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特集

平日の夜だからこそ、過ごせる時間

和田彩花が案内する、定時終わりのナイトミュージアム

author: Beyond magazine 編集部date: 2024/07/30

音楽活動と並行して、ジャンル問わず様々なアートシーンについて情報発信をしている和田彩花さん。大学院では美術史を専攻し、2022年からは芸術の都・パリに長期滞在。「自宅、仕事場、美術館は同一線上にありますね」と言うほど、生活の一部としてアートを楽しむ和田さんは、夜の美術館にもよく訪れるそう。

そんな彼女に、仕事終わりに行く美術館の魅力や楽しみ方について、森美術館で開催中の『シアスター・ゲイツ』展をまわりながら教えてもらった。

和田彩花

アイドル。1994年、群馬県生まれ。2010年、アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)でデビュー。2019年にアンジュルム及びHello! Projectを卒業し、フランス・パリへの留学を経て、音楽活動や執筆活動、コメンテーターなど幅広く活躍。特技は美術について話すこと。好きな(得意な)分野は西洋近代絵画、現代美術、仏像。

Instagram:@ayaka.wada.official
X:@ayakawada

自分の気持ちと相談して、観に行く展示を決める

──和田さんは、どれくらいの頻度で美術館に行っていますか?

ほぼ毎日ですね。自宅と仕事と同じくらいの立ち位置に、美術館があります(笑)。日常の一部ですね。

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平日も夜22時まで開館(火曜日以外)している森美術館は、仕事終わりにアクセスしやすい美術館のひとつ。和田さんもよく訪れるという

──仕事終わりに美術館に行くことはありますか?

ありますね。大学の友だちが一般企業に就職して働いているので、友だちの定時終わりに待ち合わせて、一緒に展示を見に行くこともあります。

──夜の美術館に行くときは、どんなスケジュールなのでしょうか。

夜間も開館していることが多い、平日の木曜日か金曜日に行くことが多いです。休みの前の日に行くと、休日が長くなったみたいで楽しいんですよ。それに、平日夜の美術館は人が少ないので、土日に比べてゆっくり見られるのも好きです。友だちと美術館で待ち合わせて、1~2時間見た後に、お店に入ってごはんを食べながらお話しするっていうのがお決まりのコースです。

──ひとりでふらっと行くのもいいですが、友だちと一緒に見るのも楽しそうですね。

仕事終わりって、疲れているじゃないですか。しかも、木曜日や金曜日だからいろいろ溜まってる。そんなときに、大好きな美術館に行くと気持ちが安らぐというか、いい気分に浸れるんです。美術館って、一歩足を踏み入れるだけで雰囲気がガラッと変わるから、日常から切り離される感じがあります。

──仕事モードから、一旦リセットされるような。

はい。しかも、見終わった後にごはんを食べながら終電まで喋りまくれるのが、最高の週末だなって思います。

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デイヴィッド・ドレイク《無題の器(碑⽂:ルイス・マイルズ・エッジフィールド⼯房の壺)》(部分)1855年

──土日じゃなくて、平日がベストですか?

休日の約束って結構大がかりじゃないですか。お昼を食べて、展示を見て、お茶してってなると、たくさん遊べて楽しいけれど時間がかかるし体力も使いますよね。定時終わりだと時間も限られているし、美術館も混んでいないので、ギュッと濃密な時間を過ごせる気がします。

ひとりのときも、平日の仕事終わりですこしでも時間があれば、近くにある美術館やギャラリーを2~3箇所見て回ってから、お家に帰ります。

──仕事終わりに美術館をハシゴするんですね。

作品を見たい、知りたいという欲が強いんだと思います。でも、あまり無理をしないようにしていて、そのときの気分や体の状態によって見る展示を選ぶようにしています。たとえば、疲れているときは絵画や写真など、見て感じるだけでいいものにして、現代アートだと、制作の背景や理解に時間がかかるので余裕があるときに行きますね。

──気分によって、見る展示を変えているんですね。癒やされたいのか、刺激を受けたいのか、学びたいのか、楽しみたいのか……。

そうです! 私にとって一番癒やされるジャンルは油絵なので、超疲れているときは西洋の絵画を見に行くとすごくリフレッシュできます。刺激を受けたいときは現代アートですね。知りたい・見たい欲が高いときは新しい作家さんを見に行く。自分の気持ちと話し合って、見に行く展示を決めるようにしています。

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──鑑賞するときのMyルールみたいなものはありますか?

あまりないですね。あえて言うなら、調べないようにするくらい。展示のキャプションで情報を収集して、さらに気になることがあれば後から調べる。感覚的なので、展示室で「好きだなあ」と思った作品をじっくり見るとか、そんなカジュアルな楽しみ方です。

既存の価値観への抵抗とアートの融合

──今日は定時終わりの時間に待ち合わせて、森美術館の『シアスター・ゲイツ』展を見に来ました。いかがでしたか?

めちゃくちゃよかったです! 初めて作品を拝見したのですが、建築プロジェクトや陶芸などジャンルが広いので「この人は一体何をやっている人なんだろう?」というのが第一印象で、率いているバンドの映像作品を見たら、さらに混乱しました(笑)。でも、すごく新鮮だったし、作品に込められた想いが素敵でした。

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第一線で活躍する黒人アーティストとして、名もなき職人の手仕事への称賛、人種と政治への問いかけといった強いメッセージを作品に込めるシアスター・ゲイツ。大型インスタレーション、コレクションなど充実した作品群のなか、お香を取り入れた作品《⿊⼈仏教徒の⾹りの実践》(2024年)の香りを確かめる和田さん

──シアスター・ゲイツは米シカゴを拠点とするブラック・アーティスト。彫刻と陶芸作品を中心に、建築、音楽、パフォーマンス、ファッションなどジャンルを横断しながら自由に作品を作っている印象を受けました。

大学で都市計画を学んでいた、と知って納得しました。たとえば、体育館の床を用いた絵画があったじゃないですか。あれを見たときに「なんか、見たことがある」と思ったんです。既にあるモノや場所を活用して、アートに変換できてしまうのは建築の人ならではだと思います。

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シアスター・ゲイツ《基本的なルール》(部分)2015年

アートフェアに行くと、西洋由来の抽象画に溢れているんです。それを見てて、やっぱり西洋基準の価値観に合わせて作品を作らないと、ある程度の評価を得られないんだろうなと感じます。

──ゲイツは真逆の、独自の美学を貫いていましたね。

ブラックという自身のルーツを大事に、既存の価値観への抵抗とアートを上手に融合していましたよね。モノに想いを乗せて作品に昇華する方法が素晴らしく、この時代に見ておかなきゃいけない展示だと思いました。

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黒人の生活を残し、かつて黒人社会に大きな影響力を持っていた雑誌『エボニー』『ジェット』を発行する出版社のアーカイブを買い取ったというゲイツ。黒人の歴史と文化を記録した数万冊に及ぶ彼の蔵書が閲覧できる「ブラック・ライブラリー&ブラック・スペース」では手に取って、ソファでじっくり読むことができる

──ゲイツは日本の民藝運動に影響を受けて「アフロ民藝」と掲げていましたが、和田さんは民藝にも関心があるとおっしゃっていましたね。

日本の民藝運動は、人が価値を置いてこなかったものに対して価値を見出すもので、モノだけじゃなく土地の文化や言語など対象が幅広いんですよね。展示を見てその土地が持つ芸術を大切にする、という国境を超えたつながりを感じました。

フランスでのナイトミュージアム体験

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ミラーボールのように輝く壮大なインスタレーション。展示室内では、ゲイツがセレクトしたレコードを用いたDJイベントや、黒人教会で使われてきたハモンドオルガンB-3の音楽パフォーマンスなどイベントが数々予定されている

──2022年からフランス留学をされていましたが、フランスでも夜にアートを楽しむ機会はありましたか?

夜通しアートイベントが行われている日があって、そのときは深夜も美術館が開いていました。パリ市内のあちこちで屋外展示やライブなどが行われていて、しかもほとんどが無料だったんです。私は友だちと科学館に行ったのですが、たまたま展示室の電気が消えてしまっていて。真っ暗ななか、携帯のライトを照らしながら動物の標本を見るという、リアル・ナイトミュージアムをしました(笑)。怖かったけれど忘れられない思い出です。

──芸術の都と呼ばれるだけあって、アートに触れる機会が多いのでしょうか?

アートが市民に開かれている感じがしました。ほぼ毎週末アートイベントがあったので楽しむ機会が頻繁にあるし、ほとんどのイベントが無料なんですよ。だから、学生も行きやすいし、家族連れもよく見ましたね。それこそ住んでいる人たちにとって、美術館に行くことは日常なんだろうなと感じました。

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──フランスに行ってから、自分の中でアートの楽しみ方に変化はありましたか?

ありましたね。戻ってきてからは、日本の作家や地方のアートに目が行くようになりました。たとえば、地方でどれだけ美術体験ができるのだろうってことですね。特に出身の群馬県は帰省する機会もあったので、よく考えるようになりました。東京と比べると、やっぱり東京でしか見られないものはたくさんあるけれど、群馬もアートが盛り上がってきているんです。

──そうなんですか!

群馬だと館林美術館は、有名なフランスの彫刻家の作品を所蔵していて、フランソワ・ポンポンの《シロクマ》はぜひ見てほしいです。地方だと持っているコレクションが手厚くて、そこでしか見られない貴重な作品を持っていることが多いみたいです。

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シアスター・ゲイツ《屋根に覆われて》(部分)2024年

きっと、全国各地にまだ開拓されていないアートスポットがたくさんあると思うので、小さくて地域と密着した美術館や日本の作家を紹介している展示に、もっと行きたいと思うようになりました。

──西洋絵画に詳しい印象が強かったので、フランスに行ったことで離れた場所から日本を考えるようになったんでしょうか。

たしかに、行く前は日本のアートシーンについて全然詳しくなかったのですが、戻ってきてから関心が高くなりました。民藝に接したこともきっかけの一つですけど、これからはもっと、それぞれの地域で活躍している作家さんにお話しを聞いたり、東京以外のアートスポットにも足を運んだりして、地方のアートの魅力を発信していきたいです。

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──実際に行って、おもしろかったところはありましたか?

最近、青森県立美術館に行ったんですよ。青森市は美術で盛り上がっている街だと、すごく感じました。今回行けなかったのですが十和田市美術館も、いつも企画展がユニークで、今度は絶対に行きたいと思っています!

──そう考えると、香川県の直島や石川県の金沢21世紀美術館を中心としたエリアなど、魅力的なアートに触れられる地方はたくさんありますね。

フランスが芸術の中心地だという価値観が未だにあるじゃないですか。でも、フランスは白人中心的だし、結局歴史に勝てないところもあって、意外と作品の幅も狭いんです。日本は縛りがあまりないと気がついて、今はアジアの視点がすごく強くなっています。なので、アジアのアートシーンの魅力を発掘するためにも、地方にどんどん足を運びたいですね。

──夜間まで開館している美術館は都内でも週末に限られているところが多いですが、地方でも夜にアートを楽しめる場所があったら楽しそうですね。

それは気になりますね! 仕事終わりでもふらっと立ち寄れる機会がもっと増えるといいなと。いろいろ調べてみようと思います。

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*本文内の写真はすべて「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」の展示空間にて撮影

森美術館

「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」展は2024年9月1日(日)まで開催
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
開館時間:10:00~22:00(火曜日は17:00まで)
休館日:会期中無休
WEB:www.mori.art.museum

\ 夏の夜は、「サマーナイトミュージアム 2024」へ!/

この夏、都立の文化施設5館にて夜の美術館を楽しめる「サマーナイトミュージアム 2024」(夜間特別開館)を開催! 7月18 日(木)〜8月30日(金)の期間中、毎週金曜日*は夜間まで開館し、17:00以降の入場で学生無料・観覧料割引等の特典も。*東京都写真美術館は毎週木・金曜日に実施


東京都美術館

©東京都美術館

住所:東京都台東区上野公園8-36
開館時間:9:30~17:30
(*特別展開催中の金曜日は20:00まで)
休館日: 第1・3月曜日、特別展・企画展は
毎週月曜休室(祝休日の場合は開館、翌平日)
WEB:https://www.tobikan.jp

東京都庭園美術館

©東京都庭園美術館

住所:東京都港区白金台5-21-9
開館時間:10:00〜18:00
【7/19~8/30の期間中の金曜日は21:00まで開館 *8/30は庭園のみ入場可】
休館日:月曜日(祝休日の場合は開館、翌平日休館)
WEB:https://www.teien-art-museum.ne.jp

東京都写真美術館

©東京都写真美術館

住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
開館時間:10:00〜18:00(木・金曜日は20:00まで)
【7/18~8/30の期間中の木・金曜日は21:00まで開館】
休館日:月曜日(祝休日の場合は開館、翌平日休館)
WEB:https://topmuseum.jp

東京都現代美術館

©東京都現代美術館

住所:東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
開館時間:10:00〜18:00
【8/9~8/30の期間中の金曜日は21:00まで開館】
休館日:月曜日(祝休日の場合は開館、翌平日休館)
WEB:https://www.mot-art-museum.jp

東京都渋谷公園通りギャラリー

©東京都渋谷公園通りギャラリー

住所:東京都渋谷区神南1-19-8 渋谷区立勤労福祉会館 1F
開館時間:11:00~19:00 ※観覧料無料
【7/19~8/30の期間中の金曜日は21:00まで開館】
休館日:月曜日(祝休日の場合は開館、翌平日休館)
WEB:https://inclusion-art.jp

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