ものづくりをしている人は、自分の世界観を表現できて羨ましいなと思う。イベントや展示会、コラボなど……さまざまな場所で活躍する彼らも、ものづくりをしようと思ったはじめの一歩が案外身近なところにあるはず。
今回話を伺ったのが、アーティストのdaisuke kondoさん。建築資材であるスタイロフォームを用いた彫刻やドローイングの作品を制作しているほか、中村佳穂のグッズイラスト、My Hair is BadやみらんといったアーティストのCDジャケットを担当するなど幅広く活躍。スタイロフォーム彫刻を再現したカプセルトイは入手困難を極めるほどの人気を集めています。そんなdaisuke kondoさんの作品を作るようになったきっかけや、現在に至るまでの過程とは?
Daisuke Kondo
1990年静岡県生まれ。絵画やドローイング、スタイロフォーム彫刻などを制作。
Instagram:@k_o_n_d_o_
まだ、誰も手につけたことのなかったスタイロフォーム彫刻
――スタイロフォームで彫刻作品をつくり始めた経緯はなんだったのでしょうか?
大学生の頃に、建築学科の学生が模型をつくる際に使うスタイロフォームがゴミ捨て場に捨てられているのを見て、持ち帰ってカッターで削ってみたんです。思いのほか、加工しやすかったので、これで何かつくってみようと思ったのが最初のきっかけです。
――美術大学に通っていたときは、油絵やアクリルなど平面を描くコースに在籍されていたとお聞きしました。どんなタイミングで彫刻作品をつくるように変化していったんですか?
当時、フリーマーケットと展覧会を掛け合わせた「フリマテン」という企画を毎月開催していました。地元の商店街の路上に机や間仕切りを設置して、そこでドローイングやスタイロフォーム彫刻を展示販売するようになりました。
大学を卒業してからもアルバイトをしながら絵は描き続けていて、定期的に個展を開催したり、公募展に参加したりと積極的に活動はしていました。ただ、どうにもこうにも作品が売れなかったんです。どうしたらアート作品を買うことが身近になるのだろうと考えていたときに、ふと大学時代に企画した「フリマテン」のことを思い出し、そのときに販売していたスタイロフォーム彫刻をもう一度つくってみようと思いました。
それから、2021年頃のコロナ禍の時期あたりから僕の作品を広く知ってもらえるようになりました。巣ごもり需要が高まって、癒しを求めている人が多かったことも重なり、自分が制作したクマやペンギンといったキャラクターたちが受け入れてもらえたのかなと。
フリマテンのチラシと会場の様子
フリマテンに出品していた作品
――大学に入る前も、アートは身近な存在でしたか?
ベタな話ですが、「アート」というとピカソやゴッホのような教科書の偉人にしかできない所業だと思っていたので、自分には縁遠いものだと決めつけていました。むしろ音楽が好きで中学生の頃からギターを弾いていたので、将来はバンドをやるぞ! なんて意気込んでいて。そんな時期に、高校の友達がキャンバスに絵を描いたり、地元のギャラリーで個展を開いたりしていたんです。その様子を近くで見ているうちに、絵は誰でも描いていいんだとふと気がついて。そこから徐々にアートに興味を持つようになりました。
いきなり部屋の中にブルーシートを敷いて絵を描くようになったので、家族は驚いていましたね(笑)。たまに実家に帰るとそのときのことを話すんですが、「ほんと不思議だね〜」と今でも言われます。
書く行為が好きだった幼少期
――高校生の頃から関心を持つようになっていったんですね。幼少期は、どんなことをしていたんですか?
今見返しても驚くんですが、漫画のキャラクターの目や口といったパーツだけをノートにびっしり埋まるくらい描いて遊んでいました。文字を書くことも好きだったので、日記や詩も書いていたと思います。ゲームを買って遊ぶようなお金もなかったので、一番安価で気軽にできる遊びだったのかもしれません。
――美術や絵が好き、という感覚は当時からありましたか?
全くありませんでした。ただ、国語の授業で漢字を何回も反復しながら写して覚える行為や、数学で数字を段々に重ねながら式を解いていく過程は好きで。なんか気持ちいいというか、自分の痕跡を残している感じが安心できたのかもしれないです。それは美術の「表現」よりも、もっと何か根源的で不思議なパワーだったんだと思います。
この体験のおかげか、今でも手書きの文字が好きなんです。なんでもデジタルで出力できることは、とても便利でかっこいい感じになりますが、その代わりに面白味が無くなるような気がして。時間がかかって面倒で、不恰好だからこそいいじゃんっということがたくさんあると思っています。
――書くことに行き着くのは想定外でした。
書くことで、その日の自分がモノとして残る安心感があります。昔から本やCDといったモノに囲まれている空間が好きで、実体があるものに惹かれるんだと思います。道端に落ちている石やガラスの破片など、他人からすればどうでもいいものでも、むしろ強烈に魅力を放っているように感じることもありますし。
――ものづくりは、どんなことから影響を受けているのでしょうか?
本の影響が大きいです。中学生の頃に図書館に通い始めて、週の上限の冊数まで借りるということを繰り返す学生でした。全部読めるわけがないですけどね(笑)。最初は好きな作家の作品集からスタートして、心理や哲学、詩集まで雑多に読んでいました。
地方の大学に通っていたこともあり、都内の美大や芸大に通っている学生たちとは違って、地方出身者はメインストリームには入っていけないんだろうな、というコンプレックスが本を読む動機を加速させました。本を読むことでどうにかなるわけでもないのに、きっと不安を埋めたかったのと、負けん気も相当強かったんだと思いますね。
――アーティストとしての今後の目標などはありますか?
プライドをもって自分が面白いと思うことをやっていきたいです。自分がファンだとしたらアーティストにはそれを望むので。発信もマーケティングも誤魔化しも容易いこの有象無象の中で、「あれ? この人、なんか変な感じだな。気になるな」って発見してもらえるように、媚びずにアプローチは続けていきたいですね。