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ホンダGB350が僕の心を鷲掴み!

モーターサイクルにおける「ネオ・クラシック」の現在地

author: 佐藤 旅宇date: 2021/08/08

パフォーマンスが飛びぬけている訳でもなければ、見た目もごくオーソドックスな……言葉を選ばずに形容するなら「古臭い」GB350が、なぜそんなに人気なのか?

いま、日本のモーターサイクルシーンで話題となっているモデルといえば「ホンダ GB350」。今年4月の販売開始直後から注文が殺到して受注がストップするほどの人気ぶり。もともとコロナ禍の影響でバイクの需要は世界的に高まっていたのですが、それでも年間の販売予定数4500台をあっという間に売り切るというのは、なかなかのことです。 

早速、私もメーカーから広報車をお借りして乗ってみたんですが、こりゃ売れるのも当然だわと思いました。「こういうバイクが欲しかったんだよ」ってヘルメットの中で呟きましたもん。

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分かりやすいところでいえばまず価格です。GB350の車体価格はいわゆる中型クラスでありながら55万円~とかなりリーズナブルな値付けがされています。いまどきは250㏄でもちょっと気の利いたモデルは60万円ぐらいしますから。

ただ、中大排気量のバイクというのは基本的に趣味の乗り物なので、ただ安価なだけでヒットするなんてことは普通はありません。魅力の本質はあくまで中身のはずです。中身。

そこで注目したいのはGB350に搭載されるエンジン。348㏄空冷4ストロークOHC単気筒。これ、とても古典的な形式のエンジンなのですが、何とGB350のためにわざわざ新設計されているんです。

ボア×ストローク=70.0㎜×90.5㎜というロングストローク設計の空冷単気筒OHCエンジン。最高出力は15Kw/5500rpm、最大トルクは29N・m/3000rpmと控えめなスペックだが、単気筒らしく低速域からの加速力は充分パワフル。始動はセルフスターターで行う。

大雑把に説明すると、単気筒エンジンというのは燃焼室がひとつしかないので部品点数が少なくシンプル。そして小型軽量なのが特徴です。軽量性が重んじられるバイクと相性が良いため古くから用いられてきました。

ただ、構造上、高回転化することが難しく、排気量が大きくなると2気筒や4気筒といった高回転まで回すことで出力を稼ぐ多気筒エンジンと比べ、絶対的なパワーは劣ります。さらに空冷式となると振動や騒音も激しくなり、近年の厳しい排ガス規制もクリアしにくいんです。

こうした理由から、いま現在、空冷単気筒エンジンを採用する車種は小排気量のバイクがほとんどになっています。

そうした事情とは裏腹に、単気筒エンジンを搭載した中大型バイク(ビッグシングルバイクともいう)を待望するファンは昔から一定数いました。パフォーマンスが劣るからといって切り捨ることができない独自の「味」があるからです。ヤマハSR400が40年以上のロングセラーを続けていたことからもそれは分かると思います。


SR400やGB350のようなビッグシングルバイクは、燃焼間隔が長くドコドコと心臓の拍動のような振動を発するのが大きな特徴です。ライダーの間ではそれを「鼓動感」と形容し、バイクの官能性における重要な要素と位置付けています。

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また、低速トルクが豊かなため、スピードレンジの低い街中走行でもエンジンをしっかり操っている実感が得られるのもビッグシングルバイクの魅力です。

ビッグシングルは例えスロットルを乱暴に開けても瞬間的にドンと加速するだけで後は比較的穏やかな特性です。多気筒エンジンを搭載したスーパースポーツバイクのようにどこまでも暴力的に加速していく感じとはまったく異なります。あくまで人間の感覚に沿ったレベルでの「良い加速」なんです。

スリムで軽量な車体とシンプルなエンジン。そして内燃機らしい鼓動感と加速感―――「ビッグシングルバイクこそバイクの根源的な魅力の体現であり、原点である」そう主張するベテランライダーは大勢いますし、私もその通りだと思っています。

でも、一部のライダーがいくら待望しても、長らく日本のバイクメーカーから大排気量の単気筒エンジンを搭載するニューモデルが登場することはありませんでした。

排ガス規制や騒音規制といった現代社会の要求をクリアできないからなのか。はたまた過去は振り返らないというメーカーのこだわりによるものなのかは分かりませんが、私はてっきりのっぴきならない理由があって作ることができない(作らない)ものと諦めていたぐらいです。

だからGB350の登場は衝撃でしたね。あれ?今でもこういうの作れるんだ、と。

登場した理由は意外なものでした。GB350は日本よりも遥かに巨大な市場をもつインドで販売するために作られたのです。いまの時代にあえて空冷単気筒エンジンを新設計したのは、日本の一部マニアの要望に応えたのではなく、インドで支持されている「ロイヤルエンフィールド」を仮想敵にしたからなんですね。

インド市場向けのためかチェンジペダルは靴を傷めずに操作することができるシーソー式を採用する。つま先を蹴り上げてギアチェンジする一般的な操作のほか、ペダルを踏み込んでギアチェンジすることも可能。

一般的にはほとんど知名度がないので簡単に説明すると、ロイヤルエンフィールドは1901年に英国で創業した老舗のモーターサイクルメーカーです。70年に本社は倒産するものの、インドに設立していた現地工場がブランドを引き継いで現在も生産を継続しています。

インドの国内二輪市場は世界有数の規模なので、ロイヤルエンフィールドは50~60年代の基本メカニズムのまま「国民車」として、現在まで生き永らえることができたんです。もちろんロイヤルエンフィールドのエンジンは空冷単気筒。つまり一種の“ガラパゴス”です。

そのロイヤルエンフィールドがもつ古き良きバイクの味を、ホンダが現代の技術でアップデートしたのがGB350、そう捉えても間違えはないと思います。

果たしてGB350の乗り味はホンダの狙い通り、クラシックとモダンの美味しい部分だけを抽出したような独特のものです。とりわけ排気音の気持ちよさには感銘を受けました。

エンジンには「メインシャフト同軸バランサー」という機構を採用することで、単気筒の醍醐味である鼓動感を演出しつつ、ライダーが不快に感じる細かな振動だけを打ち消すという高等テクニック。この手のマシンが苦手とする高速道路の長時間走行でも、振動で手が痺れるようなこともありません。

私、これまでずっと心地よい鼓動感と快適性はトレードオフの関係にあると思っていたので、両立できるものなんだと驚きましたね。古くあって欲しい部分は古く、新しくあって欲しい部分は新しく、そんな感じの乗り味です。

ホイールはフロント19インチ、リア18インチという古典的なサイズを採用し、鷹揚な操縦性を実現する。現代のバイクらしくブレーキには前後独立制御ABSを標準装備し、不足なく効く。

ここ10年ほど、バイクもクルマの後を追うように「ネオ・クラシック」や「ヘリテイジ」と呼ばれるモデルが流行になってます。大まかに定義すれば「過去の名車を思わせるスタイリングを採用した現代のバイク」のことです。

まっさらな新型車でも、誰もが知る名車との連続性を匂わせ、あたかもそのリメイク版のように売り出せば広告宣伝を通じたブランド構築もしやすいことから、各社が力を入れています。とくにバイク業界はライダーの平均年齢が高齢化していることもあって、ネオ・クラシックの人気モデルが相次いで生まれ、新たなカテゴリーとして完全に定着しました。

GB350も広義ではネオ・クラシックの仲間かもしれませんが、スタイリングだけにとどまらず、エンジンという根幹部分までクラシックな様式を貫いているのが他にはない特徴です。強いていうなら「クラシック・ネオ」。

現代のバイクにクラシックバイクのテイストを加えるのではなく、現代のテクノロジーでクラシックバイクを作った。そんなニュアンスが近いと思います。

これまで、レトロテイストのバイクといえば、既存のコンポーネントを寄せ集めてそれっぽく仕立てただけのお手軽なものも少なからずありましたが、GB350は古のモーターサイクルがもつテイストをゼロから最新技術で追及した文句なしの力作だと思います。繰り返しますけど、我々はこういうバイクをずっと待ち望んでいたのです。

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こちらはバリエーションモデル「GB350S」。よりワイドなリアタイヤやショートタイプの樹脂製フェンダー(泥除け)を採用するなど、スポーティで軽快なスタイリングとなっている。

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編集者・ライター
佐藤 旅宇

オートバイ雑誌、自転車雑誌の編集部員を経て2010年からフリーランスの編集ライターとして独立。タイヤ付きの乗り物全般や、アウトドア関連の記事を中心に雑誌やWEB、広告などを手掛ける。3人の子どもを育てる父親として、育児を面白くする乗り物のあり方について模索中。webサイト『GoGo-GaGa!』管理人。1978年生まれ。
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