校も勉強を全くしないで入れるところに入学した。

執筆当時の俺
勉強は好きだった。純粋に、知らないことを知れることは楽しいしいろんなことに興味があった。けど、その興味を向けることができるのは自分が好きな科目だけ、もっというと好きな単元だけ。自分に関係ないなとか、この先生なんか苦手だな、と少し思っただけで全く興味が持てず、その授業は寝るか好きなアニメのキャラクター(CLANNADの伊吹風子)をプリントの端に描くか(そういうプリントに限って回収されたりするよな)、イヤホンを袖から通して音楽を聴いているか、そんなふうに過ごしていた。
高校時代は授業にも出ないで図書室にいることもあった。好きな本を読んでる方が楽しいや、みたいな。司書さんももちろん生徒が授業の時間に図書室にいたらいけないので見つかり次第追放されるのだが、それがメタルギアみてーで面白くてわざわざ図書室に行っていたこともある。そのとき一番仲の良かった友達と、人が通らない廊下で過ごすのもけっこうやってた。窓から日が差して背中に伝わる暖かさと廊下に座ったときの尻にくる冷たさをよく覚えている。
友達が「鼻にイヤホンを突っ込んで耳を閉じて音楽を再生するとライブで聴くみたいな立体的な聴こえ方になる」というので試したところ、鼻にイヤホンを突っ込んでる姿の愚かしさに堪えきれずゲラゲラ笑ったことも、その声を聞かれて先生に見つかったことも、全部覚えている(本当に立体的に聴こえたことも)。
そんなことばっかり覚えているのでどんなことを学んだかもほとんど忘れているよん。ダメじゃーん(全ての教育に携わる人たちに、ありがとうの気持ち)。ということで今回は共通テストに挑戦だ!
共通テスト、恐ろしい場所……!
編集氏からのLINE。
「私立文系だと英語、国語、数学か地歴公民のどれかを受けるみたいですが、締め切りまでの時間を考えると英語か国語など、どれか1科目が良さそうですね!」
「こちらで科目をチョイスして郵送いたしますね(なんとなくですが、その方が試験っぽさが増しそうですね)。」
「より試験っぽさを高めるなら、記入済みのマークシートを写真などで送っていただき、その日中に僕の方で採点させていただき、発表するのも面白そうだなと思いました!」
なぜか試験っぽさを高めることに注力する編集氏。ノリノリである。まぁ1科目でいいならなんとかなるだろ。丸を黒く塗るだけだろ? 塗り絵だろ? などとナメた考えで編集氏から問題とマークシートが送られてくるのを待つ。科目が何か楽しみだった。

シールのおまけ付き感謝します
いざ届いた封筒に入っていたのは、「現代文」!! やったー! と思った。現代文なら取り付く島もありそうだ(取り付く島はない時につかう慣用句なんだろうけど知らねえよ。俺はそれすらも新しい風に変えていく)。なんでもいいべと思いつつもやっぱり国語の授業は好きだったので嬉しい。
自宅の作業用の机で勉強をするのは初めてだな。同封されていた参考書を開く。開いたけど国語の参考書だからか思っていたものと違って、入試の効率的な解き方やひっかかりがちなポイントがまとめられていたのでザッと読む。
とにかく入試は時間との勝負だからこのあとの問いで何を聞かれそうかを文章を読みながらなんとなくあたりをつけていきなよ、とかそんなようなことが書かれていた(要約)。
俺は入試なんてやったことないんだからそんなことを言われてもすぐには飲み込めねえよ。
付け焼き刃じゃ戦えないことは分かっていたので、静かに参考書を閉じ、寝る。賢くなるには睡眠も、不可欠だ。

短い間ですが、お世話になりました。
1時間だか2時間だかして起きた後、覚悟を決めてタイマーを90分でセットする。今回その間で問題を解くってことらしいけどそんなにかかんないだろ。絶対暇じゃんね。と思いながら試験スタート。
さっそく、文章を読まされるハメに。最初の問題は「筆者が自分の体験を元にしながらあーし(筆者)の芸術・創作行為との向き合い方はこんな感じやねん」というようなことが書かれている文章だった(面白い文章だったし特に前半の筆者の幼少期の回想のようなセクションが好きだった、やっぱり俺は論考よりそっちが好き。どっちも好きだけど)。
それを読んだ上で問いが続く。問い1〜5は文中に出てくる漢字当てクイズ。余裕だろと思ったけどモヤがかかったみたいに思い出せない漢字もある。なるほど、これが共通テストの難しさか。制限時間もあるため、プレッシャーがかかってどうでもいいところで迷ってしまう。マークシートに同じ数字が並ぶと不安になる。

もう全部正解だろと思いながら書いたメモ
これだろうと思うものを塗りつぶしていき、後で振り返ろうと問題文のほうに目印をつけたりして先に進む。やったことないからアレだけどこの行為はなんだか実際の受験生っぽい仕草でワクワクする。みんなこれやってんだろーな。ククク。俺にだってできるぜ。
そこからは文章に書かれている内容と合うものを選べというものが多く、問題文と文章を交互に読み比べながら「こういうこと……?」と思うものを選んでいく。先ほど書いたようにこれもすごく不安になる。ひっかけか? と勘繰りモードに入ってしまい、一度塗りつぶした丸を消したりまた塗りつぶしたりして、こんなことしてる時間あるのか? とまた焦る、の繰り返し。

これは合ってるな、と思うものに印をつけて進めていたけど選択肢の全てに印をつけてしまった問題もあった。この中のどれかが正解なんて、ほんとかよ? 全部合ってるように見えるぜ?
しかもさ、これ私が問題作る側だったらある程度選択肢読んで欲しいから1番には正解を置かないぜ? とか、でもということはあえて1番に正解を置いていたりするのか?とか、余計なことばかり考えて全然先に進まない! それなのに残り時間は確実に減っていく。共通テスト、恐ろしい場所……!
母として、遠藤周作に泣く
何度も引っかかりながらようやく次の問題へ。これがすごかった。第2問は遠藤周作「影に対して」の一節を読んで設問へ答えていくというものだったのだが、この文章がすごくて、私は読んでる間中ボロボロ泣いてしまったのである。
この文章は主人公の勝呂が母のことを思い返して現在の自分の生き方について考えるようになる、という内容なのだが母となった女性がまだ自由に自分の在り方を選べなかった時代(今も果たして選べると言えるのか)の母親と今のレイチェル(俺)を重ねたりレイチェル(俺)とその母との幼い頃のコミュニケーションを思い出したり、もう人ごとではいられなくなってしまいとにかくボロボロ泣いた。
母も、何か諦めていたのかな。私はこうしてミュージシャンとして今もまだ活動しているけどそれは保育園や夫に子を預けて活動しているからできていることで果たしてその選択が子にとって最善なのか、悩んでいた。ひとまず出した結論としては私が生き生きしている方が子供だって生き生きできるべ、ということで今の活動を続けているわけだが、胸を張ってこれが正解だといえる選択肢なんてきっと誰にも用意されていない。

勝呂の母は自分が愛したヴァイオリンを諦めた。哀しく笑ってみせるのだがこれが正解だって言いたかったに違いない。勝呂だってわかってる。彼の今の葛藤と過去の母親の影を重ねて思考していく様子が描かれていて、食らいまくってしまった。
もう何が正解とかかなりどうでもよくなってしまったが、それでも丸を黒く塗っていく。この行為自体が今の自分をそのまま写しているような気すらしてくる。共通テスト、深すぎる。
学生の時だったらこれで泣いてなかったのかなとか思った。今の私だったから泣いちゃったんだろうなぁ。大人になって入試受けるのは危険です。隣にズビズビ泣いてるやつがいたら邪魔になっちゃうもんね。どうせ来年以降は他の問題になるからいいのか。とにかく私が今年リアルに受けてなくて良かったと思う。
自室で丸まり悲しく肩揺らす32歳が爆誕しただけで済んで良かった。その後も面白い問題は続いた、続いていたのだがこれまで書いてきたとおり、遠藤周作のセクションが良すぎて集中力は半ば途切れていたが最後まで気合いで解いた。
“入学”よりも、もっと大きな収穫
余裕だべと思っていたけど時間を10分くらい残したところで最後の問題を解いた。印をつけたところを振り返り、やっぱりさっきの問題はこっちだったかもと修正したりする。頼む、当たっててくれ。2分ほど祈りの時間を過ごして終了。マークシートの写真を撮り編集氏に送る。
採点はすぐに返ってきた。

「お待たせしました!Rachelさんの得点、110点満点中、84点でした!」
「全国平均の正答率が58%なのですが、Rachelさんは76%なので、平均よりも高いですね!」
「ちなみに今年は例年よりも難しかったそうです」
ウオオオー! なんか嬉しい。俺、入学できたかな。もう、入学してもいいよね。違うかなと思っていた箇所は修正する前が正しかったり悔しい部分もいくつかあったが、楽しかったな。私にとっての1番の周作、いや収穫は、「影に対して」を読めたことだな。全文が気になったのでどこかタイミングを見つけて読んでみようと思う。
今回も良いミッションだったな。別の科目でもチャレンジしてみたいな。次はどんなことができるんだろう。レイチェルのエッセイ行為はまだまだ続く!(たぶん)











