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Interview

【キーマンと気ままに、クルマ放談】#08

構造改革を進める「マツダ」がインナーブランディングを徹底するワケ

author: 若林敬一date: 2023/10/21

自動車業界に精通したオート・アドバイザーの若林敬一が、気になるクルマメーカーのキーマンと対談する連載企画。今回は、2023年3月期決算で過去最高の売上高を記録したマツダのグローバル販売&マーケティング本部長・大塚正志氏を迎えた対談。ブランドエッセンス「走る歓び」を追求するマツダの「パーパス・プロミス・バリュー」を通じ、クルマメーカーとして目指す場所をマーケティング視点で語り合う。

次世代を担う国内外のリーダーが練り上げたパーパス

若林 2023年6月にマツダは企業理念を改定されました。ブランドエッセンス「走る歓び」と合わせて、これからのマツダが目指す方向性を教えていただけますか?

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 マツダ株式会社 グローバル販売&マーケティング本部 本部長の大塚正志氏

大塚 パーパスは、企業の社会的存在意義を指し示しています。マツダのパーパスは「前向きに今日を生きる人の輪を広げる」ですが、これは完全に社内のメンバーで練り上げたものです。そもそもこのパーパスは、社内でこれからのマツダについて議論を重ねていく中で出てきた言葉です。

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大塚 2022年、国内・海外の次世代のリーダーを担うメンバーが1年かけて、今後の会社経営を議論する場を設けました。マツダはどう生き残っていくのか、社会的にどのようなポジションを目指していくのかを議論。それがまとまっていく中で、出てきたキーワードが会社のパーパスになっていったという流れです。

若林 それは面白いですね。

大塚 そこで気づいたのが、日本の広島で議論していることと、海外で議論していることが、それほどズレていないということでした。それはつまり、マツダの社員の根源的な想いということ。それで1年かけて言語化し、パーパスとなりました。

取材に訪れたマツダ広島本社。敷地面積は223万平方メートル、広島湾岸沿いに全長7キロメートルにもおよぶ。

グローバル企業としてこだわった英語での言語化

大塚 実はこのパーパス、プロミス、バリュー(以下PPV)は、ベースとなるものは英語で作りました。マツダはグローバル企業で、母国語が日本語ではない社員のほうが多いくらいです。当然、共通言語は英語です。

日本語で言語化してそれを英語に直訳しても、アメリカやヨーロッパの社員にはピンとこなかったり、浸透しづらい部分がどうして出てきます。全世界のすべてのマツダ社員が納得できるものにするには、英語で言語化すべきだと考えました。

英語で作成したものを日本語に置き換えているんですが、直訳ではなく意訳になっています。

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若林 マツダはこれまでも、ブランドスローガンとして「ZOOM‐ZOOM」(2002年~)、「Be a driver.」(2013年~現在)などを打ち出しています。こういうスローガンを通して国内はもとよりアメリカやヨーロッパの部門も全社一丸となり、「みんなでこっちに向かうんだ」という姿勢を浸透させてきたと思います。

今回のPPVでも国が違っても想いが同じだったのは、そういうこれまでの積み重ねの歴史があるからでしょう。

クルマが日常に提供する「生きる歓び」

若林 パーパスの「前向きに今日を生きる人の輪を広げる」には、生きるというキーワードがあります。僕は「ZOOM-ZOOM」「Be a driver.」「走る歓び」というコピーにも「生きる歓び」のようなものを感じていて、それがマツダのブランドになっていると思うのですが。

大塚 「走る歓び」は、マツダが最も追求することです。「走る歓び」とは何かというと、「ものが動く」ときに得る感動。それはクルマに限りません。バイクや自転車、スケートボードでもいいんです。

「動く」ことには、普通とはちょっと違う感動がありますよね。それが結果として「生きることはすばらしい」というコンセプトに昇華していく。マツダはその技術やマーケティングなどを通して、人々に「生きる歓び」を提供するというのが根源的にあります。

若林 20年近く前、僕がマツダの社員だったとき、マツダの「ブランドエッセンスビデオ」というものが作られました。映像で世界中の人たちがクルマと触れ合い、いきいきと生きる姿が描かれているんですが、僕はこのビデオがすごく好きなんです。

その中のひとつに、外国のスーパーにある大きなカートに大人の男性がピョンと飛び乗り、そのカートが走るシーンがあります。今回、マツダのパーパスに「生きる」という言葉を見つけたとき、その映像がぱっと頭に浮かびました。それこそが、クルマが提供する日常の中の「生きる歓び」に通じるんじゃないか、と。

大塚 まさにその通りです。実際、今回、グローバルで議論する中で、若林さんの言う「ブランドエッセンスビデオ」はかなり話題に登りました。

マツダのクルマづくりの歴史が詰まった「マツダミュージアム」にて、103年の歴史を振り返るふたり

社内でブランディングを徹底することで外に伝わる

大塚 実はこのPPVは最初は社内ブランディング用で、外に向けたものではありません。意図としては、まずは社内でしっかりPPVを浸透させることで、それが少しずつ会社の外でも理解してもらえるようになるはずだという思いがありました。

若林 なるほど。ただ、その一方で、ダイレクトに顧客や世の中とコミュニケーションするシーンも多いはずです。それらのタッチポイントでは、どのような軸があるのでしょうか。

大塚 パーパスは全社員が目指す「北極星」ですが、それだけでは一人ひとりの社員の行動に落とし込むのは難しいのが現実です。マツダのPPVはパーパス→プロミス→バリューという段階を経ることで、実務レベルに落とし込めるようになっています。

特にバリューは、お客様や世の中に向き合う際の拠り所です。例えば「おもてなしの心」や「挑戦」はかなり実行レベルの話です。「あくなき挑戦」は、ものづくりを始めさまざまな場面で必要なこと。

もうひとつの具体的な拠り所として、「2030 VISION」という長期ビジョンもあります。

2030 VISIONは、パーパスに向かうための、より具体的な一里塚です。実務の方々が自分たちの仕事に落とし込み、具体的な目標設定をしやすくするためのものです。
ここでは地球の未来に貢献する、安全・安心・自由に移動できる社会に貢献する、そして動くことへの感動や心のときめきを創造し、生きる歓びに貢献する。と、かなり具体的な方向性を描いています。

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若林 そういうPPVや長期ビジョンをどうやって全社の隅々まで浸透させていくんですか。

大塚 マツダでは年に1回、「MBLD(マツダ・ビジネス・リーダーシップ・ディベロップメント)」という、全社員が参加するイベントがあります。最初に、リーダー層が経営層を起点とするビジョンを理解するファーストカスケードの場を設けました。次にそれをセカンドカスケード、サードカスケードへと時間をかけて展開していきます。

それぞれのカスケードで、上の階層の人間が下の階層の人間に自らの言葉でPPVを具体的伝え、どう行動に落としていくかという議論をします。

若林 すばらしいですね。きちんと方向性を決めて、全社員一人ひとりに浸透させる仕組みがしっかり確立しています。

PPVは伝言ゲームでは伝わらない

大塚 さきほど海外のリーダーもパーパス作りに参加したと話しましたが、その下の階層の海外メンバーへの伝え方もこだわっています。PPVを最終的にまとめたチーム、日本の若手メンバーを中心とした10名くらいですが、このチームが直接世界中をまわって伝えていくことになっています。

若林 伝道師ですね。伝言ゲームではダメだ、と。

大塚 伝言ゲームでは、どうしてもいろいろな変換が起きてしまうので。パーパスを作った人間が直接伝えて、そこで議論もする。そこでもっといいアイデアや言葉が出てくれば、どんどんアップデートすればいいと思っています。世界中に伝え歩くのに、2年ほどかかりそうなんですが(笑)。

若林 それだけの時間をかけて丁寧に伝えていくということですね。

大塚 PPVの策定もあったので、グローバルのメンバーも呼んで、全社で「MAZDA MIRAI」という1週間かけたイベントも開催しました。その目的のひとつは、マツダの方向性を再定義し、全社員に見える化することです。

また概念的なことだけではなく、カーデザインや技術など今後の物理的な方向性も提示。こういう場を設けることで、マツダの社員が未来に自信が持てることが大切だと思っています。

究極のプロダクトアウトで顧客に寄り添う

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若林 マツダのそういった企業姿勢とマーケティングは、どのようにリンクしていくのでしょうか。

大塚 心が入っていないマーケティングは、お客様に見透かされてしまうもの。企業としてこういう方向に進みたいというのを、全社員がしっかり腹落ちしてマーケティングすることが大事になってきます。

若林 一般的には、世の中の求めに応じたり、市場をセグメントしてターゲットを定めて狙い撃ちするというマーケティングが主流ですが、マツダのマーケティングはそれとは一線を画しているような印象があります。

大塚 確かにマツダは「自分たちが作りたいものをまずは作る」というプロダクトアウト的な色彩が濃いかもしれませんね。

若林 ロータリーエンジンやロードスターがまさにそうですね。

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大塚 自分たちが作りたいものを作り、それに共感してくれる人だけをターゲットにしたマーケットも存在します。ただし、そういう企業風土があまりにも行き過ぎると、閉鎖的とか自分中心に映ってしまったりもするでしょう。

だからこそ、今回のパーパスでは、我々の社会的存在意義は「お客様に歓んでいただくこと」だ」と再認識。自分たちのやりたいことをやりながら、お客様の顔もしっかり見ていこうとしています。そこは、いい意味で軌道修正ができましたね。

若林 では、具体的にマツダの顧客とはどういう人たちなんでしょう。メジャー志向というよりは、人とは違うものを求める人のイメージがありますが。

大塚 マツダのお客様が我々に大衆的なものを求めたり、プレミアム志向だったりしてもいいと思っています。それよりも重視しているのは、「マツダと共に生きることで、少しでも前向きに暮らしたい」と思っていてくれるかどうかです。

若林 つまり、それは「究極のプロダクトアウト」で、結果的には「究極的に顧客に寄り添っている」ともいえそうですね。

顧客のニーズに応えるのが企業の使命

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若林 最後に、これからのマツダの方向性についても聞かせてください。電動化や環境対応などクルマ業界の動きは目まぐるしく進化していますが…。

大塚 電動化は、規制が最初のドリブンですが、ある一線を超えたときに、お客様が電動車を求めるフェーズになるはずです。お客様が望むのであれば、我々も電動化を進めていかなくてはいけない。お客様の「こういうプロダクトでこういう体験をしたい」に応えるのは、企業の使命です。

若林 マツダにはロータリーエンジンやスカイアクティブテクノロジーのような独自技術もあります。その技術的な方向性は今後どうなっていきますか。

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大塚 それも「世の中の人々が望むものを提供していく」という点では、同じです。ただし、環境対応などは避けて通れません。「我々が提供したいもの」「お客様が望むもの」「地球環境」。この3つが同じ方向であればやるべきですし、そうでなければやるべきではないでしょう。その3つが同じベクトルになるまで、地道に研究開発は続けていきたいですね。

若林 これからのマツダがどう進化していくか、本当に楽しみです。

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オート・アドバイザー/R-BRAND株式会社 代表取締役
若林敬一

ケロッグ経営大学院MBA、Marketing&Finance をメジャー。フォード本社広報やマツダのグローバル広報部長、本部長などを歴任。その後ボルボ・カー・ジャパン、ジャガー・ランドローバー・ジャパンのマーケティング・広報ダイレクターに転じた。2021年に独立し、R-BRAND株式会社を設立。マーケティングおよび広報の視点からコンサルティングを行う。
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