2023年10月26日〜11月5日に開催された「ジャパンモビリティショー2023」。「モーターショー」から新たに名称を一新し、掲げたのは「未来に向けたプラットフォームづくり」だ。自動車メーカー、部品メーカー以外からも業界を超えて400社が出店し大盛況だったジャパンモビリティショーから、オート・アドバイザーの若林敬一が注目の乗り物をピックアップしてレポートします。
「コンセプトカー」は自動車メーカーが何を考え、将来に対してどんな布石を打とうとしているのかを明確に表しているものです。今回は数あるコンセプトカーの中から、特に気になった3つのメーカーに焦点を当てて、開発やデザイン担当者に話を聞いてきました。クルマの未来、そしてクルマ作りの変化が見えてくるはずです。
【ダイハツ】自分好みにカスタムできる電気軽自動車「ミーモ」
「クルマと人の関係の再定義」をテーマにダイハツ工業がコンセプトカーとして打ち出したのが「ミーモ(me:MO)」です。「私と共に変化していく、成長していくモビリティ」という思いを込めたミーモは、ユーザーのライフステージに合わせながら変化を楽しめるサステナブルな軽乗用BEV(バッテリー電気自動車)。ユーザーとともに完成するという、新しいコンセプトを持つミーモの魅力をダイハツ工業株式会社 くるま開発本部 デザイン部 田辺竜司氏に伺いました。
──ミーモはどういう狙いで作られたコンセプトカーなんですか。
「メーカーがお客様の価値観やライフステージに合わせようとしても、結局はあるひとつの価値観に収まってしまいます。それならば、お客様が買った後から自分の好みやライフステージに合わせて選べるようにしようというのがミーモです。そのため、できるだけシンプルな形にして、オープンソースにする。サードパーティなどを使って、あとからカスタマイズを楽しんでもらうようになっています」
展示ブースでは、FDM(熱溶解積層)方式の3Dプリンタで造形したカスタムパーツの提案も
──デジタルの世界が現実になったみたいですね。
「ダイハツがやるのはベースとなるしっかりとしたクルマ作り。それを自分好みにアレンジできる環境を整えて、みんなでクルマを一緒に作っていきたいと思っています」
「サステナブルも大事にしていて、どういう材料がどういう構成でできているのかもわかりやすくなっています。結局、簡単に分解してリサイクルできることが最もサステナブル。また、女性のお客様は、どうしてこのクルマが動くのか、どういう構造になっているのかを見える化するほうが安心できるというのもあります」
シンプルな車内空間もカスタムが自在。家族構成が変わったときは、シートを増設したり、減らしたりが気軽に行える
「今は便利になりすぎて、モノを使う感覚が失われていますよね。でも、自転車のようにモノを自分が動かしている感覚の楽しさがあります」
──ある意味、原点回帰ですね。
「求めやすい価格だからこそ、人とモノの関係にあるちょっとした不便さを楽しむことで勝負できると思っています」
【ソニーホンダ】2026年に発売。共創でアップデートする「アフィーラ」
2022年9月にソニーとホンダのジョイント・ベンチャーとして誕生したソニーホンダが発表したのが「AFEELA(アフィーラ)」です。そのコンセプトは「Autonomy(自律性)、Augmentation(身体・時空間の拡張)・Affinity(人との協調、社会との共生)」の3つの「A」。常にアップデートし続ける新しいクルマの目指す場所を、ソニー・ホンダモビリティ株式会社 事業企画部 マーケティング・コミュニケーション課 野口拓真氏に聞きました。
──AFEELAのコンセプトは3つの「A」ですが、最も強調したいのはどの「A」になるのでしょうか。
「3つとも大事なコンセプトなんですが、やはりAffinity、つまり『共創』は特に強調したい点です。ソニーとホンダが一緒になってクルマを出すというよりも、作る過程やクルマが市場に出た後も、みなさんと一緒に作りあげていく。それがAFEELAの最大の特徴です」
──共創というのは、サードパーティやユーザーを含めてということですね。
「そうですね。私たちをプラットフォームとして、みなさんの意見やアイデアをどんどん取り入れてアップデートしていきたい。いろいろなクリエーターの方の参画を期待しています。一方で、安心・安全は開放せずに、我々の経験と技術でしっかり守っていく。そこの線引きもきちんとしていくつもりです」
──具体的なターゲットはどのような層になりますか?
「いわゆるクルマ好きな方よりも、テック系、ガジェット系などテクノロジーに関心が高い方がターゲットになると思います」
──2026年の発売開始予定ですが、どのような販売形態になりそうですか。
「お客様に直接お届けする販売方法を考えていますが、ホンダカーズで販売するのか、ソニーホンダで独立した店舗を持つかは未定です。もちろんこのクルマを実際に見たり、体験していただく機会も重要だと思っています。実際に乗って体験して、ワクワクを感じてもらうようなプロモーションを積極的にやっていきたいと思っています」
【ヤマハ】高校生とともに開発した電動スクーター「イーラブ」
最後に紹介するのはクルマではなくバイク。ヤマハで見つけた「ELOVE(イーラブ)」は電動スクーターに二輪車安定化支援システムAMSAS*を搭載したコンセプトモデルです。毎日ミニバイクで通学しているという沖永良部高校(鹿児島県知名町)の生徒たちのアイディアを取り入れながら共創で開発したもので、車名のイーラブも彼女たちが暮らす沖永良部から取ったものだそう。ヤマハと共同開発を行った株式会社GKダイナミックスの担当者に話を聞きました。
*AMSASとは、歩行速度のような低速運転での転倒不安や疲労からライダーを解放し、安心・快適に二輪車を楽しむための最新技術。
──モビリティショーでは、実際に高校生が「ELOVE」のプレゼンテーションをしていましたね
「彼女たちは沖永良部島の高校生で、毎日ミニバイクで通学しているんです。ミニバイク通学で感じる不便を解消して『こんなミニバイクがあったらいいな』という思いに寄り添ったのがELOVEです。デザインを高校生に公開して、意見を交わしながら共創してつくりあげました」
──それはすごいですね。
「彼らにとっては特に雨対策が大変なので、雨の日でも簡単に着用できる折り畳み式のレインコートも共同開発しました。これで雨の日も楽しく学校に通ってもらえます」
雨などに濡れるとロゴ部分に模様が現れるというギミックが秀逸。こちらも高校生のアイディアを採用したもの
フロントに取り付けられた風防は、手前に折りたたむと作業台に早変わり。絵を書いたり、楽譜を取り付けたりできる
──障がいを持つ方にも乗りやすいように工夫をされているんですか。
「車いすテニスパラリンピアンの眞田卓選手にも協力していただきました。眞田選手は片足が義足なんですが、『バイクを楽しみたい』という思いに応えて、グリップやサイドスタンドなどに工夫をこらしています。
実は私はELOVEでデザインを担当したGKダイナミックスの融資活動GKモノ/コトLab.のメンバーなんです。誰もが “つくる側”だという思いのもと、“がまんする「つかいびと」から、笑顔あふれる「つくりびと」になる”をコンセプトに、量産しにくい障がい者のための製品開発などにかかわっています」
──なるほど、そういうコンセプトなんですね。
「これからのものづくりは、メーカーが消費者に一方的に提案していくのではなく、ユーザーとコミュニケーションを取りながら作っていくスタイルになっていきます。そういう意味で、今回、高校生や障がいを持つ方と一緒にELOVEを作りあげられたのはとても良い経験になりました」
【総括】メーカーの役割は、モノづくりの主役から黒子になる
コンセプトカーには、自動車メーカーや担当者の考え、将来へのビジョンが詰まっていると冒頭でお伝えしました。今回、モビリティショーで発見したのは、ITのオープンソースの考え方をクルマにも適用しようとしている企業が多かったことです。
ここで紹介した3社に共通するのは、従来、モノづくりの主役であったメーカーが黒子として基本構造や技術を提供し、使い手であるユーザーが自身で表現できるようにするということです。大切なのは、「モノ」ではなく、自身で表現する「コト」へと価値の重心が移ってきているのです。未来の乗り物は、いままで以上に楽しい体験をユーザーに与えてくれるのは間違いありません。