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Interview

冒険とクルマはインスピレーションの宝庫

旅するイラストレーター、町田ヒロチカがレトロなクルマに乗る理由

author: 曽宮岳大date: 2024/07/16

海や山、動物や自然、そして自身の旅から得たインスピレーションをもとに、様々なタッチで自身の世界観を表現しているイラストレーター、町田ヒロチカさん。ワーホリで訪れたオーストラリアから帰国してからは東京、逗子と拠点を移し、現在は故郷である青森県弘前市を拠点に作品づくりを行なっている。

30年近く前のレトロなスバル サンバー ディアスクラシックを愛車に、各地を駆け巡る町田さん。見た景色を作品に取り込んでいくその目に、ゆく先々の情景はどのように映っているのか──。話を聞いているうちに町田ワールドに引き込まれていく気がした。

町田ヒロチカ

1992年生まれ。青森県弘前市出身のイラストレーター。自然や動物、自身の体験などから得たインスピレーションをもとに、スタイルや様式にとらわれることなく自由な作品づくりを行う。インディー、メジャーミュージシャンのジャケットアートワーク、グッズ、書籍の挿絵、漫画のほか、自身の活動としてぼうやとその仲間たちが活躍するキャラクター漫画「LET’S GO DOWNTOWN」などの作品を手掛ける。

X:@mh_uk2
Instagram: @hirochikamachida

インスピレーションの源泉となったマウイの自然

──イラストはいつ頃から描いているのですか。

「子どもの頃から絵を描くのが好きで、趣味ではずっと描いていましたけど、本格的にイラストを描き始めたのは22~23歳です。絵を仕事にする前は、動物の模写やスケッチを描くことが多かったですね。小学校のときにハワイのマウイ島に行ったんですが、そこで自然から物凄いインパクトを受けました。

夕焼けの色、澄み渡った海、鳥の羽根のグラデーションなど、日本では見られないような自然や動物が放つ色彩のバリエーションを目にしたんです。そこから自然が好きになり、自然をモチーフにして描くことが多くなりました。南国のインスピレーションの原点をマウイ島でもらいましたね」

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──町田さんの作品を見渡すと、自然を描いたものから都市を描いたものまで作品のバリエーションが豊富で、しかもノスタルジックなものからモダンさを感じるものなどまで、多彩なタッチで表現していますね。

「自分は少し飽きっぽいのもかもしれません(笑)。色んなものを試してみたいという気持ちがあり、ひとつのタッチに絞ってそれが認められていくというよりは、自分が楽しいと思うことをやり、かつ一緒に仕事する人たちの雰囲気も取り込んで新しいものを生み出していく、その過程が好きなんです。

そうすることで例えばペイントっぽい画風だったり漫画っぽいもの、キャラクターの個性が出たもの。その中にもクールっぽさだったり、ポップなものだったり、多方面に可能性が広がっていく気がします。絵が乗り物のように自分を色々なところへ運んでくれる感覚ですね。出会いの幅が増えれば自分の成長にもつながるし、様々な世界が見られる。旅感覚で仕事しているところはありますね」

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──影響を受けたイラストレーターや様式はありますか?

「いいなと思うアーティストはたくさんいるんですけど、自分がそうなりたいと思うようなインスピレーションとは少し異なります。自分にとって一番の先生はやはり自然。自然からのインスピレーションを、いかに作品に表現できるかを模索しています。

もちろん参考にする好きなアーティストやキャラクターはたくさんいます。デイヴィッド・ホックニーとか、アンディ・ウォーホルはすごく好きですし、ガロの漫画やスターウォーズ、ポケモンのキャラクターデザインを見るのも好きです。あとエルマーのぼうけんやスーパーファミコンのドンキーコングシリーズの世界観が大好きです」

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──自然やキャラクターをフィーチャーした作品がある一方で、町田さんの都会を描いた作品からは、鈴木英人さんの作品に通じるようなどこか懐かしさを感じさせるものや、都会的な生活に憧れを抱いた時代を振り返らせてくれる作品も含まれるような気がしました。

「永井博さんや鈴木英人さんのエッセンスも参考にさせてもらったこともあります。自分がイラストを始めたのは、ああいうシティポップの雰囲気があった時代なんですよ。一度、永井博さんが自分の絵を見に来てくれたことがあってすごく嬉しかったです。ノスタルジーもあり、シティの爽やかな抜け感もあり、リゾート行ったときの気分が表現されていたりする作風はいいですよね。

英人さんの作品では風の表現がすごく好きで、こういう場所に行ったときって自分の心の中にもこんな風が吹いているなと思うし、気分が良くなるような感覚があります。そういう世界観も好きですね」

町田さんの作品の一部。町田さんのHPから

オーストラリアで学んだ“ゆるさ”

──町田さんは、プロのイラストレーターとしてクライアントの要望に応えた作品を手掛ける一方、自身の志向を表現したラインとして『LET’S GO DOWNTOWN』というシリーズを展開していますね。

「LET’S GO DOWNTOWNはワーホリでオーストラリアに2年間行った体験がインスピレーションになっています。海外の都市って海と街が近いところが多いじゃないですか。そこでゆったりと気ままに暮らしているキャラクターがいたら楽しいだろうと思い、自分の好きなように描いているラインがLET’S GO DOWNTOWNなんです。

オーストラリアに行ったのは忙しくなり始めの頃で、ゴリゴリに忙しくなる前に行っておきたいと思って。本当に弾丸な旅で4万円だけ持って、あとは行ってからの成り行きという感じで旅立ったんです。空港から隣町までスーツケースを引いて歩いたら地面が熱すぎてスーツケースの車輪が溶けてしまったりもしました。日本人が借りられる家を探して見つけたのはサーファーのメッカみたいな田舎町で、自分はサーフィンはしないんですけど、そういう景色のいいところで3ヶ月ぐらい田舎暮らしをしたんです。

向こうでは自分で家を建ててトイレはコンポストを使い、ソーラーで電気を起こし、水を循環させて暮らすような、自由でお金をかけない生き方をしている人たちを目にしました。こういう“ゆるさ”があってもいいよな、というのをオーストラリアの田舎町で学びましたね」

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──それは今の青森の生活にも生かされているんですか?

「そうですね。でないとここは選べなかったなと思います。僕はあまり商売気がある生き方は得意ではないんです。オーストラリアでは、ホットドッグを少し売ってそれで1日終わりとか、ジャンベを叩いて1日ワイワイしてその日は終わりとか、そんな暮らし方をしている人たちと出会いました。

日本ではそんな生活が許されるのは夏休みだけだと思っていたんですけど、向こうではそんな生活をしても怒るやつはいない。そういうゆるさもひとつの生き方としてアリだな思いましたね」

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──冒険が好きなんですね。

「色々なものを見るのが好きなので、絵のタッチも絞らないでいろんな場所に行けるようにしているところはあります。でも一時は作風を絞った方がいいと考えたときもあって、そのときは結構つらかったです。

自分を売り込んでいくという意味では、作品に統一感があった方が特徴を出しやすいとは思います。けどそこはあえて一旦捨てましたね、見られ方を気にしない方がいいこともあると気づき、こだわらなくなりました」

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テンションが上がるアナログなクルマ

──ところで町田さんは30年近く前に製造されたサンバー ディアス クラシックに乗っていますが、クルマも冒険のための手段ですか? そもそもなぜこのクルマを選んだのでしょうか?

「青森に来る前は逗子で暮らしていたんですけど、逗子は郊外の街なのでクルマが必要だと思って購入したのがこのサンバーなんです。クルマさえあれば、山やキャンプにも行けるし、ちょっと足を伸ばせば静岡にも行ける。当時行きたいところがたくさんあったんです。

クルマのことは何も知らなかったので、ライトが丸目で、あと絵の展示をするときのために荷物をいっぱい載せることができ、しかも関東圏で運転するなら小ぶりな方が動き回りやすく、停めた時も迷惑にならないだろうと。色々と見渡したときに新しいクルマには自分の乗りたいものがなくて、当時自分の中で一番ぴったり当てはまると思ったのが、このサンバーだったんです」

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──どんなところが気に入っていますか?

「乗るとテンションが上がるところですね。あとは荷物がいっぱい積めるところ。いつ壊れるかわからないのもちょっとハラハラしていいですね。高速道路を走ると分解してしまいそうな雰囲気があるし(笑)。

車高を上げているので窓からの見晴らしが良く、景色がすごく見えるのもいいです。あとCDを開けて入れる旧式のタイプなんですが、そのアナログ感も気に入っています」

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──町田さんのこれまでの生き方に通じるものがありそうですね。

「買った時にもう22万キロぐらい走っていたクルマだから、それだけ長く愛されて乗られたクルマなんだなと思いました。買ってからは自分でフロントタイヤのキャリアを付けたりしました。タイヤ交換も自分でやるし、パーツやバッテリーを換えたりとか、自分で色々と手を掛けてきたクルマです。

松本に行ったときに交差点で止まってしまったり、エンストしてレッカーで運ばれたりもしました。その場にいるときは結構しんどいハプニングなんですけど、後から思うといい思い出だったりします。そういう経験を与えてくれたクルマでもあります(笑)」

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──クルマに乗っているときに作品のインスピレーションが得られることもありますか?

「めちゃめちゃありますね。青森に住んでいると毎日がドライブのような生活だし、この前、鯖江で眼鏡のお仕事があって、その時乗って行ったのはもう一台のクルマ(プロボックス)だったんですけど、日本海側の海をあまり見たことがなかったので、福井まで10時間ぐらいかけてクルマで行ったんですよ。道中のドライブでは、色々なインスピレーションが得られました。

日本海は春から夏の時期は静かだけど、冬になるに連れて波が大きくなるんです。そういう土地の特性に触れたり、ゆく先々で視界に飛び込んでくる景色を作品づくりに生かすこともできる。ドライブすることで人と出会ったり、繋がったりすることが次の作品のきっかけになることもあります。そういう意味では本当に免許を取って良かったし、クルマを運転するようになって良かったと思いますね」

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数値化できない価値

──所有するクルマの車種によっても見られる世界が変わってくると感じますか。

「それはあると思います。自分はいまサンバーとプロボックスの2台を所有しているのですが、基本的に堅牢なクルマが好きで、多少ぶつけても気にならない感じや、小回りが利く、フットワークの軽いクルマがいいと思っているんです。その点、プロボックスは道具として最高のクルマですね。ただ、ロマンがあるかと言えば、少なめです(笑)。

一方のサンバーはロマンに溢れているというか、好きで乗っている感覚が強いので、それがいい具合に気持ちに作用している感覚はありますね。こういう感覚って一般的なクルマの良し悪しの判断材料となる燃費や速さなどとは別次元のモノだと思うんです。サンバーなどは査定に出すと金額がつかないどころかマイナスになってしまうかもしれない。でもそうじゃない別のところに引力があるクルマだなと思います」

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──町田さんらしいコメントですね。サンバーが似合って見えるのは、そういう考え方の現れかもしれないですね。

「そうですか。“っぽい”って思ってもらえるのは嬉しいですね。似合うクルマというのは人それぞれで、その感覚というのファッション的な意味合いもあるだろうし、思想的な意味合いでもあると思うんですけど、自分に合うクルマに乗ることは自分を拡張するということにもなると思うので、そこは妥協しない方がいいと思います。その選択にリスクがあったとしてもそれは一旦横に置いて選ぶ方が、いい方向に行くのではないかと思いますね」

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──町田さんの場合、リスクさえも人生経験にプラスに作用している感じがありますね。

「大丈夫なリスクだけを選んでいるつもりですけどね(笑)。ゴリゴリのリスクはちょっとキツイけど、抱え込める範囲のリスクだったらいいと思いますよ」

気負うことなく自然体で、かつ冒険心に溢れている町田さん。日常を飛び出した旅先で様々な景色を吸収し、作品作りにフィードバックしている町田さんにとって、愛車のサンバーは大切な相棒となっている模様。ノスタルジックな車窓に映るたくさんの景色を見ながら、きっと今日も新たなインスピレーションを得ているに違いない。

Edit&Text:曽宮岳大
Photo:浦野真裕

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エディター・ビデオグラファー
曽宮岳大

16歳のときにカリフォルニアで自動車免許を取得。自動車雑誌『LE VOLANT』の編集者からメディアの仕事を始め、以後、『Driving Future』『webCG』などのwebサイトでは動画コンテンツにも着手。独立して2017年に株式会社フレズノを立ち上げ、企業やメディアのコンテンツ・映像制作に取り組む。乗り物、カメラ、ガジェット、水泳好き。Beyondではクリエイティブディレクターを担当。