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ウェルネス

東京ホテイソン・ショーゴ×Dios・たなか

これからの「筋トレ」の話をしよう

author: 山梨幸輝date: 2023/10/13

漫才コンビ・東京ホテイソンのショーゴさんと、バンド・Diosのたなかさん(前職:ぼくのりりっくのぼうよみ)。二人の共通点は、筋トレにのめり込んでいることだ。ショーゴさんは肉体美を競うフィジークに、たなかさんはボルダリングに励む様子を自身のSNSで積極的に発信している。その姿はストイックなだけでなく常に楽しそうで、とにかく情熱的だ。

学生時代、スポーツに打ち込んだわけではないという二人は、なぜ今“鍛える”のか。その魅力を存分に語り合ってもらった。見えてきたのは、男らしさや体育会系の価値観とはまた異なる、筋トレの“ウェルネス”な一面だ。

ショーゴ

1994年生まれ。2014年にお笑いコンビ・東京ホテイソンを結成。「M-1グランプリ2020」のファイナリストに選出される。相方・たけるのハイテンションなツッコミとの温度差を感じる冷静なボケが特徴。主な出演番組に『ラヴィット!』(TBS)など。2024年3月より第3回単独公演「銀鼠」で全国ツアーを予定。

Instagram: @tokyoshogo
YouTube: @hoteison

たなか

1998年生まれ。2012年にぼくのりりっくのぼうよみとして活動を開始し、2014年に10代向けの音楽オーディション「閃光ライオット」のファイナリストに選出。2019年、ぼくのりりっくのぼうよみを辞職(引退)し、たなかに改名。2021年、スリーピースバンド・Diosのボーカルとして活動を開始する。ニューアルバム『&疾走』が販売中。

Instagram: @aaaaaa_tanaka
Twitter: @aaaaaatanaka

文化系な二人が筋トレ、ボルダリングにハマった理由

──二人の自己紹介と、日ごろ励んでいるトレーニングについて教えてください。

「東京ホテイソンというお笑いコンビのボケを担当しています。3年半前から肉体の美しさとバランスを競うフィジークにのめり込んで、体重を48キロから87キロまで増やしました。実は今日も大会を目前に控えていて、身体が仕上がっている状態です(笑)」

「僕はスリーピースバンド・Diosのボーカルです。もともと『ぼくのりりっくのぼうよみ(以降、ぼくりり)』という名前で活動していました。数年前からボルダリングにハマっていて、冬は岩山に登ることもあります。実は僕も数日後に大会があるので、だいぶ仕上がっています(笑)」

──二人が筋トレを始めたきっかけはなんですか?

「実は学生時代にちょっと鍛えたことがあったんです。その頃の動機は強くなりたいというだけ。でも、僕が芸人の道を目指しはじめた2010年頃に“今はガリガリの方が面白い”という風潮を感じて、ジムに通うのを辞めたんですよ。そんな中でダウンタウンの松本人志さんが突然マッチョになって。じゃあこれからは筋肉の時代だと(笑)。2019年ごろからもう一度ストイックに鍛え始めて、今に至ります」

「ぼくりり時代に友達と明治通り沿いにあったボルダリングスタジオにいったことがきっかけですね。最初はみんなで『楽しいね』と言っていたんですけど。終盤は僕一人だけ笑顔で登っていて。帰り際に『また行きましょう!』と言ったらみんなに目を逸らされる、みたいな感じでした(笑)」

「たなかさんは才能があったんですね。ぼくりり時代は鍛えてましたか?」


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「特にしていなかったのに、『意外とイケるな』という感じでした。ボルダリングって5級、4級みたいな概念があるんです。『壁にあるホールド(突起)のこの色だけを伝って登れたら〇〇級』というイメージですね。やりこむほどに級が上がっていくのが楽しくて、気付いたら夢中になっていました」

「ウエイトマシーンの重りを増やしていく楽しさに近いですね。今は何級なんですか?」

「1級よりも高い“段”というランクがあって、今は2段です。ここから先は努力だけじゃなくて才能や骨格、生まれ持った筋肉のつき方も関係してくるので大変なんですよ。日本人の中には6段を登れる人が2,3人いるので、いずれはその中に入りたいですね」

「そこまでいったらかっこいいですね。競技が違っても共感できる部分があるなと思って。フィジークは胴回りが細いほうが有利なんですよ。その点、僕はウエストがもともと58センチくらいで華奢なのが強みで。でも、その反面で腹筋のインナーマッスルが小さいから力が出にくいんです。骨格レベルの悩みにぶち当たるという点で通ずるものがありますね」

「使われていない回路が通る」。筋トレで高まる身体の解像度

──お二人は普段どのように鍛えていますか?

「ボディビルダーの間ではメジャーな『分割法』というやり方です。月曜日は胸、火曜日は肩、水曜日は背中、木曜日は脚と、鍛える部位4分割して日ごとに変えるんです。腕は太過ぎると身体のバランスが崩れるので、たまにやるくらいですね」

「ジムは週何回くらい行くんですか?」

「基本的には毎朝4時か5時に起きて仕事前に行っています」

「ストイックですね。僕はジムへ行くよりもクライミングをしている時間の方が長くて。週4くらいで、最低2時間くらいは登っています。多い日はトータルで8時間くらいクライミングジムにいますね」

「身体はどのように鍛えるんですか?」

「懸垂や体幹に効かせる腹筋などの基礎的な内容はよくやりますが、それ以上に『筋肉を動かせるようになる』トレーニングを徹底しています。人間の身体には筋肉がたくさんあるけど、大部分は認識できていないんです。例えば『内転筋(太ももの内側の筋肉)に力を入れて階段を登ってください』って急に言われてもできないじゃないですか。でも、意識して鍛えると足の薬指と小指側に力を入れると内転筋に“効く”という感覚がわかってくる。使われていない回路を開通させる作業に近いですね」

「それはインストラクターに教わるんですか?」

「そうですね。体系だった研究を専門的に行っている人がいる中で、自分一人でやるのは限界がありますから。ある時『ここの筋肉回路を目覚めさせよう』とトレーナーに言われたんです。最初は座って立つ、みたいな動きをするだけだったので『これがなんの役に立つのだろう?』と思って。でも、繰り返しているうちに10回に1回止まっていた難所を10回に9回くらい登れるようになったんですよ。最初は半信半疑でしたけど、それ以来『動かすトレーニング』を徹底しています」

仕事にも応用できる“フォーム”とは。筋トレで学ぶ生活の視点

──筋トレの楽しさってなんでしょう?

「やった分だけ目に見える形で結果が返ってくることですね。仕事の場合、一生懸命取り組んでもうまくいかない時がありますけど、筋トレはやればやるほど絶対に筋肉が大きくなりますから。手っ取り早く成功体験を重ねて自信がつく。お風呂場で鏡と向き合って『成長してるじゃん』と思う時間が最高ですね」

「世界に対して前向きになれますよね。僕は最近“正しいフォーム”を覚えるのにハマっているんです。例えば二人の初心者がボルダリングを1年続けた場合、最初の実力が同じでも、正しいフォームで登れる方が圧倒的に上手くなっていくんですよ。フォームを意識するようになって感じたのは、これって人生そのものに活かせる概念だなと。筋トレだけでなく仕事でも似たような考え方をすることはあるんです」

──仕事におけるフォームとはなんでしょう?

「小さい事で言えば、現場に入った際にちゃんと挨拶をすることも“フォームが正しい”と言えますよね。何をするかというよりは『今、自分のフォームは合っているか?』という視点を常に持っておくことが大事だと。最近はそんなことを考えすぎて新曲の『&疾走』では『ただしいフォーム&疾走』と連呼しています(笑)。『闇雲に疾走しても駄目だけど、正しいフォームで歩くだけでも弱い』という感覚を歌にしたんです」

「お笑いにもフォームがあると思います。自分に合っていないことをコメントすると、いくら内容が面白くてもウケないんですよ。僕の場合はズレたことを言う方が番組的に求められるので、変に上手いことを話そうとすると駄目とか(笑)。そんな風に自分を俯瞰して見て『合っているか』を見極める感覚って、確かに筋トレ中にフォームを確認する時と似ていますね」

「健康じゃないとネタは書けない」。筋トレと芸人の新たな関係性

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──筋トレがお笑いに活かされる瞬間はありますか?

「やはり筋トレ好きというだけでひとつの“イジりしろ”になりますよね。東京ホテイソンは相方のたけるのツッコミ(歌舞伎のような節回しと独特なワードセンスを活かしたツッコミ)で有名になったので、僕が“じゃない方”芸人だったのは自覚していて。だから、先輩にイジられるものがないといけないと思っていたんです。筋トレを始めてからは狙い通り『鍛えすぎだろ』『減量中で頭が動いてないな』とツッコんでもらえるようになって。“イジりしろ”がなくて悩んでいる芸人はたくさんいるので、それは大きいなと思いますね。あとは減量中に食リポをすると100点満点のリアクションができます。飢餓状態なので(笑)」

──最近は筋トレを始める芸人が増えているという話も聞きました。

「もともとコンプレックスのある人が多くて、みんな強くなりたがっているというのもありますよね。ただ、最近はそういった傾向に関係なく鍛える芸人が増えています。みんな健康志向になってきているんですよ。コンディションが悪い状態ではいいネタが書けないし、規則正しい生活をした方が仕事が楽しいということに気づき始めているんです」

「芸人さんは深夜に酒を飲んで焼肉を食べているイメージだったので意外でした」

「僕も昔はそんな生活をしていました。でもお酒をやめて筋トレを始めてから明らかに体力が上がりましたね。去年は週の半分は東京にいないという時期が多くて、1日10数時間ロケバスに乗ることもあったんですよ。多分、元のライフスタイルのままだったら相当しんどかったと思いますね」

これからの時代に必要な“筋トレ的”思考

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「今のショーゴさんの話に近いですけど、アーティストの間でも“基礎体力”みたいな概念が必要になってくると思っていて。TikTokで火がついてバーンと売れるのも素晴らしいですけど、楽器や歌の技術といった“基礎体力”がないとその後が大変で。ウエイトトレーニングで例えるなら、フォームが正しくなくてもめちゃくちゃ重い120キロのバーベルが1回上がればOKという状態じゃないですか。そういう人が準備できていない状態で重いウエイトを何度も持たされて、結局長続きしないみたいな状況をよく見るんです」

「ヒットするのが最初の1曲だけで終わってしまうと」

「昔、YouTubeのキャッチコピーにあった“やりたいことで生きていく”みたいな感覚も、実際はそんなことないなと思うんです。実際YouTuberってめっちゃ大変ですから。視聴者の傾向をめちゃくちゃ分析して、次はこういうネタが受けるのではないかと綿密に会議を繰り返さないといけない」

「やりたいことをやると言いつつ、地道な努力を重ねてユーザーに合わせていますからね」

「YouTuberも基礎体力がある人が生き残っているんですよ。そういう意味で基礎体力をつけて、正しいフォームを身につけるといった“クンフー”を積み重ねる過程ってとても大事なことだと思っていて」

「すごく分かります。お笑いでいうと、“クンフー”ってやっぱりネタなんですよ。バラエティのひな壇トークが面白くても、やっぱりネタが弱い人は人気がいずれ落ちてきてしまう。今の時代、売れ方は様々ですけど、結局は地道に相方とやりとりを積み重ねてネタを磨いていく人が強いなと思いますね」

ストイックじゃなくてもいい。暮らしを豊かにする筋トレ入門

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──「男らしくなる」「身体が大きくなる」とはまた違う側面から筋トレの魅力を話していただきました。世の中での受け入れられ方についても変化は感じられますか?

「先ほどショーゴさんが話していた“筋トレは絶対成果帰ってくる説”はその通りだと思うんですよ。今は日本の景気がどんどん傾いていって、そんな中だから仕事もうまくいかないことが多いじゃないですか。でも筋トレだけは裏切らない。ある意味で最後のフロンティアになっていくのではないかと思います。“BCAA(筋肉のエネルギー源となる必須アミノ酸)は正義”という考えがもっと広がっていくかもしれないですね(笑)」

「正しいベクトルで努力すればちゃんと応えてくれますから。でもそんな中で、まだ筋トレに関する誤った知識が蔓延しているように感じていて。『ささみだけ食べないといけないんでしょ?』とよく聞かれますけど、実際はそこまでストイックにならなくても大丈夫ですから」

「筋トレの敷居が下がれば、もっと世の中に浸透するかもしれないですね」


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「ボディビルダー日本チャンピオンの横川尚隆さんという方が『あえてふざけたことをしてボディビルに興味を持ってもらうきっかけを作っている』とおっしゃっていて。『チャンピオンが馬鹿なことをするな』と言われたりと向かい風もある中で、そのスタンスを貫いているのが本当に素敵だなと思いますね。そういう方が今後増えたら、ジム行くのに抵抗がある人も減るはずです」

──筋トレは3ヶ月やり抜くことが大事だとお話されていました。続けるためのコツはなんだと思いますか?

「漠然と『2キロ落としたい』と思ってやっていると、いずれ『落としたからなんなのだろう?』とモチベーションが下がる時期がやってきますから。昨日までの自分を超えたいという欲求や、これができて嬉しいという楽しさをいかに筋トレと結びつけるかが大事なのかなと。その結果、ジムにいて楽しいと思える時間が増えれば自然と足が向きやすくなるのかなと思います」

「僕は逆の発想で、3ヶ月間は変わらないと思うことも大事かなと。言い方を変えれば、それだけの期間鍛えれば誰でも効果が出ますから。そう信じながら続けることも必要だと思いますね」

──最後に筋トレを食わず嫌いしてる人に一言お願いします。

「『脚が太くなる』とか、そんなことは絶対ありません。もしちょっと鍛えて太くなるのなら僕らが身体を大きくするのにここまで苦労していないですからね(笑)。あとは、なんだかんだで鍛えた身体はかっこいい。見てください、このたなかさんの前腕。ボディビルダー並じゃないですか。でも、ちゃんと鍛えればあなただってこうなれるんです」

「人間って3ヶ月に1回新しいことを始めると人生が面白くなるなと思っていて。もちろん内容はなんでもよくて、急に盆栽に凝ったり、スペイン料理だけ異様に作るようになってもいいんです。そんなふうに知らない趣味の世界が無数にある中で、選択肢の一つとして筋トレを初めるくらいでもいいのかなと思います。最初はフォームとか1日の摂取カロリー計算とかこだわる必要はないですから。それでも、3ヶ月経った頃には結果がちゃんと出る。新しく始めるにしても、こんなにやりがいのある趣味はないのでないかと思いますね」

Text:山梨幸輝
Photo:垂水佳菜

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編集者/ライター。大学時代にファッションブランド・writtenafterwardsでのインターンを経験し、卒業後にフリーランスとして活動を開始。雑誌やWEBメディアでの執筆や編集、ブランドのカタログ制作などを行う。
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