SNSでもリアルでも和室でのひとり暮らしを最近よく見かける気がする。「和」という制約のなかで空間をどう味付けするのか、そこから生まれる百人百様のMIX感が見ていてとても楽しい。
SNSで自室での過ごし方を紹介しているクリエイターの初音さんが暮らすのも、和室がある2Kの部屋。日々のなかで「自分と向き合う時間」を大事にしたいという初音さん。お茶を点て、日記を書き、本を読む。そうした過ごし方にフィットする和室の魅力と「心を整える場所」がある暮らしについて聞いてみた。

初音
1998年、岡山県出身。天秤座。お茶、インテリア、言葉をこよなく愛し、等身大で飾らないライフスタイルが支持を集めている。東京都内の和室のある部屋に暮らし、SNSやYouTubeを通じて日々の暮らしの風景を発信中。どこか懐かしく、落ち着く空気感が魅力。
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畳ならではの魅力に惹かれて
都内の駅から徒歩10分ほど。賑やかな駅前通りからひとつ外れた穏やかな場所に立つアパートの一室が初音さんのお住まい。日当たり抜群な4畳半の畳敷きはくつろぎスペース、もう一方の居室はデスク&ベッドスペースと、それぞれに役割をもたせている。和室では、趣味の茶道で学んだお点前とお気に入りの道具で友人にお茶を点てることも。ラフな時間にも作法が活きているこの感じ、すごく素敵だ。

――初音さんのひとり暮らし遍歴は?
このお部屋は3軒目。地元の岡山から福岡の大学に進学して四年間ひとり暮らしをしたあと、上京して中目黒のコンクリート打ちっぱなしの部屋でしばらく暮らしました。そこがすっごく冷たくて閉鎖的だったので「次は心地いい空間に住みたいなあ」なんて思いながらいくつか内見させてもらったなかで、畳ならではのあたたかみと懐かしくて落ち着く雰囲気にピンときたのが、このお部屋。新しくておしゃれな洋室の物件もいろいろと案内してくださったなかからここを選んだので、不動産屋さんからは「本当にここでいいんですか!?」と驚かれました(笑)。

日当たりのいい和室の窓辺には、和紙調の素材を使用したプリーツスクリーンを設置。二重構造で調光可能、柔らかな光を取り入れながら視線を遮ることができる優れもの。
――単純に、茶道を嗜んでいるから和室というわけではなく、初音さんが生活に求めるものと和室ならではの空気感がマッチしたんですね。お茶を始めたきっかけはなんだったのでしょう?
新卒一年目からお稽古に通うようになって、今で4年目ですね。きっかけは、お茶を題材にした映画や本を見て「いいなあ」って思っていたことですが、もともと祖母が呉服店で働いていたこともあって和の文化に触れる機会が多かったんです。誰も着なくなった着物を私が着ると祖母がすごく喜んでくれたので、お茶を始めてからは先生に着付けも習っています。茶道から生まれた美しい言葉や器について知ることができるのもすごく楽しいです。お茶を点ててお抹茶をいただく、自分にとっては日常から少し距離を置いて心を整える時間という感覚です。

お茶を通して、自然と心が整う空間に
――自宅での和室お茶会の様子をSNSにも投稿されていますが、どんな人とどんなふうに楽しんでいらっしゃるのでしょう?
外食に行くよりおうちでゆっくり話したいよねというときに。陶芸にハマっていたり、植物が好きだったり、何かと趣味の合う、気心知れた友人を招くことが多いです。抹茶を飲みたい! とリクエストをもらうこともあります。
――そうした時間のなかで、初音さんはどんな楽しさを感じていますか?
抹茶を飲むという体験自体、日常生活でなかなかないことだと思うので、友人たちの反応を見るのはとても楽しいです。特に、お茶を飲んだあとに「はぁ~」とひと息ついている様子を見ると、お茶を点ててよかったなと思います。それに、畳に座ってお茶を飲むとつい心と口が緩んで、最近の楽しかったことや悲しかったことなど素直なエピソードが出てくることが多いんです。私の性格的に人の話を聞くのが好きというのも相まって、楽しさを感じているのかもしれません。
――お稽古でお茶を点てるときとはまた違った心持ちなんですね。
お稽古は「学ぶぞ~」とか「シャキッとするぞ~」という気持ちで通っていますが、おうちで点てるときはできるだけほんわかした気持ちになってもらえたらなと思っているので、その点は大きな差だと思います。目の前にあるお茶や、お菓子、器など、美しいものに目を配る瞬間が日常にあることの豊かさを身近な人から伝えていけたらいいななんて思っていますし、伝えることで私自身も再確認できるのでありがたいです。
――おうちでひとりのときにお茶を点てることもあるんですか?
お稽古のあいまの練習として点てることはあります。でも、心を整えたいからお茶を点てるというよりは、練習しているうちに整っていたという感じですかね。自分にとってお茶を点てることと、本を読んだり日記を書いたりすることは共通しているような気がします。いろんな情報を目にしたり、なんとなく人の意見に流されちゃったり、立ち止まる時間がないと消費されてしまう感じがして。きっと、自分と対話する時間を取りたいんだと思います。

初音さんの日記帳。日記をつける習慣は、もう20年も続いているそう。
――初音さんにとって和室はそうした時間を過ごすのに最適なんですね。日当たり良好、ゆとりはありつつ広すぎない間取りもちょうどよく感じます。和室のなかでも、仏間があるのって珍しくないですか?
たぶん珍しいと思います。前はここにお茶の道具を置いていたんですけど、今は文鳥の“つゆ”のケージを置いています。在宅で仕事をすることが多いので、動物と暮らせたらいいなって思って、この部屋に引っ越してから飼い始めました。ワンちゃんみたいに散歩が必要だとそこまで時間を割けないんですけど、文鳥は一日1時間かごから出るだけで満足してくれるみたいです。

――つゆちゃん、ずっとピーピー鳴いてますね。
出して! って言ってます、お客さんが来てるから(笑)。
――可愛い~。ちなみに、模様替えもよくされますか?
たまにします。大規模な模様替えをすると過ごし方も変わっちゃうんですけど、基本はデスクで仕事をして、なにかアイディアを出したいときは和室で過ごしてみるという感じです。今は、お仕事でいただいたフロアソファを和室に敷いているんですけど、あまりにも気に入ってしまったので、最近は本を読みながらくつろいだり、よくここでのんびり過ごしています。
洋室側から眺める和室全景。右側に仏間、左側の窓からは心地よい風が吹き込む。衣類はすべて押入れに収納。シンプルながらも照明や小物のアクセントが効いている。
“型”を知ることで、芽生えてくる自分らしさ
――初音さんのお部屋は、和室ならではの趣と、テイストにとらわれないいろんな要素のものがうまく調和していて、そこから生まれる違和感がとても面白いですね。
こういう空間を意識してつくったというよりは、好きなものを集めたらこうなった、という感じです。ガラスやアクリルのようにクリアな素材が好きで、インテリアや茶器にも好んで取り入れているんですけど、真面目に茶道をやっている方からすると「なんじゃこりゃ」って感じだと思います。

存在感のあるアイテムが調和する和洋折衷なインテリア。一際目を引いたフランス製アンティークのウォッシュスタンドもすっかり生活に馴染んでいる。
――空間づくりもお茶の時間も自分らしいエッセンスをプラスして楽しんでいらっしゃるんですね。茶道は、禅や瞑想とも通ずるものですが、お茶を嗜むことは実生活のどんなところに影響していますか?
今のSNSのお仕事も以前のデザイン会社での仕事でも、茶道の「守破離」に近いものがあるなと思っていて。最初は型をちゃんと守って、数を重ねていって、そこからちょっとオリジナリティが出てくる。まずはきちんと型を丁寧にやっていく、ということの大切さは茶道から学んだことだなと思っています。
――型知らずして型破れず、ですね。
最初は、デザインの仕事ってオリジナリティが100%だと思っていたんですけど、型を守って土台を作っておかないと自分の魅力的なものを発揮できないんだなって。

普段愛用している、お気に入りの茶器セット。
――インテリアや茶器に自分らしさを取り入れているという先ほどのお話にもつながりますね。次に引っ越すとしたら、やっぱり和室のあるお部屋?
そうですね。畳職人の友人がお茶会のイベント用につくってくれた畳があるので、コンクリートのお部屋に一畳だけ畳を敷く、なんて空間も素敵だなって思っています。私にとって和室は、自分と向き合って心を整えるくつろぎスペースであり、インスピレーションが湧く空間。これからもこの部屋で本を読んだり友人とお茶会をしたりして、その時々の自分を見つめながら暮らしていきたいです。
