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Interview

【キーマンと気ままに、クルマ放談】#05

絶好調の「ベントレー」が提供する、クラフトマンシップに支えられた特別な体験とは?

author: 若林敬一date: 2022/09/29

自動車業界に精通したオート・アドバイザーの若林敬一が、気になるクルマメーカーのキーマンと対談する連載企画。第5回は、ベントレーのマーケティング&コミュニケーションマネージャーの横倉典さんをゲストに迎えてお送りする。
1919年に創立された、イギリスを代表するラグジュアリーカーブランドのベントレー。2022年上半期のグローバルの売り上げは17億7000万ユーロ(約2393億円)、利益率も23.2%で、いずれも過去最高を記録するなど、絶好調を迎えている。今、最も勢いに乗るベントレーのブランド戦略について迫る。

ベントレーを象徴する、パーソナライズされたビスポーク

若林 ベントレーのラグジュアリーを象徴するのが、最上級ブランドマリナーのビスポーク部門。ビスポーク部門は、高度な技術を誇るクラフトマンシップで、さまざまな個別オーダーに対応するものですよね。

ベントレー モーターズ ジャパンの横倉典氏。

横倉 お客様の仕様に合わせるビスポーク部門は、我々にとって、これまでもこれからも最も重要な位置づけにあります。しかも、他社とは違い、ビスポークを内製しているのが最大の強みです。ラグジュアリーカーを購入するお客様は、自分でいろいろ選びたいと考えているもの。そのような要望にいち早く応えられるのが、大きなメリットですね。

若林 実は、ベントレーブランドよりも、こちらのマリナーブランドのほうが、歴史は長いんですよね。

横倉 そうなんです。マリナーは、1600年代に馬車づくりからスタート。その技術を引き継いでクルマを製造したのがベントレーです。馬車の時代から続く職人技が、クルマづくりにもしっかりと受け継がれています。

電動化を見据えた斬新なデザイン

若林 2022年8月にはアメリカで2ドアクーペ「マリナー バトゥール」を発表しています。これはマリナーが製造する18台限定生産モデルという、プレミアムモデルですが、これまでとデザインがかなり違いますね。

横倉 僕も初めて見たときは驚いたくらい、かなり違いますよね。ベントレーには絶対的なデザインのルールがあります。例えばフェンダーのカーブ、ライトのデザインなどかなり細かい部分まで決まっています。しかし、バトゥールはそれらのルールを踏襲していない。

ボディラインそのものはベントレールールに則っていますが、それ以外はかなり新しいチャレンジを取り入れています。これは、今後100年を見据えた新しいデザインの追求という意味もあると思います。ベントレーは2030年までに全車種電動化しますが、このデザインがEVのベースになります。

若林 大胆なチェンジはこれからの電動化を意識しているということですが、いわゆるEVっぽさはあまり感じませんね。

横倉 大きなフロントグリルがあったり、フェンダーが盛り上がったデザインなどは、ベントレーの伝統的なスタイル。そこは伝統を踏襲する意味で、あえて残してあるのではないでしょうか。

若林 限定プレミアEVをマリナーから発売するということが、さらに大きなインパクトを呼んでいます。

横倉 マリナーは、いろいろなことを手がけているんですよ。18台限定のバトゥールもつくるし、古いクルマを解体して3Dスキャンして復刻生産したりもしています。約2000のパーツをひとつひとつ設計し、手作業で1920年代の「ブロワー」を4万時間かけて復刻しました。これは12台を新車として限定発売し、完売しています。

時代に合わせて新たな「ブランドピラー」を確立

若林 長い歴史を誇るベントレーにとって、ブランド=歴史の重みともいえるでしょう。

横倉 ベントレーには、「ブランドピラー」と呼ぶブランド構築の柱があります。これまでは、「デザイン・クラフトマンシップ・パワー・ドライビング・レーシング」の5つがブランドピラーとして拠り所になってきました。

しかし、最近、この5つのブランドピラーの概念を大きく変更。デザインとクラフトマンシップはそのままですが、パワー、ドライビング、レーシングの代わりに、「サスティナビリティ・コラボレーション・ウエルビーイング」という要素を取り入れています。これまではプロダクトのみで語られていたことが、ブランド周辺も含めてブランドピラーを構築するという方針です。

横倉 サスティナビリティは、今やすべてのクルマメーカーの最重要課題です。コラボレーションは、ビスポークに代表されるように、お客様の要望にしっかり応える関係づくり。ウエルビーイングは健康や健全性の追求です。逆にいうと、デザインとクラフトマンシップは、どの時代でも絶対に変えられない部分でということです。

若林 ブランド構築において社会、環境、人を相当意識しているということですね。

横倉 2030年に全車電動化を控えていますが、ベントレーの場合、最初にゼロ・エミッション(カーボンニュートラル)に取り組んだのは工場なんです。

ベントレーの工場はイギリスのクルーという小さな町にあります。2019年にクルー工場がゼロ・エミッションを達成。ほかにもクルーにおける地域社会の貧困や教育にも深く関わっています。普通のクルマメーカーと順番が違って、周辺環境を整えてから、クルマのゼロ・エミッションに取り組むという流れ。クルマが一番最後なんです(笑)。

クルマと環境を考えると、EVや水素自動車にすればいいという発想になりがちですが、我々はもっと源流を見ている。クルマをつくる工場や地域社会のサスティナビリティや環境からアプローチすることこそが大事だと思っています。工場をカーボンニュートラルにしているクルマメーカーなんて、ありませんからね。徹底したサスティナビリティへのこだわりは、ベントレーが誇ることのひとつです。

ベントレーのアイデンティティをすべての従業員が共有

若林 地域社会を含めたステークホルダーを大事にすることで、そこで作られた製品が社会に胸を張って送り出す。これは非常によい循環ですね。

横倉 ベントレーにとってクルーという町は特別な存在です。ベントレーの工場以外は羊と山羊しかいないような田舎町で、まさにベントレーの城下町。ベントレーにとって、働く従業員は財産。おじいちゃん、おばあちゃんから3代続けて働いてきたという職人もたくさんいます。

若林 ハンドルの革のステッチを縫製できる職人は3人しかいないと聞いたことがあります。従業員が財産というのは納得できますね。

横倉 ベントレーの創業者W.O.ベントレーの哲学は、「良いクルマ、速いクルマをつくる」。その哲学が従業員全員にしっかりと浸透していて、「何がベントレーらしさか」を共通認識として持っているのでしょう。

例えば、長い歴史の中で培われた木と革の黄金比というのがあります。それが車内の空間をまるで家の延長線上のような心地よいものにしてくれる。言葉では説明しにくいそういう技術が、「ベントレーとはなんぞやと」いう感覚として、工場の従業員、デザイナー、セールスまでが共有しているんです。

高級ブランドでありながら、誰でもを受け入れる存在

若林 高級車で本当にいいクルマなのに「いやらしさ」を感じさせないのは、そういう歴史的背景からくるブランド力、作り手の誇りがあるからでしょうね。

横倉 そのご指摘は、的を得ていると思います。クルマを売るにはマーケティングが必要で、マーケティングをするにはわかりやすいクルマであることが求められます。例えば、EVならパッと見たときにEVっぽいデザインであることが求められる。

しかし、そういうマーケティングのためのわかりやすさを追求するという発想は、我々には一切ありません。ある意味、奥ゆかしいというか(笑)。ベントレーを購入される方も、このブランドはそういうわかりやすさで勝負するクルマではないと、理解してくださっていると思います。

若林 イギリスには、階級社会の文化がまだ残っているのも、わかりやすさだけではないという考え方に影響しているのかもしれませんね。

横倉 確かに以前は、ブランドによる棲み分けがありました。しかし、最近は「このブランドでこれを叶えたい、こんなところを走ってみたい」という要望が増えています。これは昔よりもお客様のブランドに対する信頼や期待が高まっている表れだと思っています。

実際、20年前なら、高齢者の方が人生最後のクルマとして選ぶケースが多くありました。しかし、価格が少し手頃なコンチネンタルGT V8が登場したことでお客様の層が変わり、ベンテイガでファミリー層からも購入してもらえるように。今はかなり客層が若くなっていて、我々自身も驚いています。

若林 高級車ブランドなのに、排他的ではなく、インクルーシブだからでしょうね。ブランド力は高いけれど、いろいろな人を受け入れる懐の深さがある。

横倉 ありがとうございます。まあ、そうはいっても、年間600台という小さなマーケットだからできるということも、多分にあると思います。

若林 希少性が価値の源泉なのは確かでしょうが、それだけではないように感じます。希少性を求めたうえに、それにプラスして心に響くものがあるのでしょう。

横倉 普段乗りできるジェントルさと、荒々しい走りも楽しめる二面性はありますね。そこに価値を感じていただいていると思います。

4つのパッション・ポイントで価値ある体験を

若林 本国からローカルに対して、マーケティングでのリクエストにはどのようなものがあるのでしょう。

横倉 特に細かいことは言われないのですが、大きなテーマとして「パッション・ポイント」を大事にしてほしいということはあります。ベントレーがパッション・ポイントとしてあげているのは、「ウエルビーイング・音楽・不動産・スペシャルトラベル」の4つです。

心身の健康を指すウエルビーイングは、ブランドピラーの柱にもありますが、富裕層にとって最も関心の高いトピックです。スペシャルトラベルは、お金では買えないような特別な体験の提供。音楽や不動産についても同様で、ベントレーのお客様に我々のプロダクトやブランドを通じて、ほかでは味わえない体験を提供していきます。

横倉 具体的な例としては、金沢までドライブをして遺伝子レベルの検査をするイベントや、女性二人で最高級の温泉エステ旅を企画。音楽であれば、ベントレーの高級オーディオでライブ体験をしてもらうというのもあります。先日は、イギリス本国の提案で、アジアの女性インフルエンサーをタイに集めて、ウエルビーイングとサスティナビリティをテーマにしたホテルステイと交流会を実施。これも非常に好評でした。

若林 日本ではなかなか気づけないようなパッションポイントも、イギリスから世界を見ている本国だからこそ見えるのかもしれませんね。

横倉 まさにその通りです。正直に言うと、私の入社した10数年前のベントレーであればマーケティングの必要がなかったし、実際にやっていませんでした。フォルクスワーゲン傘下になったことで、改めてマーケティングに取り組むようになったんです。それによって、いろいろなアイデアがイギリスからも出てくるようになりました。

横倉 もちろんローカルでもいろいろ取り組んでいきますし、本国からの要望に全て答えられるわけではありません。しかし、ローカルだけでは、アイデアやできることに限界があるのも事実です。そういう中で、本国からのアイデアや方針を実践するのは、おおいに勉強になりますね。ベントレーではNFTをスタートするなど、かなり先進的なことにもやっているんですよ。

欧米やアジアからもっと柔軟に学んで、積極的にチャレンジをしていかなくては、と実感しています。

若林 ベントレーのことは詳しくわからないという若い世代もいると思います。そういう人たちに、さまざまなチャンネルを通じて、実際に触れてもらう機会を設けていくことも重要です。ベントレーを購入できる人だけでなく、買えない人にも憧れてもらうことが大事になってきます。

横倉 Z世代には、ブランドの歴史とサスティナビリティへの取り組みに共感してもらうことで、将来の顧客になってもらうという種撒きが必要だと思っています。そのためには、「俺、ベントレー乗っているんだよ」と言ったら、企業の取り組みを含めて「すごいね」と言ってもらえることも大切。直接的な顧客ではない人たちに向けても、ベントレーというブランドを広く知ってもらうマーケティング戦略を進めていきたいと思っています。

その施策のひとつとして、若者向けに積極的なデジタルコミュニケーションを展開していますが、それとは別にJ-WAVEの番組スポンサーにもトライしました。これは初めての試みで、マスコミュニケーションを通して、幅広い人たちにアプローチしようというものです。

若林 ブランドのヒストリ−、フィロソフィーに共感してもらい、価値のある体験を提供する。それこそがこれからベントレーの新たな魅力になっていきそうですね。

横倉 古いものと新しいものを共存させて、ひとつのストーリーとして伝えていきたいですね。

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オート・アドバイザー/R-BRAND株式会社 代表取締役
若林敬一

ケロッグ経営大学院MBA、Marketing&Finance をメジャー。フォード本社広報やマツダのグローバル広報部長、本部長などを歴任。その後ボルボ・カー・ジャパン、ジャガー・ランドローバー・ジャパンのマーケティング・広報ダイレクターに転じた。2021年に独立し、R-BRAND株式会社を設立。マーケティングおよび広報の視点からコンサルティングを行う。
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